〇黒背景
鑑定士「この世には〈いわく〉 を抱えた 呪いの品が存在します」
鑑定士「私はそんな 〈いわく〉付きの品 専門の鑑定士」
鑑定士「おや？」

〇時計台の中

〇黒背景
鑑定士「お客様がお見えのようですね」
鑑定士「さて、本日の〈いわく〉は、 一体おいくらになるのでしょうか」

〇時計台の中
藤堂　麗子（とうどう　れいこ）「品物はこちらです」
鑑定士「これはペン・・・でしょうか」
藤堂　麗子（とうどう　れいこ）「ええ。蛍光ペンです」
藤堂　麗子（とうどう　れいこ）「勉強の時に妹が使っていました」
鑑定士「わかりました。ではお聞かせ下さい」
鑑定士「この蛍光ペンにまつわる〈いわく〉を──」

〇空
警察官「少しお話、いいかな」

〇屋敷の門
？？？「私・・・ですか」
警察官「この辺りで怪しい人物の通報があってね」
？？？「私──何もしてません！」
警察官「僕も仕事でね。ちょっと質問、いいかな」
警察官「その制服は柏坂高校だね。何年生？」
？？？「・・・三年です」
警察官「この家には、何か用が？」
？？？「別に・・・用なんか」
警察官「用がないのに、結構な時間立っていたね」
？？？「違・・・それはっ」
警察官「少し署で話を聞かせてもらえるかな」
藤堂　麗子（とうどう　れいこ）「あの！　この子が何かしましたか？」
警察官「あなたは？」
藤堂　麗子（とうどう　れいこ）「私はこの家の人間です」
藤堂　麗子（とうどう　れいこ）「そしてこの子は──」

〇空
藤堂　麗子（とうどう　れいこ）「私の妹です」

〇広い玄関
藤堂　麗子（とうどう　れいこ）「『私の家です』って言えばよかったのに」
藤堂　継美（とうどう　つぐみ）「で、でもそうしたら──」
藤堂　継美（とうどう　つぐみ）「家に入らなきゃならないでしょ？」
藤堂　麗子（とうどう　れいこ）「どういうこと？」
藤堂　継美（とうどう　つぐみ）「それは・・・」
藤堂　麗子（とうどう　れいこ）「あ、お母さん。ただいま！」
藤堂　遥華（とうどう　はるか）「おかえり、麗子。早かったわね」
藤堂　麗子（とうどう　れいこ）「ゼミが一個中止になっちゃって」
藤堂　麗子（とうどう　れいこ）「お腹空いたー」
藤堂　継美（とうどう　つぐみ）「あ、あのお母さん。ただい──」
藤堂　遥華（とうどう　はるか）「模試は？」
藤堂　継美（とうどう　つぐみ）「あ、うん。返ってきたよ」
藤堂　継美（とうどう　つぐみ）「英語はちょっとだけ上がってて」
藤堂　遥華（とうどう　はるか）「いいから出して」
藤堂　遥華（とうどう　はるか）「D判定、ね」
藤堂　遥華（とうどう　はるか）「また家庭教師変えなきゃ」
藤堂　継美（とうどう　つぐみ）「別に今の先生悪くな──」
藤堂　遥華（とうどう　はるか）「大丈夫よ、継美。やり方が悪いだけよ」
藤堂　遥華（とうどう　はるか）「きっと次は合格圏。お母さん信じてるから」
藤堂　遥華（とうどう　はるか）「手洗ってきなさい、ご飯出来てるわよ」
藤堂　麗子（とうどう　れいこ）「継、大丈夫？」
藤堂　継美（とうどう　つぐみ）「うん・・・」

〇おしゃれなリビングダイニング
藤堂　麗子（とうどう　れいこ）「今日も一段と少ないわねぇ」
藤堂　継美（とうどう　つぐみ）「私はこのくらいで十分だけど？」
藤堂　麗子（とうどう　れいこ）「違っ、ご飯の量じゃなくてっ！」
藤堂　麗子（とうどう　れいこ）「食卓の人数がってことよ」
藤堂　遥華（とうどう　はるか）「仕方ないわよ」
藤堂　遥華（とうどう　はるか）「お父さんは会談で首相と一緒」
藤堂　遥華（とうどう　はるか）「鋭士は緊急手術ですって」
藤堂　麗子（とうどう　れいこ）「司は？　昨日は居たじゃない」
藤堂　遥華（とうどう　はるか）「同僚の弁護士が倒れちゃってね」
藤堂　遥華（とうどう　はるか）「その人の公判まで処理してるそうよ」
藤堂　麗子（とうどう　れいこ）「あはは。そりゃ朝までコースね」
藤堂　遥華（とうどう　はるか）「麗子も他人事じゃないわよ」
藤堂　遥華（とうどう　はるか）「大東大出身者はどこでも引っ張りだこ」
藤堂　遥華（とうどう　はるか）「社会は、エリートが動かしてるんだから」
藤堂　麗子（とうどう　れいこ）「お母さんだって、元は大東大でしょ？」
藤堂　麗子（とうどう　れいこ）「世の中に未練はないの？」
藤堂　遥華（とうどう　はるか）「そうねぇ、来年あたり考えようかしら」
藤堂　遥華（とうどう　はるか）「継美が大東大に入れば、時間もできるしね」
藤堂　継美（とうどう　つぐみ）「・・・ご馳走さま」
藤堂　麗子（とうどう　れいこ）「あ！　継！」
藤堂　遥華（とうどう　はるか）「麗子、ちょっと待って」
藤堂　遥華（とうどう　はるか）「継美のとこ行くならこれお願い」
藤堂　麗子（とうどう　れいこ）「わかった。渡しとくね」

〇女性の部屋
藤堂　麗子（とうどう　れいこ）「継。これ、役所からって──」
藤堂　継美（とうどう　つぐみ）「貸してっ！」
藤堂　継美（とうどう　つぐみ）「・・・見た？」
藤堂　麗子（とうどう　れいこ）「見てないわよ。開けてないでしょ」
藤堂　継美（とうどう　つぐみ）「良かった」
藤堂　麗子（とうどう　れいこ）「継、それ奨学金の必要書類じゃ──」
藤堂　継美（とうどう　つぐみ）「違うよ。これは戸籍謄本」
藤堂　麗子（とうどう　れいこ）「謄本!?　何のために？」
藤堂　継美（とうどう　つぐみ）「決まってるじゃない！」
藤堂　継美（とうどう　つぐみ）「私が血縁じゃないって、確認するためよ！」
藤堂　継美（とうどう　つぐみ）「ずっとおかしいと思ってた」
藤堂　継美（とうどう　つぐみ）「うちの家族はみんな大東大生」
藤堂　継美（とうどう　つぐみ）「なのに私だけ、いつも模試でD判定」
藤堂　継美（とうどう　つぐみ）「きっとそれは、私が「藤堂」じゃないから」
藤堂　継美（とうどう　つぐみ）「・・・嘘」
藤堂　継美（とうどう　つぐみ）「嘘よ！　こんなの間違ってる！」
藤堂　継美（とうどう　つぐみ）「私が藤堂なわけ・・・ない、のに」
藤堂　麗子（とうどう　れいこ）「継っ」
藤堂　継美（とうどう　つぐみ）「うわあぁぁん！　お姉ちゃん！」
藤堂　継美（とうどう　つぐみ）「どうして私だけ勉強ができないの？」
藤堂　継美（とうどう　つぐみ）「私、家族じゃなきゃ良かった！」
藤堂　麗子（とうどう　れいこ）「ごめん・・・私、お姉ちゃん失格だね」
藤堂　麗子（とうどう　れいこ）「継がこんなに悩んでるって気付かなかった」
藤堂　継美（とうどう　つぐみ）「うう・・・ひっく・・・」
藤堂　麗子（とうどう　れいこ）「ねえ、継」
藤堂　麗子（とうどう　れいこ）「今、受験が世界の全てみたいに思えるよね」
藤堂　麗子（とうどう　れいこ）「でもね、大学に受かっても受からなくても」
藤堂　麗子（とうどう　れいこ）「継が大切な妹なのは変わらないよ」
藤堂　継美（とうどう　つぐみ）「お姉ちゃん・・・」
藤堂　麗子（とうどう　れいこ）「だからっ・・・だからね」
藤堂　麗子（とうどう　れいこ）「家族じゃなきゃよかったなんて」
藤堂　麗子（とうどう　れいこ）「そんな悲しいこと、言わないで」
藤堂　継美（とうどう　つぐみ）「ごめん・・・なさい」
藤堂　継美（とうどう　つぐみ）「ありがとう、お姉ちゃん」

〇屋敷の門

〇空

〇本屋
藤堂　麗子（とうどう　れいこ）「えーと、文具コーナーはっと」
藤堂　麗子（とうどう　れいこ）「あ、あった」

〇屋敷の門

〇女性の部屋
藤堂　麗子（とうどう　れいこ）「継ー。いるー？」
藤堂　継美（とうどう　つぐみ）「どうしたの？」
藤堂　麗子（とうどう　れいこ）「継に良いものあげようと思って」
藤堂　継美（とうどう　つぐみ）「良いもの？」
藤堂　麗子（とうどう　れいこ）「蛍光ペン～」
藤堂　麗子（とうどう　れいこ）「この間、継の教科書を見たとき思ったの」
藤堂　麗子（とうどう　れいこ）「『マーカー塗ってない！』って」
藤堂　麗子（とうどう　れいこ）「だからこれ使ったらどうかな」
藤堂　継美（とうどう　つぐみ）「蛍光ペンなんて古い方法、今さら」
藤堂　麗子（とうどう　れいこ）「やったことは？」
藤堂　継美（とうどう　つぐみ）「ないけど・・・」
藤堂　麗子（とうどう　れいこ）「じゃあ、やってみよう！」
藤堂　継美（とうどう　つぐみ）「えー。教科書汚れるからやだ！」
藤堂　麗子（とうどう　れいこ）「まあそう言わず！　一教科だけでも！」
藤堂　継美（とうどう　つぐみ）「・・・」
藤堂　継美（とうどう　つぐみ）「じゃあ、世界史だけね」
藤堂　麗子（とうどう　れいこ）「やった！　じゃあ、頑張って！」
藤堂　継美（とうどう　つぐみ）「もー、強引なんだから」

〇部屋の扉
藤堂　継美（とうどう　つぐみ）「あっ！　手についた！」
藤堂　継美（とうどう　つぐみ）「やっぱり蛍光ペン嫌いーー！」
藤堂　麗子（とうどう　れいこ）「なんかごめん」

〇屋敷の門
藤堂　継美（とうどう　つぐみ）「お姉ちゃん！」

〇おしゃれなリビングダイニング
藤堂　継美（とうどう　つぐみ）「お姉ちゃんいる!?」
藤堂　継美（とうどう　つぐみ）「世界史97点だったの！」
藤堂　麗子（とうどう　れいこ）「本当！　凄いじゃない！」
藤堂　麗子（とうどう　れいこ）「何が家族じゃないよ、このこのっ！」
藤堂　継美（とうどう　つぐみ）「えへへ。ごめんなさい」
藤堂　継美（とうどう　つぐみ）「でも本当に良かっ──」
藤堂　遥華（とうどう　はるか）「どうしたの？」
藤堂　麗子（とうどう　れいこ）「お母さん聞いてよ、継がね・・・」
藤堂　遥華（とうどう　はるか）「一問ミス、か。惜しかったわね」
藤堂　遥華（とうどう　はるか）「そういえば司も社会が得意でよく満点を」
藤堂　麗子（とうどう　れいこ）「お母さんっ！」
藤堂　麗子（とうどう　れいこ）「継は世界史が苦手なのよ？」
藤堂　麗子（とうどう　れいこ）「『頑張ったね』くらい言えないの!?」
藤堂　遥華（とうどう　はるか）「あのね。いま高校３年の10月なのよ」
藤堂　遥華（とうどう　はるか）「まぐれで一教科高得点とったくらいで──」
藤堂　継美（とうどう　つぐみ）「──っ」
藤堂　麗子（とうどう　れいこ）「あっ、継！」
藤堂　麗子（とうどう　れいこ）「お母さん！　酷すぎるよ！」
藤堂　遥華（とうどう　はるか）「麗子だって分かってるでしょう」
藤堂　遥華（とうどう　はるか）「大東大はそんな生半可な成績じゃ──」
藤堂　麗子（とうどう　れいこ）「もう聞きたくない！」
藤堂　麗子（とうどう　れいこ）「継がどんな気持ちであの書類を・・・」

〇部屋の扉
藤堂　麗子（とうどう　れいこ）「継ー」
藤堂　麗子（とうどう　れいこ）「さっきのだけど、気にしちゃ駄目よ」
藤堂　麗子（とうどう　れいこ）「お母さんだって、きっとわかってる」
藤堂　麗子（とうどう　れいこ）「継が頑張ってるってことは・・・」
藤堂　麗子（とうどう　れいこ）「ね、ねえ。継。何やってるの？」
藤堂　麗子（とうどう　れいこ）「開けるわよ」

〇女性の部屋
藤堂　麗子（とうどう　れいこ）「──っ！」
藤堂　麗子（とうどう　れいこ）「何・・・してるの？」
藤堂　継美（とうどう　つぐみ）「お姉ちゃん、私わかったんだ」
藤堂　継美（とうどう　つぐみ）「ここ、私が間違えたところ」
藤堂　継美（とうどう　つぐみ）「蛍光ペン、塗ってなかったんだよ！」
藤堂　継美（とうどう　つぐみ）「だから間違えちゃったの」
藤堂　継美（とうどう　つぐみ）「大事なとこだけ塗るから、間違える」
藤堂　継美（とうどう　つぐみ）「全部塗れば、間違わないよね」
藤堂　麗子（とうどう　れいこ）「ペンが光った!?」
藤堂　継美（とうどう　つぐみ）「当たり前でしょ、蛍光ペンなんだから」
藤堂　麗子（とうどう　れいこ）「あ、あのね継」
藤堂　麗子（とうどう　れいこ）「蛍光ペンってそんな全部に塗るもんじゃ」
藤堂　継美（とうどう　つぐみ）「ごめん、お姉ちゃん。用事なら後にして」
藤堂　継美（とうどう　つぐみ）「私には、もう時間がないの」
藤堂　麗子（とうどう　れいこ）「──っ」

〇屋敷の門

〇屋敷の門
藤堂　麗子（とうどう　れいこ）「ね、ねえ継」

〇おしゃれなリビングダイニング
藤堂　麗子（とうどう　れいこ）「ごはんの時くらいペン置いたら」
藤堂　継美（とうどう　つぐみ）「行ってきます」
藤堂　麗子（とうどう　れいこ）「ねぇ、お母さん。継、変じゃない？」
藤堂　遥華（とうどう　はるか）「そう？　受験生らしくて良いじゃない」
藤堂　麗子（とうどう　れいこ）「そうなのかな・・・」

〇屋敷の門

〇おしゃれなリビングダイニング
藤堂　麗子（とうどう　れいこ）「ね、ねえ継。最近学校はどう・・・？」
藤堂　麗子（とうどう　れいこ）「少し休んだ方がいいんじゃない？」
藤堂　継美（とうどう　つぐみ）「・・・ご馳走さま」
藤堂　継美（とうどう　つぐみ）「大丈夫よ、お姉ちゃん」
藤堂　継美（とうどう　つぐみ）「お風呂、入ってくるね」
藤堂　麗子（とうどう　れいこ）「・・・」