第5話 本能寺さんのピンチ(脚本)
〇川に架かる橋
本能寺令「ちょっと育美ちゃん! 先生に言いつけるって、本気!?」
小柴育美「当然です! どう見てもこれはイジメですから!」
本能寺の悪行を見かねて、小柴はこれをイジメとして報告すると言い出した。
さすがの本能寺もこれは困るようで、にわかに慌て始める。
本能寺令「イジメなんかじゃない! これは私たちの問題!」
本能寺令「部外者がでしゃばらないでくれますー!?」
小柴育美「それ完全にイジメっ子のセリフですね。 実際問題、どうなんですか玉宮くん?」
玉宮守「た、助けて、助けて下さい! 俺、もう限界なんですっ!」
俺は哀れみを乞うようにひざまづくと、救いの神にすがりついた。
本能寺令「玉宮くん!? さっきまでピンピンしてたじゃん!?」
本能寺令「なんで急に死にそうな顔になってるの!?」
玉宮守(クク・・・お前の手から逃れるチャンスは今しかないからな!)
玉宮守(全力で演技して、この疫病神を取っ払う!)
小柴育美「辛かったんですね、玉宮くん・・・もう大丈夫ですよ」
小柴育美「全部私に任せて下さい」
本能寺令「育美ちゃん!? それ絶対演技だよ!?」
本能寺令「イジメなんて無い無い♪ ね?」
小柴育美「本能寺さんには聞いてません。玉宮くん」
小柴育美「辛いとは思いますが、しっかりと証言は出来ますか?」
玉宮守「はい。 あれは5月16日の16時頃のことでした」
玉宮守「僕は手紙で本能寺さんから教室に呼ばれ・・・、それが間違いの始まりだったんです」
本能寺令「急に刑事ドラマみたいに供述し始めないでー!?」
本能寺令「勝手に人を悪者にしないでよー!?」
小柴育美「どう見ても悪者です」
小柴育美「してもいない勝負の約束をでっちあげ、脅迫し、学生の本分である勉強を妨害して、玉宮くんの人生を狂わせようとしています!」
玉宮守(そうだそうだ、もっとやれ・・・!)
本能寺令「違う! 絶対にイジメなんかじゃない! 」
本能寺令「玉宮くんは覚えてないけど、勝負の約束は本当にしたの!」
本能寺は、いつになく真剣に訴えた。
小柴育美「あり得るんですか、そんな事?」
小柴育美「そもそも片方が覚えているだけでは、約束とは・・・」
本能寺令「玉宮くんにとっては大したことじゃないかもしれない」
本能寺令「でも! 私には、すごく大切な思い出なの! だから覚えてるし、忘れない!」
本能寺令「私は、どうしても玉宮くんに勝ちたくて! それでっ!」
ところどころ息を詰まらせながら、本能寺は叫んだ。
小柴育美「本能寺さん・・・」
本能寺の真剣な表情をうかがって、小柴は深く息を吐く。
小柴育美「分かりました、イジメの件は一旦保留にしましょう」
本能寺令「わぁ! ありがとう、育美ちゃん!」
玉宮守「はああああ!?」
俺は思ってもみなかった結論に絶叫する。
小柴育美「たしかに本能寺さんはとても迷惑な人です」
小柴育美「ですがそれは一旦置いておいて、玉宮くんはどうなんですか?」
玉宮守「お、俺?」
急に風向きが怪しくなって来た。
小柴は疑いの目で俺を見つめている。
小柴育美「はい」
小柴育美「勝負の約束の有無ですが、多分本当に約束した。全然記憶にないけど・・・とおっしゃいましたね」
小柴育美「つまり記憶に自信がない」
小柴育美「本能寺さんが〝絶対に約束した〟と断言するのに比べて、非常にあいまいです」
玉宮守「ぐ・・・痛いところを突くね。 本当のところは、分からない」
玉宮守「約束したかもしれないし、してないかもしれない」
小柴育美「本能寺さんが言ってたさっきの──」
小柴育美「日本って小せえよなあ、とかは、本当に言ったんですか?」
玉宮守「ぐぐぐぐ、それは言った」
玉宮守「色んな所で言いまくってて、どこで言ったか思い出せないぐらい・・・」
小柴育美「どういうことです?」
冷や汗がダラダラと出てくる。
だがここまで喋ってしまったからには後には引けない。
俺は観念して話し出した。
玉宮守「な、なんというかさ」
玉宮守「俺、小学校の頃は神童って呼ばれてて、めっちゃ調子に乗ってたんだよね・・・」
小柴育美「調子に乗ってたって、どれぐらい?」
玉宮守「世界が自分を中心に回っていると思って、他人を見下しまくってた」
小柴育美「すっごくイヤな人ですね!?」
グサリ
玉宮守「そう、そうなんだよ。 だけどある時思い知ったんだ」
玉宮守「結局俺は神童なんかじゃなく、凡人だったって」
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