〇荒廃した教会
「ルールルー♪」
「ルルルー♪」
「ルールールル・・・」
「いや、もう一度 ルールルーだっけ・・・」
ミリオン「ルールルー・・・♪」
　　荒れ果てた聖堂で、仰向けに寝転んでいるミリオン。
ミリオン「・・・」
ミリオン「うーん」
ミリオン「メロディーはこれで合っていると 思うんだけどなー」
ミリオン「でも、ここから先がどうしても・・・」
ミリオン「皆はどう思うー!?」
ミリオン「・・・」
ミリオン「・・・」
ミリオン「あ、僕しかいないんだった」
ミリオン「・・・よしっ もう一度初めから・・・」
ミリオン「ルールルー・・・♪」
ミリオン「・・・♪」

〇荒廃した教会
　　降りだした雨が
　　崩れた天井を通り抜けて──
　　聖堂の床に落ちて
　　ぽつぽつと音を立てる。
ミリオン「ルールル♪」
ミリオン「ル―ルール―・・・」
ミリオン「・・・」
ミリオン「えーっとえーっと・・・」
ミリオン「そう、ここから、ここからなんだよ！」
ミリオン「ここからなんだけど、 難しいというかなんというか・・・」
ミリオン「なんだか、複雑？ いや、そう聴こえて実は単純で・・・」
ミリオン「・・・もっと」
ミリオン「・・・もっとメモリーをたどって」
ミリオン「・・・」
ミリオン「・・・」
ミリオン「そう、もっと大胆だった・・・」
ミリオン「はじけ飛びそうなテンポで・・・」
ミリオン「ボディーにガンガン響く・・・」
？？？「何やってんだよ」
ミリオン「・・・」
ミリオン「・・・」
ミリオン「・・・」
ミリオン「・・・えっ？」
ミリオン「・・・」
ミリオン「あー・・・」
ミリオン「ごめん、うるさかった？」
カリン「・・・あんた、”ミリオン”？」

〇荒廃した教会
　　ギュッ・・・
　　ギュッ・・・
カリン「よし・・・ 固定はこんなもんか」
　　ミリオンを助手席に乗せて、ロープで念入りに縛るカリン。
ミリオン「いやー楽しみだなー！ 何処に連れていってくれるの？」
ミリオン「23年間あそこから動けなかったからさー ずーっと寝そべったままで」
ミリオン「動力はまだ尽きないみたいだから 行き先がどんなに遠くても 大丈夫だよ！」
ミリオン「君にお礼をしたいけど ご覧の通り腕も脚もピクリとも 反応しなくなって・・・」
ミリオン「故障したら回収ユニットが メンテナンスに連れていってくれるけど 僕より先にイカれちゃったらしくて あっ名前なんて言うの？」
カリン「うっせぇ」
ミリオン「あははっ！良い車だね！」
カリン「・・・」
カリン「ちっ・・・」
　　顔をしかめたカリンが
　　運転席に乗り込み、
　　車のエンジンをかける。

〇荒野
　　聖堂を勢いよく飛び出し、荒地を走り抜ける車。
　　凹凸だらけの悪路が
　　車体を激しく揺らす。
ミリオン「Woot！」
ミリオン「ははっ、大丈夫かい!?」
カリン「・・・!?」
カリン「何が!?」
ミリオン「濡れたままにすると 身体に良くないと思うよ！ もうすぐ止むけどね！」
ミリオン「この辺りには何も無いみたいだから、 君の行き先は近くないでしょ？」
ミリオン「おまけに、ほら！ 久し振りに外に出たけど 思った通り、道が荒れ放題だ！」
ミリオン「急がなくても、旅は逃げないよ！」
カリン「・・・!?」
カリン「～～～ッ！」
カリン「アンタねぇ！ 今自分がどんな状況に置かれているか 分かってないみたいだけど！」
カリン「私はガラクタ漁りで！ アンタを「一人前の証」にするために──」
カリン「「キャンプ」に着いた後は アンタをスクラップにでもしようと 考えているのよ!?」
カリン「”ミリオン”は 人間に似通い過ぎて不気味だって 聞かされてきた──」
カリン「遺物として伝説級に貴重だって 教わった！」
カリン「しかもアンタは──」
カリン「まだ話せて、歌える！ 「証」にはこれ以上ない素材ってワケ！」
カリン「ほかのガラクタ漁りに 知られたくないから急いでいるの！ 分かった!?」
カリン「運転中に話しかけないで！ 調子狂うんだよ！」
ミリオン「・・・」
カリン「これだからロボットは・・・！」
ミリオン「・・・驚いた！」
ミリオン「今でも ”僕ら”のことを知る人たちがいるなんて！」
ミリオン「感激！ ますます楽しくなってきた！」
カリン「ハァ!?」
カリン「・・・ああ、もういい！ どうぞ楽しんで！」
ミリオン「ミリオンって呼んで！ あ、好きな名前をつけてもいいよ！」
カリン「はいはい、カリンよ！　 よろしく！」
ミリオン「あっ、カリン！」
カリン「何だよ！」

〇荒野
　　雨雲が風に流されて、
　　星空が
　　ふたりの頭上に現れた。
　　その美しさに見惚れて、
　　カリンの足はアクセルペダルから
　　いつの間にか離れていた。
カリン「・・・」
ミリオン「止むって言ったでしょ 計算してみたんだ」
カリン「・・・そう」
ミリオン「ふふっ・・・」
ミリオン「ああ、綺麗だな」
カリン「・・・え」
カリン「・・・アンタ、「綺麗」って分かるの？」
ミリオン「・・・」
カリン「・・・」
カリン「おい、無視かよ・・・」
カリン（・・・）
カリン（ロボットが「綺麗」って言うなんて・・・）
カリン（コイツ、一体・・・）
　　ミリオンは、身体を縛られたまま
　　星空をじっと見上げている。
ミリオン「本当に」
ミリオン「本当に綺麗だな・・・」

〇数字
　　見つけた
？？？「!!」
　　予想通り
　　彼は
　　誰かと行動を共にすることにしたみたい
？？？「・・・」
？？？「外部からの情報解析は 遮断されているはずでは・・・？」
　　僕が確認できるのは
　　「権威」が誰かに移行したという
　　事実だけ
　　ここまで長かったね
　　ようやく君に
　　役目を与えることができる
　　先ずは目的を阻む者達の
　　実力排除も想定した
　　探査からかな
？？？「はい」
？？？「”人間”と同じ行動であるなら 是非とも」
？？？「元より、それが私の役目です」
　　無論
　　彼の目的は
　　権威を移行させた人物の先導
　　形はどうであれ
　　必ず”ここ”に来る
　　君のように
　　外世界の観測を優先するかも
　　知れないけどね
？？？「私といたしましては」
？？？「技術も文化も未成熟な状態のまま 群体を形成し、 本能に突き従う」
？？？「この星の人間たちの 行動理念に大変関心があります」
　　「愚か」とは
　　言わないのだね
　　”部隊”の権威は
　　既に君に移行されている
　　彼と同様、
　　君の理念は尊重しよう
？？？「いいえ」
？？？「この精神は貴方様から 頂いたものです」
？？？「Principles are given from the sky.」
？？？「すべては”人間”達のためにあります」
　　もちろんだよ
　　それじゃあ

〇荒野
　　いってらっしゃい