いわく鑑定士

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〈もう逃げられない〉虫籠(脚本)

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〇時計台の中
鑑定士「この世には〈いわく〉を抱えた呪いの品が存在します」
鑑定士「私はそんな〈いわく〉付きの品専門の鑑定士」
鑑定士「さて、本日の〈いわく〉は、一体おいくらになるのでしょうか・・・」

〇黒背景

〇時計台の中
棚橋 拓也「‥‥」
鑑定士「鑑定のご依頼でしょうか?」
棚橋 拓也「はい‥」
棚橋 拓也「この店の話を聞いたので‥」
鑑定士「持っていらっしゃる紙袋が鑑定品でしょうか?」
棚橋 拓也「はい‥すいませんが、袋の中身を出していただけますか?」
棚橋 拓也「まだ片腕の生活に慣れていないもので‥」
鑑定士「片腕‥?」
棚橋 拓也「ええ、その‥左腕が‥」
鑑定士「わかりました‥では」
鑑定士「こちらが鑑定品でしょうか?」
棚橋 拓也「そうです、この虫籠が‥」
棚橋 拓也「ただ、こんな話を信じてもらえるかどうか‥」
鑑定士「お聞かせください この虫籠にまつわる〈いわく〉を」

〇おしゃれなリビング
棚橋 陽太「パパ‥‥」
棚橋 拓也「うん?どうした?」
棚橋 陽太「‥ママ、いつ帰ってくるの?」
棚橋 拓也「ああ‥そうな‥」
棚橋 拓也「もう1週間か‥‥」

〇おしゃれなリビング
  1週間前‥
棚橋 麻美「だから!何度も話したじゃない!」
棚橋 拓也「そう言われたって、納得できるかよ!」
棚橋 拓也「その男のところに行くって、どういう事だよ!?」
棚橋 麻美「もういいじゃない!めんどくさい!」
棚橋 麻美「あんたが嫌になった私が悪いのよ!それでいいでしょ!」
棚橋 拓也「いいでしょって、何でそっちが怒ってんだよ!」
棚橋 陽太「‥‥」
棚橋 麻美「ちゃんとするから!もういいから!」
棚橋 拓也「ちゃんとって何だよ!待てよ! どこ行くんだよ!」
棚橋 麻美「何よ!離してよ!」
棚橋 拓也「まだ話してる途中だろ!逃げんなよ!」
棚橋 麻美「いいって!離してって!」
棚橋 麻美「離して!!」

〇おしゃれなリビング
棚橋 陽太「ママ‥帰って来ないの?」
棚橋 拓也「うん‥どうなんだろうな‥‥」
棚橋 陽太「‥‥」
棚橋 拓也「はぁ‥」
棚橋 拓也「どうすりゃいいんだよ‥」

〇オフィスのフロア
  翌日‥
三上「あっ、棚橋さん!」
三上「あれー?何か疲れた顔してませんか?」
棚橋 拓也「あー、大丈夫、大丈夫」
三上「あんまり無理しないで下さいね! お先でーす!」
棚橋 拓也「お疲れー」
棚橋 拓也「ふぅー‥」
棚橋 拓也「帰るか‥」

〇街中の道路
棚橋 拓也「‥あれ?」

〇リサイクルショップ(看板文字無し)
棚橋 拓也「こんな店あったんだ‥」
骨董品屋 店主「いらっしゃいませ」
棚橋 拓也「ああ、どうも‥」
棚橋 拓也「これ‥何です?」
骨董品屋 店主「ああ、虫籠ですよ、古いものですけどね」
骨董品屋 店主「今どき珍しいでしょ?木製の虫籠なんて」
棚橋 拓也「虫籠か‥」
棚橋 拓也「そうだ‥」

〇マンション前の大通り

〇玄関内
棚橋 拓也「ただいまー、陽太―!」

〇おしゃれなリビング
棚橋 拓也「陽太、ほら」
棚橋 陽太「何?これ?」
棚橋 拓也「虫籠だよ、帰り道で見つけてさ」
棚橋 陽太「むしかご?」
棚橋 拓也「ほら、前にパパとママと‥」
棚橋 陽太「ママか‥」
棚橋 拓也「あっ‥」
棚橋 陽太「帰って来ないね、ママ」
棚橋 拓也「そうだな‥えーっと‥」
棚橋 拓也「だからほら!前に公園行った時、虫を捕りたいって言ってたろ?」
棚橋 拓也「それで虫籠欲しいって言ってたじゃないか?」
棚橋 陽太「うん‥」
棚橋 拓也「いいの見つけたからさ!陽太が気に入ると思って」
棚橋 陽太「‥木で出来てるんだ」
棚橋 拓也「そうなんだよ!古いけど珍しいだろ?」
棚橋 陽太「‥かっこいい」
棚橋 拓也「なっ!だろ!」
棚橋 陽太「うん、ありがとう、パパ」
棚橋 陽太「じゃあ、虫を捕まえたらパパに見せてあげるね!」

〇ダイニング(食事なし)
  翌日‥
棚橋 陽太「今日ね、学校終わったら虫捕ってくるからねー!」
棚橋 拓也「そっかー! じゃあ、パパが帰ったら見せてな」
棚橋 陽太「うん!」
  その虫籠をあげてから
  しばらくは陽太の機嫌も良かったんです
  でも、ある時‥‥

〇玄関内
棚橋 拓也「ただいまー」

〇おしゃれなリビング
棚橋 拓也「あれ?陽太ー?」

〇勉強机のある部屋
棚橋 拓也「陽太―?入るよー」
棚橋 拓也「元気ないな?どうした?」
棚橋 陽太「逃げちゃったの‥」
棚橋 拓也「逃げた?」
棚橋 陽太「虫がね、逃げちゃったの、隙間から‥」
棚橋 拓也「あー、そっか、隙間か‥」
棚橋 拓也「昔の虫籠だからなぁ」
棚橋 陽太「‥‥」
棚橋 拓也「これからは大きい虫を捕まえるようにしないとな?」
棚橋 拓也「もう隙間から逃げられないように」
棚橋 陽太「‥‥」
棚橋 拓也「陽太‥どうした?」
棚橋 陽太「うん‥」
棚橋 陽太「もう、逃げられないようにする」

〇ダイニング(食事なし)
  翌日‥
棚橋 陽太「今日も学校から帰ったら虫捕りに行ってくるからー!」
棚橋 拓也「おっ?そっか!」
棚橋 陽太「また捕ったら見せてあげるね!」
棚橋 拓也「楽しみにしてるな!」
棚橋 拓也「逃げられないように大きいの捕まえろよ」
棚橋 陽太「大丈夫!もう絶対逃げられないから!」
棚橋 陽太「じゃあ、行ってくるねー!」
棚橋 拓也「絶対逃げられないか‥何か考えたのかな?」

〇玄関内
  その日の夜‥
棚橋 拓也「ただいまー」

〇おしゃれなリビング
棚橋 拓也「陽太、どうだ?虫捕れたか?」
棚橋 陽太「うん!」
棚橋 拓也「逃げられないように大きいのにしたか?」
棚橋 陽太「大丈夫!ちゃんとしてあるから!」
棚橋 拓也「ほんとかー?」
棚橋 陽太「パパに見せてあげる!待ってて―!」
棚橋 拓也「ふーん、何を捕ったのかねー?」
棚橋 陽太「パパ―!ほら、見て見て!」
棚橋 拓也「えー、なになに?どんな虫がいるの‥」
棚橋 拓也「うん?」
棚橋 拓也「陽太‥これ?何ていう虫だ‥」
棚橋 拓也「えっ?陽太‥これ‥」
棚橋 陽太「ね?これならもう逃げられないでしょ?」
棚橋 拓也「だってこの虫‥足が無いじゃないか」
棚橋 陽太「そうだよー!ぜんぶ取ったの!」
棚橋 陽太「羽も」
棚橋 陽太「足も」
棚橋 陽太「ぜんぶ!」
棚橋 拓也「‥取った?」
棚橋 陽太「そうするとね、もう逃げられないんだよー」
棚橋 拓也「逃げられないって‥」
棚橋 陽太「見てー!みんなグニグニ動いているのー!」
棚橋 陽太「可愛いねー、あははは!」
棚橋 拓也「陽太‥」
棚橋 拓也「えっ?」
棚橋 拓也「麻美‥」
棚橋 拓也「あっ、陽太、ちょっと待ってな」

〇ダイニング(食事なし)
棚橋 麻美「『明日私物を取りに行く』」
棚橋 麻美「『鍵は持っているから入れる』」
棚橋 麻美「『あなたは家にいないで』」
棚橋 麻美「『離婚届を置いていくから判を押して実家に郵送して』」
棚橋 拓也「家にいないでって‥」
棚橋 拓也「何だよ、あいつ‥」
棚橋 拓也「『用件、わかった』」
棚橋 拓也「はぁー‥」

〇おしゃれなリビング
棚橋 拓也「陽太‥明日、ママ来るって」
棚橋 陽太「ママが?」
棚橋 陽太「そっか‥ふふふ」
棚橋 拓也「なあ陽太、その虫の事なんだけど‥」
棚橋 陽太「パパ」
棚橋 拓也「えっ?」
棚橋 陽太「パパもこうすればよかったんだよ」
棚橋 拓也「‥えっ?」
棚橋 陽太「ふふふ‥ 虫籠、お部屋に戻してくるね!」
棚橋 拓也「こう‥すれば?」

〇ダイニング(食事なし)
  翌日‥
棚橋 麻美「何でいるのよ?」
棚橋 拓也「何でって‥待ってたんだよ」
棚橋 麻美「昨日、伝えたよね‥」
棚橋 麻美「じゃあこれ、ここに置くから」
棚橋 拓也「‥‥」
棚橋 麻美「書いたら送っといて」
棚橋 拓也「なぁ、ちょっと話‥」
棚橋 麻美「‥すぐ持ってくから、荷物」
棚橋 拓也「‥ああ」

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コメント

  • プロジェクトお疲れ様でした!
    面白かったです!
    「グニグニ動いていて可愛い」などワードセンスが抜群で、子どもの無邪気さが恐ろしいお話でした😱

  • プロジェクトお疲れ様でした^^
    いわくの中でも最恐のエピソード…命というものを理解する部分が壊れると、こうなってしまうんだろうなという妙なリアルさもあり、恐ろしかったです。
    スチルではなく、読者の想像力を駆り立てるような演出・文章もお見事でした!

  • 子供の無邪気な思いが狂気を感じて怖いです😱
    まさしくホラー!
    虫の◯を取ったりって子供の頃よくやっていた事を思い出しました。
    お父さんと息子が今後どのように向き合っていくのかが気になります。

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