いわく鑑定士

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〈大切な物を守る〉金庫(脚本)

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〇時計台の中
鑑定士「この世には〈いわく〉を抱えた呪いの品が存在します」
鑑定士「私は、そんな〈いわく〉付きの品専門の鑑定士」
鑑定士「さて、本日の〈いわく〉は、一体おいくらになるのでしょうか・・・」

〇時計台の中
えり香「運んでいただいてありがとうございます」
鑑定士「こちらが依頼品ですね」
えり香「この金庫、扉は開けられないんです。 鍵も無くて、ナンバーロックの番号も分からないから」
えり香「そもそも・・・開けたくないんです」
えり香「それでも、鑑定していただけますか?」
鑑定士「私が鑑定するのは、あくまでこの金庫の〈いわく〉です」
鑑定士「お聞かせください。 この金庫にまつわる〈いわく〉を」

〇綺麗な一戸建て
警察「――なるほど。 それで、帰ってきたら家の中が物色されていたと」
清和「なんで、なんでうちに・・・」
  一年前、我が家に空き巣が入りました。
  夫と外食に出かけて帰ってきたら、家の中が荒らされて、貴重品類が盗まれていたんです。
警察「とりあえず、鍵は替えて。 防犯カメラの設置も検討してください」
警察「空き巣は時間を空けずに同じ家を狙うケースが多いので」
清和「・・・ごめんね、えり香。 俺がもっとちゃんとしてれば」
えり香「そんな・・・・。 清和さんのせいじゃないよ」
清和「もうすぐ子供も生まれるっていうのに。 何やってんだ、俺は・・・」
  その時、私は妊娠していました。
  それもあって夫は家族を守ることに対して、神経質になっていたんだと思います。
清和「家族は、俺が守らなきゃ・・・」
  責任感の強い人だったんです。

〇綺麗な一戸建て
配達員「近藤さん、お届けものです」

〇明るいリビング
えり香「な、なにこれ」
清和「なにって、金庫だよ。 これがあればもう安心だ」
清和「鍵、暗証番号、指紋認証の3重ロック方式」
清和「耐火性能も抜群で、金庫自体が100㎏以上あるから、持ってかれる心配もない」
えり香「ちょっと大げさな気もするけど・・・」
清和「何言ってんだよ。 いくら用心したってし過ぎることはない」
えり香「あれ、なんか今、その金庫光ったような・・・」
清和「通帳と印鑑、それから貴重品類も全部持ってきて。ほら、早く!」
えり香「・・・はーい」
  これで夫の気が済むならそれでいいか。
  その時はそれぐらいに考えていました。
  でも・・・

〇おしゃれなキッチン
えり香「あれー、ここにしまったはずなんだけど・・・」
えり香「清和くん、この間買った大皿、どこかで見なかった?」
清和の声「ああ、それなら・・・」
清和「はい。使ったらまた金庫に戻しといてね」
えり香「ちょ、なんで金庫に入れてるの!?」
清和「その皿、たしか2万円ぐらいしたでしょ?」
清和「1万円以上の物は金庫で保管することにしたから」
えり香「いやいや、やりすぎだよ! こんなの面倒くさいって」
清和「面倒でも、それで大切な物を守れるならいいじゃない」
清和「・・・1万円以上だと基準が甘いかな。 5000円以上にしようか?」
  夫の“防犯意識”はどんどんエスカレートしていきました。

〇明るいリビング
清和「えり香、スマホ出しっぱなし!」
えり香「いや、でも──」
清和「使ったらすぐに・・・」
清和「金庫にしまう! 約束したよね!」
えり香「・・・ねぇ、やっぱりこんなのおかしいよ」
えり香「スマホ、財布、カバン、靴・・・。 毎日使うようなものまでいちいち金庫に」
清和「えり香は危機意識が足りな過ぎるよ!」
清和「これぐらいはいいだろう、っていう少しの油断が命取りなんだ」
清和「もうすぐ母親になるんだから。 ちゃんと自覚持ってよ」
  これ以上ルールが厳しくなるようなら、もう一緒に暮らしていけないかもしれない。
  そんなことすら考えていた矢先のことでした。
  我が家に、また空き巣が入ったんです。

〇綺麗な一戸建て
清和の声「一度空き巣に入られると、また狙われやすいって」
清和の声「警察の言ってたこと本当だったんだな」
清和の声「でも・・・」

〇明るいリビング
清和「何も盗られてない!」
清和「ははは、全部金庫に入れてたからだ!」
清和「なあ、そうだろ!」
えり香「うん、そうだね・・・」
清和「これがあれば、なんでも守れる。 俺は間違ってなかった」
清和「えり香、これでお前も納得──」
えり香「う、ううう・・・」
清和「えり香?」
清和「えり香!」
  心労が祟ったのか、私は予定よりも早く産気づきました。

〇集中治療室
助産師「はい、思いっきりイキんで!」
えり香「ふうんんんっ!」
助産師「もう一回!」
えり香「あああああっ!」
  約30時間の難産の末、ようやく・・・
赤ちゃん「おぎゃあ、おぎゃあっ!」

〇病室
清和「えり香、本当にお疲れさま! ありがとう!」
えり香「清和くんこそ、ずっと付き添ってくれてありがとう」

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