第4話 本能寺さんの友達?(脚本)
〇川に架かる橋
小柴育美「そこのふたり、待ちなさい!」
俺が本能寺と口論しながら通学路を歩いていると、後ろから呼び止める声がかかった。
小さな女の子が険しい顔で二人をニラみつけている。
本能寺令「あ~、小学生かと思ったら育美(いくみ)ちゃんだ~♪ 久しぶり~♪」
小柴育美「何度も言わせないで下さい、背はこれから伸びるんです!」
本能寺令「もう無理だから諦めなって。 そのまんまでもちっちゃくて可愛いよ!」
小柴育美「ムキー! 勝手に決めつけるなー!」
玉宮守(声をかけてきた小さな女の子は、制服から判断するとウチの中学の生徒らしい)
玉宮守(そしてどうやら本能寺の友達のようだ。 本能寺の友達・・・つまり)
玉宮守「関わりたくない!」
本能寺令「え? なに、急に?」
玉宮守「用があるんだろ、二人で帰れよ!」
玉宮守「本能寺にも友達いたんだな! 大切にしろよ~!」
俺は早口でまくしたて、その場を離れようとすると。
小柴育美「違います! 本能寺さんとは友達ではありません!」
本能寺令「え~! 育美ちゃん、友達でしょー!」
小柴育美「違います」
小柴育美「本当ならアナタとは話しもしたくないんですが」
玉宮守「本気の目だ・・・!」
女の子は汚物を見るような冷たい目で、本能寺を見ている。
本能寺を持てはやしているクラスメイトにはない、かなり新鮮な反応だ。
小柴育美「申し遅れました」
小柴育美「私は風紀委員の小柴育美(こしばいくみ)です」
小柴育美「本能寺さんとは小学校からの知り合いですが、決して友人ではありません」
小柴育美「こんな人と同類だと思わないでください」
本能寺令「そ、そんな! 去年までずっと一緒のクラスだったのに!?」
小柴育美「そうですね」
小柴育美「今年からクラスが変わって、ようやく本能寺さんの顔を見なくて済んで、清々しています」
本能寺令「育美ちゃーん!?」
玉宮守「えっと・・・仲悪いのか?」
小柴育美「当然です。 だって本能寺さんは、クズですから」
玉宮守「・・・!」
バッサリ一言で切って捨てた小柴の手を、俺はガシッと掴んだ。
玉宮守「だよなぁ! よかった、やっと分かってくれるヤツに会えたよ!」
小柴育美「私もホッとしました」
小柴育美「本能寺さんに騙されていないか心配で声をかけましたが、その分だと平気そうですね」
小柴育美「みんなコロッと騙されるんですよ。 顔だけはいいですからこの人」
本能寺令「ちょっとちょっとぉ!? いくら何でも言いすぎじゃない!?」
小柴育美「むしろ足りないぐらいですが」
小柴育美「どれだけアナタから精神的苦痛を被って来たと思ってるんですか?」
玉宮守「お前、いったい何を?」
本能寺令「何って・・・ふつうの遊びだよ! 楽しかったよね、育美ちゃん!?」
小柴育美「は? 遊び?」
小柴は憎しみをこめて、本能寺をにらみつけた。
ここでケンカが始まって、厄介ごとが増えるのは困る。
俺は話題を変えた。
玉宮守「えっと、小柴さん?」
玉宮守「ずっと本能寺と同じクラスだったってことは、二人は同じ小学校?」
小柴育美「はい、恵良小出身です。 不本意ながら本能寺さんと同じ小学校です」
玉宮守「じゃあ、やっぱり稲石小出身の俺とは別の学校・・・」
玉宮守「本能寺、お前、なんで俺の小学生時代を知ってるんだ?」
本能寺令「フッフッフ~、どうしてでしょ~?」
玉宮守「くっそ! やっぱ言う気はないか」
玉宮守「ああもうマジで何なんだよお前はー!」
俺が頭を抱えていると、小柴から質問が投げられた。
小柴育美「よく話が見えてきませんが、おふたりはどういうご関係で?」
本能寺令「友達だよ~」
小柴は本能寺を完全に無視して、俺の方をじっと見た。
玉宮守「なんつーか・・・俺、コイツに脅迫されてんだ」
小柴育美「きょ、脅迫!?」
小柴育美「クソ野郎の本能寺さんならやりそうですが、一体どういうことですか!?」
玉宮守「実は・・・」
そして俺は、このクソ野郎と関わることになったキッカケを語り始めた。
〇学校の昇降口
中学3年にあがったばかりの頃、下駄箱に一通の手紙が入っていた。
玉宮守(大切な話しがあるから、教室で待ってる)
玉宮守「これってどう考えても・・・告白!?」
当時の俺は本能寺のことをよく知らず、優等生でかわいいという評判をうのみにしていた。
胸を高鳴らせながら教室に向かう。
そう、俺は、本能寺令の本性をなにも分かっていなかったのだ。
〇教室
本能寺令「──勝負しようよ、玉宮くん」
玉宮守「・・・はい?」
教室につくと、悪魔のような底意地の悪い笑顔を浮かべた本能寺が、俺の机の上で足を組んで座っていた。
玉宮守「しょ、勝負?」
本能寺令「そう。期末テストの点数で競うの」
本能寺令「でもマトモにやったんじゃ、玉宮くんが勝つよね?」
本能寺令「だから特別ルールとして、私は玉宮くんの勉強を妨害する権利があるものとする」
玉宮守「はぁ!? 」
玉宮守「ちょっと待て。なんでまたそんな話に?」
わけがわからず唖然としていると、本能寺が続けた。
本能寺令「──俺、ダ・ヴィンチの生まれ変わりなのかもしんねぇ・・・」
玉宮守「ぶほぉッ!? お、お前、どうしてそれを!?」
俺はうろたえた。
本能寺令「あっれ~、どうしたのぉ?」
本能寺令「小学校時代の玉宮くんのセリフをそのまま言っただけなんだけどな~?」
本能寺令「もしかして、恥ずかしかったぁ?」
玉宮守「くぅっ!?」
本能寺令「いっぱい名言あるのにな~」
本能寺令「クラスのみんなにも言いふらしちゃおっかなぁ~♪」
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