3 そこに手が届くなら(脚本)
〇教室
翌日。
熊谷和真「おい如月、金貸せよ・・・」
如月智也「熊谷・・・俺にはお前に貸す金はねぇよ・・・今まで返してくれた事無かったろ?」
熊谷和真「あのなぁ、俺は腹減ってるんだよ!だからお前に金借りた方が色々と便利だから頼んでるんだろうが!!」
如月智也「いや知らないし、何かずっと同じ事してるのが馬鹿馬鹿しくなって来たよ・・・」
熊谷和真「・・・!?良い度胸だな・・・表出やがれ!!」
江崎拓郎「お前達、一体何の騒ぎだ?」
如月智也「あ、江崎先生・・・俺、また熊谷から借りパクされそうで・・・」
熊谷和真「ち、違うんです!俺は後で返すつもりで!!」
江崎拓郎「熊谷・・・借りパクだって度が過ぎれば立派な犯罪だぞ・・・刑務所に行きたいと言うなら、私が今から手配するぞ?」
熊谷和真「い、いや!そんなつもりじゃ・・・」
江崎拓郎「そう思うなら、今直ぐ如月に借りた物を全て返すんだ・・・良いな?」
熊谷和真「くそ!覚えてろよ如月!」
如月智也「江崎先生?何か様子が変だったな・・・」
〇散らかった職員室
江崎拓郎「やっと終わった・・・これの次は・・・」
高崎浩一「江崎先生、少し休憩挟みませんか?」
江崎拓郎「あぁ、ありがとうございます、高崎先生・・・」
高崎浩一「江崎先生、朝っぱらから元気無い見たいですが、何かあったんですか?」
江崎拓郎「げ、元気が無い?そんなまさか!私はいつも通りですよ!」
高崎浩一「そうですか?江崎先生って、最近この辺りに越して来たばかりなんでしょ?不慣れな環境だから疲れが出てるんじゃ無いですかね?」
江崎拓郎「そんな事ありません・・・本当に何も無いですから・・・」
高崎浩一「そうですか・・・まぁ、何か困った事があれば、相談乗りますよ?コーヒーは奢りですので・・・」
江崎拓郎「・・・言える訳が無い・・・息子の治療費に500万円払わないといけないなんて・・・」
如月智也「・・・・・・!?」
〇体育館の中
放課後。
江崎拓郎「・・・駄目だ・・・幾ら考えても良い案が思い付かない・・・引っ越しの費用に幾らか当てた後なんて、また取り返せば良いと」
江崎拓郎「思ってた・・・なのに、突然ミツルがそんな事になってて、しかも500万円が必要だなんて・・・」
江崎拓郎「私はどこで間違えた?折角できた初めての子供が、こんな簡単に死んでしまうのを指を加えて見てるだけなのか!?」
江崎拓郎「私はこんな所で、何をしていると言うのだ・・・あの子が死ぬ位なら・・・」
如月智也「あ、江崎先生!やっと見つけた!」
江崎拓郎「如月?まだ帰って無かったのか?」
如月智也「はい!どうしても江崎先生と話したい事があって・・・お子さんの治療費、500万円必要なんですって?」
江崎拓郎「え?何故その事を!?」
如月智也「今日俺日直だったから、江崎先生が独り言言ってたの聞こえたんです・・・」
江崎拓郎「・・・そうか、聞かれてたのか・・・この際だ、ありのままを話すよ・・・」
私の独り言がどうやら聞かれてた様なので、私は息子が余命半年と宣告された事、治療費が500万掛かる事を打ち明けた。
如月智也「よ、余命半年!?明らかに時間足りませんね!」
江崎拓郎「そうなんだ・・・教師になるのは私の夢だったが、こんな事なら医者や政治家になった方が良かったと内心思ってる・・・」
江崎拓郎「家族がいるから下手に家を売る事もできない・・・私には・・・」
如月智也「・・・先生、これ足りないけど使って下さい・・・」
江崎拓郎「え?如月?一体何の真似だ?」
如月智也「何って、治療費が無くて困ってるんですよね?そう言う事なら俺、これからバイト始めます・・・稼いだお金は」
如月智也「全部先生に渡しますから・・・」
江崎拓郎「な、何を馬鹿な!500万だぞ!一介の高校生の手に負える様な事じゃ!」
如月智也「確かに・・・俺熊谷から借りパクされるし、ハッキリ言って無力で弱い人間だって思ってます・・・」
如月智也「ですが、何もできないからと言って何もしなかったら、後で絶対後悔する・・・だから俺、稼いで全部先生に渡しに行きます・・・」
江崎拓郎「・・・!?如月、自分に取って大事なのは自分の人生だ・・・それでもやると言うのか?」
如月智也「やります、もう決めましたから・・・」
江崎拓郎「・・・!如月、君は大馬鹿者だ・・・!!」
信じられない事だった。私の息子の治療費に500万円掛かると言う話を聞かれ、如月は自ら私に千円を引き渡してくれた。
だけど、タカが一人の学生にできる事など、私が想像できない訳も無かった。半年で500万円を学生が稼ぐ。
それは火を見るよりも明らかな事だからだ。