第38話 白雪の霊(脚本)
〇施設内の道
2021年 神奈川県 綾瀬市大和市間 海上自衛隊厚木飛行場内
エンチャント魔導法士「おい、鳳凰···お前の所の忍者が変化でもしてるならやめさせろ。今の斎王は『殺しかねんぞ』」
鳳凰「本当にそうならやってる。だが鳥組、蟲組、魚組のどの忍者も『変化の術を使ってない』」
エンチャント魔導法士「じゃあなんだ、あれは本物の『雪月雪羅』とでも言うのか?」
鳳凰「あの女が現れた瞬間『雪が降り始めた』。しかも雪が降ってるのに全く『寒くない』」
鳳凰「俺が知ってる限りこれができるのは2人。1人は雪月頼、もう1人は···」
エンチャント魔導法士「馬鹿言え、雪月雪羅はもう死んでるんだぞ?あれは···何か別の···クソっ、説明がつかん!」
皆が混乱し、硬直している中雪月雪羅に似た女性は斎王に話始める
雪月雪羅「幽羅··· ··· ···私はもう大丈夫だから···許してあげなさい?」
斎王幽羅「俺を馬鹿にしてるのか?魔術か能力かそれともクローンか?お前の素性を言えば見逃してやるよ」
雪月雪羅「幽羅、今の貴方には口で言っても信じないでしょうから···これを持ってきたわ」
彼女は胸元からロケットペンダントを取り出し斎王に見せる。斎王はそれを見て驚きを隠せずいた。なぜなら···
斎王幽羅「思い出の···ロケット··· ··· ···父さんか母さんの墓を荒らしたのか!?」
雪月雪羅「近くに来なさい。今からこのロケットを『開けるわ』」
斎王幽羅「そうやって俺に攻撃するチャンスを伺ってるのか?それとも信用を得るために開けて見せようって?」
斎王幽羅「そのロケットを開けられるのは『俺と母さんと父さんの3人だけだ』」
斎王幽羅「父さんと婆ちゃんがまだ対立する前、父さんと母さんの結婚記念に鸞のお父さんから貰ったものだ」
斎王幽羅「『血の約束』という術が施されていて、特定の血縁者だけがロケットを開けられる仕組みになっている」
斎王幽羅「無理やり開ける事は不可能、できるとすれば『破壊』だけ。それに···」
雪月雪羅「『合言葉がある』、そうでしょ?これも知ってるのは貴方と私と勇次郎だけ」
雪月雪羅「幽羅、能力を解除して私に近づいて。『首から上だけの姿』じゃロケットを開けられないでしょ?」
次々に明かされる親子同士でしかしらない『情報』が明かされ続け、斎王は段々疑いの念が解け始めていた
もし···もし本当に目の前の女性が『自身の母親』なら···その思いが強く込み上げてきた斎王は
彼女に従い、自身の体を徐々に元に戻していく。そして斎王は彼女にゆっくり近づく
斎王の能力から解放された岡崎は直ぐに逃げようとするが、キングに取り押さえられ
フェードが環首刀を抜き、岡崎の首に突きつけ動きを封じる
キング「おう、せっかくの親子の再会なんだ。ゆっくりしてけよ」
フェード「余計なことをすれば貴様の首を斬り落とす。闭嘴并观看(黙って見てろ)」
そんな中、キング達が斎王を見守る。斎王は相手に近づき、ロケットペンダントに触れる
雪月雪羅「幽羅、合言葉は覚えてる?」
斎王幽羅「う、うん···じゃあせーので言おうか?せーの···」
「『貴方が私を愛するように私は貴方を愛している』」
するとロケットは開き、斎王は中を見て涙を流し始める
斎王幽羅「俺が···『生まれた時の写真』···本当に母さんなんだ··· ··· ···」
雪月雪羅「信じてくれた?ほらっ···おいで?久しぶりに幽羅に触れたいな」
雪月雪羅は腕を広げ、斎王を待つ。斎王は母に静かに近づき、自身が抱きしめられた事に気づくと
嗚咽を漏らしながら泣いていた。そんな斎王を雪月雪羅は落ち着かせるように撫で、そして話始める
雪月雪羅「幽羅···ここまでよく頑張ったわね。こんなに立派になっちゃって···私嬉しいな」
斎王幽羅「うぅ···母さん···俺、寂しかったよ···グレーデイの時から何度も死ぬ事を考えてきた」
斎王幽羅「キングや鸞、皆のおかげでここまで来れたけど···もしみんなに出会ってなかったら···俺···」
雪月雪羅「いい仲間を見つけたのね、幽羅。でもね幽羅、貴方は頭に血が上ると『自身の制御が効かなくなる』」
雪月雪羅「特に私の事になると『殺人すら躊躇しなくなる』、勇次郎のそういう所が···遺伝しちゃったのかもね」
斎王幽羅「母さん···なんでそれを···?」
雪月雪羅「当たり前じゃない。勇次郎とお母さんと一緒にずっと『貴方を見守ってたんだもの』」
その言葉を聞き、斎王の表情からは『悲しみ』が無くなった。
涙こそ流れるも、それは『悲しいからではなく』『嬉しいからこそ流れる喜びの涙』へ変わっていった
雪月雪羅「もう···幽羅は泣き虫ね。幽羅、私と約束して欲しい事があるの。いい?」
雪月雪羅「『復讐に囚われないで』。お母さんも勇次郎も私に対しての無力感、自分に対する怒り、他者に対する復讐心で」
雪月雪羅「『壊れてしまった』の、2人ともあの世で後悔してるわ。だから···貴方にも同じ気持ちになって欲しくない」
雪月雪羅「私に乱暴した人達に対して復讐しないで欲しい。その岡崎って人にもよ」
斎王幽羅「で···でも母さん!俺は···!」
雪月雪羅「ダメよ。いい?幽羅、いかなる理由があっても『人が人を裁く事はできない』のよ」
雪月雪羅「私だって出来ることならその男を殺したいわ、全身凍傷にして富士山から転がしてやりたいわ」
雪月雪羅「凍傷になった部分がバラバラになりながら無力に転がり続け、最後に頭だけになった状態で」
雪月雪羅「何度も何度も木や岩にぶつかり続け、止まった頃にはただの『肉塊』になっている」
雪月雪羅「母さんに教えてもらった中で最も残忍な殺し方、そうしたい気持ちでいっぱいだけど···私はそんなの望まないわ」
雪月雪羅「一度復讐をすれば別の復讐を産み『復讐の輪廻』に囚われるわ」
雪月雪羅「貴方にはその輪廻に囚われて欲しくないの、お願い幽羅···私を理由に『復讐』はしないで」
斎王は母の思いを聞き、俯く。そして苦い顔をしながら自身の心情を吐き出す
斎王幽羅「··· ··· ···わかった、復讐はしない。だけど···俺の気持ちに踏ん切りをつけたい。だから母さん」
斎王幽羅「冷羅さんが持ってる父さんのロケットを貰ったら···俺は『黒幕を倒す』」
雪月雪羅は斎王の目を見つめた後、少しだけ苦い表情をしながら斎王に『拳銃を渡す』
斎王幽羅「これって··· ··· ···どこに『居た』の?」
雪月雪羅「お母さんが死ぬ間際まで持っていたら、そのままあの世に持ち込んじゃったみたいなの」
雪月雪羅「キングさん、変化武器は相手が変化武器であった場合『触れただけである程度情報がわかる』そうね」
キング「おい···何でそれを知ってるんだ?そのカラクリをしってるのは『変化武器だけ』のはず···」
雪月雪羅「この拳銃も変化武器なの。お母さんとの信頼関係があったから喋ったんだと思うわ」
雪月雪羅「幽羅、アメリカに行くならこれが役に立つわ。もう錆びて一発も弾丸は撃てないけど」
雪月雪羅「『マリアさん』なら、見たら貴方を斎王幽羅と信用するはずよ」
斎王幽羅「マリアさんが···生きてるの···?じゃあキャプテンやエドモンドさんも···!」
雪月雪羅「··· ··· ···ごめんね幽羅、時間みたい」
突如、雪月雪羅の姿が揺らぎ始める。先程まで降っていた雪も少しづつ弱まり、斎王は母との『別れ』を意識し始める
雪月雪羅「ごめんね幽羅、もう冥界に戻らないといけないみたい」
斎王幽羅「母さん··· ··· ···」
雪月雪羅「幽羅、忘れないで?私も勇次郎もお母さんも皆貴方の傍で貴方を『見守っているわ』」
雪月雪羅「だから··· ··· ···死んじゃダメよ?お願いだから···死なないでね···?」
斎王幽羅「うん··· ··· ···わかったよ、母さん」
突如猛烈な吹雪が吹き荒れ、斎王達は顔を覆う。吹雪が止み、周りを見るとそこに雪月雪羅の姿はなかった
斎王は自身の拳を開いた。そこには『ロケットペンダントが確かに存在していた』
斎王幽羅「··· ··· ···俺が見た夢とかじゃ···ないんだね···」
キング「全員見てたんだ、ありゃ間違いなく『お前の母ちゃん』だろ。な?エンチャントのじいさん」
エンチャント魔導法士「未だに信じられんが···そうと言わざるおえないだろう。斎王、早く飛行機に乗れ。アメリカに行くんだろ?」
斎王幽羅「··· ··· ···あぁ、今行く。フェードとキングは岡崎を離していいよ」
斎王幽羅「···母さんが復讐を望んでないなら、俺は岡崎を『殺さない』」
そうして一同は飛行機に乗り込み、アメリカへ旅立った
〇施設内の道
鳳凰「少し見ねぇうちに粋な事するようになったな。これも喧嘩王とつるんでたからか?『鶻(はやぶさ)』」
鶻「悲劇の死を遂げた者の願いをひとつ叶える。それが冥界のルールですので」
鳳凰「掟に従っただけってか?にしてはナイスタイミングで雪月雪羅を冥界から連れてきたな?」
鳳凰「どうせ現世に来たんだ、自分の子である『鸞』のツラでも見ていったらどうだ?」
鶻「お気遣いなく。未熟な雛鳥に会う程ヒマではないので」
鶻「それでは私はこれで、鳳凰様もどうか末永くお過ごし下さい」
鳳凰「死んで冥界の『管理』してるっつっても、変わらず愛想がねえなあいつは」
鳳凰「フッ・・・まぁ・・・鸞の事を『あいつ』ではなく『雛鳥』と呼んだらへん、少し認めてはいるのかね」
To Be Continued··· ··· ···