試しに校正のお仕事をやってみたところ……

ましまる

むすびにかえて(脚本)

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〇テーブル席
ましまる(仮)「センセ、どれだけ食べるのですか・・・」
依田 大樹「イイだろ、食いたいんだから!」
ましまる(仮)「センセ、それよりも、」
ましまる(仮)「前回のラストで言っていた 「素性」や「目的」という話ですが、」
ましまる(仮)「ちょっと詳しく教えてもらえませんか?」
ましまる(仮)「私の認識では、解説動画の制作のため 分業・外注で繋がっていただけかと・・・」
依田 大樹「お前って本当にトロい頭をしているよな」
依田 大樹「じゃあ、まずは確認だが、」
依田 大樹「お前さん、その校正の仕事で どれだけの報酬を得ていたんだ?」
ましまる(仮)「具体的な金額は明言できませんが 5,000字超の台本1本あたり、」
ましまる(仮)「まぁ、チャリンチャリンというところです」
依田 大樹「へっ!?」
依田 大樹「お前さん、チャリンチャリンの報酬で、」
依田 大樹「『紫式部日記』やら『徒然草』やら 漢文なんかにも目を通していたのかよ!?」
ましまる(仮)「・・・はい」
ましまる(仮)「契約上、業務内容に 「ファクトチェック」が入っていたので」
ましまる(仮)「動画でウソが流されてしまった場合 私の責任にさせられるのも嫌でしたし」
依田 大樹「ホント、底抜けのバカだな・・・」
依田 大樹「ちなみに、その単価って歴史動画の話で 他ジャンルはもう少し高額なんだよな?」
ましまる(仮)「いえ、私が携わったジャンル、」
ましまる(仮)「時事・地理・宗教・日本文化・芸術など、」
ましまる(仮)「どれもチャリンチャリンでしたよ」
依田 大樹「マジかよ・・・」
依田 大樹「で、話を戻すが、」
依田 大樹「お前さんは、その仕事で チャリンチャリンとはいえ対価を得ていた」
依田 大樹「当然、ライター共や「管理者」とやらも 報酬を手にしていただろう」
依田 大樹「話には出てこなかったが 動画編集もどうせ金を払って外注だろう」
依田 大樹「それなら、金を払う側は その金額をどこから得ているんだ?」
依田 大樹「慈善事業でなければ 費用に見合う収入が無いと続けられないぞ」
ましまる(仮)「ええと・・・」
ましまる(仮)「制作された動画を あの大手サイトに投稿し続けて、」
ましまる(仮)「視聴者に気に入られて チャンネル登録者数と再生回数を伸ばし、」
ましまる(仮)「収益化チャンネルとなり 広告収入を得るって流れですかね」
依田 大樹「ずいぶんと長い道程だよな・・・」
ましまる(仮)「・・・はい」
依田 大樹「そんな長期的展望で動画制作を行うのなら」
依田 大樹「まず、人員確保を最優先に するもんじゃねーのか!?」
依田 大樹「専門的な知識を有するライターを 複数人確保するとか、」
依田 大樹「その専門性に応じた監修者を あらかじめ手配しておくとかさ」
依田 大樹「少なくとも、その専門的なチェックを 素人校正ごときに行わせねーだろ」
ましまる(仮)「・・・ですよね」
依田 大樹「チャンネル収益化を長期的に目指すのなら いま話した人員確保の準備をしたはずだが」
依田 大樹「お前さんが携わった動画制作は、」
依田 大樹「文章能力も専門知識も不十分なうえ 盗用という卑劣な行為を行うライター共」
依田 大樹「その卑劣な行為に対して 特に問題意識を持たない「管理者」とやら」
依田 大樹「そして、校正担当は 超が付くほどド素人のお前さん」
依田 大樹「見事なほど、最悪なメンバー揃いだよな」
ましまる(仮)「・・・はい」
依田 大樹「そんなメンバーでは、動画投稿しても 新規登録者を獲得することは無理だろうし」
依田 大樹「下手したら、動画は低評価の嵐で コメント欄も指摘の山になるだろうな」
依田 大樹「例えば、お前さんが前回に実例を挙げた 安土桃山時代やその直前の戦国時代なんて」
依田 大樹「知識マウント取りたがりの 厄介な手合いがわんさか存在するから 低評価や批判コメントで溢れかえるぞ」
ましまる(仮)「確かに・・・」
ましまる(仮)「じゃあ、私を含めた力不足の面々のせいで チャンネル収益化が見込めないのでしたら」
ましまる(仮)「お金を払う大元の依頼者は 収入をどのように見込んだのでしょうか?」
ましまる(仮)「節税の一環でしょうか? それとも、慈善事業とか・・・」
依田 大樹「そうだな、」
依田 大樹「ここからは完全に俺の想像になるが、」
依田 大樹「お前さんたちの依頼主は、 既に収益化されたチャンネルを 買収したんだろうな」
ましまる(仮)「・・・えっ!?」

〇テーブル席
ましまる(仮)「動画サイトのアカウントって 売買できるものなんですか?」
依田 大樹「ああ、規約上は問題ないようだ」
依田 大樹「売買専門のサイトを確認してみたら 数百万円規模で取り扱われているぞ」
依田 大樹「で、その大半は解説系チャンネルだ」
ましまる(仮)「チャンネル主が変わったら 視聴者に気付かれるんじゃないのですか?」
依田 大樹「案外、気付かれないモンみたいだぞ」
依田 大樹「タレントとかがわちゃわちゃ騒ぐような 動画内容ならともかく、」
依田 大樹「解説系動画は基本、フリー音声ソフトと その他フリー素材で構成されることが多く」
依田 大樹「さほど労せずに同様の動画が作れて、 成り代わるのも可能なようだ」
ましまる(仮)「それで、収益化チャンネルを買収した 場合だと何が違うのですか?」
依田 大樹「そりゃ、動画制作の目的自体が 変わってくるぞ」
依田 大樹「収益化前だと、 再生回数や登録者数を増やすための 良質な動画作りが主目的となるが」
依田 大樹「収益化済のチャンネルだと、 「収益化の維持」が最も重要となる」
ましまる(仮)「維持のためには何が必要なんですか?」
依田 大樹「そうだな、まず外せないこととしては 定期的な新規動画の投稿だな」
依田 大樹「一定期間投稿がないと 収益化が停止されるようだから」
ましまる(仮)「じゃあ、収益化停止の回避のためだから あんな台本でも良しとされた・・・?」
依田 大樹「それと、収益化チャンネルということは 登録者もそれなりに存在している」
依田 大樹「仮に低クオリティ動画だとしても 一定数の視聴者は惰性で見てくれるだろう」
依田 大樹「その際、最も重視されることは 買収前の動画と「似ている」ことだ」
依田 大樹「買収前の動画と趣きが異なっていては 惰性で視聴してくれないだろうからな」
依田 大樹「そのため、制作では構成やサムネ画像を 似せることにウェイトを置く一方で、」
依田 大樹「その解説内容の質なんて 二の次、三の次になってしまうって訳だ」
ましまる(仮)「・・・そんな」
依田 大樹「そして、すでに「固定客」は 確保しているのだから、」
依田 大樹「後は、新規動画をどれだけ安く作れるかに 意識が向くのは自然の流れ」
依田 大樹「専門的知識を有するプロライターや 専門の監修はお高くついてしまうから」
依田 大樹「素人連中と格安で契約して 台本を作らせるという方針になる」
依田 大樹「そこで、在宅ワーク系のサイトで 「初心者OK」「マニュアルあり」とでも 謳って募集をかけるンだよ」
依田 大樹「初心者なら、単価が安くても そこそこ応募する人間もいるだろうから」
ましまる(仮)「だったら、私が目にした台本は・・・」
依田 大樹「そう、執筆経験も乏しければ専門性もない 格安で契約した素人が書いたモノって訳だ」
依田 大樹「そして、専門的知識の不足は 他動画などの内容をパクらせれば解決」
依田 大樹「『紫式部日記』に目を通さずに 紫式部の解説動画台本が作られたのは そういった経緯からだろう」
ましまる(仮)「じゃあ・・・」
依田 大樹「お前さんは必死こいて ファクトチェックをしていたみたいだけど」
依田 大樹「チャンネルを保有する大元からすれば どーでもいいこと」
依田 大樹「大元の連中は、収益化を維持したまま 固定客に「似ている」動画を提供し続ける ことを重要視している」
依田 大樹「台本の専門性なんて、他動画やサイトを ”参照” すれば良いと考えられているんだ」
依田 大樹「お前さんが目にした ”著作権侵害” 行為は 流石にアウトかもしれないが、」
依田 大樹「スレスレのパクリ行為は、大元によって 指示されていることが容易に想像できる」
ましまる(仮)「それって、あまりにも不誠実では・・・」
依田 大樹「でも、法に触れる行為ではないし 動画サイトの規約に抵触してもいない」
依田 大樹「だから、ビジネスとして問題はないんだ」
ましまる(仮)「・・・・・・・・・」
依田 大樹「というような内実だけど・・・」
依田 大樹「理屈としては理解できるンだけど やっぱり気分悪い話だよな」
ましまる(仮)「・・・ですよね」
依田 大樹「それにしても、こんなケッタイな仕事に 関わる阿呆などそういないと思っていたら」
依田 大樹「まさか、お前さんが当事者になろうとはな」
依田 大樹「ホント、お前さんって 妙な案件に関わることが多いよなー」
ましまる(仮)「これでもショックなんですから 笑わないでください・・・」

〇チョコレート
ましまる(真)「今回の話について 誤解があってはならないため」
ましまる(真)「ちょっとだけ補足させてください」
ましまる(真)「私が好ましく思っていないことは 動画台本の制作プロセスの中に 他所の丸パクリが含まれていることであり」
ましまる(真)「決して、集団での分業・外注による 動画制作を否定するものではありません」
ましまる(真)「実際、「コレ組織で作っているなぁ」と 推察される動画チャンネルでも、」
ましまる(真)「高クオリティな動画を提供し続けている ところも多数存在しています」
ましまる(真)「要は、真っ当な内容であればヨシ!」
ましまる(真)「それだけのお話です」
ましまる(真)「私が携わった「真っ当でない」ケースは、 きっと一部の例外的なものなのでしょう」
ましまる(真)「ホント、素晴らしい巡り合わせですよ」
ましまる(真)「・・・どうぞ嘲笑ってください」

〇テーブル席
依田 大樹「どうだ、お前さんが携わった仕事の 全貌が見えてきたか?」
ましまる(仮)「・・・はい、ヘコむ結果になりましたが」
ましまる(仮)「ときに、ひとつ質問ですが、」
ましまる(仮)「あのお仕事の依頼元は校正の募集の際に、」
ましまる(仮)「どうして校正対象の台本を 「プロのライターが執筆した台本」と わざわざ誇張したのでしょうか?」
依田 大樹「さあ、何でだろな」
依田 大樹「依頼主が、その仕事のことを 「プロが関わる真っ当な仕事」と 見栄を張りたかっただけかもしれんし、」
依田 大樹「プロの文章に憧れる人を誘い出すための 騙し文句だったのかもしれないな」
依田 大樹「現にお前さんは まんまと釣られて応募している訳だし」
ましまる(仮)「・・・はい」
依田 大樹「ま、素人ライター連中でも 台本執筆の対価を受け取っているから 一応は「プロ」と強弁できるからな」
ましまる(仮)「そんなの、卑怯です」
依田 大樹「また、ずいぶんと怒っているな」
ましまる(仮)「そりゃそうですよ・・・」
ましまる(仮)「現在、私は物語創作ジャンルで多くの方の 作品に触れる機会に恵まれています」
ましまる(仮)「プロとして第一線でご活躍される先生方や」
ましまる(仮)「コンテスト受賞という 他者から高い評価を受けている方々や」
ましまる(仮)「これらに匹敵するような筆力を持ち これから高い評価を受けるであろう方々、」
ましまる(仮)「そういった人達の文章のクオリティに 圧倒され、敬慕の念を抱いています」
ましまる(仮)「プロの方や、コンテスト受賞者のレベルは とんでもないものなんだと・・・」
依田 大樹「そりゃ、お前さんと比べたらな・・・」
ましまる(仮)「茶化さないでくださいっ!」
ましまる(仮)「そういう思いから、素人さんの稚拙な文を 「プロの文章」と誇張するのは・・・」
依田 大樹「感情的に許せないって訳か」
ましまる(仮)「・・・はい」
依田 大樹「ま、コレもビジネスの世界では よくあることだ」
依田 大樹「納得がいかなくとも受け入れろや」
ましまる(仮)「・・・はい」

〇テーブル席
依田 大樹「さて、もう言い残したことは無いな?」
ましまる(仮)「はい、すべて吐き出せました」
ましまる(仮)「センセ、長時間のグチ話に お付き合いありがとうございました」
依田 大樹「イイってことよ」
依田 大樹「ほいだら、この後に用事があるから帰るわ」
依田 大樹「じゃあ、後はよろしく・・・」
ましまる(仮)「えっ!?」
ましまる(仮)「「後は」って・・・?」
ましまる(仮)「センセ、お会計はー!?」

〇黒
  このお話はフィクションです・・・たぶん
  実在の人物や団体などは一切関係
  
  ・・・・・ないはずです、たぶん

コメント

  • 貴重なお話、一気に堪能させて頂きました!
    本当に面白かったです⭐業界の闇、、動画って当たり前のように参考にしてしまっていたけど鵜呑みにしないように気を付けます

    あと最後涙が出ました。ましまるさんのライターさんや作品作りへの思いに敬意を込めて、精進します🙇‍♀️

    ましまるさんのエッセイは最高ですね〜
    また読みたい🥰

  • 面白かったです❣️昔話を一つ、
    私の住んでる県はその昔は求人が少ないので有名な場所でした。東京の求人雑誌が地元ではページ扱いだったり、蕎麦屋のアルバイトに少なくともダンボール3箱位は来て、朝から電話が鳴り響き、人事担当の女の方が「キャー」と悲鳴をあげてたり‥こんな田舎の県でも今はYouTuberのお手伝いのアルバイトの求人とかあるんですかね見てみたい🩷結婚してバイトの必要も無くなりましたが‥

  • 動画投稿儲かるのかな…って考えてたので参考になりました。東◯キャラを使ってる解説動画は言われてみれば区別がつかないです。ちょっと内容変わっても分かんないですね😂
    初心者歓迎マニュアルありの文章の裏はそんなことになってたんですね。面白いです。

    青スライムちゃんの泣き顔可愛かったですね。
    小さい三つのおめめから同時に涙が…
    庇護欲をそそりますね。飼いたいですね。

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