いわく鑑定士

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〈熱し過ぎを許さない〉温度計(脚本)

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〇時計台の中
鑑定士「この世には〈いわく〉を抱えた呪いの品が存在します」
鑑定士「私は、そんな〈いわく〉付きの品専門の鑑定士」
鑑定士「さて、本日の〈いわく〉は、一体おいくらになるのでしょうか・・・」

〇時計台の中
鑑定士「温度計、ですね」
覚(さとる)「言っとくが、俺は悪くないからな!?」
覚(さとる)「ほんの一言、本当の事を言ってやっただけだ」
鑑定士「お聞かせください」
鑑定士「この温度計にまつわる〈いわく〉を──」

〇黒

〇おしゃれなキッチン(物無し)
平田 温子(ひらた あつこ)「美味しく健康!」
平田 温子(ひらた あつこ)「あつこの12分クッキングー!」
  あっちゃんがんば
平田 温子(ひらた あつこ)「あ、ありがとうございます!」
平田 温子(ひらた あつこ)「えっと、今日は豚の生姜焼きを作りまーす」
  平凡すぎw
平田 温子(ひらた あつこ)「えー?でもほら、基本は大事だから!」
平田 温子(ひらた あつこ)「えーと何だっけ──あ、そうだ」
平田 温子(ひらた あつこ)「まずタレから作っていきまーす」

〇綺麗なリビング
平田 温子(ひらた あつこ)「再生回数」
平田 温子(ひらた あつこ)「たった25回──」
覚(さとる)「そりゃなぁ」
平田 温子(ひらた あつこ)「なんで?何がダメなの~?」
覚(さとる)「いや、コメントで言われてんじゃん」
覚(さとる)「生姜焼きとか平凡なモン需要無いだろ」
平田 温子(ひらた あつこ)「でも温かくて体にいいものを──」
覚(さとる)「てか12分クッキングって何よ」
覚(さとる)「微妙にも程があんだろ」
平田 温子(ひらた あつこ)「で、でも実際それくらいかかるから」
覚(さとる)「全てが半端なんだよ」
平田 温子(ひらた あつこ)「うぅ~」
平田 温子(ひらた あつこ)「料理インフルエンサーへの道は遠いなぁ」
平田 温子(ひらた あつこ)「で、でも!今日の料理はバッチリ成功させるから!」
平田 温子(ひらた あつこ)「何たって覚の誕生日のご馳走だもんね!」
覚(さとる)「頼むぜ」
覚(さとる)「そのために朝飯抜いてきたんだからさ」
平田 温子(ひらた あつこ)「任せて!今日のために外国製の性能いいコンロに替えたんだから!」
平田 温子(ひらた あつこ)「見ててよ!A5ランク最高級和牛ステーキ、完璧に仕上げるよ!」

〇おしゃれなキッチン
平田 温子(ひらた あつこ)「準備万端!」
平田 温子(ひらた あつこ)「覚にいい所見せるぞー!」
平田 温子(ひらた あつこ)「あれ?」
平田 温子(ひらた あつこ)「火力が安定しない」
平田 温子(ひらた あつこ)「このコンロどうなって──」

〇綺麗なリビング
覚(さとる)「おいおい、大丈夫か・・・?」
平田 温子(ひらた あつこ )「あーーー!?」

〇綺麗なリビング
平田 温子(ひらた あつこ)「み、見た目はちょっとアレだけど、味はきっと大丈夫だから!」
覚(さとる)「いやー、これは・・・」
覚(さとる)「見た目通りの味だな・・・」
覚(さとる)「俺が断然レア派だって知ってるよね?」
平田 温子(ひらた あつこ)「ご、ごめん──」
覚(さとる)「これじゃ料理インフルエンサーなんて難しいと思うぜ」
覚(さとる)「こんな焼き過ぎるくらいなら、冷たいまま出された方がマシなんだよ」
平田 温子(ひらた あつこ)「ごめんね──」
覚(さとる)「まあ、やっちまったモンをグチグチ言っても仕方ねぇ」
覚(さとる)「もういいや、ピザでもとってよ」
平田 温子(ひらた あつこ)「──うん」

〇綺麗なリビング
覚(さとる)「ふぅ~ 食った食った」
平田 温子(ひらた あつこ)「せっかくの誕生日だったのにごめんね」
平田 温子(ひらた あつこ)「次は上手くやるから」
覚(さとる)「いや、そういうのもういいから」
覚(さとる)「次はモノのプレゼント豪華にしてくれればさ」
平田 温子(ひらた あつこ)「で、でも私は料理も──」
覚(さとる)「いま腹一杯だから飯の話はちょっと・・・」
平田 温子(ひらた あつこ)「あ、ご、ごめん」
平田 温子(ひらた あつこ)「とにかく、次までにちゃんとするから!」
覚(さとる)「ハイハイ」

〇中規模マンション

〇綺麗なリビング
平田 温子(ひらた あつこ)「それであの後、秘密兵器を買ったんだ!」
覚(さとる)「いや、埋め合わせとかいらねーってのに」
平田 温子(ひらた あつこ)「今度こそちゃんとレアで焼くから!」
覚(さとる)「で、秘密兵器ってのは?」
平田 温子(ひらた あつこ)「ジャーン!」
覚(さとる)「体温計?」
平田 温子(ひらた あつこ)「料理用の温度計だよ!」
平田 温子(ひらた あつこ)「料理毎の適温を教えてくれるんだって」
平田 温子(ひらた あつこ)「これなら失敗しないでしょ?」
覚(さとる)「つーか、この前みたくなるの不安だから、さっき軽く食ってきちゃったよ」
覚(さとる)「あんま腹減ってないんだけど」
平田 温子(ひらた あつこ)「え・・・」
平田 温子(ひらた あつこ)「でもほら、前回と同じ最高級のステーキだから!」
平田 温子(ひらた あつこ)「少しくらいなら食べれるでしょ」
覚(さとる)「はぁ」

〇おしゃれなキッチン
平田 温子(ひらた あつこ)「もう絶対に失敗できない」
平田 温子(ひらた あつこ)「覚に見放されちゃう」
平田 温子(ひらた あつこ)「お願い、もう二度と焼き過ぎないように──!」
平田 温子(ひらた あつこ)「──よしっ!」
平田 温子(ひらた あつこ)「え、もう?」
平田 温子(ひらた あつこ)「早過ぎない!?」
覚(さとる)「おーい、ピーピー鳴ってるけど大丈夫か!?」

〇綺麗なリビング
覚(さとる)「ブツブツ言ってないで集中してくれよ」
覚(さとる)「また焼き過ぎとか、さすがにゴメンだぜ!?」

〇おしゃれなキッチン
平田 温子(ひらた あつこ)「──」
平田 温子(ひらた あつこ)「そうだ、焼きすぎるくらいなら冷たいままの方がマシ──」
平田 温子(ひらた あつこ)「よし──温度計を信じるッ!」

〇綺麗なリビング
覚(さとる)「──」
覚(さとる)「う──」
覚(さとる)「美味ぁー!?」
平田 温子(ひらた あつこ)「え!」
覚(さとる)「すげぇ! 表面に香ばしさを纏いつつ中はしっかりレアの新鮮さを閉じ込めてて」
覚(さとる)「完璧な焼き加減だよ!今まで食ったステーキで断トツ一番だ」
覚(さとる)「これなら毎日でも焼いて欲しいぜ!」
平田 温子(ひらた あつこ)「覚──!」
平田 温子(ひらた あつこ)「この温度計が教えてくれたから、こないだ覚に言われた事を思い出して上手く焼けたの」
平田 温子(ひらた あつこ)「まだたくさんあるから!どんどん食べてね!」

〇おしゃれなキッチン

〇綺麗なリビング
覚(さとる)「美味っっ!」
平田 温子(ひらた あつこ)「温度管理に気を付けてみたんだ」
覚(さとる)「カレーってそんな事でこんな美味くなるの?」
覚(さとる)「すげぇ芳醇で深みがあって──」
覚(さとる)「お前、やっぱ料理の才能あるわ!」
平田 温子(ひらた あつこ)「あ、ありがとう──!」
平田 温子(ひらた あつこ)「覚が教えてくれたんだもんね」
平田 温子(ひらた あつこ)「熱し過ぎるくらいなら冷たい方がマシだって」
覚(さとる)「ん?」
覚(さとる)「あぁ──まあそんな事も言ったかな」
平田 温子(ひらた あつこ)「やっぱり今まで全部、熱し過ぎがいけなかったんだ」
平田 温子(ひらた あつこ)「これからはもっともっと細かく温度管理して頑張るね!」

〇黒

〇おしゃれなキッチン(物無し)
平田 温子(ひらた あつこ)「熱し過ぎないのがいい料理!」
平田 温子(ひらた あつこ)「あつこの温度管理クッキングー!」
  最初のセリフ変えた?
平田 温子(ひらた あつこ)「うん、『熱し過ぎないのがいい料理』」
  語呂悪っww
  意味もわからんし
平田 温子(ひらた あつこ)「これでいいの」
平田 温子(ひらた あつこ)「熱し過ぎるくらいなら冷たい方がマシだから」
  ますます意味ワカンネ
  なんか怖・・・
平田 温子(ひらた あつこ)「じゃあ、材料を切っていくけど」
平田 温子(ひらた あつこ)「この時、人参は20℃、じゃがいもは21℃を保つようにします」
  え?温度管理って、そこから!?
平田 温子(ひらた あつこ)「温度が上がり過ぎたら少し冷ましてください」
  待って意味わからん
平田 温子(ひらた あつこ)「20℃に戻ったので人参の続きを切りまーす」
  マジで言ってんの?
  これは新しい

〇黒

〇綺麗なリビング
平田 温子(ひらた あつこ)「再生数」
平田 温子(ひらた あつこ)「たった1週間で3万回!?」
  動画の通りに温度守ったら、信じられないくらい美味くなった!
  面倒だけど、これ絶対やった方がいい
  斬新すぎて見てるだけで面白い
覚(さとる)「スゲー人気じゃん!低評価も全然付いてないし」
覚(さとる)「これなら料理インフルエンサーも夢じゃないな」
平田 温子(ひらた あつこ)「うん──」
平田 温子(ひらた あつこ)「覚のおかげだよ」
平田 温子(ひらた あつこ)「熱し過ぎは絶対にダメだって教えてくれたもんね」
覚(さとる)「あ?あぁ」
平田 温子(ひらた あつこ)「これからも覚の教えを守って頑張るよ」
覚(さとる)「まあ、俺も舌は肥えてる方だからさ」
覚(さとる)「また困ったらアドバイスくらいしてやるよ」

〇大きいデパート
  半年後

〇本屋
覚(さとる)「すんませ~ん、この本置いてます?」
覚(さとる)「平田 温子の『徹底温度管理クッキング』」
ショップ店員「はい、そちらの特設コーナーに」
覚(さとる)「特設かぁ~凄いっスね」
ショップ店員「大変好評ですよ」
覚(さとる)「SNSのフォロワーも10万人超えたし こないだはテレビにも出てたし」
ショップ店員「はあ」
覚(さとる)「ま、俺の彼女なんですけどね!」
ショップ店員「えぇ!本当ですか」
ショップ店員「あんな人気者が恋人なんて、幸せですね!」
ショップ店員「私の周りにも温度管理クッキング実践してる子、たくさんいますよ!」
覚(さとる)「ま、あいつに温度管理の大切さを教えてやったのも俺なんですけどね」
ショップ店員「は、はあ・・・」

〇中規模マンション

〇綺麗なリビング
覚(さとる)「──とはいえ」
覚(さとる)「お~い温子! まだできねぇの!?」
平田 温子(ひらた あつこ)「今話しかけないで!」

〇おしゃれなキッチン
覚(さとる)「つってもう2時間も──」
平田 温子(ひらた あつこ)「99.91──」
覚(さとる)「な、何ブツブツ言ってんだよ」
覚(さとる)「聞いてんのか!?」
平田 温子(ひらた あつこ)「99.92──」
覚(さとる)「お、おい──」
平田 温子(ひらた あつこ)「99.93℃をキープしなきゃいけないの」
平田 温子(ひらた あつこ)「それを超えたら全て台無しになる」
覚(さとる)「はぁ?そんなの家のコンロじゃ無理だろ」
覚(さとる)「もういいから──」
平田 温子(ひらた あつこ)「黙ってて」
平田 温子(ひらた あつこ)「もう出来るからあっち行ってて」
覚(さとる)「──チッ」
平田 温子(ひらた あつこ)「熱し過ぎるくらいなら冷たい方がマシなんだから──」

〇綺麗なリビング
平田 温子(ひらた あつこ)「お待たせ」
平田 温子(ひらた あつこ)「食べてみて」
覚(さとる)「う、美味あーっっ!」
覚(さとる)「信じられないくらい美味い これなら時間かかっても我慢できるわ」
平田 温子(ひらた あつこ)「でしょ?」
覚(さとる)「つーか、よく見たらやけに薄着じゃね?寒くねぇの?」
平田 温子(ひらた あつこ)「私の体温は25.7℃がベストだから ちょっと調整してるの」
覚(さとる)「いいからちょっと隣座れよ 俺が温めてやるよ」
平田 温子(ひらた あつこ)「──うん」
覚(さとる)「なぁ温子、俺達も付き合ってもう長いだろ」
平田 温子(ひらた あつこ)「うん」
覚(さとる)「最近のお前の料理、マジで美味いしさ」
覚(さとる)「毎日食いたいと思ってるんだ」
平田 温子(ひらた あつこ)「──うん」
覚(さとる)「お前もインフルエンサーになって収入に余裕もできてきたし」
覚(さとる)「俺達、そろそろ一緒に住まないか?」
平田 温子(ひらた あつこ)「覚──」
覚(さとる)「つーかさっきから何か鳴ってねぇ?」
平田 温子(ひらた あつこ)「・・・」
平田 温子(ひらた あつこ)「私達、ちょっと熱くなり過ぎね」
覚(さとる)「はぁ?」

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コメント

  • 色々な温度を管理できる温度計!
    料理のみならずSNSの炎上や人気、愛情、体温まで管理してしまう言葉遊びが楽しい☺️
    温度管理に取り憑かれていく狂気や彼氏のクズっぷりも面白かったです。

  • 冒頭の匂わせから終わりまりで、隙のないストーリーでいつもながら素晴らしいです。
    温度管理クッキングがリアルにバズりそうなのがいいですよね。実際に真似するのは凄く大変そうですけど(笑)

  • プロジェクト、お疲れ様です
    澤井さんの言葉遊び力が、存分に活かされたお話だと思っています👏
    YouTube版を一緒に見ていた身内が「彼氏がムカつく!」と見事ヘイトを向けていました😅

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