本郷ノリカズの奇妙な旅

こりどらす

File.8 渋谷(脚本)

本郷ノリカズの奇妙な旅

こりどらす

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〇警察署の入口
  東京都渋谷区
  渋谷警察署
本郷ノリカズ「む・・・? キミか」
本郷ノリカズ「おいおいおい・・・聞こえたぞ? 今ッ! 器物損壊で捕まったのか、と言っただろう!」
本郷ノリカズ「実に失礼だなッ! 私はどこから見ても! 知的なルポライターだろうッ!」
本郷ノリカズ「・・・で、奇妙な話を聞きたいわけか。 いいだろう。 ちょうど人を待っているところだしな」
本郷ノリカズ「これは、実家の神社を手伝っていた時の話なのだが・・・」

〇祈祷場
  都内某所
  神社『逢魔神宮』
  拝殿
  休日の昼頃。
  私が実家の手伝いをすべく拝殿に行くと、
  ヤマガミが上機嫌で掃除をしていた
  決して掃除が行き届いているとは言い難かった逢魔神宮が、間違えるほど綺麗に磨き込まれていた
ヤマガミサマ「拭き掃除終わり! ピカピカになったさー!」
本郷セイメイ「和魂咲耶主(ニギミタマサクヤヌシ)様。 掃除なら我々がやりますので・・・」
ヤマガミサマ「世話になっているお返しさー。 お前こそ、休んでいるといいさ。 もう若くないのだからな」
本郷セイメイ(齢300年以上の存在に、若くないと言われるとは・・・)
本郷ノリカズ「ずいぶん綺麗になったじゃあないか、 ヤマガミ! その調子で次は境内の掃除だ!」
ヤマガミサマ「お前は少しは手伝えなのさ! シャーッ!!」
本郷セイメイ「息子よ・・・。 神を素直に信じてくれるのは嬉しいが! 少しは畏敬の心を持てッ!」
本郷ノリカズ「親父・・・。 言葉を返すようだがッ!」
本郷ノリカズ「この神を敬うポイントが分からんッ!」
ヤマガミサマ「・・・」
ヤマガミサマ「いや、色々ある・・・であろう? ほら、神・・・だし」
  和魂咲耶主:
  桜の花を象徴する山神。
  子供大好き。
  とある女性を数年越しで追い回していた。
  コンセプトカフェで働いている
本郷ノリカズ「・・・親父。 こいつの敬いどころを教えろ」
本郷セイメイ「・・・町会に出てくる」
ヤマガミサマ「神主ぃっ!?」
  逃げるように親父が出かける。
  それと入れ違うように、チャイムが鳴った
ヤマガミサマ「誰さー? 今行くさ」
本郷ノリカズ「待てヤマガミ! まさか、その格好で出ようとしているのではあるまいな!?」
ヤマガミサマ「まずいのか?」
本郷ノリカズ「おいおいおい・・・。 少しばかり常識が無いんじゃあないか?」
本郷ノリカズ「キツネの耳と尻尾を生やした巫女もどきが いったいどこの神社に存在するのだッ!」
本郷ノリカズ「コアなファン層を狙った! コスプレ神社に思われるだろうがッ!」
ヤマガミサマ「・・・そこまで言うなら、良いさー。 神の御技、見るがいいさ!」
ヤマガミサマ「神舞・・・『桜花烈動』!」
本郷ノリカズ「そんなトラウマ与えそうなマスコットキャラも、神社には要らんッ!」
?「久しぶりの化身で、ちょっと失敗しただけさー。もう一度いくさ!」
ヤマガミサマ「・・・」
ヤマガミサマ「これならどうさー!」
本郷ノリカズ「・・・女子高生が拝殿に上がり込んでるようにしか見えんが、まあいい。 来客をあまり待たせられんしな」
  私たちは、拝殿を出て、社務所へと向かった

〇古いアパートの居間
  都内某所
  神社『逢魔神宮』
  社務所
  社務所に来客を通す。
  目つきの鋭い年配の男だった。
伊達キョウヘイ「お忙しいところ、お時間を取らせて申し訳ありません。 渋谷警察署の刑事、伊達と申します」
本郷ノリカズ「・・・」
本郷ノリカズ「・・・ストーカー犯はこいつだ」
ヤマガミサマ「・・・」
ヤマガミサマ「暴行犯はこいつさー」
伊達キョウヘイ「・・・よく分かりませんが、本日はご相談があって来ました」
伊達キョウヘイ「実は、不可解な事件が発生していまして。 悩んでいましたところ、以前渋谷でストーカー被害を出されていた女性に・・・」

〇警察署の入口
西邨アヤネ「以前ご相談していたストーカー被害、無事に解決したので、お世話になっていた伊達さんに報告にきました!」
西邨アヤネ「・・・だいぶお疲れですね。 え? 不可解な事件で悩んでいる?」
西邨アヤネ「それなら『逢魔神宮』がお勧めです! ぜひ行ってみてください!」

〇古いアパートの居間
伊達キョウヘイ「・・・と勧められ、お伺いした次第です」
  ため息をついた男の顔には、
  疲労感が色濃く浮かんでいた
本郷ノリカズ「おいおいおい・・・。 うちを探偵事務所かなにかと 勘違いしているんじゃあないかッ!?」
伊達キョウヘイ「確かに、事件のことを神職の方に相談するのは、警察としても正気の沙汰ではないのですが・・・」
伊達キョウヘイ「普通の捜査でカタがつくなら! こんなところまで来ていませんッ!」
ヤマガミサマ「・・・ノリカズ。 この相談、受けるが良いさ」
ヤマガミサマ「この和魂咲耶主・・・ ただならぬ気配を感じるさ」
ヤマガミサマ「刑事もののドラマみたいなのさー! かっこいいさ!」
伊達キョウヘイ「え? にぎみたま・・・?? 失礼、お名前が聞き取れませんでした」
本郷ノリカズ(・・・このアホ神ッ! そんな名前の人間がいるものか)
本郷ノリカズ「和見タマ、だ」
伊達キョウヘイ「そ、そうですか。 タマさんですね」
和見タマ(? なんか名前が違う気もするが・・・。 人の子の考える事は、たまに よく分からんさー)
和見タマ「とにかく、困っている人の子がいるなら 私が力になるさー!」
和見タマ「そして取調室でカツ丼も食べるのさー!」
伊達キョウヘイ「ご協力感謝します! さっそく行きましょう!」
  ヤマガミを1人で行かすわけにもいかず・・・私たちは渋谷警察署まで赴く事になった

〇大会議室
  渋谷警察署
  会議室
  清潔感はあるが、どことなく緊迫した雰囲気のある、警察署内の会議室。
  長机の前に並べられた椅子に、私たちは腰を下ろした
和見タマ「見ろノリカズ! 本当にカツ丼が出たさー!」
伊達キョウヘイ「私の奢りです。 どうぞ。 ここのカツ丼、うまいんですよ!」
伊達キョウヘイ「私も失礼して・・・」
伊達キョウヘイ「ふぅ・・・いつもながら不味い」
本郷ノリカズ「漢方茶か?」
伊達キョウヘイ「身体が資本ですからね・・・。 不健康な生活になりがちなので、 毎日飲んでいます。 けっこう効くんですよ!」
伊達キョウヘイ「もともと甘党なんですが・・・医者にとめられていましてね。やれやれな話です」
和見タマ「任せるさー! 美味しくなる魔法の言葉を使うさ」
「『もえもえきゅん』!」
伊達キョウヘイ「な・・・なんだっ?? 急に、濃厚な甘味が・・・!?」
本郷ノリカズ「・・・プラシーボ効果だろう。 で、話を聞こうじゃあないか」
伊達キョウヘイ「は・・・はい。 これは私が息子のように面倒をみていた、ある警官が関係している話なのですが・・・」

〇図書館
  渋谷区
  図書館
  その警察官は、読書が好きな、穏やかな青年でしてね・・・。
  非番の日にはよく図書館で本を読んでいたのを覚えています。
  推理小説がとても好きだった・・・
  やがて、同じく読書が好きな女性と仲良くなり、2人は何回もデートを重ねたそうです
  しかし、そのうち女性になかなか連絡がつかなくなり・・・

〇SHIBUYA SKY
  渋谷スカイ
  屋上テラス
関口ホノカ「タツヒト、久しぶり!」
井上タツヒト「急に、会おうって連絡きてビックリしたよ。 でも久しぶりに会えて嬉しいな」
関口ホノカ「うん、ちょっとね・・・。 色々あったから」
  久しぶりに会ったホノカさんは、病気でも患っていたかのように、顔色がとても悪かったそうです
井上タツヒト「とりあえず映画でも観よっか?」
関口ホノカ「今日はね、タツヒトの記憶に 永遠に残る為に来たの!」
井上タツヒト「ん?どういう意味?」
  ホノカさんは、展望テラスの柵を飛び越え、屋上の端に立った・・・。
  とても風の強い日だった
  彼女の身体は、強風に激しくあおられ、ふらふらと揺れていたそうです
井上タツヒト「危ない! こっちに戻るんだ!」
関口ホノカ「大丈夫だよ。 私もう、何も怖くない」
関口ホノカ「愛してるよ、タツヒト」
井上タツヒト「やめろぉっ!!」
井上タツヒト「あ・・・ああ・・・っ!!」

〇警察署の廊下
  数日後の、渋谷警察署
  廊下
  聞き込みによると、ホノカさんは長い事入院しており、余命いくばくも無かったのだそうです
井上タツヒト「手の施しようがなく、少し前に退院したそうです。そして、僕の前で飛び降りた・・・」
伊達キョウヘイ「井上、あまり気を落とすな。 彼女の死は、お前のせいじゃない」
井上タツヒト「伊達さん・・・彼女の最後の顔が、脳裏から離れないんです」
井上タツヒト「笑顔で、まるでコンビニに出かけるような足取りで彼女・・・ビルから落ちていった」
井上タツヒト「彼女の病気の事すら、 僕は知らなかったんだ・・・! うああああーッ!!」
  泣き叫んでいる井上の前では言えませんでしたが、私は、別の事がどうにも不気味に思えてならなかったんです
  刑事を長い間やってると、色んな現場に遭遇します。
  でもね、ホノカさんのケースは私から見ても異常だった
  笑顔で飛び降りた・・・という点は、それほど異常じゃないんです。
  覚悟を決めた人間には、たまにありますから
  彼女の自殺で異常だった点・・・それは、
  地面に叩きつけられた死に顔が、
  満面の笑みだったんですよ

〇大会議室
伊達キョウヘイ「・・・飛び降り自殺の場合、最後の表情は『飛び降りた恐怖』に歪んでいるか、」
伊達キョウヘイ「あるいは途中で失神してしまうか・・・。 いずれにしても、死に顔が笑顔というのはあり得ないんです」
和見タマ「カツ丼美味しかったさー」
本郷ノリカズ「おいタマ。 こっちのカツ丼にも、『もえもえきゅん』してみてくれ」
和見タマ「嫌さー! シャーッ!」
伊達キョウヘイ「・・・話きちんと聞いてくれてます?」
伊達キョウヘイ「まあ、そして数日が経過しまして・・・」

〇モヤイ像
  事件発生から1週間後
  
  渋谷区
  モヤイ像前
  警察の仕事は本当に過酷で・・・。
  精神的にも疲弊しきっていた井上ですが、
  仕事は休まずにやっていました
  その日も通報が多く、渋谷の雑踏の中、2人で忙殺されていました
伊達キョウヘイ「あまり無理はするなよ? 最近、死にそうな顔してたからな」
伊達キョウヘイ「彼女が夢に出てくる、とか言って ろくに寝られてなかっただろ?」
井上タツヒト「? 彼女って誰ですか?」
伊達キョウヘイ「おいおい・・・。 あんなに悩んでたじゃないか。 どうした?」
井上タツヒト「いやだな、伊達さん! 僕、なにも悩むような事ありませんよ」
  不自然でした。
  無理に元気を出そうとしている感じではないんです
  ともあれ、通報のあった現場に着くと、不良学生が喧嘩をしていました
村坂リョウヘイ「なんだぁ? サツは引っ込んでろ!」
矢作ケント「邪魔するとお前らもぶっ殺すぞオラァ!」
  繁華街では、こういう不良どうしの小競り合いがあるんです。特に珍しくもない類の通報でした
  が、その時は・・・違いました
井上タツヒト「君たち。 警察の仕事を増やしてもらっちゃ困るんだよ」
矢作ケント「な・・・なんだぁ??」
井上タツヒト「ずっと、こうしてみたかったんだ・・・。 機会をくれて、ありがとう」
村坂リョウヘイ「げぁっ!?」
伊達キョウヘイ「お、おいっ! 井上! 何してるっ!?」
井上タツヒト「いざこざって簡単に解決するんだなあ。 なんで僕、我慢してたんだろ?」
矢作ケント「ひゃ・・・ひゃあぁ・・・」
井上タツヒト「銃の本来の使い方だよね、これ。 なんて便利な道具なんだろう・・・」
矢作ケント「ぎゅぶッ・・・!」
  まるで悪夢を見ているようでした。
  人々が悲鳴をあげて逃げ惑う中、
  井上は若者2人を射殺し・・・
  制止する間もなく、自分のこめかみに、銃を押し付けたんです
井上タツヒト「伊達さん、僕、もう何も怖くないんです」
井上タツヒト「お疲れ様です!」
伊達キョウヘイ「ばかな・・・! なんでこんな・・・!?」

〇大会議室
伊達キョウヘイ「警察による発砲事件は、大きく報道され、井上の身辺事情は徹底的に捜索されました。 しかし、とくに不審な点はなかった・・・」
伊達キョウヘイ「ですが、このカードが自室から見つかったのです」
本郷ノリカズ「これは・・・中世の拷問器具、 『鉄の処女』の図案か?」
和見タマ「? 裏に何か走り書きしてあるさー」
和見タマ「『AM2-代々木公園-』黒いフード 咎からの解放を望む者、集え」
伊達キョウヘイ「事件との関連性を疑い、警察は深夜2時の代々木公園で、黒いフードの人物と接触を試みました」
伊達キョウヘイ「そして1人だけ、接触に成功したと思われる警官が出たのですが・・・」
伊達キョウヘイ「その警官は翌日、笑顔で自殺しました」
本郷ノリカズ「長々と話が続いているがッ! 要点がさっぱり分からん!」
和見タマ「ただならぬ話ではあるが・・・ 私たちに捜査してほしいという事かさー?」
伊達キョウヘイ「いえ。 警察が一般の方を巻き込む事はできません。 捜査は私が行います」
伊達キョウヘイ「ただ、明日もう一度 渋谷警察署に来てほしいのです」
本郷ノリカズ「おいおいおい・・・面倒な話じゃあないか」
伊達キョウヘイ「そう言わず・・・ぜひ 善意のご協力をお願いします」
  伊達は別れ際に、ヤマガミにメモを握らせた
  ヤマガミはそれを読み・・・
  翌日、再び私を連れて、渋谷警察署を訪れた

〇警察署のロビー
  翌日・・・
  渋谷警察署
  ロビー
本郷ノリカズ「・・・ずいぶん強引に引っ張ってきてくれるじゃあないか、ヤマガミ」
和見タマ「困っている人の子を見捨てるわけにはいかんさー。それに、あのメモ・・・」
本郷ノリカズ「まあいい。その代わり、ついてきてやったのだから、約束通り『もえもえきゅん』はしてもらうぞ」
  窓口で、伊達刑事に呼ばれた事を告げる。
  しばらくして、奥から伊達がやってきた
伊達キョウヘイ「ご足労ありがとうございます!」
本郷ノリカズ「昨日とは違って、ずいぶん明るい表情だな」
伊達キョウヘイ「はっはっは。 刑事は、気合いが命ですから!」
伊達キョウヘイ「じゅるじゅる・・・! ああ・・・甘い!」
和見タマ「・・・お前、甘いもの控えてるのではなかったさー?」
伊達キョウヘイ「そうでしたっけ? 私が? なんで?」
本郷ノリカズ「なんだとッ・・・!? おいおいおい、伊達。 健忘症か?」
和見タマ「・・・ノリカズ。 様子がおかしいさ」
本郷ノリカズ「事件の話はどうなった! 用もないのに呼び出した訳でもあるまいッ!」
伊達キョウヘイ「事件・・・? なんでしたっけ? もう、どうでもいいんですけどね」
伊達キョウヘイ「私は今、とても清々しい気分ですから」
  伊達は、満面の笑みを浮かべながら
  自分のこめかみに拳銃を押し付けた
伊達キョウヘイ「もう、なにも怖くないんです。 もっと早く、こうしておけば良かったな。 ははは・・・」
伊達キョウヘイ「あっははははは!」
本郷ノリカズ「なん・・・だとッ!?」
  悲鳴が飛び交い、混乱する署内。
  ヤマガミは、倒れた伊達に慌てて駆け寄った
和見タマ「大丈夫・・・気を失ってるだけさー」
警察官「君たち、ここから離れて下さい!」
  警官に追い払われ、私達は署内から出た

〇警察署の入口
警察官「本日は皆様、ご帰宅下さい!」
  警官達が、慌ただしい様子で
  署内にいた人達に帰宅を促している
  ヤマガミは、署から少し離れた位置で、伊達から受け取っていたメモを私に見せた
  もしもの事を考え、このメモを託します。何事も起こらなければ、どうぞ破棄して下さい
  私は今夜、代々木公園を徹底的に調べるつもりです。以前の捜査で容疑者と接触できた警官は、精神的に追い詰められていた男でした
  私もこの不可解な一連の事件で、深く悩んでいる1人です。接触できる可能性はある、と睨んでいます
  しかし、接触に成功すれば、私は、私でなくなる恐れがあります。
  拳銃は、最悪を想定して、殺傷力のない空砲にしておきます
  もし私までもが凶行に及ぶような事があれば、警察では対処不可能な超常的事件と判断し、恥を忍んで逢魔神宮の皆様にお願いします
  どうか、この異常な自殺の連鎖を止めてください。
  
  なら最初から同行させろ、と思われたかも知れませんが・・・
  一般の方を巻き込まないのが、私の信念なのです。なので、ギリギリのところまで自身で行動するワガママをどうかお許しください
和見タマ「・・・あの人の子、実に立派な男なのさ。 ここで力にならずして、何の為の神さー」
本郷ノリカズ「自殺の連鎖、か・・・。 ルポライターとしては、全く興味を惹かれないが・・・しかしッ!」
本郷ノリカズ「この本郷ノリカズに対してッ! 安っぽい催眠術を得意げに披露するヤツがいるのは、実に不愉快だッ!」

〇公園のベンチ
  午前1時50分
  渋谷区
  代々木公園
  昼間の雑踏が嘘のように静まり返った、深夜の代々木公園。
  薄暗い街灯の下、私達は集まっていた
南壽セイカ「・・・で、なんでこんな深夜に 私が呼び出された?」
北埜カズフサ「同じくです・・・」
本郷ノリカズ「知っている中で、お前達が一番ッ! 悩みが多そうな顔をしているからだッ!」
南壽セイカ「私の悩みの大半は、 貴様と東雲だあッ!」
  南壽セイカ:
  雑誌社『大学館』企業医務室担当医。
  社員のメンタルケアが仕事だが、
  自身のメンタルがやられている
北埜カズフサ「本郷先輩、こういう時は本当、 誰でも構わず呼びつけますよね・・・」
  北埜カズフサ:
  雑誌社『大学館』勤務。
  気が弱いが、機転の効く一面も。
  人間関係でメンタルをやられている
本郷ノリカズ「メンタルがやられている者しか接触できないという謎の人物がいてな・・・。 そいつと会う為に、お前達が適任なのだ!」
南壽セイカ「・・・なんだ? 私と同業のやつがいるのか? どんなケアをするのか興味はあるな」
本郷ノリカズ「ケアを受けると数日中に! 笑顔で自殺するッ!」
南壽セイカ「それはケアと言わんっ! というか怖いわっ! 警察に任せるべき案件だわっ!」
本郷ノリカズ「ところが、その警察も自殺未遂した」
南壽セイカ「貴様の周辺はどうなっておるのだっ!?」
北埜カズフサ「もしそれが本当なら、せめて未成年の方は外しましょうよ・・・いいんですか、こんな時間に連れ出しちゃって」
和見タマ「年齢の事なら心配いらないさー! こう見えて386歳さ!」
北埜カズフサ(・・・あ、この口調、ヤマガミサマか)
北埜カズフサ(ゴリラと神様が協力して、訳の分からないのを倒そうと・・・なるほどね・・・)
北埜カズフサ(・・・理解した。 ・・・帰るのは無理だこれ)
和見タマ「ドラマみたいに、アンパンと牛乳も用意したのさー!本格的さー!」
本郷ノリカズ「というわけで! キタボンとナースは代々木八幡宮側。 私と和見は明治神宮側を探す」
和見タマ「何かあったら、すまーとほんに連絡するさ」
南壽セイカ「・・・終わったら、なんか奢れよ」

〇森の中
  渋谷区
  代々木公園
  
  代々木八幡宮側
南壽セイカ「・・・北埜さん。夜の公園というのは不気味ですね」
北埜カズフサ「意外と怖がりなんですね。 そういうの平気な人かと思ってました」
南壽セイカ「・・・」
南壽セイカ「・・・何を言う。 全然平気だ」
南壽セイカ「というか、人が見たらカップルかと思われるだろう。もう少し離れろ」
北埜カズフサ(急に機嫌が悪くなり、敬語も消えた・・・!)
北埜カズフサ「あれ?なにか地面に撒かれてますね」
北埜カズフサ「このカード、鉄の処女の絵ですね。 トゲつきの檻の中に人を入れて、 扉を閉めるという・・・」
南壽セイカ「やめろ、想像しちゃうだろ! あんまり怖い事言うな!」
北埜カズフサ「あれ・・・? 誰かいる・・・」
  周囲の空気が急激に冷える。
  暗がりの中、いつの間に現れたのか、
  男が立ってこちらを見ていた
黒フードの男「あなた達・・・深い悩み事があるね。 もう大丈夫。 苦しみを取り除いてあげる」
南壽セイカ「ぎぃやああああっ!?」
北埜カズフサ「先輩が言っていた危険人物!」

〇大樹の下
  渋谷区
  代々木公園
  
  明治神宮側
和見タマ「・・・というわけで、その人の子はチェキを5枚も撮ってったのさー」
本郷ノリカズ「・・・世の中には物好きもいるものだな」
和見タマ「ノリカズ、鳴ってるさー」
本郷ノリカズ「何の用だッ!?」
北埜カズフサ「先輩っ! 出ました! 代々木八幡宮の近くです!」
北埜カズフサ「今すぐ来て、そして助けてぇっ!!」
本郷ノリカズ「やはりキタボン達のほうにヒットしたかッ!」
和見タマ「すぐに向かうさー!」

〇森の中
  駆けつけると、黒いフードを目深に被った男。
  
  そして、そいつの足元に倒れ悶えている2人の姿があった
南壽セイカ「あああ・・・仕事がどんどん増える・・・ ううっ・・・」
北埜カズフサ「ゴリラが・・・ ゴリラ達がぁっ・・・」
黒フードの男「・・・ふふふ。 これは深い悩みだ・・・」
黒フードの男「おや? あなた達は・・・?」
本郷ノリカズ「貴様ッ! 何をしているッ!」
黒フードの男「なにって・・・単純な事。 この人達の重荷になっている感情を抽出してやってるんだ」
黒フードの男「人間の心は、悩みやモラルといった、つまらない感情で満たされている。 それを取り除き、食べてやってるのさ」
黒フードの男「特に、誰にでもあって一番美味なのが、『死への恐怖』だね。 全部まとめて、頂いてるんだ」
黒フードの男「僕が感情を食べてやると、みんな幸せそうな顔になるんだよ! 人助けしてる僕って、なんて偉いんだろう!」
和見タマ「こいつの気配・・・人間ではないさ!」
和見タマ「神舞・・・『桜花解放』!!」
ヤマガミサマ「人の子らを護る為! 和魂咲耶主、参るっ!」
黒フードの男「高位の山神・・・!? なんでこんなところに・・・」
黒フードの男「だけど、古くさい神ごときに 僕は倒せないよっ! この国の信仰はもう弱い!」
ヤマガミサマ「ならば、その身に受けてみるさー! 神舞・・・『桜花烈風』!」
  淡い桃色の花弁と共に
  竜巻が巻き起こり
  黒いフードの男の身体を包み込む
  しかし男は不遜な笑みを浮かべ、
  勢いよく右手を突き出した!
  
  すると、倒れていたナースとキタボンが
  操り人形のように立ち上がり、男とヤマガミの間に割って入る。
  
  ヤマガミは慌てた顔で、神通力を止めた
黒フードの男「僕の名は『ミコンジキ』・・・。 人の心を喰う者だっ!」
黒フードの男「ゆけ! 心を喰われた、僕のオモチャ達!」
  命令に呼応するように、2人がヤマガミの身体にしがみつく
ヤマガミサマ「なっ・・・!? 人の子らを操っているさー!?」
ヤマガミサマ「お前たち、はなせ! 離れるさー!!」
黒フードの男「護るものがあるって、本当に弱いよね。 ・・・僕の勝ちだ!」
ヤマガミサマ「・・・ん・・・っ! くぅっ・・・はぁっ!」
黒フードの男「可愛い声出せるじゃない。 とても美味しそうだ・・・」
ヤマガミサマ「・・・ノリカズ、お前だけでも、 逃げるさ・・・!」
本郷ノリカズ「おいおいおい・・・ 全く、使えん神だなッ! だが! そういうところは嫌いではない!」
本郷ノリカズ「そして貴様・・・。 この本郷ノリカズの前で! みえみえの催眠パフォーマンスをするとは・・・」
本郷ノリカズ「掛◯大輔のマネかッ!!」
黒フードの男「・・・え・・・? いや、別にバラエティー番組とかではなくて・・・」
本郷ノリカズ「問答無用だッ!」
黒フードの男「おまえの心も喰ってやる! あっはははは!」
黒フードの男「ぐぇあっ!? な、なんで効かない!?」
本郷ノリカズ「この本郷ノリカズッ! 自分こそがルールッ! 恐れも後悔もないわぁッ!!」
黒フードの男(あ・・・わかった・・・! 効かない理由・・・! こいつ、超弩級の・・・っ!!)
本郷ノリカズ「どぉうらららららららぁッ! これがルポライターの心だぁッ!!」
黒フードの男「超弩級のバカべギャバギャウギャアッ!!」
  失神した男の口から、紫の煙のようなものがたちのぼり、キタボン達の身体へと入っていった
  程なく、彼らは目覚めたが、
  意識を失ってからの事は全く覚えていないようだった

〇警察署の入口
  東京都渋谷区
  渋谷警察署
本郷ノリカズ「・・・という話なわけだ。 どこが奇妙かは、言うまでもない」
本郷ノリカズ「なぜ! 伊達は私ではなくヤマガミに メモを渡したのだッ!」
本郷ノリカズ「そしてキタボンがうなされていた、 ゴリラ達とは一体、何なのだッ!? 類人猿と知り合いだとでもいうのかッ?」
本郷ノリカズ「というわけで、実にッ! 謎の多い体験だったのだ」
本郷ノリカズ「自殺の連鎖がどうなったか、だと? 日本にはもともと多い。 減ったのかどうか知った事か」
伊達キョウヘイ「お待たせして申し訳ありません! この度はご協力に感謝します」
伊達キョウヘイ「黒フードの男は、憑き物が落ちたような具合で、ほとんど無反応でしてね・・・しかし、しっかりと聴取を進めます!」
伊達キョウヘイ「ぐぅ〜っ・・・実にまずい! しかし、今話題の健康茶でしてな」
本郷ノリカズ「・・・ご苦労な事だ」
南壽セイカ「おい本郷。 焼肉を奢ると言うから皆で来てやったが、その人も来るのか?」
本郷ノリカズ「・・・というか、伊達刑事の奢りだ」
南壽セイカ「伊達さん、初めまして。 あの・・・けっこう人数いるのですが、本当に宜しいのですか?」
伊達キョウヘイ「あ・・・はい。 えーと・・・思ったより・・・多いですね。 安月給ですので、お手柔らかに・・・」
本郷ノリカズ「画面の向こうのキミも、なにか不安や後悔があるようなら、深く悩まず、仲間と食事してみるといい」
本郷ノリカズ「たらふく喰って、酒でも飲んで発散すれば、大抵の悩みは解決するだろう。 ・・・今! それはお前だけだ、と言ったか?」
本郷ノリカズ「まあいい。 これから美味いタダ飯を食べに行くのでね。 では、切らせてもらうよ」
  File.8
  渋谷
  完

次のエピソード:File.9 とある日常

コメント

  • 実に悲しい負の連鎖だった…。
    皆の悩みの大半は、大抵ゴリラ。

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