File.2 遊園地(脚本)
〇オフィスのフロア
都内某所
旅行雑誌『ITTE COOL』
編集部
本郷ノリカズ「関係ない話ではあるが、 今日の星座占い、牡羊座は運気が最低でね」
本郷ノリカズ「アンラッキーな事が起こるかも知れんと思っていたところに、キミからの連絡だ」
本郷ノリカズ「ヒマだから仕事をサボろうかと思っていたタイミングでね」
本郷ノリカズ「やる事ができてラッキーなのか、 サボれなくてアンラッキーなのか、 キミはどちらに捉えるタイプかね?」
本郷ノリカズ「さて・・・と。 聞くんだろ?奇妙な話」
本郷ノリカズ「これは、取材帰りに体験した出来事なのだが・・・」
〇山並み
その日は取材を終え、鬱蒼とした木が生い茂る山道を車で走っていた
ふいに視界が開けたと思ったら、
塗装が剥げかかった門が現れたんだ
〇荒廃した遊園地
相当年季が入った、遊園地だった。
入り口のゲートは腐食が進んでおり、
券売機にはペンキで
『ご自由にどうぞ』
と書いてある
門には大きく、『極楽園』と施設名が掲げられていた
本郷ノリカズ「ずいぶん寂れた・・・というか朽ちつつある遊園地だな」
本郷ノリカズ「極楽園か・・・。 極楽というよりは・・・」
本郷ノリカズ「聞きしより 見て美しき 地獄かな という感じだなッ!」
本郷ノリカズ「しかし刺激されるぞ、私の好奇心!」
こんな山中に遊園地があるとは聞いた事がない。興味を惹かれた私は、園内へと足を踏み入れた。
退色の酷い案内図によれば、ここのメインは
『まなびのやかた』
『スマイルどうぶつえん』
『蝋人形館』
の、3つであるようだ
辺りにはゴミが散乱している。
その中に、見慣れた表紙の雑誌もあった
本郷ノリカズ「おいおいおい・・・! 『ITTE COOL』創刊号じゃあないか」
本郷ノリカズ「何年前の雑誌を放置しているんだ・・・」
本郷ノリカズ「私の文章以外はヘボな仕上がりだったがな!」
〇標本室
極楽園
まなびのやかた
まなびのやかたは、一階建ての古ぼけたコンクリートの施設だった
本郷ノリカズ「おいおい・・・ホルマリン臭がプンプンしてるじゃあないか」
本郷ノリカズ「まあいい・・・学ばせてもらうとするかッ!」
施設内の展示物、それは
『奇形児標本』だった
整然と並べられた瓶の中に、ホルマリン漬けの様々な奇形児が浮かべられている
本郷ノリカズ「・・・趣味がいいとは言い難いな」
ぱちゃ・・・ぴちゃ・・・
かすかに・・・水音が聞こえた
ホルマリンに浮いた奇形児の標本・・・。
色彩を失った小さな骸たちの手が、
小さく動いていた
ちゃぱ・・・ちゃぷ・・・
本郷ノリカズ「なんだと・・・! こいつらッ! 瓶から出ようとしているのかッ!?」
本郷ノリカズ「ここで学ばせようとしているのは・・・ いや・・・まさかッ!」
本郷ノリカズ「ロボット工学かッ!!」
本郷ノリカズ「しかも、説明文がいっさいないとは・・・」
本郷ノリカズ「技術は見て盗め、というやつかッ!!」
悪趣味ではあるが、テクノロジーとしては最先端なのだろう。
だが、それに関する説明がいっさい書かれておらず・・・
本郷ノリカズ「・・・全くもって学びにならん」
蠢動する奇形児の標本たちを尻目に、私は館内を後にした
〇動物園の入口
極楽園
スマイルどうぶつえん
本郷ノリカズ「おいおい・・・待てよ。 こいつは酷いな」
そこは、異様な臭気に包まれていた
炎天下の中で生肉を放置したような生臭さ、といえば良いのだろうか
ウサギは皮膚病に侵され、
モルモットは数匹を残して死に
腐敗した動物の死骸が散乱していた
辺りには蝿が無数に飛び交っている
本郷ノリカズ「さすがに・・・こいつはいかんだろう・・・」
本郷ノリカズ「パンダもライオンもキリンもいないッ! 看板に偽りありだッ!」
本郷ノリカズ「来たものをスマイルにさせる努力が感じられないッ!」
運営側のやる気のなさに辟易しつつ、私は蝋人形館へと向かった
〇地下室
極楽園
蝋人形館
蝋人形館の中は薄暗く、カビの匂いが充満している
中世の拷問器具や処刑道具が陳列され、蝋人形たちが苦悶の表情で処されているのを見学するという趣向だった
人形はどれも埃にまみれ、長年放置されているのが一目で分かる
突き当たりには、首斬りの処刑人が展示されていた
断首台に向けて、定期的に斧を振り下ろしている
処刑人「アハハハハ」
斧は台の1メートルほど上で停止し、また振り上げられるという仕組みだった
断首台には人形が展示されておらず、代わりに『どうぞスリルをお楽しみください』と書かれた看板が立てられている
処刑人「アハハハハ」
本郷ノリカズ「おいおいおい・・・つまらん展示物に耐えながら、ここまで来た甲斐があったんじゃあないか?」
本郷ノリカズ「観光地にある顔出しパネルよりも 確実にエモいじゃあないかッ!」
私は嬉々として、冷たい斬首台の上に仰向けになった。
まったく、思わぬ土産話だ
処刑人が、斧を大きく振りかぶる。
その刹那、身体に緊張感が走った!
鈍い輝きを放つその巨大な刃は
どう見ても本物だったのだ!
処刑人「アハハハハ」
人形、作り物の瞳に、吐き気を催すほど明確な殺意が宿っていた
本郷ノリカズ「おおおおおッ!?」
処刑人「ッ??」
本郷ノリカズ「まったく・・・腕がビリビリしているよ」
振り下ろされた刹那!
私が斧の刃に押し当てたのは、
園内で拾った雑誌・・・
本郷ノリカズ「『ITTE COOL創刊号』だッ!」
斧を振り払って立ち上がり、処刑人の前に、深々と傷のついた雑誌を突き出してみせた
本郷ノリカズ「この号は、私以外の記事がヘボでね・・・。 しかし気合いは入れて作られているんだ」
本郷ノリカズ「情報量の多さは凄まじい! 鈍器のような分厚さになる程になッ!」
処刑人「オキャクサマ・・・ ゴクラクへ・・・ ゴアンナイ・・・」
本郷ノリカズ「うおおおおッ! きさまッ!!」
本郷ノリカズ「変なクオリティだけッ! 高めればいいとッ! 思っているのかあッ!!」
処刑人「ゴグラグビャバァッ!!」
〇荒廃した遊園地
・・・外に出ると、すっかり陽が落ちていた。
来た時と変わらず、園内には人の気配はなく・・・私は釈然としない思いで、極楽園を後にした
後日、この施設について調べてはみたものの、過去にこの場所に遊園地があったという記録すら見つからなかった
〇オフィスのフロア
都内某所
旅行雑誌『ITTE COOL』
編集部
本郷ノリカズ「・・・とまあ、そういう話だ」
本郷ノリカズ「どこが奇妙かは、言うまでもない」
本郷ノリカズ「なぜッ! あんな山奥で、やる気のない運営をしている遊園地がまだ営業できていたのだッ!?」
本郷ノリカズ「そして、どこのどいつが、記念すべき ITTE COOL創刊号を 捨てていったのだッ!」
本郷ノリカズ「・・・という訳で、私の中で実にッ! 釈然としない体験なのだ」
本郷ノリカズ「施設のその後? さあね・・・あの辺りは昔から神隠し事件が多いらしいが、知った事じゃない」
本郷ノリカズ「ルポライターとして、あんなやる気のない遊園地は、記事にする気が起きないからなッ!」
本郷ノリカズ「さて・・・そろそろ帰宅の時間だ。 貴重な空き時間を全部、使ってしまったよ」
本郷ノリカズ「む・・・? キミは星座占いで運気最高だった、だと? お遊びを信じるとは、まだまだ子供だな」
本郷ノリカズ「今度は、運気最低な時にでも連絡してくれ。牡羊座が最低な時を狙うんじゃないぞ?」
本郷ノリカズ「では、失礼する」
File.2
遊園地
完