指先に魔法はいらない

星月 光

chapter12 崩壊の序曲(脚本)

指先に魔法はいらない

星月 光

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〇怪しげな酒場
「ダイン公の配下が・・・ 口封じのために・・・」

〇怪しげな酒場
「カンパーイ!」
「あいつ、まだ来てねえのか?」
「あのお人好しのことだ 雑用でも押しつけられてるんだろ」
「あのお坊ちゃんのことも──」
「なんとか助けてやれないかって ずっと言ってたもんな」
「ま、ガキを殺すのは 確かに気が引けるわな」
「報酬さえもらえりゃ オレはどうでも・・・」
「なッ、なにしやが──」
傭兵「あと一匹いるっぽいぜ」
傭兵「ダイン公に報告しろ わたしは残った一匹を追う」
傭兵「ダイン公は急病で会えないってさ」
傭兵「では執事長に報告しろ」
傭兵「ピオノノ・ダインを始末するなら 追加の報酬をもらわねばならん」
「ぅ・・・っ」

〇怪しげな酒場
船乗り「今、医者を」
「いいから逃げろ!」
「あいつらに見つかる前に ワーズワースを出ろ・・・」
「早く!」
船乗り「・・・ごめん!」

〇黒背景
「最期くらい、みんなで飲みたかったよな」
「おまえらもそう思うだろ?」
「でかい声で呼ぶなよ・・・ すぐそっちに、オレも・・・」

〇薬屋
アストリッド「で、なにを訊きたいの?」
ピオノノ・ダイン「・・・・・・」
ピオノノ・ダイン「特定の人と一緒にいるときだけ 体調がおかしくなるような・・・」
ピオノノ・ダイン「そういう病気はあるのでしょうか」
アストリッド「要点をまとめろ」
ピオノノ・ダイン「・・・ボクは、病気かもしれません」
アストリッド「・・・根拠は?」
ピオノノ・ダイン「最近、なんだかおかしくて」
ピオノノ・ダイン「サフィと一緒にいると・・・」
ピオノノ・ダイン「いや、一緒にいなくても」
ピオノノ・ダイン「サフィのことを考えるだけで・・・」
ピオノノ・ダイン「いったいボクは・・・ どうしてしまったんでしょうか」
アストリッド「それは──」

〇おしゃれな居間
サフィ「はあ・・・」
サフィ「あたし、おかしくなっちゃったのかな」
サフィ「魔法生物さん、どう思います?」
サフィ「・・・しゃべらなくなっちゃった」
サフィ「あっ、アストリッド」
サフィ「ピオは・・・?」
アストリッド「もう休むってさ」
サフィ「あの!」
サフィ「アストリッドって、女の人ですよね?」
アストリッド「見てのとおりだけど」
サフィ「よくわかんないです」
アストリッド「で、それがなに?」
サフィ「あたし、病気かもです!」
アストリッド「おまえも?」
サフィ「も?」

〇薬屋
アストリッド「おそらく、病気ではないね」
ピオノノ・ダイン「ではいったい?」
アストリッド「浮かれてるんじゃない?」
アストリッド「おまえら、一緒に行くんでしょ」
アストリッド「ようやく絶海の孤島から離れられる──」
アストリッド「あいつの顔を見れば どうしてもそれを連想するんだろうね」
アストリッド「医学には明るくないから 憶測ではあるけどね」
ピオノノ・ダイン「なる・・・ほど?」
アストリッド「4日後に停泊する定期船に 乗れるかどうかはおまえ次第」
アストリッド「浮かれてやるべきことを忘れないよう せいぜい気をつけることだね」

〇おしゃれな居間
サフィ「・・・そうなんだ」
アストリッド「おまえもさっさと休んだら?」
アストリッド「こいつの自律思考の調整に戻るから」
アストリッド「行くよ、エレメンタル」
エレメンタル「命令を承認しマシタ」
サフィ「あたし、病気じゃなかったんだ」
サフィ「・・・・・・」
サフィ(もしアストリッドが 男の人だったら──)
サフィ(ピオと2人きりになっても こんな気持ちにはならなかったかも)
サフィ(でも・・・)
サフィ(病気じゃないなら なんだろ、これ?)

〇立派な洋館

〇貴族の応接間
ジュリアン・ダイン(定期船がライダルから出航するのは明日)
ジュリアン・ダイン(サントエレンに1日停泊し 3日間の船旅を経てライダルへ戻る)
ジュリアン・ダイン(その船に、兄上は乗っているだろうか)
ジュリアン・ダイン(父上とフランクがいないあいだに すべてを片付けておきたいが)
ジュリアン・ダイン(急いで遣いをやって、伝言を・・・)
ジュリアン・ダイン「・・・ナタリア様」
ナタリア・オブ・ワーズワース「お父上が倒れ フランクが拘束され」
ナタリア・オブ・ワーズワース「さぞ消沈しているかと思いましたが」
ナタリア・オブ・ワーズワース「存外、元気そうですね」
ジュリアン・ダイン「これでも落ち込んでいますよ」
ジュリアン・ダイン「貴方の前では、情けない姿を 見せたくないものですから」
ナタリア・オブ・ワーズワース「ジュリアン」
ナタリア・オブ・ワーズワース「その茶番、いつまで続けるつもりですか?」
ナタリア・オブ・ワーズワース「貴方がわたしと結婚したいのは ピオノノを助けるための企てでしょう」
ジュリアン・ダイン「・・・なんのことでしょう」
ナタリア・オブ・ワーズワース「気づいていないとでも思いましたか?」

〇謁見の間
ナタリア・オブ・ワーズワース「貴方は初めて会ったときから わたしへの好意を表明していましたね」
ナタリア・オブ・ワーズワース「わたしの王位継承が 認められなくても」
ナタリア・オブ・ワーズワース「王女の夫になれば、絶大な権力を得る」
ナタリア・オブ・ワーズワース「スペルロイドを救うのだって 造作もないことでしょうね」

〇貴族の応接間
ナタリア・オブ・ワーズワース「王族の婚姻に愛など不要」
ナタリア・オブ・ワーズワース「王宮へ来た日から覚悟はしていました」
ナタリア・オブ・ワーズワース「でもね、ジュリアン」
ナタリア・オブ・ワーズワース「これ以上、貴方の茶番に 付き合う気はありません」
ナタリア・オブ・ワーズワース「もっとも──」
ナタリア・オブ・ワーズワース「貴方との結婚が、わたしや国に 利益をもたらすなら話は別ですが」
ナタリア・オブ・ワーズワース「では、ごきげんよう」
ジュリアン・ダイン「・・・くそッ!」
ジュリアン・ダイン「どいつもこいつも・・・!」

〇綺麗な港町

〇可愛らしいホテルの一室
「殿下」
侍女ディアナ「いえ、お嬢様 どうかされましたか?」
シーラ・オブ・ワーズワース「その・・・」
シーラ・オブ・ワーズワース「出航のときには 雨、止んでいるかしら」
侍女ディアナ「ええ、きっと」
侍女ディアナ「ただ、定期船には 屋根が付いているようですから」
侍女ディアナ「雨でも心配ご無用ですよ」
シーラ・オブ・ワーズワース「そうね・・・」
侍女ディアナ「さあ、もう休みましょう」
シーラ・オブ・ワーズワース(ピオノノは・・・)
シーラ・オブ・ワーズワース(雨や風や日射しから守られず サントエレンへ渡ったのよね)
シーラ・オブ・ワーズワース(彼が生きていたとしても 亡くなっていたとしても)
シーラ・オブ・ワーズワース(自分の罪から逃げてはいけない・・・!)

〇貴族の応接間
ジュリアン・ダイン「貴方は?」
傭兵「ダイン公に雇われた者で・・・」
傭兵「執事長は?」
ジュリアン・ダイン「所用で城にいます」
ジュリアン・ダイン「彼に用があるなら わたしが承ります」
ジュリアン・ダイン「貴方が城へ行っても 彼には会えませんよ」
ジュリアン・ダイン「・・・それとも」
ジュリアン・ダイン「ダイン公の息子であるわたしに 報告できないようなことなのですか?」
ジュリアン・ダイン「さあ、報告を」

〇建物の裏手
船乗り「みんな・・・」
船乗り(殺される・・・ オレも、あのお坊ちゃんも)
船乗り「・・・そうだ」
船乗り「伝えないと・・・」

〇貴族の応接間
ジュリアン・ダイン「・・・なるほど」
傭兵「ピオノノ・ダインを追いますか?」
傭兵「その場合、追加の報酬をいただきます」
ジュリアン・ダイン「必要ありません」
ジュリアン・ダイン「今までご苦労でした」
ダイン家の兵士「ジュリアン様!」
ジュリアン・ダイン「この男が急に襲ってきたんだ」
ジュリアン・ダイン「フランクに雇われたと言っていた」
ジュリアン・ダイン「<ダイン家の息子>を殺すために、と」
ダイン家の兵士「やはり執事長には 謀反の恐れが・・・」
ジュリアン・ダイン「投獄してください」
ジュリアン・ダイン「目覚め次第、尋問を開始します」

〇海辺

〇おしゃれな居間
サフィ「あっ、アストリッド」
サフィ「ジャム、たくさん付けるんですね?」
アストリッド「頭脳労働に糖分は欠かせないからね」
サフィ「そうなんだ」
サフィ「じゃ、あたしもたくさん付けよっと」
ピオノノ・ダイン「・・・ごちそうさま」
サフィ「もうお腹いっぱいですか?」
ピオノノ・ダイン「修行に行きます」
ピオノノ・ダイン「・・・3日後までに 魔術を完璧に覚えて」
ピオノノ・ダイン「定期船に乗らないと」
アストリッド「ピオ」
アストリッド「そこの棚から布巾取ってくれる?」
ピオノノ・ダイン「は、はい」
アストリッド「礼は言わないよ」
アストリッド「誰かが棚の高いところに置かなきゃ 自力で取れたからね」
サフィ「アストリッド、ちっちゃいですもんね」
アストリッド「おまえに言われたくないけど?」
サフィ「あっ、ピオ!」
サフィ「えっと・・・」
サフィ「お昼ご飯、あとで持って行きますね!」
ピオノノ・ダイン「うん・・・ ありがとう」
サフィ「よーし!」
サフィ「あたしもいろいろ覚えなきゃ!」
アストリッド「声に出すと記憶を定着させやすいよ」
サフィ「声、ですか?」
アストリッド「海辺だと集中力が上がるって説もあるね」
サフィ「・・・海」
アストリッド「波の音で雑音がかき消されるらしい」
アストリッド「ま、わたしには必要ない手法だけど」
サフィ「一緒に行ってくれるんですか?」
アストリッド「こいつがね」
サフィ「やった!」
サフィ「準備してきまーす!」
アストリッド「エレメンタル」
アストリッド「有事のときは、おまえが対処しろ」
エレメンタル「命令を承認しマシタ」
サフィ「お待たせー!」
サフィ「どうかしました?」
アストリッド「別に」
アストリッド「さっさと出発したら?」
サフィ「はーい」
サフィ「お昼には戻りまーす!」

〇森の中の小屋
アストリッド「どこに置いたっけな」
アストリッド「・・・ここじゃないか」
アストリッド「こっちか・・・?」

〇薬屋
アストリッド「これにも記述がない、か」
アストリッド「こっちの資料は・・・」
アストリッド「1004年5月」
アストリッド「インタリオ氏の臨床研究によると スペルロイドに──」
アストリッド「・・・インタリオ?」

〇森の中の小屋
アストリッド「なんだ、おまえか」
アストリッド「また面倒ごとでも持ってきたの?」
マーサ・ミラー(島民)「持ってきたのは、これです!」
マーサ・ミラー(島民)「おいしく作れたから、おすそわけ」
アストリッド「それはどうも」
アストリッド「ま、入れば」

〇おしゃれな居間
マーサ・ミラー(島民)「魔王様、悩みがあるの?」
マーサ・ミラー(島民)「頭を使うと甘いものが欲しくなるって 前、言ってましたよね?」
アストリッド「当たらずしも遠からずってとこかな」
アストリッド「誰かさんたちの代わりに 脳を働かせなきゃならないからね」
マーサ・ミラー(島民)「相談、乗りますよ」
マーサ・ミラー(島民)「日ごろのお礼です!」
アストリッド「わたしにわからないことが おまえにわかるとは思えないけど」
マーサ・ミラー(島民)「確かにそうですけど」
マーサ・ミラー(島民)「人に話したら、考えを整理できるかも」
アストリッド「ま、試行の価値はあるか」

〇海辺

〇おしゃれな居間
マーサ・ミラー(島民)「・・・ピオくんとサフィちゃんが?」
アストリッド「ここのところ、妙に挙動不審でね」
アストリッド「医学書を見る限り 該当する症状はなかったけど」
アストリッド「医学には明るくないから 病気じゃないとも言い切れない」
マーサ・ミラー(島民)「あの、魔王様?」
アストリッド「可能性が高いのは 消化器系の感染症か」
アストリッド「一度、王都で治療を受けないと 潔白の証明は到底、不可能・・・」
マーサ・ミラー(島民)「魔王様!」
マーサ・ミラー(島民)「それ・・・ 病気じゃないですよ」
アストリッド「心拍数の上昇、瞳孔の散大 集中力と注意力の低下・・・」
アストリッド「特定の人物との接触でのみ 顕著に現れる、これらの症状が──」
アストリッド「病気じゃないなら、なんなの?」
マーサ・ミラー(島民)「わ、わからないんですか?」
マーサ・ミラー(島民)「・・・ほんとに?」
アストリッド「もったいぶらずに教えなよ」
マーサ・ミラー(島民)「それって完全に──」
マーサ・ミラー(島民)「恋―― じゃないですか?」

次のエピソード:chapter13 神々の審判

コメント

  • 真顔で「消化器系の感染症…」と呟くアスさん……ダメだ、状況がオモロかわゆいです😇
    サフィちゃんの「じゃ、あたしも(ジャム)たくさん付けるぅ」が、ゆるCuteでした……おぉ、たくさん付けなさい(菩薩笑み😇)

    メイン組が可愛い中、それよか幼い感じのジュリナタ組の、この不穏な応酬よ……。幼女の口から「茶番に付き合ってられない」なんて出るの何気に衝撃的ですね…。

    あの暗殺者立ち絵、いいですよね😆

  • ダイン家では嵐が吹き荒れるような大騒乱、そして、ピオくんとサフィちゃんの心の中も乱れに乱れていますね…🥰 しかも、アストリッドさんの知識が及ばない唯一の分野で😊せめて医学書に「不治の病」の一例として書いてあれば、アストリッドさんもこのような残念なお姿を晒さずに済んだのに…😂

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