あなたが、美しかったなら~老人ホーム職員の日常~

東北本線

『美しき哉、同時性』(脚本)

あなたが、美しかったなら~老人ホーム職員の日常~

東北本線

今すぐ読む

あなたが、美しかったなら~老人ホーム職員の日常~
この作品をTapNovel形式で読もう!
この作品をTapNovel形式で読もう!

今すぐ読む

〇古い施設の廊下
  下のお世話、って言葉はあんまり好きじゃないんですが、今回はそんな話です。
  ご容赦、ご注意ください。
僕「バケツおっけい!清拭タオルおっけい!」
僕「陰洗ボトル持ったし、手袋もポケットに詰めたっ!」
僕「よしっ!今日も行きますか!」

〇病室(椅子無し)
僕「失礼しまーす」
僕「おはようございまーす!」
ヨシエ「はーい」
僕「ヨシエさん、オムツ交換に来ましたー」
ヨシエ「お願いしまーす。いつも悪いねぇ」
僕(ヨシエさんは80台。認知機能は年相応だけれど、病気で下半身不随だ)
僕(職員との会話もできるし、身体が動かないってだけで、健康そのもの)
僕「じゃあ、ちょっと準備しますね」
僕(居室のトイレに置いているオムツとパットと、)
僕(一応、漏れちゃった時のために吸収シートもベッドに敷いておこう)
僕「では、失礼します」
ヨシエ「どうぞー」
僕「ズボン失礼します」
僕「あ・・・」
僕(だいたい臭いで分かる。排便あったな、こりゃ)
僕「ヨシエさん」
ヨシエ「なぁに?」
僕「ちょっと便が出てるみたいなので、少し時間かかっちゃったらすみません」
ヨシエ「あ・・・」
ヨシエ「ごめんなさいね。出ちゃってたんだね」
ヨシエ「アタシ、感覚がないから分からなくて・・・」
僕「いやいや、何もごめんなさいなことないですよ!」
僕「ウンチなんて、出ないより出た方がいいに決まってるんですから!」
ヨシエ「・・・」
ヨシエ「ありがと。・・・よろしくね」
僕「・・・はい!」

〇古い施設の廊下
僕「ふい~!思ったより早く終わった!」
ツボネル「お疲れ様。ご機嫌ね」
僕「あ、ツボネルさん。お疲れ様です!」
僕「いまオムツ介助だったんですけど、」
僕「ヨシエさん、排便があったんで片付けてました」
ツボネル「・・・」
ツボネル「宝くじでも買ったら?」
僕「・・・え?」
ツボネル「便にあたったんでしょう?」
ツボネル「ヨシエさん、寝たきりだから、いつも便秘じゃない?」
ツボネル「下剤を飲んでも出ないことあるのに、」
ツボネル「自然排便にあたったわけだ」
ツボネル「ウンが良いってものじゃない」
僕「はい・・・」
ツボネル「じゃ、私はパソコン入力してるから」
僕「・・・」
僕「ん?」
僕「便の臭いがまだしてる気がする・・・」
ハジメ「・・・」
僕「・・・!」
僕「ハジメさんっ!」
ハジメ「な、なんだ!?急に話しかけるなっ!」
僕「あ、ああ。ごめんなさい」
僕「ちょっと失礼っ。お尻を確認っ」
ハジメ「なんだなんだ?」
僕(あ、ズボンが濡れてますねぇ)
僕(表情もいつもより硬かったし、お尻が気持ち悪かったんだろうなぁ・・・)
ハジメ「なんなんだ、急に!」
僕「ハジメさん、すみませんでした」
僕「お詫びと言っちゃあなんですが、・・・」
僕(ハジメさんは、お風呂と食事以外は、職員の言うことを聞いてくれない傾向がある)
僕(なので・・・、)
ハジメ「そ、それは・・・」
僕「部屋に戻って、一緒に食べませんか?」
ハジメ「・・・」
ハジメ「・・・よかろう」

〇病室(椅子無し)
僕「ハジメさん?」
ハジメ「ん?なんだい?」
僕「飴を食べる前に、トイレ済ませておきませんか?」
ハジメ「・・・」
ハジメ「そうだな。その方がいい気がしていたんだ・・・」
僕「ええ、そうですよね。手伝いますよ!」

〇清潔なトイレ
僕「じゃあ、ズボン降ろすの手伝いますね」
ハジメ「・・・あ、ああ」
僕(慎重に~・・・、床にこぼさないようにぃい~・・・)
僕「はい!どうぞ、座って下さい!」
ハジメ「便が・・・」
ハジメ「全部、出ていたのか・・・」
僕「・・・」
僕(いつもは気が強いハジメさんも、さすがに落ち込んでしまっているみたいだ・・・)
僕(まあ、毎回失禁の時は落ち込んじゃってるんだけどね)
僕「・・・」
僕「気にしないで下さい」
ハジメ「・・・」
僕「失敗したら、つぎ気を付けたらいいじゃないですか」
僕「もし失敗した時は、我々が手伝います」
僕「きっと次からは、大丈夫ですよ!」
ハジメ「あ、ああ・・・」
僕「着替え、持ってきますね」
ハジメ「うん・・・」
ハジメ「・・・」
ハジメ「ありがとう〉ボソッ」
僕「はい?」
ハジメ「なんでもない!」
僕「はーい!」

〇古い施設の廊下
僕(排泄介助、ちょっと時間が押してきてるなぁ・・・)
パイセン「僕君、そっちはどうだい?」
パイセン「こっちはミツコさんまで終わったよ」
僕「パイセンさん、すみません」
僕「ちょっとハジメさんが便漏れしてて、まだヨシエさんしか終わってないです」
パイセン「それはウンがツいてたねぇ!今日は帰りにパチンコにでも行ったら?」
パイセン「あ、僕君はしないんだっけ!はっはっは!」
僕「・・・はい」
パイセン「じゃあ俺はイヨさん入るから、僕君はアイコさんお願いね?」
僕「りょ、了解です!」

〇病室(椅子無し)
僕「失礼しまーす!」
僕(あ・・・)
僕(臭いで分かる・・・っ)
僕(これ、漏れてるパターンだぁ・・・)
アイコ「・・・・・・」
僕(あ、いかんいかん)
僕(アイコさんは寝たきりで、会話もできない状態だけれど、)
僕(きっと、そういうのって伝わっちゃうと思うんだよね)
僕(便が漏れてたくらいで、ネガティブな表情で対応しちゃダメダメ・・・)
僕「・・・」
僕「おはようございます」
僕「・・・って、もう11時ですね」
僕「こんにちは!アイコさん!」
アイコ「・・・・・・」
僕「オムツ交換に来ました。ちょっと布団めくりますねー」
僕(お、おぅ・・・)
僕(オムツから漏れて、防水シーツを通り越して、)
僕(ベッドシーツ、ベッドパットまで汚染しているぅ・・・)
僕(しかもアイコさん、鉄剤を処方されてるから、)
僕(便が真っ黒なんだよね)
僕(仕事始め立ての頃、コレ見てびっくりして、慌てて看護師さん呼んだなぁ・・・)
僕「アイコさん、着替えとシーツを持ってくるので、ちょっと待ってて下さいね?」
アイコ「・・・」

〇古い施設の廊下
僕(やっと終わったぁー!)
僕(ヨシエさんの便を片付けて、ハジメさんの便を片付けて、アイコさんの便を片付けて・・・)
僕(頑張ったなぁ、僕・・・っ!)
僕(あと、便に当たるとギャンブル勧められるのって、介護あるあるなのかな?)
僕(みなさんの職場は、どうですか?)
僕「・・・」
僕「・・・・・・」
僕「っていうか、ウンチ重なり過ぎぃいっ!」

次のエピソード:『美しき哉、お食事』

成分キーワード

ページTOPへ