生存ルート 428

ゆにこ

読切(脚本)

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〇渋谷スクランブルスクエア
  いつもの大学帰り、
  俺は親友の學と渋谷駅へ足早に向かっていた。
國元 命「なあ、早く行こうぜ! もう開場時間だろ?」
有本 學「待てよ命。 それにしても感慨深いよな。 『SHIBUYA隊』が代々木体育館でライブだぜ?」
國元 命「本当だよな。俺たちが推し始めた頃なんてまだ地下アイドルだったもんな?」
有本 學「ああ、今でも信じられないよ。あの大きなステージで3人を拝めるなんてさ」
  そう、今日は代々木第一体育館でアイドル『はっぴぃえんじぇる♡SHIBUYA隊』のライブなのだ。
  この通称『SHIBUYA隊』は左のメンバーくるみ、中央のあかりに対し、右の神明天音が異彩を放っているところに特徴がある。
  彼女は、ひとり他のメンバーと異なるただならぬオーラをまとっていることから巷では『神の姫』なんて呼ばれているとか。
  そんなことを考えている間にも駅へ近づき、スクランブル交差点を渡る。
  と、次の瞬間
「きゃー!!!」
  多くの悲鳴が聞こえ、上の方に目をやると高架線から電車の車体がガードを突き抜け、地面目掛けて落下してきたのだ。
國元 命「うわあああ!」
  俺は無我夢中で車体から逃れようと走り人の波にぶつかり倒れこんだ。
國元 命「嘘だろ!? っ!學!?學!!」
  気がつくと學の姿は見当たらず、俺は必死に周りをかき分けながら探した。
國元 命「!?」
  多くの人が下敷きとなった中に何と學の姿があったのだ。
國元 命「學!!學!!」
  俺は慌てて學に駆け寄り必死に声をかけ続けたが、學は一言こう残して意識を失った。
有本 學「ライブ、さ・・・ 楽しんで・・・来いよ・・・」
  學を含めた大勢の人々はすぐに救急搬送され始め、俺は呆然と立ち尽くすことしかできなかった。
  周りが話す様子から探れば、脱線した高架線の電車がスクランブル交差点上に落下したらしい。
  回送電車2両目の連結部が外れ落下したため、車内から怪我人は出ていないとのことだが、落下した先で多くの人が下敷きとなった。
  なかなか冷静になれずにいたが、周りが慌ただしくなる中で俺はようやく救急隊員の人から聞いた學の病院へ向かう決意を固めた。

〇病院の入口
國元 命「っ・・・!?」
  病院へ向かった俺は、そこで學が亡くなったことを聞かされた。
國元 命「何でだよっ!何でなんだよ・・・!!」
「落ち着いて下さい!この後ご家族の方にもご連絡を取らないといけませんので・・・誠にお悔やみ申し上げます・・・」
  そう告げると医師はその場を後にし、俺は帰路を辿ることを余儀なくされた。
國元 命「なあ・・・嘘だろ?學・・・」
  俺は途方に暮れながらふらふらと歩き出し、渋谷駅へと向かった。
  スクランブル交差点に差し掛かったその時、ふらついていた俺は思い切り人にぶつかってしまった。
國元 命「っ・・・!すっすみませ・・・!?」

〇渋谷スクランブルスクエア
  謝る間もなく、俺は意識を失い、気がつくとなぜか事故が起こる前の交差点にいて、横には學が立っていた。
國元 命「學・・・!?」
  何が起こったか認識する間もなく、また車体が落下した。
國元 命「は!?どうなって・・・!?」
  しかし、声をかけた時にはもう學の意識はなくなっていた。
  この時点でさっきと違うんだ。
  さっきは落下した時点では息があったし話もできた。
  でも今回は即死だった。
國元 命(この現実の歪みは、俺が運命に抗っているということなのか? もしかして俺が時を巻き戻している?人にぶつかったことで?)
  頭が思い切り混乱する。
  理解が追いつく訳がなかった。
國元 命「くっ!」
  しかし、時が戻る、この可能性にかけるしかない。
  スクランブル交差点で人にぶつかるという方法に。
  そう思い込むしか今の俺に出来ることはなく、理性など捨て去り思い切り道ゆく人にぶつかった・・・

〇黒背景
國元 命「う・・・」
  いつの間にか時を戻しすぎ、もう何回繰り返したかわからなくなった。
  ふらふらになっていた俺は意図せず誰かにぶつかってしまった。
  その瞬間、光が放たれたような眩さを覚えた。
國元 命「神明天音・・・?」
  咄嗟に見えたぶつかりながら倒れゆく少女を横目に、遠のく意識の中、俺はそう呟いた。

〇渋谷スクランブルスクエア
  気付くとまた時間は戻され、やはり隣に學もいる。
  眩さ、異彩、神明天音ー神の姫ー。ヒントなのか、何かが変わる可能性があるのか。
  運命を変えるしかない、俺は振り絞る感覚で動き始めた。
  交差点を行き交う人を隈なく凝視するとそこには今まで見当たらなかった『SHIBUYA隊』の神明天音が確かに歩いていたのだ。
國元 命「あ!!」
  無我夢中で學の手を引き、天音を追いかけると周りも全国的アイドルの存在に気付き、こぞって後を追いかけた。
「神明天音だ!」
有本 學「おい命!どうしたんだよ!」
  學が叫んだ瞬間に信号は赤になり、歩き始める人の波は途絶えた。
  そしてスクランブル交差点上、信号待ちの人と天音を追い走り出した人の間にぽっかりと空間が出来た瞬間
  車体は地面に大きく打ち付けた
「!!」
  何ということだろうか。あんなに大きな車体が落下したというのに怪我人ひとりとさえいない。
  もちろん學も驚愕した顔で真横に立っている。皆無事なのだ。

〇コンサート会場
  その後、涙ながらに会場へ向かった俺たちはこの先きっと知る由もない。
  実は運命を変えた生存ルートが428(シブヤ)回目だったということをー

コメント

  • 428ってどういう意味だろうと思いながら読んでいました。あぁ!そういうことか!と納得しました(笑)學がアイドルのライブに行けるのか心配していましたが,行けて良かったです☆彡

  • 428回目に救われる運命的なルート、驚きです。
    でも、427回も學の死を見させられた命の心が壊れなくて良かったです。自分だったら最初の数回で精神がやられそうです。

  • 何度も何度も繰り返して…って428回も…。
    最終的には怪我人は出なかったとしても、本人は相当お疲れでしょう…。精一杯ライブで癒されてほしいものです!

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