豚豚鶏拉麺(脚本)
〇城下町
お絹「あら、ハチ!!」
八「あっちゃー、女将さん、お久しぶりです」
お絹「何よ、”あっちゃー”ってヒドイわね」
お絹「最近、全然ウドン食べに来ないけど。左官の仕事続いてんの?」
八「続いてます。 女将さんこそ、店先まで出てきて何やってんスか?」
お絹「客がいないから、知った顔、見つけたら、とっ捕まえて、店のウドン食わそうと思って」
お絹「ハチ、なんか気分悪そうだね」
八「さっきメシ食ってきて気分悪いんス」
お絹「どこで食べたの?」
八「今、店に熊さん、いますか?」
お絹「店の厨房にいるから、聞こえないわ。大丈夫」
八「この事、熊さんに聞かれたら、オオゴトですから」
八「この中央街の大通り、行った突き当りに、遠く九州から来たって人が、」
八「”ラーメン屋”って食い物屋を始めるんで、左官で、手伝いに行ってたんスよ」
お絹「こないだ民家を改造して開店した」
お絹「店の名前、なんて読むか分からない、あの店ね」
お絹「ところで、”ラーメン”って、なんだい?? 聞いたことないけど」
八「ウドンの遠い親戚みてぇなモン」
お絹「長いことウドン屋やってるけど、親戚が出来たって話、聞いた事ないね」
八「今もそのラーメン、食って来て、」
八「気分ワリィの」
お絹「何?食べ過ぎたの?」
八「いや、全然、ちょうどいい量」
お絹「そんなに美味しくないの?」
八「メチャクチャ美味しい」
お絹「・・・どんなモンなの?ラーメンって?」
八「キラキラした白いダシ汁に、ノド越し良い細い麺。醤油か何かに漬けた肉と、紅生姜が乗っかってて、」
八「最近ずっとハマってる」
お絹「ウドン食わずに、そのラーメンってのにゾッコンなんだね。ハチが裏切ったって、主人に伝えておくわ」
八「止めてください!」
八「左官の仕事、紹介してくれた熊さんが聞いたら、オレ、殺されます」
お絹「美味しくて、気分悪いって?」
お絹「値段が高いとか?」
八「いや、安い」
お絹「じゃ、料理が出て来るのに時間かかる?」
八「いや、すぐ」
お絹「じゃあなんで??」
八「あ、オレ、もう次の現場、行かないと!じゃあ!」
お絹「って、ちょっとハチ!逃げるな!裏切者ぉ!」
お絹「・・・」
熊「ハチ、行っちまったのか?」
お絹「アンタ、聞いてたの?」
熊「店に客いねぇからよ。聞こえちまった」
熊「けど分からねぇな、そのラーメンって食い物」
お絹「美味しい」
お絹「安い」
お絹「早く出てくる」
お絹「それで気分悪くなることある?」
熊「またハチが来たら、ブッ飛ばして聞くか」
お絹「なんで、そーなるのよ!」
お絹「あ、そうだ!」
お絹「アンタ、ラーメンってヤツ食べに行って来てよ」
熊「ヤダ」
熊「近くのウドン屋の主人ってバレたら、恥ずかしいだろ」
お絹「変装すりゃ、分かんないわ」
お絹「ウドンの親戚なんだから、親戚に挨拶行く様なモンだろ」
熊「えー」
お絹「早く!」
お絹「何もしないとウチの店、つぶれちまうよ」
〇古民家の居間
熊「店の服から着替えて来たけど・・・ここがハチのヤロゥが話してたラーメン屋か」
熊「豚か鶏を煮たダシの匂いだな」
熊「表の看板、店の名前、なんて書いてあったか分かんなかった」
熊「『豚豚鶏拉麺・渋谷店』・・・ブタブタトリ・・・ラーメンって読むのか?シブヤテンしか分からん」
元吉「らっしゃい!お一人様ですか?」
熊「アンタが店主?ずいぶん若いね」
元吉「有難うございます!何にします?」
熊「お品書きも、漢字ばかりじゃねぇか」
熊「えーと、この、看板の字と同んなじ・・・ブタブタトリ・・・」
元吉「トントンチキ」
熊「・・・あ?」
元吉「トントンチキ」
熊「テメェ!」
熊「客に向かって、いきなり喧嘩吹っかけてきやがって!」
熊「バカヤロウ!」
熊「オタンコナス!!」
熊「トーヘンボク!!!」
元吉「喧嘩、売ってません!」
元吉「そのラーメンの名前です!」
熊「あぁ?ラーメンの名前だとぉ??」
元吉「二種類の豚と、鶏からダシを取って、」
元吉「ブタブタ(豚豚)がトントン、トリ(鶏)は南蛮の鶏で、チキンって言うんです」
熊「豚豚鶏で、トントンチキって読むの?」
熊「悪意のある名前つけたモンだねぇ」
元吉「どういうことですか?」
熊「わかんないの?コレ、悪口って」
熊「ああ、九州から来てるからか?若いから?」
熊「トントンチキっつったら、トンマとかマヌケとか、人をののしる言葉だよ」
元吉「そうなんですか!」
元吉「亡くなった師匠が付けた名前なんですが、だからお客さん、変な顔してた食べてたのか」
熊「偶然か分かんねぇけど、変な師匠だねぇ」
熊「悪気が無いなら、仕方ねぇか」
熊「じゃ、そのトントンチキラーメンっての、頂戴よ」
元吉「ハイ!トントンチキ一丁!」
熊「悪気がナイって聞いても、」
熊「反射的に、イラっとすんな。これは気分悪い ・・・」
元吉「お待たせしました!トントンチキ!」
熊「出てくるの早ぇな」
元吉「・・・スイマセン」
熊「大丈夫。顔は怒ってるけど、気持ちは全然怒ってない」
熊「・・・ウマッ!!」
熊「これで十六文?」
熊「ウチのウドンより安い!」
熊「くー」
元吉「あ、ハッつぁん!らっしゃい!」
八「もうホント参ったよぉ」
熊「・・・」
八「中央街のウドン屋の女将さんに捕まって、ここに来てる事バレちまった」
八「店主の熊さんに知れたらマズイんだよ」
元吉「そーなんですね」
八「あそこのウドン、味もマズイけど」
熊「ハチ!ウチのウドンがマズイだとぉ?!」
八「熊さん?!なんでココに??まだウドン屋、やってる時間じゃないの?」
元吉「け、喧嘩は止めてください!」
熊「止めるな!ウドンの親戚!!」
熊「オレは、中央街のウドン屋だ! 今は顔も怒ってて、気持ちも完璧に怒ってる!」
熊「ハチ、テメェ、他の店でウチの悪口言いやがって!コノ!コノ!!」
八「痛っ!痛っ!!」
八「オ、オレの稼いだゼニだ!どこで何を喰おうが勝手だ!」
八「テメェみてぇな、太ぇヤロゥのウドン屋、もう二度と行かねぇからな!」
熊「そりゃそうだ!」
熊「ラーメンよりウドンの方が、麺が太い!!」
タイトル見た時に「ぶたぶたとり…」と全く同じに読んでいたので思わず笑ってしまいました😂笑
渋谷という若者の街にあえて昔のお話をもってくる発想が素晴らしいです✨
ユニークな設定ももちろんですが、落語のような粋な言葉遊びでクスッとさせていただきました🤣
「おあとがよろしいようで」と聞こえてきそうなほど、ちゃんとオチがついているのが素敵です😆
ほとんどが会話で書かれていてテンポ感がよく楽しく読めました。気分が悪くなったのはまさかのネーミングだったとは笑昔の人が実際にラーメン食べたら美味しいと思うのかなあ?なんて考えちゃいました