4月26日 プランター(脚本)
〇中規模マンション
〇高層マンションの一室
兄の節約術のひとつに、家庭菜園があります。菜園と言っても小さいプランターで、プチトマトとしかありません
少しでも出費を抑えたい兄の、せせこましい努力なのです
その努力が本日、文字通りに実りました
( ´∀`)「数も少ないし、小ぶりだな。もっと、ワーッと実るんじゃないのか」
妹「プランターだからね。でも。これなんか大きいよ?」
そうしてもぎ取ったトマトは、拳ほどで丸々としています。熟しすぎてか赤黒く、片面はシワかなにかで人の顔のようでした
ただ、その顔は苦悶の表情に見えました
妹「何これ、気持ち悪い」
( ´∀`)「少し傷んでるのか? 早く食べないとな」
妹「食べるんだ」
妹(これを平気で食べようとするとは、感性がないのか、もったいないだけなのか)
( ´∀`)「トマトはトマトだろ。捨てるのもったいないし」
妹「足の生えた大根とかじゃないんだから」
( ´∀`)「ああ、あれな。あるぞ」
妹「なんで持ってるの?」
( ´∀`)「バイト先で売り物にならないからって貰えたんだ」
兄は何を思いついたのか、トマトと大根を手にすると、交互に眺めてから、ニヤリとわらいます
( ´∀`)「合体」
トマトを大根の茎に刺して、トマト人間ができました
妹「なにやってんの? 食べ物で遊んじゃダメだよ」
( ´∀`)「そういうお前だって、笑ってるじゃねぇか」
妹「ここは、ナスに割り箸を刺して、牛をお供にさせて」
お盆につくるナスの牛を隣に置きます
妹「トマト人間は、トマト百姓にランクアップしました」
( ´∀`)「おい、やめろ。野菜に野菜を作らせるなよ」
妹「こうなると鍬か鋤でも持たせたいね」
私の中に渦巻く、芸術に対する飽くなき探求心がトマト百姓を更に立派にさせたくてたまらなくさせます
( ´∀`)「フォークでいいか?」
妹「じゃあ、麦わら帽子の代わりにお皿をかぶせて」
あれやこれやと悪ふざけが止まらず、トマト百姓はたちまち立派な体を手に入れてしまいました
妹「ちょっと遊びすぎたかな?」
少し冷静さを取り戻すことができたとき、ある変化に気付きます
トマトはいつのまにか苦悶の表情から、悪辣な笑みに変わっていました
色々と装備させて印象が変わったから? そんな程度の変化ではありません。明確な悪意を肌で感じるほど顔つきは変わっていました
妹(なんで?)
理由はすぐに思い当たりました。体を与えたから
頭だけで動けなかったトマトに、自由に動ける体を与えた。これはきっと邪悪な魂に、自由を与えてしまったのです
このままでは、私達はトマトに襲われる
そう思った時でした──
ダンッ!
包丁が床を叩く音が響きました
兄が大根を両断してました
妹「何してんの?」
( ´∀`)「トマト百姓を味噌汁にしようと思って」
兄は容赦なく大根を切り刻んでゆきます
妹(トマトの顔が阿鼻叫喚に変わってる・・・)
妹「皮くらい向いたら?」
( ´∀`)「あれ、苦手なんだよな」
妹「ピーラーあるよ」
( ´∀`)「こいつはいい」
ピーラーを渡すと、兄は無造作にトマト百姓の大根ボディをガリガリ削ってゆきます
妹(余計のことを言うなって顔になった)
( ´∀`)「これを味噌入れた鍋に入れて」
兄は刻んだ大根と、トマトをそのまま鍋に突っ込みました
グツグツと煮たつ鍋の中で、トマトはしぼみ、シワだらけになって、もうその表情を読み取ることは出来ませんでした
妹「お兄ちゃん、何かを得るって言うのは、痛みもまた得るということなんだね」
( ´∀`)「おう、そうだぞ。だから、大事に食えよ」
妹「いらない」
お出汁のはいってないトマト味噌汁は、兄が全部食べました