第17章 散乱と凝固(脚本)
〇中庭
ゆき「よし、一旦休憩しましょうか!」
連日の練習は厳しさを増す一方、段々と「できてきている」という感覚が4人の中に生まれてきていた
それと同時に、もっとできるという感覚も芽吹き始めていた
さくら「ここのフォーメーション、ちょっと崩れてない?」
はるか「ここの手の角度も・・・」
ゆき「よし、今日は全部できるまでやるわよ!」
ゆづき「衣装の方はどう? 今日は任せっきりになっちゃってごめんね」
きり「大丈夫、大会前だから」
ここ最近、きりは部室や中庭にやって来ては、ちまちまと衣装を作り上げていた
〇アパレルショップ
ゆづき「最初は「これが衣装に?」ってかんじだったけれど・・・」
〇中庭
はるか「やっぱりきりはすごいよ! 天才だ!」
はるかが褒めると、きりは少し頬を赤らめて目線を衣装の方へ戻した
さくら「それにしてもきりたん、ダンスもすぐに吸収するし、本当に天才肌だよね」
はるか「一緒にステージ立ってくれたら百人力なのになあ」
〇大きな木のある校舎
もちろん数日前にチームに勧誘したのだが、のらりくらりとかわされてしまっていた
〇中庭
ゆき「さあさあ、それよりも大会は明日なんだから! 練習を再開するわよ」
はるか「うん、ここで躓くわけにはいかないよ」
さくら「りょうちゃんたちに笑顔になってもらいたいもんね!」
はるかはスピーカーの再生ボタンを押した
もう立ち止まってはいられなかった
〇綺麗なコンサートホール
──大会当日
はるか「ついに来ちゃった、本番・・・」
4人はもちろん緊張していたが、ルーキー大会ということもあり、周りの出場者も同じように緊張しているようだった
さくら「大丈夫、今回は前回と違ってルーキー大会だし、みんな不安に思ってるはずだよ」
ゆづき「そうよ、まずは勝ち負けよりも自分たちが楽しみましょう」
ゆづき「そうしたらきっとお客さんも審査員も、「楽しい」と思ってくれるはずだわ!」
はるか「そうだね、ゆづきの言うとおりだ」
4人で気合を入れなおしていると、きりが会場の扉の前で待っているのが見えた
はるか「きり!」
きり「これ・・・」
きりははるかに気が付くと、鞄の中から大きな包みを取り出して、4人に分けた
はるか「もしかして、衣装!?」
ゆき「えっ、きりたん、完成させてくれたの!?」
きり「うん、大会頑張ってほしいから」
そういうと、きりは少し頬を染めた
きり「着て見てほしいんだけど、どうかな?」
〇劇場の楽屋
ゆき「わぁっ、かわいい!」
出来上がった衣装はデザインスケッチのままの、素敵な衣装だった
濃いピンクの下地に金と紺色のアクセントが光っている
腕を通す時ですら、ワクワクとした気持ちが沸き上がってたまらなかった
はるか「うわぁん、きり、本当にありがとう!!」
きり「私も作ってて楽しかった」
きり「今度はお客さんに、この気持ちを届けてきて」
きりの真剣なまなざしを見て、はるかは決意で満たされた
衣装を仕立ててくれたきりのためにも、あやかのためにも、絶対に勝つしかない
はるか「よし、みんな! 気合いれていこう!!」
はるか「ハピパレーーーっ、」
〇空
「しゅっぱ~~~つ!!!」
4人の声が楽屋にこだまする
それと同時に、開演ブザーの音が聞こえた
負けることのできない大会が、始まろうとしていた──
〇大きな公園のステージ
──同時刻、某イベント会場にて
あやか「gladiolusのステージ、お楽しみいただけましたかしら?」
gladiolusはイベントのゲストとしてライブを披露していた
司会者「実力者の風格を感じさせるステージ、ありがとうございました!」
4人が降壇しても、歓声は鳴りやまない
たまたまステージを見た人も、足を止めて手を叩いていた
あやか「さ、帰りましょう スタジオで今日の反省点を復習するわよ」
まみこ「・・・」
あやかがまみこの荷物を取って促したが、まみこは眉間にしわを寄せたまま動こうとしない
あやか「まみこ!何してるの!」
あやかは凄んだが、まみこに声は届いていないようだった
りょう「まみたん、心配なんだよね? 今日の大会・・・」
あやか「大会?」
あやかがキッと目を向けると、りょうは委縮したように後ろに下がった
あやか「あのおちゃらけチームが出てるっていう大会?」
あやか「そんな大会心配して、なんになるっていうの? ねえ?かのちゃん?」
かの「う、うん・・・ あやちゃんの言うとおりだと・・・思う」
かのがおずおずと答える
控室テントの中にしばし沈黙が流れた
まみこ「ねえあやか、私たち本当にこのままでいいのかな・・・」
あやか「なあに、私のやりかたが気に食わないなら、チームを辞めたっていいのよ」
〇公園の入り口
まみこ「あやかはあの時の気持ち、もう忘れちゃったの・・・?」
〇大きな公園のステージ
あやか「忘れてなんかない! だから、こうやって──」
まみこ「そういうことじゃない!」
まみこが大きな声を出したので、あやかは思わずびくりとした
まみこ「私は忘れたくない 私はあの日を風化させたくない」
まみこ「だから思い出しに行く あの日の思いが本物だから、勉強してくる」
まみこ「・・・今日はレッスン、パスする」
まみこはそれだけ言い残すと、荷物をつかんでテントから出ていってしまった
りょう「あやちゃん、ごめんね・・・ 私も・・・」
まみこが出ていったのを見て、りょうも走って出て行ってしまった
あやか「ちょっと、りょうちゃん・・・!」
かの「あやちゃん・・・」
長い沈黙が流れた
あやかは目線の1つも動かさず、その場で立ち尽くしている
あやか「私の何が間違っているっていうの・・・」
外の声援とは裏腹に、4人の中にはどんよりとした空気が流れ始めていた