第19章 可能性に賭ける(脚本)
〇公園のベンチ
──2週間後
「え、す、すごい・・・」
季節は8月上旬、とあるライブの帰り道
真夏の日光がジリジリ照りつける中、4人は道脇のベンチに座って、作曲家から送られてきた曲を聞いていた
優勝賞品のオリジナル曲が届いたのだ
はるか「すごい、すごいよ、うちらにぴったりじゃん!」
ゆづき「作曲家の人、熱意だけはヤバかったもんね・・・」
曲はポップで明るく、フレッシュなイメージのサウンドだった
さくら「歌詞は自分で考えるんだっけ?」
はるか「そうそう──」
〇劇場の楽屋
はるか「歌詞は自分たちで考えさせてください!」
はるか「しっかり自分たちの言葉で、思いを伝えたいなって思ったから──」
〇公園のベンチ
ゆき「さあ、ここからが大変よ」
ゆきがいつものように手をパン、と叩いた
ゆき「作詞、振付、フォーメーションづくりやパート分け、それに加えて練習も・・・」
ゆき「一か月後の文化祭に、全部間に合わせないといけないんだから」
ゆづき「そうね・・・ いったい何からやればいいのかしら・・・」
ある程度覚悟していたことだが、今からすべてを一気にやるのは難しい
はるか「じゃあ先に、歌詞をつけるのはどうかな? 振り付けもしやすくなると思うし・・・」
さくら「賛成! それから振付を考えよう、あたしフォーメーションなら──」
ここまで言って、さくらが動きを止めた
さくら「あれ、りょうちゃんと──まみこさん?」
さくらの目線の先に、りょうとまみこが立っていた
二人とも、浮かない表情をしている
さくら「りょうちゃん、この間の大会から連絡がとれなくなって、心配してたんだよ?!」
りょう「ごめん・・・ 優勝おめでとうって言うの、遅くなっちゃったね・・・」
りょうは申し訳なさそうな顔をした
はるか「それより今日、gladiolusの練習はないんですか?」
まみこ「それが・・・」
まみこがチラッとりょうの方を見た
りょう「私たち、追い出されちゃったの・・・」
「ええっ、追い出された!?」
あまりにも衝撃的な告白に、4人は同時に声をあげた
通りすがりの人々が何人かこちらを見た
〇公園のベンチ
ゆき「それで、何があったんですか?」
ゆきが買ってきたジュースを二人に手渡しながら言った
まみこ「この前、「文化祭のライブを見に来てほしい」って言ってもらいましたよね?」
まみこ「それをあやかに伝えたんです・・・」
りょう「そうしたら──」
〇稽古場
あやか「──なんですって?」
まみこ「だから、ハピパレのライブを見に行こうって・・・」
あやか「ふざけないでよ!!!」
あやか「あなたたち、練習にも来ないで何をやってたかと思ったら、そんなことを言いに来たの?」
あやか「私はああいうチームが一番嫌いなのよ! 中途半端な覚悟でへらへらと・・・」
あやか「実力もスター性もない、お遊びのようなアイドルなんか!!!!」
りょう「あやかはそう叫ぶと、私たちを練習室から追い出してしまったんです──」
〇公園のベンチ
ゆづき「そうだったんですか・・・」
場に暫くの沈黙が流れた
さくら「──ねえ、それってあたしたちのせいだよね・・・?」
まみこ「そんな、とんでもない!」
まみこは勢い良く手を振って否定した
まみこ「私たちが「そうしたかったから」あやかに提案したんです・・・」
〇大劇場の舞台
まみこ「大会の日、みなさんのステージを見ました」
まみこ「7月の大会とは大違いでした・・・ まぶしかった・・・」
〇公園の入り口
まみこ「感心するのと同時に、「私たちには欠けているものがあるんじゃないか」って気が付いたんです」
まみこ「でもその「何か」を埋めるために私たちが何か言ったって、何も変わらない」
まみこ「あやかにはもう、私たちの言葉は届かないんです」
まみこ「でもみなさんのライブには、あやかの目を覚まさせるような力がある──」
〇公園のベンチ
まみこ「心の底からそう思いました だからあやかに提案しました 決して、みなさんのせいじゃない・・・」
まみこはそこまで言い切ると、ジュースを一口喉に流し込んだ
まみこ「心配しないでください 私が絶対にあやかを連れていきます」
まみこ「こんなところでgladiolusを終わらせたくありませんから」
まみこは立ち上がってそう言った
それは宣言とも、自分自身への喝ともとれるような口調だった
まみこの眼差しを見てはるかは思った
あやかさんのためだけじゃない、これはgladiolusみんなのため・・・
〇雑踏
いや、違う
きっと同じように苦しんでいる人が──
いつの間にか笑顔を忘れてしまった人がいるはずなんだ
その人たちに笑顔になってもらうには──
〇公園のベンチ
はるか「──思いついたかも、歌詞」
ゆきがはるかの頭をたたいた
ゆき「こら、今は歌詞よりも大事な話をしてるでしょう!」
はるか「そうだね、ごめん」
はるか「でも思ったんだ あやかさんだけじゃなくて、いつの間にか笑えなくなっちゃったっていう人にも」
はるか「笑顔を届けられるようなライブがしたいなって」
はるか「そうしたら、歌詞がどんどん浮かんできたっていうか・・・」
ゆづきが「やれやれ」という顔をした
ゆづき「全く、空気の読めないところは一生治んないんだから!」
ゆづき「でも私も同じ気持ち、世界中に笑顔を届けられるようなライブにしたい!」
ゆづきははるかの肩をたたいた
さくら「も~、カッコつけちゃってさ」
さくら「・・・ま、あたしも同じ気持ちだけどね」
さくらが少し照れくさそうに笑った
ゆき「わ、私だって同じだよ?」
ゆきが慌てて付け足した
ゆき「そのために、新曲をより良いものにしなくちゃいけない──歌詞だってもちろんそうだよね」
4人はうなづいた
きっとみんな、思いはひとつだ
りょう「今、新曲の準備をしてるの?」
「新曲」というワードが出たのが気になったのか、りょうがおずおずと質問した
はるか「そうなんです! 初めてのオリジナル曲ができるんですけど、」
はるか「作詞や振付に追われて、練習できないんじゃないかって心配で・・・」
はるかがモジモジと答えると、まみことりょうが目を見合わせた
「・・・私たち、手伝おうか?」
はるか「・・・・・・えっ」
〇空
「いいんですか?!」
蝉の声に交じって、四人の声が鳴り響いた
夏は始まったばかりなのかもしれない──