第20章 彼女のSOS(脚本)
〇稽古場
── 一か月後、gladiolusの練習スタジオ
あやか「かの、またステップが遅れてる」
あやか「いい加減集中してちょうだい!」
あやかとかのは、二人だけで練習を続けていた
かの「あやちゃん、二人が来なくなってから一カ月経つけど、本当にいいの・・・?」
かの「周年ライブ、やるんだよね? それまでに二人が戻ってこなかったら・・・」
あやか「わかってるわよ!!!!」
ピリッとした空気がスタジオに張り詰める
かの「ごめん、でも・・・」
あやか「・・・もういいわ、今日は帰る」
あやかはイライラした様子でそう言うと、スピーカーの音楽を乱暴に消した
かの「あやちゃん・・・」
〇開けた交差点
かの「はあ、どうしよう・・・」
あやかが早々に出ていってしまったので、かのもトボトボとスタジオを後にしていた
かの「このまま、どうなっちゃうんだろう・・・」
〇稽古場
最近のあやかの高圧的な態度はつらいものがあるし、
〇黒背景
相談しようにもあの二人は帰ってこない
自分は今ひとりっきりだ
それだとしても──
〇開けた交差点
かの「gladiolusを失いたくないよ・・・」
〇公園の入り口
ふと道路わきの公園に目をやると、スピーカーから流れる音楽に合わせて少女たちが踊っているのが見えた
──いいな、と思った
自分があんな風に楽しく踊っていたのはいつだろう
あんな風に思いっきり笑って──
かの「あれ・・・」
〇開けた交差点
かの「りょうちゃん、まみこ!?」
かの「・・・と、」
〇公園の入り口
かの「ハピパレの人たちだ・・・」
ゆき「いやあ、やっぱりgladiolusの練習方法はすごいよ」
さくら「二人のお陰で振り付けもスムーズにできたしね!」
ハピパレはgladiolusの二人に練習と振付を手伝ってもらっていた
〇公園の入り口
二人の指導は的確かつ効率的で、勉強することばかりだった
そのおかげで、4人はこの一ヶ月でかなりの実力をつけることに成功していた
〇公園の入り口
はるか「おかげさまで、週末の文化祭はうまくいきそうかも・・・なんて!」
はるかは髪の毛をくるくるとやりながら、照れくさそうに言った
まみこ「本番、近づいてきちゃったかぁ・・・」
りょう「そろそろ、ちゃんとあやかを説得しないと・・・」
二人が暗い表情をした
〇稽古場
この一か月間、二人は何度もあやかに掛け合おうとしていた
だが──
りょう「あれっ、ドアがあかない・・・!」
あやか「寝ぼけたことを言いに来たのなら帰って 私たちは練習で忙しいの」
〇開けた交差点
まみこ「あやか・・・」
あやか「待ち伏せしていたの? 随分と暇なのね?」
あやか「gladiolusの一員という自覚があるのなら、少しでも練習したらどうかしら?」
──全く相手にしてもらえなかったのだった
〇公園の入り口
はるか「やっぱり喧嘩したままなんかじゃダメ! 4人には楽しくアイドルやってもらいたいもん!」
はるかが声を張り上げた
そのためには、何とかあやかを説得できるステージをするしかない
りょう「かのもきっとつらいだろうな・・・ 大丈夫かな・・・」
〇開けた交差点
かのは自分の名前が呼ばれたような気がして、急いで茂みから離れた
〇公園の入り口
はるか「・・・あれ、かのさん?」
〇開けた交差点
はるか「待って!!!!」
はるか「かのさん、どうして逃げるんですか?」
かの「・・・」
はるかの声を聞いて、かのは背中を向けたまま立ち止まった
かの「もう私、どうしたらいいかわからないんです・・・」
かのはうつむいたまま答えた
声が震えている
かの「あやかはいつも辛そうだし、他の二人は帰ってこないし──」
かの「もうきっとgladiolusのことなんて、みんなどうだっていいんです・・・」
「ちがう!!!!!」
まみこ「かの・・・あの日の気持ち、もう忘れちゃった?」
〇公園の入り口
まみこ「初めて会ったあの日の気持ち──」
〇大劇場の舞台
まみこ「初めて優勝した時の気持ち──」
〇開けた交差点
まみこ「私たちはずっと忘れてた」
まみこ「ステージを楽しむ気持ちとか、みんなのことを大切に思う気持ちとか──」
ここでまみこは一瞬言葉を詰まらせた
まみこ「・・・かの、ごめんね 独りにしちゃってたよね」
まみこ「仲間の大切さとか、かのはずっと忘れないでいてくれてたんだって・・・ 今気づいたよ・・・」
まみこ「だからずっと、あやかのそばにいてくれたんだよね?」
かのは背中を向けたまま震えている
かの「・・・」
かの「・・・なら、助けて」
〇謁見の間
かの「──あやちゃんを助けてよ・・・」
〇開けた交差点
かの「あやちゃんはずっと独りなんだよ」
かの「ずっとずっと独りで苦しんでるんだよ」
まみこ「わかってる だから思い出してもらいたいの」
まみこ「私たちが失ったものを、取り戻したいの・・・」
かのがくるりと向きを変えた
かの「──でも全部、きっと無駄になる」
かの「あやちゃんには、もう誰の言葉も届かない・・・」
はるか「そんなことありません!!!」
はるかが思わず叫んだ
はるか「言葉で届けられないなら、音楽で届ければいい・・・ ライブで伝えればいい!」
かの「そんなの・・・きっと無理です・・・」
はるか「「きっと」なんて、覆してみせますから!!」
はるかは辛抱強く訴えた
まみこ「かの、私たちが「忘れていたもの」を思い出したきっかけはハピパレのステージだった」
まみこ「だからハピパレのステージなら・・・って私たちも思ってる」
まみこ「かの、あやかを一緒に説得しよう」
まみこがかのの手を取った
まみこ「──gladiolusを失いたくないの」
〇開けた交差点
かの「gladiolusを失いたくないよ・・・」
〇開けた交差点
まみこの言葉を聞いて、かのは大きく深呼吸した
かの「・・・わかった」
「かの・・・!」
はるか「私たちも行きます!」
まみこ「ありがとう、でも大丈夫」
まみこ「週末の文化祭までに、新曲を完ぺきに仕上げることが優先でしょ?」
はるか「・・・わかった!」
まみこはそう言うと、はるかの手をがっしり掴んで勢いよく振った
まみこ「ステージ、期待してるからね!」
そう言うと、三人はスタジオの方へ走って行ってしまった
はるか「絶対、成功させなきゃ」
走り去っていく背中が小さくなる
それにつれて、4人の覚悟も固まる
〇空
4人は顔を見合わせた
私たちにできることはただ一つだ ──
はるか「あやかさんに、笑顔を届けよう」