第1話 本能寺さんの本性(脚本)
〇教室
ルックス抜群、成績優秀、文武両道。
絵にかいたような完璧超人と評され、学内で知らない人はいない。
本能寺令(ほんのうじれい)は、しかし本当はどうしようもないクソ野郎だ。
授業中。
俺が黒板の内容をノートにとっていると。
玉宮守「あっ、ヤベ。ミスった。 消しゴム消しゴム、っと」
筆箱に鎮座する白く四角いおなじみの物体に手を伸ばした俺は、猛烈な違和感に襲われた。
玉宮守「これ、消しゴムじゃなくて切り餅じゃん・・・」
しかもご丁寧に消しゴムサイズにカット済み。
こんな下らないイタズラをするようなヤツ、俺はひとりしか知らない。
玉宮守「本能寺さん、コレ」
本能寺令「・・・・・・」
玉宮守「こっち見ろ。 こんなことすんの、お前しか居ないだろ」
本能寺令「チィッ!!」
玉宮守(チィって)
本能寺令「あーあ、つまんないの。 どーしてそう疑り深いのかな」
本能寺令「せっかく私が気持ちを込めてカットしたのに」
玉宮守「たしかに込められてるよ。悪意がな。 本能寺、こんなことしてお前、楽しいか?」
本能寺令「超・楽しい!!」
玉宮守「めっちゃいい笑顔で言い切りやがった」
本能寺令「引っかかった時の玉宮(たまみや)くんのリアクションを考えながら、イタズラを仕掛けていくドキドキ感とスリル!」
本能寺令「成功すればいいリアクションも見られて、ワクワクのウッキウキ!」
本能寺令「何より玉宮くんの成績が下がるのが最高だよ!」
本能寺令「そして私が玉宮くんを下して学年ナンバーワンになるの!」
玉宮守「い、色々言いたいことはあるけどさ」
玉宮守「そもそもそんなに勝ちたいなら、イタズラする分、マトモに努力したらどうだ?」
本能寺令「えっ、何言ってるの玉宮くん? 努力じゃ勝てないから邪魔してるんだよ?」
玉宮守「最低だよお前!」
本能寺さんはこのように、見ての通りのクソ野郎。
本当に、どうして俺がこんなヤツのいいようにされなきゃならないのか。
こうなった原因を思い返しながら、俺は深いため息を吐くのだった。
〇教室
中学三年の春。
昼休みにクラスメイトが教室で談笑する中、俺は黙々と勉強に没頭していた。
今は授業の復習中。
理解が曖昧な部分の洗い出しをし、徹底的に頭の中に叩き込む。
玉宮守(本当に頭の良いヤツはもっと楽にいい点取るんだろうが)
玉宮守(凡人の俺はひたすら努力を重ねて、ようやく学年1位の学力をキープしてる状況だ)
玉宮守(正直キツいが、結果を残さなきゃ意味がない)
玉宮守(だって俺は・・・)
本能寺令「がんばってるね、宇宙飛行士になるための勉強っ♪」
玉宮守「ああああああッッ!?」
急に耳元で秘密にしていた夢をあっさり暴露され、俺は思わず椅子の上で跳ねる。
教室の視線が集中するが、何とか愛想笑いで受け流し、キッと怨敵をにらみつける。
玉宮守「それ喋んなっつったろうが!」
本能寺令「え~、カッコいいと思うけどなぁ、夢のためにがんばってるって」
玉宮守「俺がイヤなんだよ・・・ 叶うかどうかも分かんねえし」
本能寺令「も~、昔の玉宮くんはもっと自信満々だったじゃない」
本能寺令「ホラ・・・──俺はもうとっくに10年後のビジョンが見えてるぜ」
玉宮守「ぐっ!?」
本能寺令「──俺は凡人とは違う。選ばれし人間だ」
玉宮守「や、やめッ!」
本能寺令「──俺は、このちっぽけな地球じゃ収まらない・・・天才だから!」
玉宮守「ぐオオオオォッッ!!?」
ぐさぐさぐさ!! っと、過去の失言が凄まじい切れ味で俺の心をメッタ切り。
痛みにうめきながら、俺は本能寺を憎々しげににらみつけた。
玉宮守「だ、黙れ! 今すぐその口を閉じろ、本能寺!」
本能寺令「いや~ん、怖~い♪」
玉宮守「こ、こいつ!」
玉宮守(──俺はこの女に、弱味を握られている!)
玉宮守(この学校では誰も知らないはずの俺の秘密)
玉宮守(小学時代の痛い言動の数々を、なぜかコイツは知っていた・・・!)
本能寺令「やっぱりイヤなんだね、小学校の頃の話されるの」
玉宮守「当たり前だろ!」
玉宮守「あの頃の俺は、ただのガリ勉の凡人のくせに調子に乗りまくってて・・・ああああ!」
玉宮守「思い出したくもねえ!!」
本能寺令「そっかぁ。でも、約束は守らなくっちゃ♪ 覚えてる?」
玉宮守「ぐ・・・期末テストだろ!」
本能寺令「そう、次のテストの点数の合計点で勝負だよ!」
本能寺令「玉宮くんが勝ったらもう私は玉宮くんをこのネタでからかわない」
本能寺令「私は玉宮くんを負かすこと自体が目的だから、勝っても特に何もないけど」
本能寺令「これからもテストの日まで玉宮くんのお勉強をガンガン妨害するから♪」
そして本能寺は、悪魔のような微笑を浮かべ。
本能寺令「──どんな手段を使ってでも勝ってみろ」
本能寺令「小学校の頃、玉宮くんがそう言ったんだよ?」
玉宮守「ぐおおおお・・・!!」
玉宮守(なんでそんなこと言った昔の俺!?)
玉宮守(全然これっぽっちも覚えてねえぞ! )
玉宮守(第一、俺に勝ちたいから授業妨害するって、ホントなんなんだよこの女!?)
玉宮守「ほ、本能寺、俺、お前のこと全然覚えてないんだけど、なんか恨みでもあるの?」
本能寺令「え、そんなことないけど。なんで?」
玉宮守「だってテストの邪魔なんて、おかしいだろうが!」
玉宮守「どうしてそんな俺に執着すんだよ」
本能寺令「・・・! そ、それは!」
すると本能寺は急に赤くなって、パタパタ慌てだす。
本能寺令「だ、だって玉宮くんは目標っていうか!」
本能寺令「ずっと一緒に何かしたかったけど、機会がなかなかなくて・・・」
本能寺令「でもやっと同じクラスになれたから今しかないと思って!」
本能寺令「これからいっぱい遊びたいなって、ねっ!」
玉宮守「あ、遊び?」
本能寺令「う、うん」
玉宮守(悪魔だ、コイツ、俺の成績を遊びで!? どんだけ俺を恨んでるんだよ!?)
本能寺令「えっと、玉宮くん?」
玉宮守「ふぅ、まあ、もうなんでもいい」
本能寺令「えっ、なにが?」
玉宮守「お前がどう思ってようがどうでもいい。 俺、お前のこと嫌いだから」
本能寺令「へっ? も、もーっ! またまたぁ! 玉宮くんったらツンデレなんだからー!」
本能寺令「そんなこと言って、ちょっとは気になってるんでしょー?」
玉宮守「無理、マジで無理」
本能寺令「あっれー?」
玉宮守(こんな悪魔みたいなヤツと、これ以上関わり合いになるのはゴメンだ)
玉宮守(期末テストは勝つ、絶対に!)
こうして小学校時代の汚点を消すため、何よりこのクソ野郎との関係を断つため。
俺の負けられない戦いが始まったのだった。