第2話 本能寺さんとシャーペン(脚本)
〇教室
カリカリカリ・・・
授業の真っ最中。
俺がノートを取っていると、隣から声がかかる。
本能寺令「今日も勉強熱心だね、玉宮くん」
玉宮守「・・・・・・」
隣の席から本能寺令が、ノートも取らずニコニコと俺の様子を眺めていた。
玉宮守(マジでどうしてよりにもよって、コイツが隣の席なんだ)
本能寺令「ねえねえ、玉宮くん、お喋りしよ~♪」
玉宮守「うるさい黙れ」
一言答えた後はしばらく無視を決め込んでたが、全く黙る様子がない。
玉宮守「こっちはマジメに授業受けてんだよ。 第一、本能寺はノート取らなくていいのか?」
本能寺令「大丈夫。 私、話聞いてるだけで大体分かるから」
玉宮守「この天才が! 」
玉宮守「こっちはひたすら詰め込まねーと頭に入んねえってのに!」
本能寺令「がんばってるんだね、玉宮くん」
玉宮守「そうだよ。勉強して勉強して、いい高校大学入るためにな」
本能寺令「そして宇宙飛行士になるんだよね!」
玉宮守「ぐっ! うるせえ黙ってろ!」
本能寺令「え~!? 玉宮くん冷た~い!」
ブーブー不満が聞こえてくるが、俺はひたすら無視してノートを取り続ける。
会話するだけ時間のムダだ。
カリカリカリ・・・
玉宮守「ん、芯がなくなった。交換交換っと。んん?」
しまってあったはずのシャーペンの芯のケースが、いつの間にか消えていた。
俺は真っ先に本能寺を見て。
玉宮守「カ・エ・セ」
本能寺令「あっ、バレちゃった?」
玉宮守「当たり前だろ! 」
玉宮守「毎度毎度、消しゴムだのなんだの盗みやがって!」
もはやこういった妨害は日常茶飯事。
ちょっとでも気を緩めれば、なにか仕掛けてくるのだ、コイツは。
玉宮守「人のものを盗んじゃいけません! 子供でも知ってる常識です! 分かる!?」
本能寺令「はーい。じゃあ、私のと交換しよー♪」
玉宮守「人の話を聞け! それに絶対お断りだ!」
本能寺令「え、なんで?」
玉宮守「お前のシャー芯なんて、なにが仕掛けてあるか分かんねーだろうが!」
玉宮守「どうせ、いきなり針が飛び出してきたり、爆発したりするに決まってる!」
本能寺令「あはは、ナイナイ。考えすぎだってー♪」
玉宮守「だといいがなあ!」
本能寺令「ほらほら、どう見ても普通でしょ?」
玉宮守「押し付けんなって。 分かったよ、使えばいいんだろ!」
グイグイとシャー芯を押し付けてくる本能寺。
根負けした俺は、仕方なくそれで文字を書いてみる。
玉宮守「たしかに。普通に書けるな」
本能寺令「でしょ? だから交換・・・」
玉宮守「それはムリ。返せ」
本能寺令「うぅ、欲しかったのに!」
ようやく本能寺はシャー芯を返してきた。
玉宮守「こんなんやってる間に、結構授業進んでるし! 」
玉宮守「急いでノートをまとめないと」
本能寺令「ねえねえ、玉宮くん」
玉宮守(またコイツは・・・。 無視するとうるさいし、適当にあいづち打っとこう)
本能寺令「玉宮くん、いいの? 自分の芯に交換しないで」
玉宮守「どういう意味だ?」
本能寺令「いま使ってる芯、さっきお試しにあげた私のシャー芯だよね」
玉宮守「あー、そういやそうだな。ま、別にいいだろ」
玉宮守「わざわざ入れ替えるの面倒くさいし。 それとも、使いかけのシャー芯返せってか?」
本能寺令「そんなケチなこと言わないよ! 」
本能寺令「ただ・・・本当に私の芯使ってていいの? 溶けるよ、それ」
玉宮守「ほーん・・・はっ?」
なんか自然に物凄いことを聞いた気がして振り返ると、本能寺はニンマリと笑顔を浮かべている。
本能寺令「あっ、始まった♪」
玉宮守「なにが・・・うぎゃああああ!?」
じゅ~・・・じゅ~・・・
ノートに視線を移すと、書いた文字が煙を上げ、ドロッドロに溶けていた。
マグマのように、それはみるみる内に波紋のように広がっていき。
玉宮守「ノ、ノートが溶けていく!」
本能寺令「あっ、触らない方がいいよ。 指も溶けちゃうかも?」
玉宮守「ひぃっ!?」
じゅう・・・じゅう・・・
音が鳴り終わると、ノートは哀れにも、ボロ切れのように溶け崩れていた。
俺は恐る恐るシャーペンと本能寺を交互に見る。
玉宮守「おい、まさかお前、この芯・・・!?」
本能寺令「うん、私が合成したんだ♪」
本能寺令「書いた文字どころか、何もかも消せちゃう魔法のシャー芯♪」
玉宮守「殺す気かテメエ――ッ!? なに新兵器作ってんだぁッ!?」
本能寺令「なんか危ないもの混ぜたら出来ちゃった♪」
本能寺令「人体にはただちに影響ないから大丈夫だよ♪ たぶん!」
玉宮守「何も大丈夫じゃねえ! 俺のノート潰すのにどんだけ全力なの!?」
玉宮守(ああああ、気を抜いた俺がバカだった!)
玉宮守(コイツはいつも、常人ならためらうことをアッサリやるんだ!)
筆記用具を盗むなんてまだ全然かわいいもの。
この女のやることは毎度毎度とんでもない。
それこそ、他人を蹴落とすためならコイツは何でもやるんだろう。
本来なら絶対関わりたくない悪魔のような人間、それが本能寺令だった。
本能寺令「フフ、玉宮くんって本当に面白いね♪」
玉宮守「楽しいのはテメエだけだろうがよ!」
本能寺令「ゴメンゴメン、代わりに私のノート貸してあげるから」
玉宮守「いらねえよ! なに仕込まれてるか分かったもんじゃねえ!」
本能寺令「あ、ひっどーい。 人の好意をムゲにしちゃダメなんだよー?」
玉宮守「コ、コイツぅっ!」
──俺は本能寺に弱みを握られている。
玉宮守(そうでなきゃ、こんな趣味の悪い遊びには付き合わない)
玉宮守(そもそも、こんなクソ野郎と一分一秒も同じ空気を吸いたくねえ)
玉宮守「お前がなにしようが、絶対勝ってやるからな、本能寺ィ!」
本能寺令「フフッ。がんばってね、玉宮くん♪」
本能寺の妨害に屈する訳にはいかない。
来たるテスト勝負に勝って、絶対このクソ野郎との関係を断ってやる。
失ったノートの痛みを胸に、俺はその思いを一層強くするのだった。