牛を引いて明治神宮参り(脚本)
〇黒背景
その日、俺は何となく有休をとった
理由は特にない。少しだるかったからかもしれない
会社に連絡を入れ、俺は部屋着のままコンビニへ向かった
今日は飯を作らないと決めていた
その途中、交差点を待っていた時
???「すみません、明治神宮はどちらでしょうか」
声をかけられた。その方を見ると
牛がいた
(牛の絵がなかったんです・・・・・・すみません牛だと思って見てください)
比喩でも何でもない
牛だ
四足歩行でしっぽが付いた白黒模様のあれだ
牛は間近で見るとずいぶん大きい
俺より頭の位置が高く、若干見下ろされる形になる
牛「あの・・・・・・」
あまりの非現実さに声が出ない
牛「えっと、うぇあいずめいじじんぐう?」
牛は大きな瞳をぱちくりさせて訊ねてくる
俺「いや・・・・・・」
俺「そういうことじゃないっす」
これが俺と牛との出会いである
〇線路沿いの道
明治神宮はここから1キロもないところだった
口頭で説明しても不安そうにしているので、仕方なくついていくことにした
もちろん好奇心が大きかったのだが
俺「というかさ」
牛「はい?」
俺「ここまでどうやって来たの?」
牛「普通に電車に乗って渋谷駅まで来ました」
俺「電車に乗ったの!?」
牛「はい」
俺「スクランブル交差点も通ったの!?」
牛「はい」
牛「皆さんぶつからないなんて驚きでした~」
俺(きっと皆が避けてたんだよ・・・・・・)
牛は道中、
牛「渋谷駅は人が多かったです」
とか
牛「改札は通れませんでした」
とか
牛「ハチ公はどこにあったんでしょう?」
とかいう話をしていた
俺はもう何に驚けばよいのかわからず
俺「それは大変だったなあ」
なんて言ったりした
〇神社の本殿
明治神宮にはすぐに着いた
南参道に続く鳥居の端を通ると、牛もきちんと端を通ってついてきた
ここの大鳥居は日本一の大きさなので、牛も余裕で通れた
玉砂利を踏みしめつつ正参道に入り、本殿に着く
赤褐色に塗られた本殿は渋く、趣があった
牛「おお~これが本殿ですか~!」
牛はやや興奮気味に前足をかいた
お参りの前に手を清めるのだが、これが困った
なんせ相手は四本足である
当然本人一人ではできないので、俺が四本とも清めてやった
牛「すみません・・・・・・ありがとうございます」
牛が申し訳なさそうに頭を下げたのが何とも憎めなく、
俺「これくらいどうってことねえよ」
と、その大きな頭を撫でた
お参りの列に並び、俺たちの番がくる
俺「お賽銭は?」
牛「持ってます!この中から出してください!」
牛は頭を上げた
見ると首元には大きな鞄がかけられていた
手を入れると確かに財布が入っている
俺「いくら?」
牛「500円で」
俺「りょーかい」
自分の10円玉と牛の500円玉とを賽銭箱に入れてやる
二拝二拍手一拝
牛は拍手の代わりに蹄で地面を叩いた
俺「お御籤も引こう」
牛「ここ、お御籤じゃなくてお御心というんですよ」
牛はまたも興奮していた
牛「大吉とか凶ではなく、明治天皇と昭憲皇太后の歌が書かれているんですよ!」
俺「じゃあ楽しみだな」
と引いたはいいものの、歌はいと難しく、裏面の解説を読んでやっと理解できた
牛に至っては読んで聞かせてやったが
牛「いと素敵です!」
と言うばかりだった
では帰ろう、と思っていると袖を引かれた。口で。
牛「御朱印も欲しいです」
俺「御朱印?」
濡れた袖口を拭う
牛「やっぱりもらっておかないと!」
牛は先導して神楽殿に向かっていく
牛「御朱印お願いしまーす」
受付で牛が大きな顔をめいっぱいに突き出しながら御朱印を頼む姿はなんとも珍妙だった
牛「いやー、満足です。ありがとうございました」
俺「おや、御苑は行かなくていいのかい?」
牛「御苑、ですか?」
俺「行けばわかるよ」
〇風流な庭園
御苑は本殿のすぐ近くにある
牛「わあ~!」
辺りに白、紫、薄紫、青の菖蒲が咲き乱れている
それはまさに「都のほか」であった
牛は通路に沿いながら菖蒲に目を輝かせている
牛「菖蒲の花、初めて見ました!」
牛「こんなに綺麗なんですねえ」
俺「よかったら写真撮ってやろうか?」
牛「本当ですか!?」
牛「あ、でもあいにくカメラは持っていなくて・・・・・・」
牛は明らかにしょんぼりとする
牛「よかったらあなたのカメラで撮ってくれませんか?」
俺「俺の?」
牛「私が持っていなくても、誰かが思い出として写真を持っていてくれたら嬉しいです」
俺「・・・・・・りょーかい」
俺は携帯を起動し、菖蒲を背景に微笑む牛を何枚かレンズに収めた
牛「ばっちりですか!?」
俺「おう、ばっちりだ」
今撮った写真を見せてやると、牛はくいついて見て喜んだ
〇線路沿いの道
俺「じゃあ、渋谷駅あっちだから」
牛「はい、帰りは一人で大丈夫です」
牛はこちらに向き直ると
牛「今日はありがとうございました」
と深々と頭を下げた
俺「いやいやそんな・・・・・・俺の方こそ楽しかったよ。マジで」
牛「それはよかったです」
では、と牛が去ろうとするのを悩んだが引き留めた
牛「なんでしょう?」
俺「あのさ、よかったら・・・・・・」
牛「・・・・・・?」
俺「その、」
俺「・・・背中に乗っけてくれない?」
牛「え?」
俺「ほら、殿様みたいにさ。カッポカッポって・・・・・・」
牛は微笑んだ
牛「それは馬の仕事です」
俺「だ、だよなあ~」
牛「それでは」
牛はいよいよ歩き始めていってしまった
なんとなくその大きな後姿から目を離せずにいると
牛「あ、でも」
牛が振り返った
牛「牛車なら、考えてあげてもいいですよ」
俺「・・・・・・」
俺「・・・・・・ははは!」
俺は笑って牛に手を振り、自宅の方を向いた
最後に牛がしっぽを振っているのが少し見えた
途中の「牛の絵がなかったんです」が今まで見たことのない形だったので面白いなと思いました🙆♀️笑
最後のゆったりとした2人(?)の空気感が素敵ですね😌✨
こんにちは!福山詩と申します!
丁寧な口調と描写で狼が牛に見えました!
敬語の牛、可愛かったです!俺が500円を出してあげるところが好きでした!
犬(牛)はなんで明治神宮に行きたかったのかな?
観光…?もしくは何か縁があるのかな…?
私も明治神宮は行ったことありませんが、行ってみたくなりました!