エピソード8(脚本)
〇黒
ニル「・・・むにゃ」
ほら、起きなさい
ニル「まだ眠いよ・・・ギル・・・」
ギルって誰よ、アイリよアイリ
ニル「・・・ん?」
〇湖畔
ニル「あ、ああ、おはようアイリ」
アイリ「おはよう、ニル」
アイリ「まさかあのまま起きずに朝まで寝るなんてね」
アイリは腕を組み、呆(あき)れたようにニルを見つめる。
アイリ「ほら、早く準備して出発するわよ」
〇黒
朝の空気は非常に澄んでおり、辺りには小鳥のさえずりが響いている。
ニルとアイリは、ぽかぽかとした日が差し込む湖畔(こはん)を歩いていた。
〇湖畔
アイリ「・・・なによ」
ニル「・・・え? な、なに?」
アイリ「すっとぼけないで」
アイリ「さっきからソワソワソワソワ・・・言いたいことあるなら言えばいいじゃない」
ギクリ、とニルの表情がこわばる。
鋭いアイリの視線に観念し、ニルは言いにくそうに口を開いた。
ニル「あの・・・その・・・」
ニル「・・・昨日は本当にごめん!」
アイリ「ああ、まだ気にしてたの?」
アイリ「もういいわよ。仮にも助けようと思って来てくれたんでしょ?」
ニル「う・・・うん・・・」
ニル「アイリの裸なんて、全然見ようとも思ってなかったし」
アイリ「ちょっと待って、それどういう意味よ」
ジト、とアイリに睨(にら)まれ、ニルは焦って両手を振る。
ニル「いや、その・・・」
ニル「ほら、あのときは緊急事態だったから、そこまで頭が回らなかったっていうか」
ニル「アイリは魅力的だけど、今さっきのは言葉のアヤで・・・」
早口でまくしたてるニルに、アイリは、ふふ、と声を漏らした。
アイリ「冗談よ、怒ってないわ」
ニル「もう、やめてよ・・・」
ため息をついて、ニルが脱力する。
ニル「ところで、今日はどこに向かってるの?」
アイリ「カラカール渓谷よ」
アイリ「このファティマ湖につながる川を登ればすぐのところ」
アイリ「そこで、ギラノスっていうギアーズを探すわ」
ニル「ギラノス・・・なんか強そうな名前だね」
アイリ「まあ、ラウルガなんかと比べものにならないわね」
アイリ「個体によっては上級に分類される大型のギアーズだもの」
ニル「上級、って・・・急にそんな相手と戦って大丈夫なの?」
アイリ「なに言ってんの、ニルはネームドを倒すんだからそんなの余裕でしょ」
ニル「あのときは、その・・・」
アイリ「まあいいわ、とにかく! アンタがメインで私がサポートね」
ニル「・・・大丈夫かな・・・」
ニルの呟(つぶや)きはアイリに聞こえることなく、木々の間に溶け込んでいった。
〇渓谷
カラカール渓谷。ラパークの森と隣接する渓谷地帯だ。
足を進めるにつれて、ぐっと緑が深くなっていく。
川の足は透き通っており、エメラルドグリーンの見事な色合いを見せていた。
カラカール渓谷に足を踏み入れたニルとアイリは、そこら中に転がる石に足をとられないよう注意して歩く。
辺りに聞こえるのは流水の音だけである。
ニル「すごく静かなところだね」
ニル「こんなところに大型のギアーズがいるの?」
アイリ「ええ」
アイリ「でも探さない限り、普通はここで大型ギアーズに出くわすことはないわ」
ニル「どういうこと?」
アイリ「ギアーズも、わざわざ人間の相手するほど暇じゃないってことよ」
アイリ「人間は別にやつらの餌ってわけでもないし」
アイリ「もちろん、例外はあるけど・・・」
ニル「じゃあ探すの? といっても、どうやって・・・」
純粋な疑問を口にするニルに、アイリはニヤリと口角を上げる。
「考えがあるわ」と言い残し、ひとり、木々の奥へ姿を消していった。
それから、少し遠くで鈍い音が鳴ったかと思うと、アイリが声を上げる。
「ニルー! 来てもらってもいい?」
ニル「分かったー!」
〇渓谷
駆(か)けつけたニルの目に映ったのは、ラウルの死体を担ごうとしているアイリの姿だった。
ニル「・・・って、なにしてるの?」
なかなかうまくいかず、苦戦しているようである。
アイリ「重っ・・・ああニル、これ運んでくれる?」
ニル「その死骸を? どこに?」
アイリ「こっちよ」
ニルは死体を背負い、言われるままにアイリについていく。
ニル「いったいどうするの、これ・・・」
アイリ「餌にするの」
アイリ「これでヤツをおびきよせるのよ」
〇渓谷
ニル「・・・・・・」
川辺にラウルの死体を設置してから、約1時間が経とうとしていた。
しかし一向にギラノスが現れる気配はない。
ニル「アイリ・・・そろそろ諦めない?」
アイリ「まだよ」
ニル「第一、これで本当に現れるの?」
アイリ「・・・ちょっと黙ってなさい」
ニル「でもさ〜、ここ・・・」
ニルが言いかけたとき、なにか重いものが振り下ろされたような音がした。
初めは遠くから響いていたそれは、ドスン、ドスンと次第に規則的に大きくなっていく。
ニル「・・・・・・」
場に緊迫した空気が流れる。
辺りに響き渡る轟音(ごうおん)に、ふたりは地面すらも揺れる感覚に陥(おちい)っていた。
ニル「————!」
〇黒
最初には目に入ったのは、尖った爪だ。
巨大な鉤爪(かぎづめ)が、一瞬で目の前の木をなぎ倒す。
それをぐしゃりと踏みつぶしながら、大型のギアーズが姿を現した。
〇渓谷
ニル「・・・大きくない?」
アイリ「間違いなく上級に分類されるわね」
10mほどはありそうな巨体を揺らし、ギラノスがラウルの死骸へと近づいていく。
だが、すぐには手を出さない。
周囲の様子を伺っているようだ。
しばらくすると警戒を解いたのか、ギラノスはラウルを前足で掴(つか)み、大きな口を開けて胴体にかじりついた。
「・・・・・・」
- このエピソードを読むには
会員登録/ログインが必要です! - 会員登録する(無料)
応援してます^^*
頑張ってください💪