Sparking Carats!

西園寺マキア

第28章 憂鬱な空気(脚本)

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西園寺マキア

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〇中庭
はるか「ワン、ツー、ワン、ワン・・・」
  MoonlightCup予選最終戦、「トパーズコンテスト」が週末に迫ったとある日
  4人は相変わらず中庭でトレーニングを続けていた
さくら「ねえ、ゆづゆづ ステップずれてるんじゃないの?」
ゆづき「ご、ごめん・・・」
  なんとなく、チーム内の空気は落ち込んでいる
はるか「ゆづき、大丈夫だよ 連日のイベント出演で疲れてるんだよね?」
  一応、ということでB選考を狙い、Happy♡Paradeは毎日様々なステージに出演していた
  普段の学業との兼ね合いもあり、早朝から深夜までほとんど休み時間はない
ゆき「そんなのなんの言い訳にもならないわ ステージに立ったら、皆同じなのよ」
  ゆきが厳しく注意した
さくら「そうだよ、本気で優勝するなら突き詰めなきゃ」
はるか「うん、優勝しなきゃっていうのはわかってる・・・ もう一回やろうよ!」
  はるかは再び曲を再生した
  今日だけで、もう何十回も同じところを繰り返している
はるか「『ワクワク、ほらスマイルフォー・ユー』・・・」
  はるかがワンフレーズ歌うと、ゆきがすぐに曲を止めた
ゆき「はるか、また声が裏返ってる 高音で逃げないでって言ってるじゃない」
はるか「ごめん・・・」
ゆづき「これじゃあ点数なんて貰えないかも・・・」
  場の空気はさらに悪くなる
  4人はすでに疲労困憊で、お互いを気遣う声かけも殆どない
  加えて焦りや不安が充満しており、かつてのような活気はとうになくなってしまっていた

〇劇場の楽屋
  ──当然この空気は、大会当日になっても改善しなかった
さくら「ねえ、いつまで黙っているつもりなの?」
ゆづき「別に黙っているつもりはないのよ・・・」
さくら「でも黙ってるじゃん」
  さくらの発言を聞いて、ゆきがキッと睨みつけた
さくら「・・・睨まないでよ、別に何も、元のあたしたちに戻ろうって思ってるだけだよ」
ゆき「元の私達って何?! ここまでやってきた努力は無駄だって言いたいの?!」
  ゆきのヒステリックな叫びが楽屋に響く
はるか「・・・ごめん、外の空気吸ってくるね」
  いたたまれなくなったはるかは、一人楽屋を後にした

〇高層ビルのエントランス
はるか「はぁ、絶対今日は勝たなきゃいけないのに・・・」
  はるかはロビーへ出たが、最終戦ということもあり他のチームもピリピリしている
  気分転換になるかと思ったが、楽屋とあまり空気は変わらなさそうだ
???「みんな、ピリピリしてるよね」
  声のする方へ振り返ると、そこにgladiolusのかのが立っていた
  不安げな顔をしながら、飲み物を3本抱えている
はるか「かのちゃん! そうか、gladiolusも出場権がなくなっちゃったから・・・」
  かのはほんの少しだけ微笑んだが、すぐに不安げな顔に戻ってしまった
かの「うちのチームも、ずっと空気が沈んだままなんです」

〇劇場の楽屋
かの「2人とも落ち込んでいて、正直「勝てる」なんて誰も思っていないような感じで・・・」

〇高層ビルのエントランス
はるか「まあ、うちも似たような感じ・・・」
  二人は深いため息をついた
かの「でも、やっぱり私たちは今日こそ勝たなきゃ存在意義が無いから・・・」
かの「普段大会に出場しないCRESCENTと明確に戦える機会なんてそうそうないし・・・」
かの「ここを逃すわけにはいかない、って、みんなわかっているはずなんだけど・・・」
  かのは消え入るようにそう言い、けだるげに時計を見上げた
かの「あ、もうすぐ時間だ・・・ ごめんね・・・」
はるか「がんばってね・・・」
  よたよたと楽屋の方へ向かう
  かのの背中を見送る
  gladiolusの代名詞とも言える「絶対的自信」が、どこかに飛んで行ってしまったような印象を受けた

〇大劇場の舞台
  その印象はステージ上でも変わらなかった
  無難にまとめてはいるが、どことなく覇気がない
  今までに見たgladiolusのステージとは違い、「苦しい」という感情が伝わってくる
あやか「・・・っ!」
  特にりょうのパートになると、どことなく悲しげな顔をしているのが気になった
「・・・」
  ダンスのズレはない
  音程のミスもない
  だが、”それだけ”だった
批評家の男「メンバーが抜けてからずっと微妙ですな」
批評家の女「個人間の動揺を表に出す時点で、彼女たちは二流ですわね」
  批評家気取りたちの冷たい批評が聞こえてくる
  センターに躍り出たあやかがスポットライトに照らされた
  悲しげな表情がより明確になる
  それは負けを悟ったような、あきらめともとれるような表情だった

〇劇場の楽屋
ゆづき「gladiolus・・・ なんか今日元気ないね・・・」
  モニター越しに見ていたハピパレも、その異常さを感じ取っていた
ゆき「ライバルの私たちにとっては好都合・・・なんじゃない?」
さくら「好都合? 友達が苦しんでるのにゆきちゃんはそういうこと言うの?」
ゆき「そ、そうね・・・ ごめん・・・」
  gladiolusの動揺した空気が明らかに伝染している
  正直言って、だれもステージに向けて集中できていない
  だが残酷にも、勝負の時間は迫ってきていた
はるか「・・・出番だよ、行こう」

〇大劇場の舞台
司会者「エントリーナンバー13、Happy♡Parade」
  ステージに乗るのはかなり憂鬱だった
ゆづき「みんな、ミスしちゃだめだからね」
  隣から、心配そうなゆづきのささやき声が聞こえてくる
  緊張はしていない
  だが、このピリピリとした空気はかなり堪える
  ステージに乗って、こう思うのは初めてだった
はるか「早く、終わってほしいな・・・」

〇空
  ──この日のステージは、今まで乗ったどんなステージよりも長く感じた

次のエピソード:第29章 仲直りの空

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