エピソード1(脚本)
〇図書館
メイタは体格のわりにやさしいキスをする。
メイタ「んっ・・・はっ・・・」
シラト「うっ・・・ふっ・・・」
柔道部の先輩に投げられまくって耳が餃子になったことを気にしているわりに、
耳たぶにピアスを付けて、俺に冗談で「肉汁出るかも」と言えるユーモアを持っている。
ぐっと肩を抑え込まれて、俺はなすすべなくメイタに身を委ねる。
まるで餃子の皮に包まれる肉みたいだな、という冗談を言う暇はない。
メイタの熱い舌が俺の舌と絡まって、息が荒くなる。
いつも俺の方がぼーっとしてしまって、メイタに後で「水餃子かよ」と言われる。
俺は別に餃子が好きなわけじゃない。
ただ、メイタとキスをしているときは、どうしてもメイタの耳が視界に入って、
餃子のことを考えざるをえないんだ。
突然、メイタが俺を突き飛ばした。
壁に激しく背をぶつけた俺は、焦りながらも口を拭った。
シラト「なんだよ、急に」
俺はせっかくの時間を台無しにされていら立った。
メイタは悲しそうに眼を伏せて、
メイタ「ごめん。ちょっと嫌なこと思い出しちゃった」
シラト「は?何を思い出したんだよ」
メイタ「言えない」
シラト「おれたち、そんな関係じゃねーだろ」
メイタ「関係とか、そういうの、関係ないから」
シラト「うぜーな、お前」
俺たちの関係は、世間的には変な関係だと思われるだろう。
いわゆる、同性同士の恋愛ってやつだ。
男は女と恋愛するもの。女は男と恋愛するもの。
俺も、メイタと会う前はそういう考えを持っていた。
でも、知らず知らずのうちに、俺とメイタは惹かれあっていた。
そこに、男とか女とか関係がなかった。
俺の心がメイタを求めていたし、うれしいことに、それはメイタも同じだった。
俺とメイタは互いを必要としていた。
それがたまたま、男同士だっただけなんだ。
シラト「もういいわ。俺、次の時間、絵の授業だから」
メイタ「ごめん、シラト。また、連絡するから」
俺はいら立っていて、メイタの言葉には何も返さなかった。
〇ファンタジーの教室
鬱陶しいほど春だった。
何もかもが輝いていたし、俺に手を振るかのように花が咲いている。
花にも生殖器があるんだろうか。どうやって、種は生まれるんだろうか。
自分の中心にぶらさがったものを感じながら、モヤモヤした気持ちを吐き出せない。
シラト「餃子食いて~」
教室に入って、俺はどっかりと椅子に腰をおろした。
チャイムが鳴って、先生が入ってきた。
しばらく、話を聞いていた。
相変わらず、退屈な授業だ。
先生止まりの才能しかない画家が、偉そうに絵の歴史を語る。
シラト(お前の絵なんか、誰も買わねーよ)
「お前の絵なんか、誰も買わねーよ!!!!」
教室中が静けさに包まれた。
俺は思わず、自分の口を押えた。
ゆっくりとあたりを見回すと、教室にいた生徒の目は俺に向けられていなかった。
先生は唖然としながら、その声を放った人物の方向を見ている。
先生「な、なんだ貴様は!!!!」
怒りで顔を真っ赤にしたタコのように、先生は怒鳴った。
俺は恐る恐る、俺の思っていたことと同じことを口にした人物の方に目を向けた。
そこには、真っ白な髪と、まっすぐな目をした背の高い男が立っていた。
体格はメイタと同じくらい。耳は餃子になっていなくて、ピアスをさしても肉汁は出ない。
バンク「バンク。世界を変える画家だ」
教室中にいた全員がその言葉を聞いて思っただろう。
シラト(何言ってんだ、こいつ)
先生「ふざけるな!!!!出ていけ!小僧!!!!」
怒り狂った先生がバンクと名乗った男にとびかかった。
バンクはにっこりと笑って、何かを先生に浴びせかけた。
それは、真っ赤な血糊のようだった。
バンク「邪魔なんだよ、下手くそ。さっさと教員やめて、町の壁にスプレーで『私には才能がありません』って懺悔の絵でも描いてろ」
あまりにもひどい言葉だと思った。だが、逆に痛快だった。
教室の誰もが、先生の絵を評価していないのは一目瞭然だった。
ピカソとかゴッホに比べるのもおこがましいくらい、魅力の無い絵を描く先生。
絵よりも給料を得ることに情熱をかけているような偽物画家。
それらをすべて見抜いて、臆せずに言い放ったのだ。
このバンク、と名乗る男は。
血糊のようなものを浴びせられた先生は、慌てふためいた。
先生「お、おい!これ、油性塗料だろ!!!!」
教室にいた生徒は悲鳴をあげた。中には「いいぞ!もっとやれ!」と叫ぶ者もいて、授業が完全に崩壊した。
バンク「おい、そこの。ちょっと俺と来い」
突然、バンクが俺の方を見てそう言った。
シラト「は?」
俺はバンクに手をひかれ、教室の外に飛び出した。
〇まっすぐの廊下
バンク「おい、お前がやったことにしろ」
教室を出て早々、バンクは俺にそう言った。
シラト「いや、ふざけんなよ。お前がやったんだろうが」
バンク「だから、お前がやったことにしろって言ってんだよ!」
シラト「意味がわからん!」
バンク「意味なんてない!わかったな!」
俺はさすがに苛立った。苛々続きで、我慢ならなかった。
シラト「ふざけんなっ!!!!お前が!!!やったことだろ!!!」
大声で叫ぶと、バンクはにやりと笑った。
バンク「だったら、お前がゲイだってことをバラすぞ」
シラト「はっ?誰が・・・」
俺は心臓を氷の矢で貫かれたような気持ちになった。
バンク「お前、さっき柔道部のやつとキスしてたろ」
シラト「いや、それは、その・・・」
バンク「いいんだろ。ゲイだって世界中にバレても」
シラト「おい、脅してるのか?」
バンク「へっ、今はインターネットの世界。なんでもあっという間に広がってくぞ」
シラト「よせよ、そんなことしたら、俺の人生が・・・」
バンク「終わるね。確実に終わる。ゲイが生きていける世界なんて、これっぽっち」
シラト「そうか・・・」
俺は頭が真っ白になった。明るい人生が一転して、すべてが台無しになる気がした。
俺だけが、こんな目に合うなんて嫌だ。
シラト「おい、お前、バンクとか言ったな」
バンク「ああ、そうよ。世界を変える画家だ」
シラト「へー、だったら・・・」
ガッ
俺はバンクにキスをした。
結局、それが俺とバンクの最初のキスで、
それから起こる様々な試練の始まりだった。
このときのことをバンクは後にこう言っている。
「あのとき、俺はお前に惚れちまったんだ」
後に、偉大なるゲイのプロデューサーとして名を馳せる男と、世界を変える画家となる男の、
初めてのキスの味は、油性ペンの味だった。
甘味と塩味の調和がとれた作品で面白かったです。特にキスの最中に餃子のことを考えているところとか…リアルにありそうで面白かったです。(笑)
怒りからくる性衝動ってスリルがあって情熱的だけど、その後2人の関係が、どうなっていくのか楽しみです。ゲイ同士が惹かれ合うのって普通の男女の恋愛より特別な事に感じました。
甘酸っぱい冒頭のストーリーが胸を打つ一方で、頭の片隅には常に餃子が。。。餃子を食べたくなって頭から離れないです。あっ、2つの意味で水餃子が好きです。