エピソード3 「片耳」(脚本)
〇田舎の病院の病室
ぽた・・・
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「あ・・あれ・・・?」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「どうして、俺は・・・」
今・・・泣いているんだ・・・
リリナ「泣きたいのはこちら──」
リリナ「──と言うのはイジワルですよね」
リリナ「なんでこんなことを・・・」
リリナ「こんなの、玲司さんらしくありません・・・」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「”らしくない” ・・・ねえ──はは」
リリナ「そうですよ、玲司さんなら──」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「──リリナちゃんは、俺にいい印象があるかもしれないけど」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「実際の俺は・・・明るく装って・・・ 無害そうなフリをして、生き霊を騙して」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「霊に痛みを伴うのは知っていた・・・」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「──知っていながら・・・」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「何人も──何人も何人も何人も──」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「”殺してきた”」
リリナ「────」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「リリナちゃんが俺らしいと言ってくれた 俺は・・・」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「──ただの”偽物”」
リリナ「・・・・」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「君との出会いも、笑顔も・・・何もかも」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「全て、殺すためだけの嘘──」
リリナ「そんな事ないです!」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「──!?」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「話を聞いていたのかい?」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「俺らしいと言ってくれた俺は──」
リリナ「正直、玲司さんが霊媒師で私が生き霊と、 まだ理解できていない所もありますが・・・」
リリナ「──私は、玲司さんが全て嘘ばかりだったとは思いません」
リリナ「確かに私との出会いや笑顔も、殺すための嘘かもしれません・・・」
リリナ「──ですが、玲司さんが”嘘”の話をしている時は、本当に楽しそうに話していました」
〇和室
リリナ
──りんごを切れなくて、コンテストで
優勝した話
〇ナイトクラブ
リリナ
─料理番組に出て、お母さんと喧嘩した話
〇田舎の病院の病室
リリナ「全て”嘘”で、本当になかった話・・・」
リリナ「でも、楽しく話していた・・・これは、疑いようもない事実です」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「ち、違う!あれは、リリナちゃんを油断させるためで・・・」
リリナ「油断させる方法は、たくさんあります」
リリナ「一緒に遊ぶだけでも油断を誘うことはできたと思います・・・」
リリナ「──ですが、嘘を付くのは油断させるのに最も適していないんです」
リリナ「だから、作り話なんてしない方がいいんです」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「ち・・・違う・・・」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「俺は・・・」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「・・・・」
リリナ「──好きでした・・・」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「──!?」
リリナ「話が上手い下手というより、玲司さんの話している姿が好きだったんです」
リリナ「誰かに楽しんで欲しい・・・」
リリナ「誰かに笑って欲しい・・・」
リリナ「──そんな玲司さんが好きでした」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「・・・・」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「─────」
────ススッ
リリナ「私は、玲司さんに救われていたんです」
リリナ「──孤独で辛かった日々を玲司さんが変えてくれたんです」
リリナ「だから・・・これ以上、玲司さんの苦しむ姿を見たくありません」
リリナ「私に出来ることがあるなら教えてください」
リリナ「玲司さんが、また笑って作り話をしてくれるならどんな事でも手伝います」
リリナ「だから・・・」
──と言って、リリナちゃんは俺に手を差し伸ばしてきた
──馬鹿だよ・・・リリナちゃんは・・・
俺は、もう手を”水”で濡らしている・・・
後は、手を握れば──
にぎれ・・・ば・・・
・・・・
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「────クソッ!!」
──ガシャーン
──タッ タッ タッタ
リリナ「・・・・」
〇書斎
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「クソッ!クソッ!俺は、どうすれば良かったんだ・・・」
リリナを殺さないと佐藤さんが死ぬ
時間だってもうない・・・
分かってる・・・分かってる・・・
分かってるんだよ!!
かと言って・・・
かと言って、殺せるわけないだろ!!
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「あぁ、クソッ──!!」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「どうすればいいんだ・・・」
──ボタッ
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「これ・・・リリナちゃんから貰った本だよな」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「面白いから読んで欲しいとか言ってたっけな・・・」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「・・・・」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「──読まして・・・貰うか・・・」
〇黒
あるところに 一匹のうさぎがいました。
うさぎは 地を飛ぶように
速く 速く 跳ぶことできました。
ですが うさぎは 空に憧れていました。
──空はどれくらい広いのだろう
──空を走れたら どれくらい気持ち良いのだろう
そんな妄想にふける事がありました。
しかし ある日 ウサギはワシに捕まってしまいました。
そして うさぎは 死を覚悟しました。
ですが うさぎは 空を飛びたいという思いを 諦めきれませんでした。
そして うさぎは ある提案をしました。
『ワシさん 私を 空に 運んで欲しい』
『最後に 空を跳んでみたいんだ』
──と うさぎは ワシに頼みました。
しかし・・・
『ダメだ ダメだ そう言って逃げるつもりだろ・・・』
『おまえは ここで 仕留める』
──と 断られてしまいました。
それでも 諦めきれなかったうさぎは 片方の耳をちぎって言いました。
『うさぎにとって 逃げるのに必要な耳をちぎりました』
『もう あなたから逃げる事はできません』
『だから・・・だから・・・』
──と 耳から血を滴らせながら 必死にお願いしました。
そして ワシは 何も言わずに うさぎの
ちぎった耳を咥えて
うさぎを掴んで 羽ばたきました。
うさぎは 初めて 上から空を見ました。
自分が跳んだ森 水がおいしい川
自分が跳んできた・・・ 今まで見えて
いた景色が・・・
とても とても ──”きれい” でした。
うさぎは おもわず泣いてしまいました。
──突然 ワシは うさぎを離し
自分の巣に落としました。
そして 巣にいた我が子たちに
食べられてしまいました。
ワシは、自分のした行為に後悔ありません。
我が子たちのためには 仕方がない事だと割り切っていたからです。
しかし あのうさぎがちぎった耳だけは
手放すことができませんでした。
〇書斎
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「──何が・・・いい話だよ」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「てかこれ、絶対 童話じゃないだろ・・・」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「はは・・・」
でも──俺は、この話が好きだ
残酷だったワシを嫌いになれなかったし・・・
──なにより俺が求めている姿、そのものだったからだ
俺もこんな風になれたら・・・
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「・・・・」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「──覚悟を決めろって、事だろ」
「みんなの幸せのために──」
〇大きい病院の廊下
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「スー ハー」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「行くか・・・」
〇田舎の病院の病室
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「ちょっと・・・失礼させてもらうよ」
リリナ「・・・・・・」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「・・・・・」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「──────」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「喜べ!! ついに完成したんだよ」
リリナ「──!?」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「ジャジャジャ──ン!!」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「これ!これ!この赤い水は、ただの水ではございません!」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「なんと驚き、生き霊との繋がりを切ることが出来る薬!」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「何言ってるか、分からないかもしれないけど」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「つまり、これさえ飲めば俺もリリナも救われるって事・・・」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「いや〜、霊媒師の奴らがやっとできたって連絡きてさ・・・」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「朝一に取りに行っちまったよw」
リリナ「・・・・」
リリナ「そうなんですね、これで全て解決す──」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「──確かに、昨日殺そうとしたから、信頼できないと思うし──」
リリナ「──そんな事ないですよ」
リリナ「玲司さんのくれる物ならなんでも──」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「──こんな物を飲めって、言われても飲めんとは思うけ──」
リリナ「ちょっと待ってください、私はそんな──」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「──霊媒師の奴らが安全を保証してくれているから大丈夫、だから一気にググッ グイッと──」
リリナ「──あれっ?聞こえてない・・・」
リリナ「──玲司さん!玲司さん!」
──ガシャーン
リリナ「きゃっ!?花瓶が・・・」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「リリナちゃん!そこにいるんだね?」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「よかった・・・聞いてくれていたんだね」
リリナ「私は、ずっとここに居ま・・・」
リリナ「──ま、まさか!?」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「ごめんね、リリナちゃん──」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「──俺、リリナちゃんが見えないんだ」
熱い展開だ…