いわく鑑定士

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〈長生きできる〉健康サンダル(脚本)

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〇時計台の中
鑑定士「この世には〈いわく〉を抱えた 呪いの品が存在します」
鑑定士「私はそんな〈いわく〉付きの品専門の鑑定士」
鑑定士「さて、本日の〈いわく〉は、 一体おいくらになるのでしょうか・・・」

〇時計台の中
老人「ほらよ」
鑑定士「健康サンダルですね」
鑑定士「それでは、この品にまつわる〈いわく〉を お聞かせください」
老人「はぁ・・・ あんまり思い出したくないんだがな・・・」

〇病室のベッド
平蔵「キヌ! おいキヌ!」
キヌ「ぅ、ぁ・・・」
健太「母さん・・・」
平蔵「キヌ! お前、ついこの間 還暦を迎えたばかりじゃないか!」
平蔵「わしのほうが10も上なのに 先に逝くなんて許さんぞ!」
キヌ「・・・は」
平蔵「なんだ!? 何がほしい!?」
キヌ「瞬、ちゃん・・・」
平蔵「瞬! ちょっとこっち来なさい!」
瞬「やだ・・・こわい・・・」
平蔵「瞬!」
キヌ「平蔵、さん」
平蔵「ッ!」
キヌ「生きて、瞬ちゃんを」
キヌ「可愛がって・・・ 私の、分、ま・・・で・・・・・・」
キヌ「・・・」

〇空
平蔵「キヌ――!!」

〇火葬場

〇空

〇実家の居間
健太「とりあえず、 母さんのものは段ボールにまとめとくから」
平蔵「ああ・・・」
平蔵(なにもやる気が起きない・・・ キヌのいない人生なんてもう・・・)
瞬「おじいちゃん! お庭でかけっこしよ!」
平蔵「無理じゃよ、運動なんて・・・」
瞬「や~だ~! ほら、行くよ!」

〇昔ながらの一軒家
瞬「じゃあ、お庭を3周ね! よーいどん!」
平蔵「瞬は速いのう。 将来はマラソン選手かの・・・」
瞬「歩いちゃダメ! 本気出して!」
平蔵「これ、そんなに引っ張ったら──」
平蔵「ぐあっ!?」
瞬「おじいちゃん!?」
瞬「パパママー! おじいちゃんが!!」

〇病院の診察室
平蔵「これで生活じゃと? まるで病人じゃないか・・・」
健太「怪我人なんだから仕方ないだろ」
医者「3ヶ月の辛抱です。頑張りましょうね」
健太「だってさ!  3ヶ月すれば元通り元気に──」
医者「そのことなのですが・・・ 足腰が非常に弱ってますね」
医者「このままだと、すぐに寝たきりです」
平蔵「そんな・・・」
医者「それを防ぐためにも、回復したら無理のない範囲での運動を心がけてくださいね」
平蔵「運動・・・」

〇実家の居間
健太「・・・じゃあ俺が 毎日様子を見にくるってことで」
平蔵(息子にも迷惑をかけてばかり・・・ わしもそろそろキヌのところへ・・・)
瞬「おじいちゃん」
瞬「あのね、これ段ボールに入ってたの!」
瞬「”健康”サンダルっていうんだって!  すごいでしょ!」
平蔵「瞬・・・」
瞬「ほら、足出して」
瞬「おじいちゃん、 はやくよくなって長生きしてね!」
平蔵「・・・そうじゃな。長生きせんとな」

〇昔ながらの一軒家
瞬「よいしょ、と・・・」
平蔵「ありがと・・・ん?  急にしゃがんでどうしたんじゃ?」
瞬「健康サンダルさん、お願いします」
瞬「早くおじいちゃんの足がよくなって 一緒にかけっこできますように」
平蔵「瞬・・・」
瞬「じゃあ僕がかけっこのお手本 見せてあげるから、しっかり見ててね!」
平蔵「まったく、 元気が有り余って羨ましいもんじゃ」
平蔵「さて・・・もう病院の時間だというのに 健太は一体何をやっとるんじゃ」
瞬「パパ遅いねー」
平蔵「そうじゃのう・・・ ちょっと様子を見に・・・」
平蔵「うっ!?」
  その時、とっさに怪我をしたほうの足を
  ついてしまってな。
平蔵「ぐあぁ! 足が・・・」
瞬「おじいちゃん! 大丈夫!?」
平蔵「・・・痛く、ないぞ?」
平蔵(今ならこれなしでもきっと・・・)
瞬「わぁ! おじいちゃんが立った!」
平蔵「これはすごい・・・」
平蔵「足踏みもジャンプも・・・ まるで若い頃に戻ったみたいじゃ」
瞬「すごいすごい!」
平蔵「瞬がくれた “健康”サンダルのおかげじゃのう」
瞬「だね!」
健太「いやー、すまん。 渋滞に捕まっちゃって・・・」
健太「ええっ!? 親父!?」

〇病院の診察室
医者「なんということだ・・・」
健太「先生、どうですか?」
医者「いやあ、驚異の回復力としか言いようがないですね! まさに奇跡ですよ!」
瞬「やったあ!」
医者「平蔵さん、この調子で頑張りましょうね!」
平蔵「は・・・はい!」

〇昔ながらの一軒家
平蔵「お天道様とはこんなにも 気持ちのいいものじゃったか」
平蔵「おや、こんなところに花が・・・ 雑草にも花は咲くんじゃのう」
平蔵「花、か・・・」

〇実家の居間
瞬「あれっ? お花があるー!」
平蔵「じいじが育てたんじゃよ」
瞬「へぇー! すごーい!」
平蔵「不思議よのう。 これを見てると心が落ち着くんじゃ」
瞬「おじいちゃんが、ちゃんと笑ってる・・・」
平蔵「ん?」
瞬「おばあちゃんがお星さまになってから、 ずっと痛そうな顔してたから」
平蔵「・・・確かに、 足よりも心が痛かったんじゃのう」
瞬「まだ痛いの?」
平蔵「いいや。もう大丈夫じゃよ」

〇昔ながらの一軒家
  それからは、毎日のように庭に出てたよ。
平蔵「よっこいせ・・・と」
瞬「何してるの?」
平蔵「畑を作るんじゃよ」
瞬「ええっ! すごーい!」
平蔵「栄養満点の野菜を ご馳走してやるから待っとれよ」

〇昔ながらの一軒家
平蔵「ふんっ、ふんっ♪」
瞬「あっ、おじいちゃんいたー!」
平蔵「おっ、瞬もラジオ体操するか?」
瞬「濡れちゃうよー」
平蔵「カッパを着れば大丈夫じゃよ」
健太「親父!  なんでこんな雨の中、外にいるんだよ!」
平蔵「雨にも負けず、風にも負けず♪」
健太「せめて長靴くらい履けばいいのに・・・」

〇実家の居間
瞬の声「あ、おじいちゃん?」
瞬の声「あのね、明日は大雪だから コタツに入ってろってパパが」
平蔵「何を言っておる。 雪が降るなら雪かきをせんといかんじゃろう」
瞬の声「でも危ないんだってー」
平蔵「大丈夫じゃよ。わしには健康サンダルが あるからの。それじゃあ」
平蔵「さあて・・・そうじゃ、 ついでに部屋の模様替えでもするかのう」

〇昔ながらの一軒家
平蔵「ほーれ、高い高ーい」
瞬「ちょ、おじいちゃんやめてよー。 僕もう小学生なんだよ?」
平蔵「そうかそうか。 じゃあ・・・もっと高い高ーい」
瞬「わぁ!」
健太「親父、あんまり無理すると・・・」
健太「いや、そんなに動けるなら心配ないか・・・」
平蔵「ほっほっほ。 健太も少しは運動したらどうじゃ」
健太「はは・・・」

〇昔ながらの一軒家
瞬「じいちゃん、散歩?」
平蔵「ウォーキングじゃよ。 この庭はわしには狭すぎるからの」
瞬「へー。・・・ついてってもいい?」
平蔵「わしについてこられるかの」
瞬「俺これでもクラスで一番速いんだけど」
平蔵「よおし、じゃあじいじと競争じゃ」

〇住宅街の道
瞬「はっ・・・はっ・・・」
平蔵「ほっ・・・ほっ・・・」
小川「あら! もしかして、永山さん?」
平蔵「ああ、小川さん。ご無沙汰しております」
小川「車椅子だったときが嘘みたいね」
平蔵「ふぉっふぉっ。そんな昔のこと」
瞬「この通り、元気すぎるくらいですよ」
小川「あなた、瞬ちゃんよね?  いくつになったの?」
瞬「この春、中学生になりました」
小川「すっかり大きくなって・・・ おじいちゃんそっくりね」
瞬「えぇ、そうですかね?」
平蔵「健脚も似るといいんじゃがの」
瞬「いやさすがに本気出せば勝てるし・・・」
平蔵「そうかそうか。じゃあ今度の市民マラソンで決着といこうかのう」

〇競技場のトラック
インタビュアー「永山さん、和久井市民マラソンシニア部門 殿堂入り、おめでとうございます!」
平蔵「来年もエントリーするからの!」
インタビュアー「毎年お孫さんと参加されてるとのことですが」
平蔵「わしの足元にも及ばんがのう」
瞬「・・・」
インタビュアー「練習ではどんなことを?」
平蔵「特別なことはしておらんよ。ただ・・・」
インタビュアー「トレードマークの健康サンダルですね!」
平蔵「さよう。これを毎日履く! 以上!」
インタビュアー「なるほど〜・・・ お孫さんにも質問よろしいですか」
瞬「あ、はい・・・」
インタビュアー「今や「孫よりも元気なおじいちゃん」として有名人になってしまった平蔵さんに何か一言」
瞬「・・・じいちゃんは、俺の自慢の祖父だよ」
平蔵「そうじゃろうて。いやあ、 やっぱり長生きはするもんですな!」
カメラマン「撮りますよー! はい、チー・・・」
平蔵「はい、健康!」

〇葬儀場
瞬「うぅ、なんで・・・」
瞬「やっと俺の結婚が決まって、 あんなに喜んでたじゃないか・・・」
平蔵「嫁に続いて健太まで・・・」
平蔵「あれほど健康には気をつけろって 言ったのにのう・・・」
瞬「・・・っていうか、なんだよそれ」
平蔵「ん? もちろん健康サンダルじゃが?」

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コメント

  • 公開おめでとうございます
    ラストの驚きといわくの相性がとても良く、アイデアの時から印象的な作品でした。
    編集長のアドバイスの度にエピソードが深まり、平蔵爺さんの『やりすぎ』がとても嫌な気持ちに持っていかれましたね😅

  • 最初は持ち主が売りに来たのかと思ったら実は孫だったという展開すごく面白いです。
    最初は純粋に健康を願っていたのに段々と鬱陶しい存在になり、干渉してきて……。
    人間の心理を描いて作品でとても素敵だと思いました。

  • 花は枯れるから美しい…人の寿命と健康もそんな風に思います。衰退すると同時に新しい生命が輝きを増す。長生して、太々しくなるのは猫と老婆だけで充分ですね🤭枯れる事の大切さが分かる素晴らしい作品でした!

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