幸多き未来を…

市丸あや

幸多き未来を…下(脚本)

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〇大きい病院の廊下
棗藤次「よ、よし・・・」

〇病室
木村靖子「あ! 長山師長! それに・・・藤次君?」
棗藤次「えっ、 あ・・・ やすこ・・・靖子姉ちゃんか?!」
木村靖子「うん! 靖子姉ちゃんやで〜!! わあ〜、すっかり大きいなってぇ〜 最後に会うたん、確か師長の結婚式やったっけ?」
棗藤次「あ、うん。 そかな。 あ! 紹介するわ。 つ、お、あ・・・内方(うつかた)の絢音と、息子の藤太、後、娘の恋雪」
棗絢音「初めまして。 主人・・・藤次さんの妻の、絢音と申します」
  ボク、なつめとうた!!
木村靖子「わー・・・ めっちゃ綺麗やし可愛い!! 初めまして。 藤次君のお姉さんの専門の後輩の、木村靖子言いますぅ〜 宜しゅう」
棗絢音「はい。 よろしくお願いします」
棗藤次「そんであの、姉ちゃん。 お、おお、お母はん・・・は?」
木村靖子「ああ! 皐月おばちゃん? 今日天気エエやろ? 調子もエエらしゅうて、さっき日光浴言うて中庭行ったえ」
棗藤次「あ、そ、そうなんや・・・」
木村靖子「おばちゃんなぁ、いっつも藤次君の話ばあしとるえ? 立派になった、ウチには勿体無いエエ子やて!」
棗藤次「あ・・・」
木村靖子「──その雰囲気やと、まだちゃんと、おばちゃんと話できひんみたいやね。 まあ、子は鎹言うし、孫の顔見せて、安心させたり」
棗藤次「う、うん・・・」

〇大きい病院の廊下
棗絢音「──ねえ、さっきの靖子さんて、元カノ?」
棗藤次「えっ?!!あ、その・・・」
  ──桜山病院の中庭に向かう途中。
  ちょい野暮用ができたわと、姉恵理子と別れて家族で中庭に向かっていると、絢音が突飛な事を聞いてきたので、藤次は赤くなる。
棗絢音「図星か。 なんか、そんな雰囲気出してたから、すぐ分かった」
棗藤次「やっ、そのっ!! もう、10年も前に婚約してたけど、色々あって破談になった話や!! い、今はお前だけやで!!!」
棗絢音「色々って?」
棗藤次「────────浮気、してん。 遠距離が耐えられんくて、当時おった地検の若い事務官の娘と・・・」
棗絢音「ふーん・・・ ウワキ・・・ねぇ〜」
棗藤次「い、今はしてへんで!! いや!! 結婚する前からずっとずっと!!お前一筋やっ!! 勿論、これからも!!」
  あまりにも藤次が真剣に詰め寄ってくるので、絢音はプッと吹き出す。
棗絢音「やあね〜 そんなに必死にならないでよ! 余計怪しく思っちゃうから!!」
棗藤次「そ、そやし〜」
棗絢音「大丈夫。 そんなに必死にならなくても、ちゃーんと信じてるからっ! ・・・ちょっとからかってみただけよ♡」
棗藤次「絢音〜」
棗絢音「ふふっ! ・・・どう? 少しは緊張、解れた?」
棗藤次「あっ・・・」
  瞬く藤次の手を強く握り返し、絢音は微笑む。
棗絢音「──良かったじゃない。 お義母さま、藤次さんの事自慢の息子って言ってくれてて・・・」
棗藤次「う、うん・・・ 嬉しかった。 おおきに。 ちょっと緊張・・・解れたわ」
棗絢音「そう? 良かった! じゃあ、帰りは駅前で見つけたパーラーの特製パフェ、ご馳走してね♡」
  あ!
  ママずるい!!
  
  ボク、プリンが良い!!
棗藤次「えっ、ええっっ!!? そ、そんなワシ・・・持ち合わせが・・・」
棗絢音「あらあら。 元カノの話聞かせておいて、埋め合わせもないの? あ、な、た♡」
棗藤次「せ、せやから昔の話やて〜!!」
棗絢音「ふふふ」
  ママ楽しそう!!
  パパ、もっとうわきはなしてー!!
  キャハハ!!
棗藤次「ああ・・・ 絢音も藤太も、可愛い恋雪まで・・・ ホンマ敵わんわ。 もう、好きにして・・・」
  ──口ではそう言ってみたが、本当に、自分は良い家庭に恵まれたなと、早く母に紹介したいなと、藤次の思いはさらに強くなった。

〇中庭
看護師「──棗さん。 どうですか気分」
棗皐月「ええ・・・ お日様の光が心地よくて、何だか寝ちゃいそう」
看護師「あらー ダメですよ〜  今日、ご家族がお見舞い来られるんでしょー?」
棗皐月「・・・・・・・・・・・・・・・」
看護師「棗さん?」
棗皐月「──ホントはね、会うの怖いの。 息子何だけどね、もうずっと会ってなくて・・ 娘の話で京都で立派にやってるって聞いてるけど」
  ──言って、皐月は膝掛けをギュッと握り締める。
棗皐月「私、こんな体でしょ? 小さい頃から子供・・・特に息子は構ってあげてなくてね、ずっと寂しい思いさせてたの・・・」
看護師「そんな・・・ 師長がいつも言われてるじゃないですかぁ。 息子さん、気にしてないって」
棗皐月「うん。恵理子は優しいからそう慰めてくれるけど、じゃあどうして、会いに来てくれないの?どうしてって、ずっと思ってて・・・」
看護師「棗さん・・・」
棗皐月「勝手だって分かってる。 だけど、怖くて・・・ 会いたいくせに、会ってどんな恨み節を言われるかと思うと、怖くて・・・」
看護師「──棗さん。 あ・・・」
棗皐月「でも、だけど、もし会えたら、真っ先に言ってあげたい。 私は貴方を、誰よりも愛してるって。 だけど・・・」
  そう皐月が口にした時だった。
棗藤次「お母ちゃん・・・ 今の、ホンマか? だけど、なに?」
棗皐月「と、とう・・・じ」
  声に瞬き目を開くと、目の前にいたのは、50になったが、幼い頃と寸分変わらない澄んだ瞳の・・・息子・・・
  自然とまた、皐月の頬に涙が伝う・・・
棗皐月「来て、くれたの? こんな、母親のところに──」
棗藤次「そんなん、どうでもええ。 それより質問、答えて? 愛してるけど、だけど、なに?」
棗皐月「あ・・・」
  ──小さく震えて、今にも泣きそうな顔でいる、広く大きな身体の息子。
  言わなきゃ、
  今言わなきゃこの子は、ずっと自分の存在を疑いながら生きて行くことになる。
  そう思い、皐月はゆっくり口を開く。
棗皐月「愛しているわ。生まれた時からずっと・・・ずうっと・・・ だけど、寂しい辛い思いを沢山させて、ごめんなさい。 藤次・・・」
棗藤次「お母ちゃん・・ ワシ、それだけ聞きたかった。 聞きたかったんや。 そやのに、意地張って泣かせて・・ ホンマ、ごめんな・・」
棗皐月「藤次・・・」
棗藤次「お母ちゃん・・・」
  ──そうして暫く抱き合って涙を流していたが、やおら藤次が、背後にいる・・・最愛の家族を皐月の前に引き寄せる。
棗藤次「姉ちゃんから聞いとるやろけど、ワシ、結婚して家族持ってん。 孫もおるで? 男と女。 見るか?」
棗皐月「ええ、ええ。 見せて、藤次・・・」
棗藤次「うん! ほら、先ずはワシの初孫! 男の子や! 名前は、藤に太で藤太や! 藤太、これがお前の、おばあちゃんやで〜」
  おばあちゃん?
棗藤次「せや! お父ちゃんの、お母ちゃんや!! 綺麗な人やろう? 挨拶、できるな?」
  う、うん・・・
  そうしてテチテチと歩いて行き、藤太は優しく笑う皐月に頭を下げる。
  なつめ、とうたでつ。
  あじめあして、おばあたん・・・
棗皐月「まあまあ、可愛らしい。 口元とかあなたにそっくりね。 初めまして。 おばあちゃん、さつきっていうの。 よろしくね?」
  うん。
  よろちく・・・
棗皐月「うん・・・ うん・・・」
棗藤次「──ほんでこれが、2人目。 女の子。 恋に雪で、恋雪。 そんで抱いてるのが、こんなワシを選んでくれた嫁はん。絢音や」
棗絢音「は、初めまして・・・ お、お義母様・・・ 藤次さんの妻の、絢音です。 どうかこの子、恋雪を抱いてあげて下さい」
棗皐月「まあまあ、綺麗な人ね・・・ 初めまして。母の皐月です。 藤次を選んでくれて、ありがとう。 ホントに、私が抱いて良いの?」
棗絢音「勿論です・・・」
  そうして、絢音は腕の中の恋雪を渡すと、皐月は愛おしそうに、恋雪小さな小さな頭を撫でる。
棗皐月「可愛い・・・ でも、夢かしら・・・ あなたとこんな幸せな時間を過ごせる日が来るなんて・・・」
棗藤次「阿呆! 頬抓ったろか?! 夢やない! 全部全部、現実や!! お母ちゃん!」
棗皐月「藤次・・・」
棗藤次「今まで、ホンマごめん これからはなるだけ顔出す 仕事は変わらずハードやけど、支えてくれる人もできた せやから、安心してや」
棗皐月「うん、うん・・・ でも母さん、あなたのその言葉だけで充分よ。 身体にだけは気をつけて、父さんみたいに、なってはだめよ?」
棗藤次「うん・・・ あ! せや!! ええ事思いついた!!」
棗皐月「?」
棗藤次「あんな、お母ちゃん、絢音・・・」
「ん?」

〇森の中の写真館
棗皐月「──本当に、良いの藤次」
棗藤次「なに遠慮しとんや! ほら、カメラ見て笑って!」
棗絢音「そうですよお義母さん!! 藤太と恋雪の初めての家族写真なんですから! 笑って下さい!」
棗皐月「絢音さん・・・ けど・・・」
  ──件の病院訪問から暫くした休日。
  藤次一家と皐月は、奈良市内の写真館にいた。
  親子関係の回復と、子供達の成長記念にと家族写真を提案してきた息子に嬉しく思う反面、こんな自分がと萎縮していると・・・
棗藤次「お母ちゃん、新しい着物・・・よう似合うとる。 これからはぎょうさん買うたるからな?」
棗皐月「そ、そんな・・・私なんかよりもっと子供やあ、絢音さんに使いなさい! これから物入りになるのよ!」
棗藤次「大丈夫や! ウチの嫁さんやりくり上手いから!! な?絢音!!」
棗絢音「うん! お義母様、自慢じゃないですが私、結構貯金得意なんですよー」
棗皐月「だ、だけど・・・」
棗藤次「もー! 家族なんやから遠慮しなや!! 孝行はおるときにしかできんのやから! お母ちゃん!!」
棗皐月「藤次・・・」
棗絢音「ふふっ! 藤次さん、ホントお母さん子なのね。 何だか妬けちゃう」
棗藤次「阿呆! 親は親!! お前はお前!! ちゃーんと平等に愛したる!! 2人とも、ううん!藤太も恋雪も、大好きや!!」
棗皐月「藤次・・・」
棗絢音「藤次さん・・・」
  ボクも、パパだいしゅき!!
  キャー!!
棗藤次「うんうん!! みんなみーーーんな、大好きや!!! ワシと生きてくれて、おおきに!!!!」
写真館のスタッフ「はーい! じゃあ皆さま、撮りまーす!」

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