エピソード7(脚本)
〇湖畔
???「こんばんわ、コレクターのお二方。 よかったらこちらで休んでいかれませんか?」
商人は、人の好(よ)さそうな笑顔で朗(ほが)らかにニルとアイリに声をかける。
ニル「はい。ニルと言います」
アイリ「アイリよ。邪魔するわ」
???「アイリ・・・というと、もしかしてアイリ・バラーシュさんですか?」
アイリ「ええ」
アイリが頷(うなず)くと、彼は驚いた顔をして深くアイリに一礼した。
???「申し遅れました、私(わたくし)、ファーレン商会副支配人のジョルジュ・ファーレンと申します」
ジョルジュ「お噂はかねがね。私が若いころ、アイリさんのお父上には大変お世話になりました。」
ジョルジュ「お元気でいらっしゃいますか?」
アイリ「ああ、ファーレン商会だったのね」
アイリ「ありがとう。 けど父は何年も前に亡くなったの」
ジョルジュ「そう・・・ですか。 お悔やみを」
アイリ「気をつかわないで。 もう昔のことよ」
そう言ってアイリは小さく微笑む。
その瞳はどこか空(くう)を見つめていた。
ジョルジュ「そちらの方はニルさんですね、失礼ながら存じ上げませんでした」
ジョルジュ「アイリさんのパーティメンバーなら、さぞ実力のあるかたかと思いますが」
アイリ「それもそのはずよ。コレクターになってからまだ、何日も経っていないもの」
ね、とアイリはニルを振り返る。
視線を受けたニルは、照れたように頭を数回掻(か)いた。
ニル「へへ・・・まだ中級なので、覚えてもらうようなコレクターじゃないですし」
ジョルジュ「なんと! ということは・・・いきなり中級になった例の新人コレクター」
ジョルジュ「メルザムのギルド周辺の人間は、あなたの噂で持ちきりですよ」
ニル「へっ? そうなんですか?」
ジョルジュ「ええ。いきなり中級になったのは伝説のコレクター、ギルバード以来ですから」
ニル(ギルバード? ・・・ってまさか・・・)
ニルの脳裏に、とある人物の顔がよぎる。
ニル(うちのギルのこと・・・なわけないか。 あのぐうたらが“伝説”なんて・・・)
ニル「そんな、ラッキーだっただけですよ」
アイリ「・・・・・・」
ニルは笑顔でジョルジュに言葉を返した。
そんなニルを、不審そうに見つめるアイリ。
ジョルジュ「またまた、ご謙遜を (けんそん)を。 アイリさんとパーティを組んでいるのが、なによりの証拠でしょう」
ジョルジュ「ニルさんがネームドを倒したなんて噂も出回ってたくらいなんですから」
ニル「は・・・はは・・・」
ジョルジュ「では、お二方、以後お見知り置きを。 このファーレン商会をよろしくお願いします」
ジョルジュ「朝方にはハイドンへ向けて出発しますが、それまでは護衛を見張りに立てておきますので、ごゆっくりお休みください」
アイリ「お言葉に甘えておくわ」
ニル「ありがとうございます」
〇湖畔
パチパチと火花の散る音が、静かな森の中に響く。
空から降り注ぐ月光が周囲を照らし、夜にしてはずいぶんと明るい。
山菜たっぷりのスープを口に運びながら、ニルはふと、アイリに質問した。
ニル「ねえ、アイリ。 さっきの人・・・ジョルジュさん」
ニル「ファーレン商会って言ってたけど、まず、商会ってなんなの?」
んー、とアイリは考える素振(そぶ)りを見せる。
アイリ「商会って言っても様々だけど・・・」
アイリ「ファーレン商会は、ギアーズ資源専門で取引するギルド御用達(ごようたし)の連中よ」
アイリ「コレクターが集めたパーツをギルドからまとめて買い上げて、ギザン同盟やハイドン帝国とか色々なところに運んで売りさばくの」
ニル「へえ・・・」
アイリ「ギアーズのパーツの多くはメタリアルが含まれてて、溶かして抽出すれば武器以外にも色々なものに使えるのよ」
アイリ「もちろんパーツ自体が特別な価値を持つものもあるわ」
アイリ「まあつまり、彼らも私たちもお互いのおかげで仕事が成り立ってるってわけ」
ニル「よく分からないけど・・・仲良くしておいたほうがお互いにとっていいってことかな」
アイリ「ふっ、まあそうね」
ごちそうさま、とアイリがお椀(わん)を脇に置く。
アイリ「それじゃ、私は向こうで水浴びしてくるから」
ニル「あ・・・うん」
アイリ「のぞいたら承知しないからね」
ニル「・・・・・・」
声から伝わる圧力に、ニルは黙って首を縦に振った。
〇湖畔
アイリ「はあ・・・」
ファティマ湖のすぐそばにある川で水浴びをしながら、アイリはため息を吐いた。
昼間の出来事を思い出し、疑問に思う。
アイリ(・・・なんで右腕を使わなかったんだろう)
ネームドを倒したニルにとって、ラウルガなど敵ではないはずだ。
しかし、ニルは今日の戦闘で危うく死ぬところだった。
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