本郷ノリカズの奇妙な旅

こりどらす

File.11 広島 前編(脚本)

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〇メイド喫茶
  池袋
  コンセプトカフェ『もえもえ』
ヤマガミサマ「・・・ふぅ」
  男性客で賑わう店内で、ヤマガミは1人、無意識に大きなため息をついていた。
  
  同僚が、見かねて声をかける
三木谷ミク「どうしたの?和見ちゃん。 最近元気ないみたいだけど・・・」
ヤマガミサマ「先日、知り合いと久しぶりに会ったさ。 でも、いつの間にか立派になっていて・・・」
ヤマガミサマ「もともと住んでいた土地を離れて暮らすのは、ありえない・・・と言っていたのさ」
三木谷ミク「そうなんだ・・・それは辛いね。 でも、都会に出てくるのは悪い事じゃないと思う!」
ヤマガミサマ「私が女童を追いかけて上京し、着ぐるみ姿で都内を転々としている間も、そいつは自分の勤めを果たすべく働き・・・」
ヤマガミサマ「私がキュアキュアのアニメにハマっている間に、そいつはフランス人になってレストランを経営、今では有名シェフになったさー」
三木谷ミク(なにそれ、どういう状況??)

〇公園通り
  三木谷ミクの想像
和見タマ?「女の子を求めて上京したさー! 女児〜、女児〜!」
和見タマ?「勤めなんて知った事じゃないさー。 女児を追いかけるさー」
和見タマ?「それにつけても! キュアキュアのアニメ最高さー!」
知り合い?「そんなきみを差し置いて、俺は働き・・・」
有名フランス人?「そのうちフランス人になりマシタ」
有名フランス人?「住んでいた土地を離れるなんてあり得マセンが、今は有名フランス人シェフなのデス!」

〇メイド喫茶
三木谷ミク「・・・だめだ。 カオスな想像しか浮かばない」
三木谷ミク「でも、和見ちゃんも、その人に負けないくらい凄いと思うよ?」
三木谷ミク「うちのお店では指名率がダントツで一位だし、熱心な信者さんばかりだもん」
ヤマガミサマ「・・・そういうものなのか?」
三木谷ミク「そうだよー! 和見ちゃん来る前は、一浦さんが不動のトップだったんだけど、あっさり抜いちゃったもん。凄いよー!」
一浦ラム「・・・わたくしの陰口ですか?」
三木谷ミク「あわわ・・・違いますっ! 和見ちゃん、またねっ!」
一浦ラム「・・・和見さん、貴女も調子に乗られては困りますよ?」
一浦ラム「美貌! ルックス! どちらも私のほうが上なのですからね!」
ヤマガミサマ「そういうものなのか? 了解さー!」
男性客「にぎみこ様ー! オムライスまだ?」
ヤマガミサマ「はいはい、今行くさー!」
一浦ラム「・・・」
酒巻タモツ「楽しみですな、井上氏!」
井上ヨウスイ「本当でござるな、酒巻殿!」
一浦ラム「おかえりなさいませ、おぼっちゃま!」
酒巻タモツ「でゅふふ、今日は拙者達、にぎみこ様指名で」
一浦ラム「え・・・いつも私をご指名下さっていたのに」
井上ヨウスイ「ひとうら様も良いのでござるが、今日は 評判の、にぎみこ様の『もえもえきゅん』を堪能したく来たでござるよ」
一浦ラム「そ・・・そうですか」
ヤマガミサマ「お待たせしたさー! 何を食べるさ?人の子たち!」
酒巻タモツ「にぎみこ様だー! ありがたや!」
ヤマガミサマ「さあ人の子たち! 一緒に言うさ。 せーの!」
ヤマガミサマ「『もえもえきゅん』!」

〇繁華な通り
  夕刻の池袋
  サンシャイン通り
  繁華街の賑わいの中、一浦ラムは
  不機嫌を隠そうともせず帰路についていた
一浦ラム「くそっ・・・! 和見タマ、あのブスがぁ・・・! 私の指名客ぜんぶ取りやがって!」
一浦ラム「少し前まで、男どもみんな、私の」
一浦ラム「もえもえきゅん!」
一浦ラム「にメロメロだっただろうがよぉっ!」
一浦ラム「やってらんないぜ! あの女、本当、めちゃくちゃにしてやりてぇ」
一浦ラム「どこ見てんだよ! 肩が当たっただろうが! ボケがあっ!」
矢本ノボル「ひぃっ、ごめんなさいっ!」
一浦ラム「ふん・・・! くだらねぇ」
  その時、まるで一浦ラムの影の中から湧き出したかのように、いつの間にか、隣に男が立っていた
シルエット「実に美しい、憎悪の感情です・・・。 ここ数日、観察させていただいていました。 和見タマという女性に、嫉妬していますね」
一浦ラム「なに?ストーカー? マジでキモいんだけど」
シルエット「もしあなたが望むなら、憎い相手を 自分の手を汚さずに排除できる力をお貸しできますよ・・・」
一浦ラム「あんた、やばい人? 変な薬でもやってるの?」
矢本ノボル「いた!こいつだよ! 先輩に頼まれた買い物の途中で、 自分からぶつかってきて怒鳴った女!」
極堂一直「お前が気弱すぎるから、 こういうガキがつけ上がるんだよ!」
一浦ラム「な、なんだよお前!」
極堂一直「何も悪くない俺の後輩に、イチャモンつけたらしいな?」
一浦ラム「わ、悪かったよ・・・」
極堂一直「いいから、こっち来いや!」
一浦ラム「いたい!腕引っ張るな!」
矢本ノボル「いい子だから、ちょっと静かにしようねぇ」
一浦ラム「うっ・・・!」

〇ビルの裏
  サンシャイン通り
  裏路地
  男達は、一浦ラムを強引に
  繁華街の路地裏へと連れ込んだ
矢本ノボル「騒ぐなよ〜。 大声出したら、怪我しちゃうよ?」
極堂一直「よく見ればけっこう可愛い顔してるじゃないか。金だけ取って許してやろうかと思ったが・・・」
極堂一直「こいつで動画を撮れば、裏で人気出そうだな」
矢本ノボル「どれどれ・・・。 お、こいつのバッグから名刺出てきましたよ」
極堂一直「コンセプトカフェ『もえもえ』? お前、コスプレ店員か」
一浦ラム「人の荷物、か、勝手に漁るな・・・」
矢本ノボル「へぇー。 接客とか、どうやるの?」
一浦ラム「もう離せよ・・・謝ってるだろ・・・」
極堂一直「さっさとやれや、ゴルゥア!」
一浦ラム「ひぃっ・・・」
一浦ラム「も・・・」
一浦ラム「・・・もえもえ、きゅん・・・」
矢本ノボル「なんだ?それ。 泣きながらだし、全然可愛くないや」
極堂一直「笑顔でやれや! 殺すぞゴルァ!」
一浦ラム「ご、ごめんなさい・・・ もう本当、許して・・・」
  その時、男達の背後から湧き出すかのように、先ほどの人影が現れた
シルエット「お困りのようですね・・・」
一浦ラム「た、助けてっ!」
シルエット「私はお助けしませんが、あなたに力をお貸しする事ならできますよ」
極堂一直「なんだお前! あっち行ってろや!」
極堂一直「え・・・う、動けねぇ!?」
シルエット「話の邪魔しないで下さいね、人間」
一浦ラム「力・・・って、なんの事なのよ・・・」
シルエット「・・・勾玉(まがたま)という宝飾品をご存知ですか?日本では、古くから使われているお守りです」
一浦ラム「知ってる・・・丸っこい、翡翠とかで作ってあるやつ」
シルエット「もともとは、日本を守護する4つの御魂を象徴しています。いわば、善の力を現したのが、勾玉です」
シルエット「そして、私がお貸しするのは、いわば破壊の力・・・『禍玉(まがたま)』と呼ばれるものです」
矢本ノボル「うおおーっ!」
  一浦ラムは赤い服の男に押し倒され、首を強く絞められた!
矢本ノボル「先輩に変な事しやがって! お前、もう許さないぞ!」
一浦ラム「うっ・・・! 息、できない・・・」
矢本ノボル「おまえ、このまま締め殺してやる」
一浦ラム「ぐぅっ・・・ぐっ・・・」
シルエット「どうです? 禍玉・・・その身に宿しますか?」
一浦ラム「・・・くだ、さい・・・。 その、力・・・くだざぃ・・・」
  人影がカードをかかげた。
  毒々しい大蜘蛛と、大口を開けたワニが
  女性に襲いかかる図柄だ
  カードは光を放ち、首を絞められ痙攣する一浦ラムの身体に、溶け込むように消え去った
シルエット「確かに承りました・・・。 あなたは只今より、禍玉 『魍魎姫(もうりょうき)』です」
一浦ラム「う・・・うぐぐっ・・・! うああああっ!」
魍魎姫「・・・」
魍魎姫「いつまで首を絞めてる?」
矢本ノボル「な、なんだ?? 骸骨?」
オイタミサン「ずっと、こうしていたい? ねぇ・・・アナタ!」
オイタミサン「あなた、ずっと痛いねぇっ! ゲラゲラゲラゲラッ!!」
矢本ノボル「う、うわっ! 痛いいたいいたいッ!」
矢本ノボル「痛いぃっ! うぎゃろぼぎゃッ!?」
シルエット「今のあなたは、私が集めた悪霊や怪異を自分の配下として操る事ができます・・・慣れてくれば、より高位の怪異も操れるでしょう」
シルエット「では・・・お憑かれ様です」
極堂一直「ひ、ひいっ!? やめろ、助けてくれッ! 命だけは、どうか・・・」
魍魎姫「・・・さっきまで殺してやると言ってた相手に、今度は命乞い? どーうしようか、な?」
魍魎姫「あ、じゃあ、もえもえきゅんしてみせてよ。萌えられたら許してあげる」
極堂一直「もっ! もえもえ、きゅん!」
魍魎姫「・・・」
魍魎姫「舐めてんのか? 死ね」
極堂一直「ひいっ!?」
影写鬼「撮らせてくださぁい・・・!」
影写鬼「お姿、盗らせてくださぁいっ!」
  写真に撮られた男の姿は、砂のように崩れ去り、消滅した
魍魎姫「この力・・・いいわ! 気に入っちゃった!」
一浦ラム「和見タマ・・・機会を見て排除してやる。 お前の命はもう、私が握ってるも同然だ!」
一浦ラム「あっはははははははッ!」

〇事務所
  数日後・・・
  コンセプトカフェ『もえもえ』
  控え室
  雑多に資料やチラシが置かれた控え室。
  仕事が終わったスタッフ達が、
  私服に着替えて談笑していた
三木谷ミク「今日もみんなおつかれー! 和見ちゃん、チェキ指名も多かったから大変だったね!」
和見タマ「なんて事ないさー! 人の子ら、帰りにアニメイト寄らないか?」
和見タマ「キュアキュアの設定資料集が出たのさー!」
一浦ラム「いきなり大声出さないで下さいます? びっくりしますから・・・」
三木谷ミク「ほんとキュアキュア好きだよねー! 私もキュア原始人とか推しなんだよ」
一浦ラム「・・・私は遠慮しておきます」
一浦ラム(こいつ単独行動しないかしら。 排除するなら、私に疑いが及ばないタイミングでやらないと)
真野ヨシキ「こらこら。 ちょっと前に近くで事件があったのだから、あまり寄り道せずに帰りなさい」
三木谷ミク「あ、店長!お疲れ様でーす!」
三木谷ミク「なにかあったんですか?」
真野ヨシキ「そうだよ。路地裏で男性が血まみれで倒れてたらしい。外傷が見つからなかったので、他殺なのかどうかは分からないみたいだけどね」
三木谷ミク「なんだろ・・・やばいドラッグとかかな」
一浦ラム「繁華街ですから、色んな事件がありますわよね・・・怖いですわ」
一浦ラム(・・・まあ、やったのは私だけどな。 あんなクソ男は死んで当然だ)
真野ヨシキ「ところで、今週の土日、時間取れるかな?」
真野ヨシキ「実は広島でフェスがあってね。 『ひろしまフードフェスティバル』 というお祭りなんだけど・・・」
真野ヨシキ「うちも出る事になってね。 もし来れるみたいなら、遠征に付き合って欲しいんだ。 もちろん特別手当も出るよ」
三木谷ミク「広島! 私、まだ行った事ないですー! 交通費も出るなら、ぜひお供したいです」
和見タマ「広島か〜・・・遠いのさ。 神社の手伝いもあるから、遠出はちょっと困るのさ〜」
真野ヨシキ「お子様向けに、キュアキュアのショーもあるよ。和見さん喜びそうだけどな〜」
和見タマ「・・・っ!」
和見タマ「絶対行くさー!」
一浦ラム(・・・フェスか。 人混みの中なら始末するチャンス多そうだな)
一浦ラム「私も行きますわ!」
真野ヨシキ「人気上位の3人が来てくれるなら、 最高に上質な萌えをお客さんに提供できるね!嬉しいなー!」
真野ヨシキ「じゃあ、当日はよろしくね!」

〇古いアパートの居間
  都内某所
  神社『逢魔神宮』
  社務所
和見タマ「神主よ・・・」
和見タマ「今度の土日、広島に行くさー! お前も来るのさ!」
本郷セイメイ「と、唐突ですね・・・。 広島・・・いや、ちょっと私は 遠慮しておきたいのですが」
和見タマ「コンカフェのお仕事で行くのさー。 あと、キュアキュアのショーもやるさ。 行きたいさー!」
本郷ノリカズ「おいおい・・・親父よ。 付き合ってやれ。神職だろう?」
本郷セイメイ「息子よ・・・父の立場にたってみろ」
本郷セイメイ「コスプレ店員の人達に混ざって、キュアキュアショーを見に行けというのかッ!?」
本郷ノリカズ「親父よ・・・今更言うのもなんだが」
本郷ノリカズ「キュア原始人の格好までしておいて! 今更立場もへったくれも無いだろう!」
本郷ノリカズ「ついでに恥と外聞もなッ!」

〇展示場
ヤマガミサマ「神主、決め台詞も言うさ〜!」
本郷セイメイ「・・・」
本郷セイメイ「・・・氷河期を溶かすホットな心」
本郷セイメイ「キュア原始人ッ!」

〇古いアパートの居間
本郷セイメイ「・・・息子よ。 神職とは、過酷なものだな」
本郷ノリカズ「しかし広島とは奇遇だな・・・。 私とトウウンくんも、フードフェスティバルの当日ルポで週末に行く事になっている」
和見タマ「私が行くのも、それさー! ノリカズと一緒に楽しむさー!」
本郷ノリカズ「ルポの仕事だ、と言ってるだろう。 というか、お前も仕事で行くとか言ってなかったか?」
和見タマ「神主〜・・・ノリカズは、お仕事忙しくて 構ってくれないらしいさ」
和見タマ「神主は・・・私と一緒に行くの・・・ そんなにイヤなのか・・・?」
本郷セイメイ「わ・・・分かりました。 お供致します・・・!」
和見タマ「やったさー! 神主は、やっぱり優しいさー!」

〇空港の待合室
  こうして、私達は広島へと旅立つ事になった
一浦ラム(ふふふ・・・和見タマ。 おまえが人混みにまぎれた時、 仕留めてやる。 何人か巻き添えで死んでも、知った事か!)
東雲アキホ「広島のグルメルポ、楽しみですね! 400近いブースが出るみたいですよ」
東雲アキホ「ぜんぶ回って、食い倒れますっ!」
本郷ノリカズ「食事の経費は1人5000円しか出てないぞ」
東雲アキホ「・・・『大学館』のケチめ」
和見タマ「神主、うちのブースにも来るさー。 もえもえきゅん、してやるさ」
本郷セイメイ「あ、ありがとうございます・・・」
一浦ラム「・・・」
一浦ラム「なんか取り巻きいっぱいいるーーッ!?」
  File.11 広島 前編
  完

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