本郷ノリカズの奇妙な旅

こりどらす

File.1 浴室(脚本)

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〇オフィスのフロア
  都内某所
  旅行雑誌『ITTE COOL』
  編集部
本郷ノリカズ「画面の向こうのキミ、初めましてだね」
本郷ノリカズ「オンライン通話って、未だに慣れないな。でも、聞き手の顔が見えるのは良いね」
本郷ノリカズ「せっかくの機会だ。ちょっと奇妙な話をしよう」
本郷ノリカズ「これは私が、温泉宿へ泊まりに行った時の体験談だ」

〇温泉旅館
  あれは、1年前の夏だったな・・・
  前に雑誌の仕事で来たんだけど、昭和な感じが素敵な宿でね。
  有給をとって、個人で泊まりに行ったんだ

〇日本家屋の階段
女将「お久しぶりです、本郷様! ITTE COOLの 和風旅館特集の時にはお世話になりました」
本郷ノリカズ「いえいえ! 取材した本人も遊びに来てしまったよ」
本郷ノリカズ「男湯、実際に浸かるのが楽しみだ」
本郷ノリカズ「あのレトロな雰囲気は、実に良くてね」
女将「大変申し訳ございません・・・。 殿方用のお風呂、かなり痛みが進みましたので、改装中なんです・・・」
女将「ご婦人用だった、石造りの大浴場を、時間入れ替え制でお使い下さい・・・」
本郷ノリカズ「そうか・・・。 この旅の目当ての一つだったのだが・・・実に残念だ」

〇旅館の和室
「む・・・のんびりしていたら、もう夜か。 オフだと時間の使い方がヘタになるな」
本郷ノリカズ「いつも思うのだが、旅館で決まって飾られている壺やら、掛け軸やら。 高価な物なのか?」
本郷ノリカズ「保険に入ってはいるのだろうが・・・かといって、100均の雑貨を飾っておく訳にもいくまいしな」
本郷ノリカズ「・・・まあ、私が心配するような事ではないな。 風呂に行くか・・・」

〇日本家屋の階段
本郷ノリカズ「・・・ん? 女将の話と違うな。 女湯のほうは電気がついていないが・・・」
本郷ノリカズ「男湯の脱衣所は、煌々と明るい。 という事は・・・」
本郷ノリカズ「さては女将ッ! 説明を間違えたなッ!」
本郷ノリカズ「そして・・・おいおい・・・待てよ? という事は、だ」
本郷ノリカズ「男湯のほうに入れるじゃあないかっ!」

〇浴場
本郷ノリカズ「・・・うむ! このタイル絵を眺めながら、湯に身を任せる・・・これがしたかったのだ!」
本郷ノリカズ「いざ、湯に・・・」
  背後のガラス戸に、なにか重いものがぶつかった音がした
  振り返ると、脱衣所に、線の細い女のようなシルエットがあった
シルエット「すいません・・・ 入っていいですか?」
  妙に抑揚のない声だった。
  女湯が改装中なので、こちらに来たのだろう
本郷ノリカズ「今は男湯の時間だ。後にしてもらおう!」
  私が言うと、ガラス戸の向こうで
  両手の平が
  べたり、と張りついた
シルエット「すみませぇん・・・。 入ってもいいでしょうかぁ」
  私の声が聞こえないのか、ガラス戸をベタベタと触ってくる
本郷ノリカズ「聞こえないのかッ! 私が使っていると言っているッ!」
  次の瞬間・・・
  ガラス戸をベタベタと触るのをやめた
  その代わり・・・ガラス戸に顔を押し付けてきた
  血色の悪い肌が、ガラス戸に合わせて押されている
シルエット「ずみまぜぇん! 入っても いイでじょうかぁ!」
  髪が、ばさりと落ちた
  そこには、あるべき筈の目も、鼻も、口もなかった
  肌の表面が蠢動している。
  そのたびに、音が出ていた。
  人間以外のなにかが、人間の真似をしている・・・そんな音だった
  カラリ・・・。
  音を立てて、ガラス戸が開けられた
シルエット「はいリまつネ・・・!」
本郷ノリカズ「うおおおおっ!? きさまッ!」
本郷ノリカズ「使っていると! 言っているのが! 分からんのかあァッ!」
シルエット「ハイリャギャアッ!」

〇浴場
  気がつけば、入ろうとしてきた変質者の姿はなく・・・男湯の明かりも消えていた
  タイルは今にも剥がれそうに老朽化し、天井には蜘蛛の巣が張られていた
  湯は冷え切っており、少し迷ったが・・・
  入るのをやめた

〇日本家屋の階段
  翌日確認してみると、男湯のほうには『改装中』の立て札がかけられ、工事の幕が張られていた
  女将にも聞いてみたが・・・
女将「昨日もご説明してありますが・・・」
  と、要領を得なかった

〇オフィスのフロア
本郷ノリカズ「・・・という話なわけだ」
本郷ノリカズ「どこが奇妙かは、言うまでもないだろう?」
本郷ノリカズ「なぜッ! 翌朝わざわざ男湯のほうに改装中と偽装をするッ! 嫌がらせかッ!?」
本郷ノリカズ「そして、あの変質者だッ! 変な覆面とスーツ着用で乱入してくるとは マナー知らずかッ!?」
本郷ノリカズ「・・・というわけで、私の中で実に! 今でもモヤモヤしている体験なのだ」
本郷ノリカズ「・・・ん? 旅館の現在の評判? たまに行方不明者が出ているようだが、知った事ではないね」
本郷ノリカズ「私は旅行雑誌のルポライターだからなッ!」
本郷ノリカズ「また奇妙な話を聞きたくなったら、チャット繋げてくれ。 ヒマがある時だったら、別の話を聞かせてやるよ」
本郷ノリカズ「まあ、キミはまた来るだろうけどな。 そんな予感がするよ。 ありがたくない予感だがね」
本郷ノリカズ「では、回線切るぞ。 これでも忙しくてね」
  File.1
  浴室
  完

次のエピソード:File.2 遊園地

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