〈頭をハッキリさせる〉編み棒(脚本)
〇時計台の中
鑑定士「この世には〈いわく〉を抱えた呪いの品が存在します」
鑑定士「私はそんな〈いわく〉付きの品専門の鑑定士」
鑑定士「さて、本日の〈いわく〉は、一体おいくらになるのでしょうか・・・」
〇黒
〈頭をハッキリさせる〉編み棒
〇時計台の中
エマ「ばあちゃんの形見やし、ホンマは売りたないんやけど・・・」
エマ「約束やしな」
鑑定士「約束、ですか」
エマ「そう・・・ だから、これの鑑定、お願いします!」
鑑定士「それではお聞かせください。この編み棒にまつわる〈いわく〉を」
〇黒
15年前──
〇綺麗なリビング
エマ「ばあちゃんどないしたん!?」
フミ「お嬢ちゃん、どこの子?」
エマ「ウチの事忘れたん!?」
徹「オカン、どないしたんや。孫のエマやろ」
フミ「あ、ゲンさんもう帰って来たん? 畑行ったんちゃうん?」
徹「はぁ? ゲンさんってオトンやんけ。俺はオカンの息子や」
フミ「え、そうなん?」
徹「おお。オトンもうだいぶ前に死んだやろ。葬式したやん」
フミ「・・・」
フミ「ああ、そういえば、そうやったねぇ・・・」
エマ「ばあちゃん! ウチは!? ウチの事も思い出した!?」
エマ「今日編み物教えてくれるって言うてたやんね!?」
フミ「ごめん分からんわ。誰なん?」
エマ「・・・エマやって」
〇家の廊下
徹「あかんな、オカン完全にボケてもうとるわ」
エマ「昨日まで普通やってんけどなぁ」
エマ「どうしたらばあちゃんもと戻るん?」
徹「いや、ああなったらもう無理なんちゃう?」
徹「せいぜい脳トレで頭の体操したりするくらいか?」
徹「・・・しらんけど」
〇綺麗なリビング
徹「おーい、オカン!」
徹「起きとるか?」
フミ「・・・ぁぇー」
徹「ホンマにボケとんなぁ」
徹「まあ、でも そろそろやろとは思とったし ちょうどええわ」
エマ「?」
徹「エマ、俺出かけてくるから、ばあちゃんの様子見といてな」
エマ「ええ!?」
〇玄関内
エマ「ちょ、ど、どこ行くん?」
徹「銀行とか、まあ色々や」
エマ「ばあちゃんあのままほっとくん!?」
徹「あれはもうしゃーないねん」
徹「自然の摂理や エマも受け入れなあかんで」
エマ「で、でも!」
徹「ほな、留守番よろしく!」
エマ「・・・自然のセツリってどういう意味?」
〇綺麗なリビング
フミ「ぁぇー・・・」
エマ「ばあちゃん・・・」
エマ「脳トレかぁ」
エマ「・・・せや」
エマ「ほら! ばあちゃん!」
エマ「得意の編み物教えてや!」
エマ「編み物は脳の運動に良いってばあちゃんも言うてたもんな!」
フミ「ぁぇ?」
エマ「分からへん?」
エマ「こうやってな、棒で毛糸をひっかけてな」
フミ「ぁー・・・」
エマ「そうそう! できるやん! やり方思い出した?」
エマ「・・・はぁ」
エマ「・・・ウチの事も思い出して欲しいなぁ」
フミ「・・・ぅ!?」
エマ「ばあちゃん?」
フミ「エマちゃん?」
エマ「え! 思い出したん!?」
フミ「ああ・・・! 思い出せた! ごめん、ごめんなあ!」
フミ「私、エマちゃんの事・・・!」
エマ「ええよ! 思い出してくれたらもうええの!」
エマ「せやから泣かんといてぇ!」
〇並木道
〇銀杏並木道
〇綺麗な一人部屋
エマ「ばあちゃーん」
フミ「んん? どこの子?」
エマ「あ、また忘れたん?」
エマ「ほら、コレで編んで編んで!」
フミ「ええ・・・。なんなんこの子・・・」
フミ「!」
フミ「あれ? 私、またおかしくなっとった?」
エマ「ちょっとだけ」
フミ「ごめんなぁ、エマちゃん」
エマ「ええよええよ! いつもの事やん!」
フミ「・・・せやね」
エマ「あんな、今日はな!」
エマ「かぎ針編み教えて欲しい!」
フミ「エマちゃんは編み物好きやねぇ」
エマ「ウチな、ばあちゃんみたいにセーターでも何でも編めるようになりたいねん!」
フミ「ほな頑張って練習せなね」
エマ「うん!」
〇綺麗なリビング
フミ「・・・次はここの糸を引っ張って」
エマ「んぅ・・・」
フミ「眠い?」
エマ「ちょっと・・・」
フミ「ほなお昼寝しよか」
エマ「ん」
〇黒
「いや、ホンマやて」
「通帳確認したら1億くらい入っとってん」
「ため込んどんなぁ、とは思っとったけど・・・」
〇綺麗なリビング
エマ「んん・・・?」
徹「あ、せや! イイ感じの行政書士紹介してぇや」
徹「オカン、重めの持病あって、もう余命切られとるんよ」
徹「しかも完全にボケとるからな」
徹「今かて目の前でこんな話しとんのに、編み物しながらボケェっとしとるだけや」
徹「せやから全部俺に相続させるように うまい事遺言書かせられる思うねん」
徹「・・・おお、頼むわ ほな!」
エマ「・・・お父さん?」
徹「! ああ、起きたんか」
エマ「今、誰かとお話してた?」
徹「なんでもないなんでもない 気にせんとき」
エマ「・・・」
徹「邪魔して悪かったな ゆっくりしときやー!」
エマ「・・・なんやったんや」
フミ「・・・はぁ なんであんな子に育ってもうたんかなぁ」
エマ「あれ? ばあちゃんずっと編み物してたん?」
フミ「せやで」
〇住宅街の公園
エマ「風きもちいなー」
フミ「せやねぇ」
エマ「たまにはお外での編み物もええね」
フミ「あ」
フミ「・・・手ぇ、動きにくくなってきたなぁ」
エマ「ばあちゃん?」
フミ「徹のいう通り、あんま時間ないねんな・・・」
エマ「ほい、落としたで」
フミ「ありがとう、エマちゃん」
フミ「エマちゃんだけやな、ばあちゃんを大切にしてくれるんは」
エマ「ばあちゃん大事やもん!」
エマ「すっと元気でおってや」
フミ「エマちゃん・・・」
フミ「せやね、弱気になってもしゃあないもんな」
エマ「そうそう! 元気が一番や!」
フミ「・・・エマちゃんはなんか欲しい物とかない?」
エマ「えー? 特にないなぁ」
エマ「あ ばあちゃんにもっと元気になって欲しい!」
フミ「ふふ エマちゃんはええ子やねえ」
エマ「へへへ」
フミ「欲しいモノじゃなくてもええんよ? 困ってる事とか、悲しい事とか・・・」
エマ「んー・・・」
エマ「・・・図書館の本、新しいのが少なくてちょっと困ってる」
フミ「それは難儀やなあ。 他にもなんかない?」
エマ「んんー・・・」
エマ「えっとな」
エマ「テレビで見てんけど お腹空かせて死んでまう子達おるやん」
エマ「あんなん嫌や。悲しい」
フミ「・・・せやね、ちょっとでもええから、どうにかせなあかんよな」
フミ「・・・ふふ」
〇学校の校舎
〇玄関内
エマ「ただいまー!」
「オカン! 毎日毎日何しとんのや!」
エマ「?」
〇綺麗なリビング
フミ「ぁぇー」
徹「ぁぇー、ちゃうねん! ホンマ腹立つわあ!」
エマ「お父さん?」
徹「ああ、エマか」
エマ「ばあちゃん何したん?」
徹「いや分からん なんや ここ何日か寝んとあちこち電話しとんねん」
徹「履歴もいちいち消しとるし・・」
徹「ボケてもうてるからしゃあないけど、よそ様に迷惑かけんのだけは勘弁し欲しいわ」
エマ「あれ? ばあちゃん編み物してるのに頭ボンヤリしてるん?」
フミ「いや? ハッキリしとるよぉ」
エマ「え、でもさっき」
フミ「ふふふ あれは徹をからかっただけや」
エマ「なにしてんの・・・」
エマ「なぁばあちゃん ホンマに寝てないん?」
フミ「編み物中はずっと頭ハッキリしてるから、寝んでも平気なんよ」
エマ「ええ!? あかんて! 絶対体に悪いやん!」
フミ「それはそうなんやけどね ゆうてもう時間なかったから」
エマ「時間ってなんの!? もうええから今日は寝よ! な!」
フミ「はい ・・・ああ、おおきに」
フミ「うん これで手続きも全部完了やね」
フミ「・・・ こちらこそ、助かったわぁ ほな」
フミ「はぁ・・・」
フミ「エマちゃん」
エマ「ん?」
フミ「何とか間に合ったわぁ」
エマ「何に?」
フミ「でも、あかん。もう限界みたいや」
エマ「ばあちゃん!?」
エマ「ちょ!? お父さんお父さん!」
エマ「ばあちゃんが!!」
〇黒
〇病院の診察室
お医者様「今夜が峠ですね」
エマ「トウゲ?」
徹「そうですか 分かりました」
お医者様「他のご家族には・・・」
徹「俺の方から連絡しておきます」
〇病室のベッド
エマ「なあ、ばあちゃん大丈夫なん?」
徹「クソっ 遺言書かせるん間に合わんかった・・・」
エマ「なあって!」
徹「!」
徹「あ、いや、悪い 考え事しとった」
徹「ちょっと親戚に連絡してくるからここで待っとき」
エマ「あ・・・」
〇病室のベッド
エマ「ばあちゃん起きひんなあ・・・」
エマ「あ、せや」
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プロジェクトお疲れ様でした!
祖母と孫の絆という温かい部分だけでなく、強欲な父親という醜い部分も印象的で、奥深い作品でした。
なぜ大人になってから売りに来たのだろう?という疑問を提示しながらのラストの約束…鮮やかで美しい回収でした^^
おばあちゃんと孫のハートフルストーリーに泣いた!
関西弁いいですね☺️
孫の願いを叶え最初のお客になったおばあちゃん。
どんな服を編んだのか気になりますね。
親の打算と何も気づいていない女の子の無邪気さの対比に切なくなりました。
死んだお婆ちゃんの編み棒が最初のお客さんになる伏線になるなんて、、もう泣くしか😭
素敵なお話、ありがとうございました。