第15章 打開策が羅針盤(脚本)
〇学校の部室
「新曲!?!?」
3人が同時に立ち上がったので、机の上のペンがころころと落ちていった。
はるか「いーじゃん、本格的って感じ!」
ゆき「それから、私たちに合った衣装もね!」
ゆづき「ちょっとまって、曲や衣装を作るっていったって、どうやったらいいの?」
もちろんだが、この中に作曲経験のある人はいない。
裁縫だってみんな素人だ。
ゆき「それはそうなんだけど・・・でも」
ゆき「やっぱり借り物の曲や"ありあわせ"の衣装じゃ、私たちの魅力は伝わりきらない」
〇稽古場
ゆき「これはこの間の公開練習でかのさんが言ってた」
ゆき「採点基準のひとつ「コンセプト消化力」を聞いて思いついたのよ」
〇学校の部室
ゆづき「なるほど・・・ 確かに色々あったけど、勉強になる部分もあったわよね・・・」
さくら「コンセプトか~」
コンセプト、とはアイドルチームが打ち出す世界観やテーマ、雰囲気のことである。
〇宇宙空間
夜や星などの神秘的な雰囲気をコンセプトとするCRESCENTや──
〇炎
女性の強さや情熱をコンセプトとするgladiolusなど、アイドルによってコンセプトは様々である。
〇学校の部室
ゆき「コンセプトを考えるうえで、これを見てほしいの」
そう言ってゆきが見せたのは、路上ライブ動画について数件のコメントだった。
〇SNSの画面
さくら「「明るくて元気でいいね!」 「ポップな雰囲気で楽しく見れた」・・・」
ゆづき「なるほど、私たちは「ポップで元気な、明るいチーム」という印象ってことね・・・!」
ゆき「その通り!」
〇学校の部室
ゆき「私もコーチをしていて、ハピパレのみんなは「粗削りだけどどこか元気になれる」── そんな魅力があると感じていたの」
〇水玉
ゆき「だから「元気で明るくてポップ」なコンセプトが、私たちにはぴったりなんじゃないかしら」
〇学校の部室
はるか「そうしたら、ポップでかわいい衣装を準備しなくちゃだね!」
ゆづき「ポップな曲調の新曲も! 一番ハードルが高そうだけど・・・」
ゆづきは再びうーん、と唸った
ゆづき「自分たちの手で作るのもありかもしれないけれど・・・」
ゆづき「素人の作曲じゃあ、敵わないものがあると思うのよね・・・」
はるか「でもプロに依頼できるほど、お金もないよ・・・」
はるかとゆづきが考え込んでいると、さくらが突然立ち上がった
さくら「あっ、これ!」
どこかの時代劇のように突き出した携帯の画面には、なにやらキラキラとしたフライヤーが映し出されている
〇キラキラ
さくら「「輝き!ルーキーアイドルグランプリ」っていう大会の詳細なんだけど──」
さくら「優勝賞品が「プロ作曲家によるオリジナル曲作成」だって・・・!」
〇学校の部室
はるか「プロの作曲!?」
はるかが驚いた声をあげると、さくらが得意げに鼻を鳴らした
さくら「出場対象者は「結成半年未満、加えて大会等で入賞経験のないチーム」──」
さくら「それに課題曲一覧の中に、あたしたちがこの前の大会で歌った曲も入ってる!」
ゆづき「私たちにピッタリ・・・」
ゆづきが口をあんぐりと開けた
ここまで条件の良い大会に出場しない手はない
はるか「よし、ここで優勝しよう」
もちろん簡単ではないことはわかっていたが、ここで引くわけにはいかなかった
はるか「あやかさんを助ける、第一歩目にしよう!」
ゆき「さあ、そうと決まれば早速練習よ!」
ゆきは目をキリッとさせると、再びホワイトボードを叩いた
ゆき「奇しくも一度練習した曲が課題曲なのだから、今度こそ失敗のないように完璧に仕上げるわよ」
はるか「そうだね、今度こそ・・・!」
ゆきとはるかは目を合わせて勢いよく立ち上がると、扉をバンと開けて中庭のほうへ駆けていった
さくら「あの2人、制服のまま練習するつもりなのかぁ・・・」
〇大きな木のある校舎
──夜
はるか「いやあ、疲れたなあ・・・」
はるか「それにしたって、起こしてくれてもよかったのに・・・」
〇学校の部室
ゆき「もうこのままにしとこうよ」
はるかは練習後に爆睡しているところを、他の3人に放って置かれたのである
誰も起こしてくれなかったので、あたりはすっかり暗くなっていた
〇大きな木のある校舎
はるか「今日のゆき、いつもにも増して厳しかったからなぁ・・・ 筋肉痛にならないといいけど・・・って」
はるか「あれ?きり・・・?」
校門の方へ目をやると、きりが月明かりの下佇んでいるのが見えた
はるか「どうしたの? まだ夏休みなのに!」
はるかが聞くと、きりは「なんでもない」という風に手を振った
きり「それよりはるか、前よりキラキラしてるね」
はるか「そ、そうかな? 汗が光ってるだけだったりして・・・」
久しぶりにきりに見つめられて、はるかはどぎまぎとした
きり「最近のハピパレ、どう?」
はるか「楽しいよ! ゆきが正式に加入してくれたし・・・」
はるか「今は自分たちのオリジナル曲を作るために頑張ってるの!」
はるかはそう言うと、携帯で撮影したダンス練習の動画をきりに見せた。
〇中庭
ゆき「次は3回連続で通して、終わったらジョギングしながら歌の練習!」
「は~い・・・」
〇大きな木のある校舎
きり「ゆきちゃん、スパルタなんだね」
はるか「そうだね・・・」
次のシーンでゆきの怒号が飛ぶことを思い出したので、はるかは慌てて再生ボタンを止めた
きり「オリジナル曲、全部自分たちでやるの?」
はるか「うーん、曲はわからないけどとりあえず衣装は・・・」
はるか「・・・あっ」
ここまで言って気がついた
曲のことに気を取られて、衣装についての話は全く進んでいない
はるか「衣装のこと完全に忘れてた・・・」
きり「衣装も作るの?」
はるか「そうなんだけど、衣装なんて作ったことがないからわからないの・・・」
はるかはがっくりと肩を落とした
なにから始めればいいかすら、全く見当がつかない
はるか「誰かに教えてもらいたいくらいだよ・・・」
はるかがしばらくうなだれて居ると、きりが顔を覗き込んで言った
きり「わたしでよければ、お手伝いするよ」
はるかは思わず聞き返した
はるか「えっ、今、手伝ってくれるって言った・・・?」
きり「うん、裁縫得意なんだ 刺繍のしすぎで目が悪くなったくらい」
はるか「そうだったんだ・・・」
驚くのと同時に、ミステリアスな少女の人間的な一面を垣間見た気がして、なんだか不思議な気持ちになった
きり「わたしがみんなの衣装をデザインする」
きり「そのあと作るのは、一緒にやってくれる?」
はるか「もちろんだよ!」
はるかは頭を下げた
はるか「ありがと〜〜きり様さま〜っ・・・」
はるか「あれっ」
はるかが顔をあげると、きりは夜の闇に消えてしまっていた
はるか「行っちゃった・・・」