第26章 切岸のアイドル(脚本)
〇学校の部室
さくら「ひゃ~、こりゃすごい・・・」
──翌日
はるかたちは部室にこもって、練習もせずCRESCENTについてあれこれ話をしていた
ゆき「SNS、どこもCRESCENTときりちゃんの話題でもちきり・・・」
さくら「いや~、一回ハピパレに誘ったんだけどなあ! 逃した魚は大きいね、カゴちゃん?」
はるか「うん・・・」
はるかは生返事をした
〇コンサート会場
スポットライトを浴びて輝くきりの姿が、目の奥にこびりついて離れなかった
圧倒的な世界観、それを消化する表現力、誰もが魅入るようなスター性・・・
これが”プロ”の世界なのかと思い知った
〇学校の部室
さくら「ま、生返事したくなる気持ちもわかるよ あんなステージ見ちゃったら、ねえ?」
ハピパレの4人はCRESCENTを見てから、自分たちのステージがちっぽけで陳腐なものに感じるようになってしまっていた
技術、実力、予算、世界観・・・
何もかもがCRESCENTの足元にすら及んでいない
何よりも、この間まで一緒にいたきりがそのプロチームの中で輝いていたことが衝撃だった
はるか「「Moonlight Cup」予選大会の申し込み、今日までだけど・・・どうしようか」
ゆき「正直、あのレベルと正面切って戦えるかって言われると・・・ どうかしらね・・・?」
部室に再び沈黙が流れる
当初の目標であった「Moolight Cup」は、CRESCENTと実力を競うための大会だ
同じ土俵に立たなくとも、実力差は歴然
ゆきの問いかけには誰も答えない
何となく気まずい空気が部室を満たしていた
暫くして、携帯を見つめていたゆづきが口を開いた
ゆづき「・・・見てこれ、「gladiolusから推し変だなこれは~!」って書いてある」
はるか「うちも見た・・・ 「正直gladiolusのステージ覚えてない(笑)」とかね・・・」
SNSにはCRESCENTへの賞賛のみならず、gladiolusに対する冷たいコメントもいくつか投稿されている
ゆづきは心配そうな顔つきで、タイムラインをスクロールしていた
ゆづき「これ、あやかちゃん達が見たら絶対傷つくわよね・・・」
〇空
──同時刻、gladiolusの練習スタジオ
〇稽古場
かの「はぁ、こんなことになっちゃうなんて・・・」
ゆづきの心配は的中
4人のスタジオにも、なんとなく気まずい雰囲気が流れ続けていた
あやか「ほらほら、落ち込むのはやめましょう もう一度覚悟を決める、いい機会だったと思えば・・・」
あやかが立ち上がって3人を鼓舞するが、どことなく覇気のない表情だ
まみこ「ま、二年連続でCRESCENTに煮え湯を飲まされるとは思ってなかったけどね・・・」
スタジオに再び沈黙が流れる
聞こえてくるのは、部屋の隅でうずくまっているりょうのすすり泣く声だけだった
りょう「ごめん、ごめんね・・・ 私のせいだ・・・」
あやか「りょうちゃん・・・」
〇豪華な部屋
りょう「わたしが、ハナにあんな提案しなければ・・・」
〇稽古場
まみこ「りょうちゃんのせいじゃないよ・・・」
りょう「で、でも、わ、私が、記念ライブを、ぶち壊しにした・・・」
りょうは再び声をあげて泣き始めた
りょう「わ、私、ずっと考えてた・・・ せ、責任、とらなきゃ、って・・・」
かの「そんなこと思わないで・・・」
りょう「わ、私、ぐ、gladiolusが、大切・・・だから、もう、これ以上、自分のせいで、めちゃくちゃに、したくない・・・」
まみこ「りょうちゃん・・・」
りょうは泣きじゃくり、言葉も絶え絶えだった
それから暫く一人で泣きじゃくったあと、りょうは吐き出すようにつぶやいた
りょう「・・・だ、だから、もう、私、責任取って、や、やめる・・・・・・」
「えっ?!!?」
あまりにも衝撃の発言に、まみことかのが同時に声をあげた
まみこ「まって、りょうちゃん 本気じゃないよね・・・?」
りょう「ほ、本気なの、本気・・・ わた、私がいても、足を引っ張るだけだって、ずっと、思ってた・・・」
かの「待って、そんなのだめだよね、あやちゃん!?」
あやかは身動きも取らず、じっとりょうを見つめていた
あやか「・・・ねえりょうちゃん、今、つらいのよね・・・?」
りょう「つら、つらい・・・」
りょうの返答を聞き、あやかは目を閉じた
〇大きな公園のステージ
あやか「私は今まで、たくさんあなたたちを傷つけてきた」
〇開けた交差点
あやか「もし、gladiolusにいてりょうちゃんがつらいと思うなら・・・」
〇稽古場
あやか「私に、りょうちゃんを止める権利なんてないわ・・・」
りょう「・・・う、うぅ・・・」
まみこ「あやか、そんな・・・」
あやか「これ以上、あなたたちを縛って、傷つけたくないの!!!」
あやかは3人に背を向け、叫んだ
あやか「もう、私のわがままのせいで、大切な人を傷つけたくないの・・・」
あやかの肩が震えている
あやか「りょうちゃん、あなたの好きなように生きて・・・ 私たちはいつでも、ここにいるから・・・」
りょう「わ、わかった・・・」
りょうが絞り出すように返事をした
りょう「私の、せい、で・・・ ごめんなさい・・・」
「りょうちゃん!!!!!」
二人の呼び声むなしく、りょうはスタジオから出ていってしまった