Sparking Carats!

西園寺マキア

第12章 矜持と実力(脚本)

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西園寺マキア

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〇中庭
「練習見学?」
  その日の夕方。
  ゆきが練習中に提案をしてきた。
ゆき「そう、gladiolusのね」

〇SNSの画面
ゆき「この間の大会の優勝チームとして、要望も多かった公開練習を今度開催するらしいわよ」

〇中庭
ゆき「まだまだ私たちは実力が足りてない・・・ それは事実よ」
ゆき「だから、実力チームとして名高いgladiolusの練習を見学するのは悪いことじゃないと思うの」
  ゆきはタブレットを指さした。
  ミニライブ披露の後、具体的な練習法などを解説・・・と記載してあるのが見えた。
さくら「りょうちゃんにも会えるし、あたしはさんせー!」
ゆづき「うん、私も勉強したい!」
はるか「・・・」
ゆき「はるか? もしかして公開練習、行きたくない?」
  はるかが言葉に詰まっているのを見て、ゆきが顔を覗き込んだ。
はるか「ううん、うちも大丈夫! 今週末はここのスタジオに集合だね!」
  はるかは慌てて言い切った。

〇オフィスの廊下
あやか「「楽しいから」なんてふざけた気持ちで始めた、なんて言わないでしょう? 大会に出てるんですものね?」

〇中庭
  はるかはあのリーダーの言葉を思い出した。
  それでも向き合うと決めたのは自分自身だ。
  それにみんながやる気になっているのに、それを潰すわけにはいかない。
  なんだか少しだけ、胸騒ぎがした。

〇稽古場
  ──土曜日
さくら「こんなにたくさん人がいるなんて!」
  会場は人であふれていた。
  gladiolusのファン、偉そうな大人たち、そして同じようにアイドルの高みを目指す者も・・・
ゆづき「練習だけでここまで人を集められるなんて、さすがね・・・」
さくら「あ、りょうちゃん!」
  さくらの目線の先を見ると、りょうがどことなく暗い顔で佇んでいるのが見えた。
さくら「あれっ、いつもより元気なさそうだなあ」
ゆき「きっと緊張しているのよ」
さくら「緊張? gladiolusが・・・?」
  さくらの話し声は、ギャラリーの拍手にかき消されてしまった。
あやか「皆さん、本日はお集まりいただき誠にありがとうございます」
  拍手に包まれて、満足げな顔をしたあやかがギャラリーの面前に現れた。
あやか「先日共演したチームの皆様にもお越しいただき、光栄ですわ」
  はるかとあやかの目がバチリと合った。
  はるかは気まずくなって、急いで目を逸らした。
さくら「今、私たちを見てなかった?」
ゆき「そんなわけないでしょう! 次はミニライブなんだから、しっかり勉強するのよ それに・・・」
  ゆきが小さな声で説教を始めると、スピーカーから曲のイントロが流れ出した。

〇炎
  やはりいつみても完ぺきな、非の打ちどころのない揃ったダンス・・・
  だが──
「・・・」
ゆづき「なんだか今日は、覇気がないように見えるような・・・」
さくら「うん、それこそ・・・」

〇黒背景
さくら「──あんまり「楽しそう」じゃないよね」

〇稽古場
  アウトロが流れ終わった。
あやか「ありがとうございました」
  一曲歌い踊り終わったのに、全員息のひとつも乱していなかった。
あやか「さて、それでは公開練習に移ろうと思いますが・・・」
あやか「どうせなら、アイドルのみなさんと一緒に練習するのはいかがでしょう?」
  あやかの一声で、会場にピリッとした空気が走った。
  本気でトップになりたいアイドルならば、誰だってgladiolusと一緒に練習したいはずだ
あやか「さて・・・ 本日はわがチームのメンバー、りょうの友人がお越しくださっているようですね?」
りょう「え、と・・・ そうですね・・・」
あやか「どうぞ、前へ出てきてくださるかしら? メンバーの皆様もご一緒に」
さくら「えっ、あたしたち!?」
  さくらが大声をあげたので、ギャラリーの目が一斉にこちらを向いた。
ゆき「でもいい機会でしょう?」
  ゆきはそう言うと、さくらの腕をつかんで高く挙げた。
ゆき「彼女がそうです。 是非ご一緒させてください!」
  ゆきがそう宣言すると、ギャラリーからぱらぱらと拍手が起こった。
あやか「あら、随分元気がよろしいようね」
  あやかの冷ややかな声がスタジオに響いた。
  誰だって「嫌味」とわかる言い方だ。
あやか「彼女たちは先日の大会でもご一緒し、素晴らしいステージを見せてくれました」
観客の女の子「え、あれってもしかして・・・ あの転んだチーム?」
  観客の一人がそう囁くと、ザワザワとした声が会場に広まった。
はるか「どうしよう・・・ 失敗したこと、みんな知ってるなんて・・・」
ゆづき「大きい大会だったもの・・・ 出場者だってここにいるはずだわ」
あやか「さあさあ、皆様 誰にだって失敗はあるものです」
  ざわざわとした会場の空気を断ち切るように、あやかが声をあげた。
あやか「ではみなさま、まずは基本からやっていきましょうか」
あやか「かの、説明して差し上げて」
  あやかがそう言うと、バインダーを持ったかのがそろそろと現れて、書類を順番に読み上げ始めた。
かの「えっと、まずは採点基準を知るところから始めましょう・・・」
ゆづき「ちょっとまって、採点基準ですか?」
かの「はい、採点基準に沿った練習カリキュラムを組んでいますので・・・」
ゆづき「な、なるほど・・・」
  ゆづきが口をつぐむと、再びかのはバインダーに目を落とした。

〇コンサート会場
かの「まずは歌・・・ 正確な音程はもちろんのこと、ビブラートなどのテクニックに加え、声量やリズム感も採点基準です」
かの「ダンスはアイソレ、手や足の角度やタイミングの揃い具合、表情やそもそものダンス難易度などが評価されます」

〇稽古場
かの「その他には衣装、全体のコンセプト消化力など色々な採点基準が存在しており、」
かの「私たちはその全てにおいて抜け目がないように、日々練習に励んでいます」
  かのがバインダーを読み上げ終わると、ギャラリーから拍手が起こった。
観客の女性「すごい、さすがね・・・」
観客の男性「ここまでやり遂げてしまうのが凄いよ・・・」
  ギャラリーはgladiolusをまるで神のように崇めているようだった。
  異常な雰囲気だ。
かの「大会で点数を取るには・・・」
さくら「ちょっと待ってよ!」
  かのが続きを言う前に、さくらが大声をあげた。
  さっきと同じように、ギャラリーが一斉にこちらを見た。
さくら「さっきから点数点数、って点数のことしか考えていないわけ!?」
  さくらが声を上げるたびに、ヒソヒソとした声が波紋のように広がる。
りょう「さくちゃん・・・」
さくら「アイドルをなんだと思ってるの? 学校の定期テストじゃないんだよ!?」
あやか「それが「実力」というものよ」
  かのとりょうの間に入って、あやかが声を荒げた。
  さっきの落ち着いた声色はどこかにいってしまったようだ。
さくら「──これが「実力」?」
さくら「──ちがう、gladiolusはただの点稼ぎチームだ」

〇空
さくら「──こんなの、アイドルでもなんでもない!」
  さくらの声が会場中にこだました。
  シーンとした空気の中で、雨の音だけがうるさく鳴り響いていた。

次のエピソード:第13章 まだ見えぬ声

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