フィクショニア

蓮巳REN

エピソード2 努力と才能(脚本)

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〇教室
俺「いいよなぁ」
  過去問の答案用紙を見比べて溜息を吐く。
  修正の赤い文字が幅を利かせる賑やかな俺の用紙と違い、隣の紙は綺麗なものだ。
  解答欄は空欄が一つある以外、他は全て正解で埋められている。
僕「なにが?」
俺「学校以外で勉強してるとこも見ないのに、さらっとできるおまえの頭が羨ましいというか、不公平というか、むかつくというか」
僕「・・・・・・・・・・・・」
  じっと見つめられる。軽口のつもりだったがまずかっただろうか。
僕「仮になにか一つ好きな才能がもらえるとしたら、どんなのが欲しい?」
  例によって脈絡があるんだかないんだかわからない質問がきた。
  ちょっとほっとする。
俺「うーん。やっぱ頭の良さ、いややっぱモテも捨てがたいな」
俺「あーでもスポーツとかアートとかの才能もいいよなあ。モテそうだし」
僕「君のそういう良くも悪くも捻りのないところいいよね」
俺「褒めたのか? 貶してるのか?」
  やっぱり機嫌を損ねたのだろうかと思うが友人の表情に変化はなかった。
僕「ちなみに努力って誰にでもできると思う派? 思わない派?」
俺「努力はできるできないっていうか、やるかやらないかだろ」
俺「生まれつき才能ある奴にはあんまり必要ないのかもしれないけど、普通は努力しないとできないことのが多いし」
俺「よって俺みたいな大抵の凡人は多かれ少なかれ地味に努力してるはずだし、誰でもできる、ていうか、するしかないっていうか」
  どことなく愚痴っぽくなってしまった。
  友人を非難したいわけではないが、涼しい顔でほぼ満点ばかり取るのを見せられると、もやっとするものはある。
僕「努力って、なんだと思う?」
俺「なんだよその哲学っぽい質問」
  目の前の友人が無言でスマホをいじり出した。
  人に質問しておいて、まあ俺も答えてはないけれど、その態度はどうだろう。
  と思うがつきあいの長さゆえ多少の予測はついた。
  これはたぶんスルーではなく、なにか調べてる。
僕「『目標実現のため、心身を労してつとめること。ほねをおること』」
  ほらな。
  って。
俺「え、言葉の意味?」
  努力の意味すらわからないくらい俺はアホだと思われているのだろうか。
  さすがにそれは傷つく。
僕「『ほねをおる』って疲労骨折するほどひたすら、とか、それともそんな勢いとか無茶をするって意味を表してるのかな」
僕「単に苦痛の量の比喩って可能性もあるか。元々はなんなんだろう」
  おまえの質問が元々なんなんだ、と、よく友人に思われているかもしれない可能性も考えて欲しい。
僕「まあいいや」
俺「いいのか」
僕「要は、やってる本人が苦痛を感じている、もしくは心身を疲弊させていないと、一般的に努力とは呼ばないわけだ」
俺「まあ、楽にできたら努力とは言わないよな」
僕「努力って美徳だと思う?」
俺「まあ、いいことだと思う」
僕「それを美徳だとするなら、さっきの君の発言は理不尽だと思う」
俺「どの辺が?」
僕「できないことが多かったり不器用だったらその分がんばらないといけない、ってことは」
僕「がんばれば普段からそれだけ努力と認められる部分が多くなるってことだよね」
俺「そうなるな」
僕「じゃあ君の言う『さらっとできる』人間は、平凡に暮らしてたら努力してると認められる機会が不器用な人間より少なくなるわけだ」
僕「そしてその上羨ましいだとか不公平だとかむかつくだとかいう非難もされる」
僕「それこそ不公平だと思う」
俺「ごめんて」
  やっぱり気に障っていたらしい。
  この回りくどい会話を振り返るに、なにかしらのツボを刺激してしまったようだ。
  正直面倒臭いが、誰にでも敏感なポイントはある。
  不用意な発言だったのかもしれないという気持ちもあるにはあるので、とりあえず素直に謝った。
僕「あと努力は誰にでもできると思ってるっぽいのも納得いかない」
俺「ええ」
  いつになく長い。
  結構な地雷を踏んだようだ。
僕「努力の定義の中に暗に、継続して、が含まれてるように常々感じてるんだけど」
俺「はあ」
僕「たとえば、器用な人間が効率のいい方法で一日すごくがんばったとして、」
僕「そういうのってあんまり努力って呼ばれないよね?」
俺「おまえの話だよな?」
僕「うん。 昨日もの凄く集中して一夜漬けした」
俺「やっぱりなんとなくむかつくのはなんでだろうな?」
僕「集中力とパフォーマンスを短期間に集中させてがんばっても努力と認めてもらいにくいのがそもそも納得いかないんだけど」
僕「そこはメリットも大きいからひとまずいいとして」
俺「いいとして?」
僕「継続して心身を労する、って、そもそも丈夫じゃないとできないし」
僕「苦痛を感じながら続けるってちょっとマゾ体質じゃないと無理だよね」
僕「フィジカルが強くなくてダメージに弱い体質だから楽しみながらやる方法とか時短法とか考えてるのに」
僕「なんかなにも考えず楽してるみたいに受け取られるの心外極まりない」
  元々二人でいるとよく喋るやつだが、息継ぎの心配をしたくなるほど勢いよく話すのはさすがに珍しい。
  さらに続いた。
僕「だから僕は、なにか一つ才能がもらえるとしたら君みたいな努力ができる才能が欲しい」
僕「なのにそれを誰にでもできるだとか」
俺「わかったわかった。 俺が悪かったて」
  結局なぜか俺が缶ジュースをおごることになり、やっぱり頭がいいほうが得なんじゃないだろうかと思った。

次のエピソード:エピソード3 ヘンなやつ

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