第25章 臥龍の産声(脚本)
〇ホールの舞台袖
──それから1時間後
gladiolusのステージも、だんだんと終わりが近づいてきていた
はるか「やっぱり、すごいなあ・・・」
直前に色々なことがあったにも関わらず、4人はパーフェクトなステージを披露している
さくら「ま、伊達にトップ張ってないよねえ」
さくらは真顔でステージを見つめながら言った
乱れぬ呼吸、ダンスの精度、間のMC、どれをとっても一流だ
観客も汗を流しながら熱狂している
〇コンサート会場
──そうこうしているうちに、最後の曲のパフォーマンスが終了した
あやか「今日は集まってくれて、本当にありがとう」
あやかは少し息をきらしながら、観客に向かってお礼を述べた
あやか「私たちはこれからも、高みへ昇り続けます!」
gladiolusの情熱的なステージに煽られ、オレンジ色のペンライトを必死に振っている観客の姿が見える
観客たち「アンコール!アンコール!!!」
ホール中にアンコールの声が響くのを聞いて、りょうが心配そうな顔をした
りょう「あやちゃん、アンコールどうしよう・・・ 本当ならこの後・・・」
〇劇場の楽屋
むつみ「今日の本番は、シークレットゲストを最後に持っていく予定になっているの」
むつみ「だから申し訳ないけれど、あなたたちのアンコールは削ってちょうだい」
〇コンサート会場
あやか「・・・わかってる でもこの観客は私たちのステージを見て、私たちにアンコールをしてくれている」
あやか「ファンの期待に背くことはできない・・・ いや・・・そんなこと私はしたくないの」
あやかは3人に向かってそう言うと、再びマイクの電源を付けた
あやか「みなさん、アンコールをどうもありがとう!」
あやかの呼びかけに応じて、アンコールの声がやんだ
あやか「素晴らしいファンの方々に囲まれて、私たちは誇りに思っています!」
会場が再び湧いた
ホール中がアンコールを待ち望むワクワクとした空気感に包まれている
あやか「それでは聞いてください! アンコールステージ──」
〇コンサート会場
ここで照明が突然落ちた
あやか(え、演出かしら・・・)
アンコールステージの始まりにワクワクとした観客が、ペンライトを再び振り回している
イントロが流れ始めた
あやか「こ、これって・・・」
それはgladiolusの楽曲ではなかった
〇コンサート会場
照明がついた
ランウェイステージの先に誰かが立っているのが見える
まみこ「えっ・・・ シークレットゲストって・・・」
あやか「う・・・うそでしょう・・・」
客席は一瞬静まり返ったが、彼女たちの姿を見て爆発したように歓声をあげた
ステージの先に立っているのは、CRESCENTの3人だった
〇ホールの舞台袖
さくら「えっ・・・ CRESCENTがゲストなの?!」
さくらも舞台裏で大声をあげた
ゆき「初めて生で見た・・・」
〇コンサート会場
さとこ「gladiolusのファンの皆様、こんばんは」
観客の声援が鳴りやむのを待って、センターのさとこが口を開いた
さとこ「素晴らしいこの夜にゲストとしてお招きいただき、大変光栄です」
さとこは振り返り、あやかの方を向いてうやうやしくお辞儀した
あやか「な、なによこれ・・・」
あやかの戸惑う顔を一瞥し、さとこは再び前を向いた
さとこ「我々は長らく3人体制で活動してまいりました──」
さとこ「ですが新たなる宇宙へ旅立つため、今宵新たな星が我々の旅路に加わることとなります」
観客にどよめきが広がる
ホール中の誰もがさとこの言葉に耳を傾けていた
さとこ「ご覧ください、新たなる星を・・・!」
〇コンサート会場
照明が落ちるのと同時に、スポットライトが舞台上を照らす
その中心にいたのは──
〇ホールの舞台袖
ゆづき「えっ・・・ ──────え?」
ゆき「どうしてあの子があそこに・・・」
3人は口をぽかんと開けた
きりだ、きりだった
まごうことなき彼女の姿だ
”あの”きりが、CRESCENTの衣装を着て舞台に立っている
はるか「・・・」
はるか「──きり・・・・・・」
〇コンサート会場
はるかはステージを見つめる
きりがピンマイクを少し口に近づけたのが見えた
きり「聞いてください── 「chiaro di luna」」
4人は歌い始める
調和のとれた、洗練された歌声
爪の先から髪の毛の一本一本まで、一糸乱れぬまとまったステージ
gladiolusの情熱的なステージとは真逆の、幻想的でミステリアスな世界観がホール中に広がる
観客たちはペンライトを振るのも忘れ、CRESCENTのステージに魅入っていた
まるでgladiolusのステージなんて、どこにも存在しなかったように・・・
〇ホールの舞台袖
さくら「す、すごい・・・ これが”プロ”のステージ・・・」
さくらは口を開けたまま、瞬きもせずにステージに食い入っている
ゆづき「・・・たしかにすごいわ、でも」
ゆづきが暗い顔をした
〇コンサート会場
ゆづき「本当は、gladiolusのためのステージなのに・・・」
gladiolusは身動きがとれないまま、ステージ上で困惑した表情を浮かべていた
りょう(どうしよう・・・ どうしよう・・・ どうしよう・・・)
りょう(わたしのせいだ、わたしがここの事務所に共催を頼んだせいだ・・・)
りょう(・・・わたしが、あんな提案しなければ・・・・・・)
CRESCENTのステージが終わると、会場が再び爆発したように湧いた
大声援の中心で、きりは恍惚とした表情を浮かべる
きり(──楽しい、これがアイドルのステージ・・・)
〇黒背景
きり「──ねえお母さん、見ていてくれた・・・?」
きりは延ばした手の先から会場を見る
オレンジのペンライトを振る者は、そこにはもういなかった──