5月4日 音楽(脚本)
〇中規模マンション
〇高層マンションの一室
朝からずっと、隣から陰鬱な曲が流れてました
休みの朝の爽やかな空気をぶち壊す、悲し気な旋律。切なさの欠片もない、ただ暗いだけの曲でした
隣に住人はいません。先日、編集長さんが入居しましたが、即日行方不明になったので空き室です
なのでこの曲はお化けが流してる曲で間違いないでしょう
妹「お化けって、やっぱり暗くてじめっとした音楽が好きなのかな?」
( ´∀`)「いや、お経じゃね? 坊さんがいつも唱えてやってるんだし」
妹「あれは別に好きだから鬼リピしてるんじゃないよ」
妹(お経じゃないけど、暗い曲を鬼リピされると気分が滅入るなぁ)
妹「出かけるにはまだ早い時間だしなぁ」
( ´∀`)「うちでも何か曲を流すか?」
妹「何ある?」
( ´∀`)「秘蔵版のジャイアンリサイタルが」
妹「違う意味で気持ちが落ち込むからやめてくれる?」
妹(と、いうか何でそんなの持ってるの? どこで手に入れたの?)
( ´∀`)「じゃあ、クラシックでどうだ? ババア作曲の『減額のためのアヒージョ』とか」
妹「ババアじゃなくて、バーバー。減額じゃなくて弦楽、アヒージョじゃなくてアダージョ! 俗っぽい名前にしないでよ」
( ´∀`)「なら、『クラブさん組体操・第二 さらばバンドと変装』」
妹「『クラヴサン組曲第二集 サラバンドと変奏』 組体操は危ないから禁止されてるよ」
( ´∀`)「ミノフスキー『感情的なワルツ』」
妹「チャイコフスキー『感傷的なワルツ』 クラシックは機動戦記じゃないよ」
( ´∀`)「いやあ、お前、よく分かるな」
妹「お兄ちゃんこそ、いい加減すぎでしょ。そもそも、選曲がどれも暗いし」
妹(毎度ながら、この兄の相手は疲れる)
疲れて気分が沈むと、自然と暗い曲は身に沁みます
妹(同調効果だっけ? 気分が沈んだときに暗い曲を聞くと気持ちが落ち着くの)
私は知らず知らず、隣から流れてくるメロディを口ずさんでいました
〇高層マンションの一室
隣から聞こえるメロディはだんだんと大きく、近くで響いてきます
次第にあたりは、その曲を表現するように暗く、色あせてゆきます
はっと気づけば──
〇手
窓の外には青白い人影が何人も立っていました。人形のように無機質で、脱皮した後の抜け殻のような、生の残り香を残した人達
彼らは皆、黙って、私を見ています。自分達の側へ来る期待のこもった視線で
〇高層マンションの一室
妹(曲に同調してるの? まずい、どうしよう?!)
妹「お、お兄ちゃん?」
唐突な非常時に頭は回らず、情けなくも、私は兄に助けを求めます
( ´∀`)「全く、仕方ないな」
兄はダンディな微笑を見せ、んんっ! と咳ばらいを一つ。なんだかんだ言って、こういうときは頼りになるんです
( ´∀`)「ぼえ~!!」
兄から、世界が歪む歌声が響き渡りました
( ´∀`)「本当は聞きたかったんだろ、ジャイアンリサイタル」
妹「違うけど?」
〇高層マンションの一室
しかし、この歌声はお化けも、陰鬱な曲も打ち破ったようです。世界は元の明るさを取り戻してました
( ´∀`)「ほんげ~!!」
妹(でも、なんだろう。このフグ毒をトリカブトで中和したのに、トリカブトだけ残って結局助からないみたいなの)
( ´∀`)「ほんげ~!!」
兄の単独リサイタルは、ご近所から苦情がくるまで続きましたとさ