〈いくらでも入る〉カバン(脚本)
〇時計台の中
鑑定士「この世には〈いわく〉を抱えた呪いの品が存在します」
鑑定士「私は、そんな〈いわく〉付きの品専門の鑑定士」
鑑定士「さて、本日の〈いわく〉は、一体おいくらになるのでしょうか」
〇時計台の中
木本 大輔「これを買い取ってもらいたくて」
鑑定士「カバン、ですか」
鑑定士「ん?血がついていますね」
木本 大輔「あっ・・・すみません」
鑑定士「問題ございませんよ」
鑑定士「お聞かせください」
鑑定士「このカバンにまつわる〈いわく〉を」
〇オフィスのフロア
細田 真希「ギャッ」
細田 真希「あちゃ~ 買ったばかりなのに・・・」
木本 大輔「どうしたあ?」
細田 真希「急にカバンが壊れちゃってさ」
木本 大輔「急に・・・っていうか」
木本 大輔「・・・入れすぎじゃね?」
木本 大輔「ドライバーとか傘2本とか・・・ 使う場面ないだろ」
細田 真希「はあ・・・木本くんはさ」
細田 真希「今ここで大停電が起こってオフィスに閉じ込められたらって考えないわけ?」
木本 大輔「考えないだろ、普通」
細田 真希「じゃあ今、想像してみて」
細田 真希「はい、停電しました」
細田 真希「懐中電灯!」
細田 真希「ドアが開きません」
細田 真希「ドライバー!」
細田 真希「それでも開きません」
細田 真希「非常食!携帯用トイレ!」
木本 大輔「ん~、そう言われると・・・ 確かに必要かも?」
細田 真希「でしょ?」
細田 真希「・・・学生時代、エレベーターに一晩中閉じ込められたことがあってさ」
細田 真希「しかもほぼ手ぶらのときに」
木本 大輔「悲惨じゃん」
細田 真希「それから、念のためにいろいろ持ち歩くようになったんだよね」
木本 大輔「なるほどな~ 細田がいつもでかいカバンを持ち歩いてる理由がわかったわ」
細田 真希「あっそうだ!! カバン買って帰らなきゃ」
細田 真希「じゃあお先に!」
木本 大輔「お~おつ~」
細田 真希「そうそう、明日の商談!! 先方に直行だからね」
細田 真希「遅刻しないでよ?」
木本 大輔「出た!心配症!!」
〇綺麗な会議室
木本 大輔「ぜひ、お取り扱いいただければと!」
取引先「う~ん、けっこうデカイよねえ」
取引先「もう棚がキチキチだから、厳しいかな~」
細田 真希「でしたら、こちらのカタログの・・・」
細田 真希「この什器とセットでの納品はいかがでしょう?」
取引先「ふむ・・・」
細田 真希「こちらのサンプルも、実際に動かしていただければ!」
取引先「お、これはなかなか・・・」
細田 真希「こちらの商品と並べると大変目をひきますし・・・」
取引先「いやあすごいな、どれだけカバンから出てくるの」
細田 真希「あ、こちらよろしければ皆様でお召し上がりください!」
取引先「おお、これ好きなんだよ!!」
〇川沿いの公園
細田 真希「発注もらえそうでよかった」
木本 大輔「いや~よくあんなに資料やら サンプルやら持ってきてたな」
木本 大輔「でもそんなに詰め込んだら、 せっかく買ったカバンが また壊れるぞ~」
細田 真希「ぜんぜん余裕!! まだまだ入りそうなくらいだもん」
細田 真希「あ、雨・・・」
細田 真希「ね?2本必要でしょ」
木本 大輔「ははーっ」
木本 大輔「まあ俺としては、傘1本のほうが嬉しかったりするんだけど」
細田 真希「はっ?」
木本 大輔「あーごめんなさい!!セクハラで訴えないで!!」
細田 真希「いや、別に・・・嫌ってわけじゃ」
木本 大輔「・・・」
細田 真希「・・・」
細田 真希「ちょっと黙らないでよ!!」
〇オフィスビル前の道
〇オフィスのフロア
細田 真希「丸々ストアから、100ロットで受注いただきました」
上司「最近調子がいいわね!!」
細田 真希「そうなんです」
細田 真希「いくらでも、なんでも入るんです」
上司「え?」
細田 真希「いえ」
細田 真希「あ、そうだ」
細田 真希「木本くん、ちょっと」
〇オフィスの廊下
細田 真希「ハイ、これ」
木本 大輔「俺の好きなやつじゃん!! サンキュー」
細田 真希「あとこれも」
木本 大輔「こんなに?」
細田 真希「どうせ今日は泊まり込みで、プレゼン前の追い込みでしょ?」
細田 真希「いつもそうだよね、もっと計画的にさあ・・・」
木本 大輔「あ~もううるさいな」
細田 真希「悪かったわね。じゃ」
木本 大輔「あ──細田!!」
細田 真希「な、なに」
木本 大輔「あ、あのさ・・・」
木本 大輔「今度の週末、あいてる?」
細田 真希「え・・・」
〇ホテルのレストラン
細田 真希「え・・・待って、このお店?」
木本 大輔「すみません、予約してた木本ですが──」
細田 真希「ちょちょ、ちょっと待ってて」
木本 大輔「へ?」
〇ホテルのレストラン
細田 真希「お待たせ」
木本 大輔「着替えまで持ってきたのかよ!?」
細田 真希「どこに行くのか教えてくれなかったからでしょ!!」
木本 大輔「だからって・・・あはは!!」
木本 大輔「そういう服も似合うな」
細田 真希「・・・ありがと」
〇テラス席
木本 大輔「あー、もうこんな時間か」
木本 大輔「・・・終電、そろそろだっけ?」
細田 真希「もう今からだと間に合わない」
木本 大輔「え!?まじか、ごめん」
細田 真希「大丈夫」
細田 真希「持ってきてるし・・・ お泊まりセット」
細田 真希「ほら」
木本 大輔「・・・多くね?」
〇駅のホーム
通行人「うう・・・」
細田 真希「大丈夫ですか?袋ありますよ?」
細田 真希「お水とスポーツドリンク、どっちがいいですか?」
細田 真希「言葉通じてないのかも? 辞書、辞書・・・」
通行人「ううっ」
細田 真希「え!?」
「倒れたぞ!!」
「AED!!AEDどこだ!!」
細田 真希「AED!? そんなの・・・持ってない・・・!!」
〇レトロ喫茶
木本 大輔「それでAEDまで持ち歩くことにしたわけ?」
木本 大輔「さすがにやりすぎだろ」
細田 真希「だって・・・もしここで大輔が倒れたら?」
細田 真希「そのときに後悔したくないよ」
木本 大輔「心配してくれるのは嬉しいけどさ」
細田 真希「最近浮かれて・・・油断してた」
細田 真希「もっとちゃんと備えないと・・・ 何があっても大丈夫なように・・・」
〇綺麗な会議室
細田 真希「こちら、過去10年分のカタログ資料です!!」
取引先「ええ?頼んだのは直近半年分・・・」
細田 真希「全商品の取り扱い説明書も持ってきました」
取引先「う~ん、今は必要ないからさ」
取引先「悪いけど持って帰ってくれる?」
細田 真希「・・・御社のためなんですよ?」
細田 真希「必要になってからじゃ遅いんですよ!?」
取引先「ほ、細田さん・・・?」
〇オフィスのフロア
細田 真希「申し訳ありませんでした・・・」
上司「まあ、先方には私からも電話しておくから・・・」
上司「顔色悪いわよ、今日は早く帰ったら?」
細田 真希「大丈夫です!! メイク道具一式持ってきてるんで!!」
木本 大輔「・・・」
〇オフィスの廊下
細田 真希「はい!差し入れ」
木本 大輔「こんなに?今日は残業しないつもりだけど・・・」
細田 真希「え?そうなの?」
木本 大輔「でもせっかくだからもらっとくな!! いつもサンキュ」
木本 大輔「・・・なんか最近ちょっと疲れてないか?」
木本 大輔「明日の映画、やめとくか?」
細田 真希「大丈夫大丈夫!!」
細田 真希「しっかり準備していくからね」
〇映画館の入場口
木本 大輔「・・・時間、合ってるよな?」
木本 大輔「・・・」
〇映画館の入場口
木本 大輔「どうしたんだよ!? 何回も電話したのに──」
細田 真希「ごめん・・・」
細田 真希「カバンに入れ忘れてて・・・ 探しても見つからなくて・・・」
木本 大輔「何をそんなに探してたんだよ?」
細田 真希「卒業アルバム。 高校のときの」
木本 大輔「え?なんで?」
細田 真希「だって、見せたことなかったから」
細田 真希「今日のデートで、 大輔が見たいって言い出すかも しれないでしょう?」
木本 大輔「それで2時間もアルバム探してたの?」
木本 大輔「はあ・・・」
木本 大輔「信じらんね~、まじかよ」
木本 大輔「ほんっとうに正反対だな、俺たち」
細田 真希「うん・・・」
木本 大輔「・・・まあ、だからこそ うまくいくこともあるんじゃないの」
木本 大輔「これから先の人生でもさ!!」
細田 真希「うん・・・え?」
細田 真希「それって・・・」
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あぁー✨やはりこちらのカップル好きですね✨🥰
特に後半の、「もう1人だけで抱え込ませない」というセリフと、告白のセリフもこの2人ならではで好きです✨☺️🌸
最後の方はハラハラしましたが、意識を取り戻して良かったです✨カバンに執着してましたが、きっと抱え込ませなければ大丈夫ですね✨2人助け合って生きていけますように✨☺️