4月29日 田中さん(?) VS 排水溝(脚本)
〇中規模マンション
〇清潔な浴室
不吉の蔓延するトンネルなら、常に一歩先に細心の注意を払う。そんなの当たり前のことです
でも、それで気づけるものもまた、当たり前ながら目に見えるものだけ
暗闇の中で迫る影に、誰が気づけるでしょうか
田中さん?「・・・びわがないの」
私の背後に、悲哀に満ちたかすれ声で訴えかける影がいました。この場所でこのセリフ。ちくわを探す田中さん(?)でしょう
妹(なんでこのタイミングなの)
こんな時の為、入浴時は常にちくわを持ってゆく私ですが、お風呂を沸かしに来ただけの今は持ってきてません
田中さん?「ねぇ、ないの・・・どこを探しても見つからないの」
妹(ちくわを取りに行く? ダメだ、外に出るにはアレの真横を通らないと)
田中さん?「どこにもないの」
妹「ち、ちくわなら排水溝に流れたよ?」
咄嗟に思いついた、兄が言いそうなことを言ってみました
田中さん?「排水溝・・・?」
田中さん(?)はぼそっと呟くと、身をかがめて、排水溝の中へ腕を突っ込みます
妹(今なら安全に横を抜けられる!)
そっと壁に背をつけ、彼女の後ろをカニのように横歩きで出口へ向かおうとすると──
ぐちゃぁっ!
ぐちゅ、ぐちょ・・・田中さん(?)はその腕より細い排水溝の中に腕を突っ込み、粘っこい音を響かせながら中を探ります
妹(絶対、見たくない光景がそこにある)
見えなくても、悍ましい光景は鮮明に脳裏に浮かんで、足が止まります
そこへ追い打ちをかけるように排水溝から緑色の水しぶきが上がりました
むわっとした下水の臭いと刺激臭が溢れだし、床には黒く細長い毛髪が、変色した水と共に流れてきました
妹「この強烈な臭い、まさか排水溝の?」
排水溝からこちらを見ていたアレが、ここまで移動していたのです
妹(今は田中さん(?)の腕が蓋になっているけど、外にでられたら二対一。一対一でも無理なのに、どうしろと?!)
しかし、事態は予想外の方向へ転がりました
田中さん?「あ、ああぁ・・・!」
田中さん(?)が急に藻掻いて、排水溝から腕を引き抜くと、その腕は毛髪が絡まり真っ黒でした
田中さんの腕に絡みつく毛髪の中では、腐ったゆで卵のような目が私を見てました
妹「合体した?!」
田中さん?「あああ! 指輪がない、どこにもないの!」
妹「バージョンアップしてる!」
これは二対一でないことを喜ぶべきか、むしろ悪化したのか、どちちでしょうか?
( ´∀`)「さっきから何騒いでんだ?」
妹「更なる脅威が来ちゃった」
( ´∀`)「あんたは・・・」
兄は変貌を遂げた田中さん(?)の姿を目の当たりにして、たじろぎます
妹(今回ばかりはお兄ちゃんにも手が出せないってことなの?!)
( ´∀`)「田中さんか? 随分、毛深くなったな。見違えたよ」
妹(違うでしょ! この前、本物に会ったのになんで気づかないの?!)
田中さん?「指輪がないの! どこを探してもないの!」
( ´∀`)「指輪? 風呂場でなくしたなら、下水道にでも流れたんじゃね?」
田中さん?「下水道・・・どこ?」
( ´∀`)「確か、一階にある倉庫の中のマンホールから入れたはずだが」
田中さん(?)は、それを聞くと、おもむろに外へ向かい、すぅっとフェードアウトしていきました
( ´∀`)「探しに行ったか。大事なもんなんだな」
彼女は、これから延々と下水道を彷徨い歩くのでしょう。主に兄のせいで
妹「どうか、指輪が見つかりますように」
兄の被害者に、せめてもの幸福があることを、私は祈らずにはいられないのでした