エピソード4「片理」(脚本)
〇田舎の病院の病室
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「ごめんね、リリナちゃん──」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「──俺、リリナちゃんが見えないんだ」
リリナ「──!!」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「この際だ、包みかくさず全て話すよ」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「原因は、・・・コイツ」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「この薬は、霊を人に近い存在にする薬」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「この薬を摂取した生き霊は、人間でも霊でもない存在になれる」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「結果、霊としての繋がりではなくなり、本体である佐藤さんの繋がりを切れるという事だ」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「はっきり言って、この繋がりって奴さえ切れちまえば、生き霊を殺す理由がないんだ」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「でも・・・この薬を作るには条件があった」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「それが、俺自身の霊を見る力を捨てる こと・・・」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「俺にとって、これはどうしても譲りたくない物だった・・・」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「力を捨ててしまえば、仮に誰か霊で困っていても救えなくなる」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「──というより・・・救えた”かも”しれない、可能性まで捨ててしまう」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「それが怖くて・・・躊躇していた」
リリナ「・・・・」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「だけど、これを読んで少し考え方が変わったんだ」
リリナ「あ、童話・・・」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「自分で言うのもなんけど・・・」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「ワシにも我が子たちに生きて欲しいって願いがあって、うさぎに手をかける姿が──」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「なんか、俺に似ている気がしたんだ」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「だけど、ワシはそのうさぎの耳だけ、子供 たちには、最後まであげなかったんだ」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「ワシは、うさぎを自分で手にかけたにも関わ らず・・・」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「できる事なら、うさぎにも生きて欲しいとも考えたんだと思う」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「だから、捨てられずに持ち続けただといいなって、考えている」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「でも、俺が本当に心が動かされたのは、 ”うさぎ”の方なんだ!」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「たった一つの願い・・・」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「その為だけに体すらも犠牲にできる、覚悟が羨ましくて──」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「──憧れた」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「──確かに、無鉄砲な行為だし」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「周りから褒められるような行為ではないかもしれない・・・」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「でも・・・それは、うさぎ自身も分かっていた事だと思うんだ」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「それでもなお、自分の願いの為に最後まで戦い抜いた──”英雄”なんだと思っている」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「だから、俺も願いのため──」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「『リリナも一緒に生きていける』ようにしたいと考えたんだ」
リリナ「────」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「まあでも、見えなくなっても、リリナちゃんが暇しないように見舞いに来るよ」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「しかも、今度は君を騙している、後ろめたさを感じずに話せるんだ」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「俺、これでも結構わくわくしてるんだぜ」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「俺が見えていなくても、リリナちゃんが話を聞いてるくれるんだ」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「それこそ、俺が辛くなった時や悩み事を相談したいし、」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「作り話を聞かせたいとも思ってるんだ」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「リリナちゃんから貰った、童話よりも面白いと感じられように──」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「それだけで、差し出すに余りある、価値が あったと思えるんだ」
リリナ「・・・・・」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「・・・ノート?」
ごめんなさい
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「はあ?・・・どういう事だ・・・?」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「あれか、昨日リリナちゃんが抵抗して、俺がもろに爆撃を喰らった事か・・・」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「あれぐらいなら全然大丈──」
ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさい
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「違う・・・なんだ・・・」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「何をそんなに謝って・・・」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「この薬さえ飲んでくれれば、別に・・・」
もう、必要ないんです
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「必要・・・なくなった?・・・」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「──!! おい、まさか──!?」
──ドッ! ガラッ──
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「なくなってる・・・”全部”」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「食べたのか・・・これを!!」
リリナ「・・・・・」
リリナ「────ニコッ」
プシュッッッ────!!!
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「──なんで・・・」
なんでじゃねえ・・・
分かっているだろ──
──”間に合わなかったんだ”
〇田舎の病院の病室
昨日、俺が勝ちを確信して、リリナに霊媒師の情報を流しすぎてしまった
そのせいで、リリナを追い詰めたんだ
君が死んで、救われる人がいる・・・
俺は、小さな女の子には、あまりにも大きすぎる重圧をかけたんだ
〇田舎の病院の病室
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「ごめん・・・俺が」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「もっと早く、救う決断ができていれば・・・」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「そ、そうだ・・・まだ、間に合うかもしれない──」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「これを・・・早く──」
リリナ「────」
──ポン ごきゅ・・・ごきゅ・・・
リリナ「・・・・」
プシュッッッ────!!
リリナ「やっぱり・・・だめですね・・・」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「なあ・・・おい、上手くいったのか・・・」
リリナ「・・・・」
リリナ「────」
──ぎゅっ
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「──えっ!」
リリナ「玲司さん・・・本当にありがとうございます」
プシュッッ──
プスッ ・・・プスッ・・・
〇田舎の病院の病室
──チュン チュン
リリナ「あれっ?・・・ここは、病室なんで・・・?」
???「────」
リリナ「なんで!私が・・・」
???
──脚の具合は、大丈夫!!
リリナ「この声? 隣の病室から──」
隣の病室 女性の声
あんた、サッカーで大怪我したって心配したのよ!
隣の病室 男の子の声
すまん、母ちゃんにいい所、見せてやりたかったんだ
隣の病室 女性の声
・・・アイス買ってきてあげたから、一緒に食べましょ
隣の病室 男の子の声
マジ!?やった──♪
リリナ「この会話・・・何処かで・・・」
リリナ「──ま、まさか!」
???「はあ・・・」
〇田舎の病院の病室
「リリナ&??? 『どうして、誰も来てくれないんだろう』」
リリナ「──間違いない、ここは、昔の病室・・・」
リリナ「じゃあ・・・あれは昔の私──」
隣の病室 女性の声
リハビリ・・・頑張りなさいよ
隣の病室 男の子の声
分かってるって、心配性だな─母ちゃんは
昔のリリナ「・・・・」
〇田舎の病院の病室
隣の病室 女の子の声
はい、千羽鶴 クラスのみんなで作ったの!
隣の病室 泣いている女の子な声
────!ありがとう・・・
隣の病室 女の子の声
早く治して、またみんなで、遊ぼ!!
隣の病室 泣いている女の子の声
・・・・うん
昔のリリナ「────」
〇田舎の病院の病室
隣の病室 男性の声
──お父さん、お体の方は大丈夫ですか?
隣の病室 おじいさんの声
──また、貴様か!! 後、お父さんと呼んでいいと認めた覚えはないぞ!!
昔のリリナ「────!!」
リリナ「・・・・」
〇田舎の病院の病室
リリナ「そして、私は何年も・・・何年も、ここで 過ごしてきた・・・」
リリナ「私の病室には──変化がなかった」
リリナ「何百回読んだかも分からない本・・・」
リリナ「見飽きてしまっていた窓からの景色・・・」
リリナ「──隣の話声に比べると見ているだけで つらい物に変わってしまった」
リリナ「私の所には──”誰も来ない”」
リリナ「その現実を認識するたびに・・・」
リリナ「──私が本当に”人”なのかすらも分からなくなってしまっていた」
〇田舎の病院の病室
──ドン ドン ドン!!
昔のリリナ「誰か!!誰か──、私の所に来て!!」
昔のリリナ「私とお話しをして──!!」
昔のリリナ「私がなんなのか、分からないの・・・」
昔のリリナ「怖いの・・・」
昔のリリナ「誰か・・・誰でもいいから・・・」
隣の病室 男性の声
おい、なんか向こうから壁を叩くような音がしないか?
隣の病室 女性の声
前にも、同じような事が起こったって・・・
隣の病室 男性の声
おい、マジかよ!これ、心霊現象とかじゃないよな!?
隣の病室 女性の声
そういえば、ここだけ妙に安かったよね
隣の病室 男性の声
──となりの病室に霊がいるってのか!!
隣の病室 男性の声
冗談じゃねえ!!今すぐ、部屋を変えさせてもらう
昔のリリナ「────」
昔のリリナ「誰か・・・誰か・・・」
昔のリリナ「────”私を見て”」
リリナ「────」
リリナ「──私は、願いました」
リリナ「もし、叶うのであれば・・・」
リリナ「あそこのドアをノックして、見舞いに来てくれる事を・・・」
リリナ「ですが、私は”生き霊”」
リリナ「──家族や友人なんて存在しませんし、誰からも認識すらされません」
リリナ「ですので、人が来るなんて万が一にもないと思っていました・・・」
「でも・・・」
〇田舎の病院の病室
──コン コン
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「── 失礼しまーす」
沁みる話ですね!!
普通の話と違って霊を退治するより、癒している感じで切ないです。
うさぎとワシの話がオリジナルなら凄いですね。いい童話です😂
皆、生き辛さを感じているせいか、沁みている人は多いのでしょうね。今の人に訴える何かがあるんだなあ、と感じ入りました!!