あなたが、美しかったなら~老人ホーム職員の日常~

東北本線

『美しき哉、呪いの連鎖』(脚本)

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〇古い施設の廊下
僕「え!?」
ツボネル「そうなんだよ。パイセン君、朝に熱が8度台で、今日は休むって」
ツボネル「急に電話があったらしくてねぇ。これから病院に行くって言ってたよ」
僕「そ、そうですか・・・」
僕(お客さんの体不調や急変、搬送や通院、自宅外出なんかもあって、忙しかったからなぁ・・・)
僕(パイセンさん、大丈夫だろうか・・・)
ツボネル「ホント、困った人・・・っ!」
僕「え・・・?」
ツボネル「現場のリーダーなんだから、自己管理くらいしっかりしてほしいもんだよ!まったく!!」
僕「・・・」
僕(えぇー・・・?)
ツボネル「一人が急に休んだら、その分、出勤した人間が割を食うじゃないかっ」
ツボネル「どうすんだい!?午前のうちに、排泄介助に入浴介助も行かなきゃならない!」
ツボネル「最悪だよっ!」
僕「・・・」
僕(最悪はアンタだよっ!)
僕(なーんて言えたら、僕の人生どんなに楽だろうか・・・)
僕「し、仕方ありませんよ。こればっかりは」
僕「いる人員で、なんとかしましょう?」
ツボネル「優しいんだね。文句ひとつも言わないなんて」
僕「は、はぁ」
ツボネル「でも私の休憩時間は絶対に削らないよっ!しっかり1時間取らせてもらうからねっ!」
僕「・・・」
僕(まだそんな話、ひとっつもしてないじゃないか・・・)
僕(そもそもアンタ、休憩時間を削って仕事したこと、今まで1度でもあるんけ?)
僕「まあ、いざとなったら・・・」
ツボネル「絶対にしっかり休むからね!ローキイハンなんだからねっ!」
僕(何回も言わないで下さい。入所したいんですか、施設に?)
僕「大丈夫です。いざとなったら私が、」
僕「休憩も削りますし、残業しますから」
ツボネル「・・・」
ツボネル「・・・・・・」
ツボネル「なら、いいけどね」
僕(なにがいいのか、もうよく解らないな)
ツボネル「ちゃんと私が施設長に言っておくよ」
ツボネル「パイセン君が休んだ割を、僕君が喰ってたってね」
僕「・・・」
僕(なんでそういう言い方しかできないんだよっ)
僕(それじゃあ、病気に罹ったパイセンさんが悪いみたいじゃないか!)
僕「あの・・・」
ツボネル「ん?なんだい?」
僕「施設長には、僕から現場の人員不足で忙しくて、」
僕「業務が回らないことがあるって、後から言っておきますので・・・」
ツボネル「・・・」
ツボネル「今まで何回、施設長に直訴したんだい?」
ツボネル「現場からの話なんて、あの人は聞いちゃいないんだよ」
僕「・・・」
僕「いやいや、求人は出してるって、いつも言ってくれてますよ?」
ツボネル「・・・」
ツボネル「求人を出すだけなら、誰にだって出来るんだよっ!」
ツボネル「あの人がしっかりしないから、いつまでも現場はしんどいままなんだっ」
ツボネル「現場が大変なのは、上層部が悪いからに決まってるだろっ」
僕「・・・」
僕(オーケストラで、指揮者がいないとみんながケンカするけど、)
僕(指揮者がいると、不満の矛先が指揮者に向かって集団がまとまる)
僕(みたいな話を思い出す・・・)
僕「まぁまぁ・・・、あ」
ハジメ「・・・」
ハジメ「朝メシはまだか?」
僕(もう9時過ぎで、朝食はとっくに食べましたー!)
ツボネル「ハジメちゃん!朝ご飯はもう食べたでしょう!?」
ハジメ「な、何言ってるんだ!?私は朝メシなんて食べてない!」
ハジメ「いったいどういう了見だ!?私を餓え死にさせる気か!?」
ツボネル「ぐ、この・・・っ」
僕「あ、僕が対応しますんで、ツボネルさんは先にトイレ介助お願いしますっ!」
僕「ハジメさんの対応が終わったら、入浴介助に行きますんで!」
ツボネル「・・・」
ツボネル「・・・ふんっ!」
僕(今日は帰れないな、こりゃあ・・・)
僕「ハジメさん、お腹が空いたんですね?」
ハジメ「そりゃあそうだろう!私は朝メシを食べてないんだから!」
僕「そうですか・・・」
僕「あっ!」
ハジメ「な、なんだ急に?」
僕(ハジメさんって、たしか今日は・・・)
僕「ハジメさん、お風呂お好きでしたよね?」
ハジメ「え?」
ハジメ「ああ、特にあっつい風呂は、たまらないねぇ」
僕「じゃあ、私も手伝うので、今から一番風呂といきますか・・・!?」
ハジメ「・・・」
ハジメ「・・・・・・」
ハジメ「いいね。そうするとしようか!」
僕「そうと決まれば、善は急げです!ご案内します!」
ハジメ「・・・頼む」

〇古い施設の廊下
パイセン「いやぁ、僕君!昨日はごめんね!」
僕(いやいや、38℃の熱出して一日で治しちゃうパイセンさん、)
僕(アンタ人間じゃないよ・・・良い意味で)
僕「ぱ、パイセンさん、大丈夫なんですか?」
パイセン「ああ、大丈夫だいじょーぶ!病院で検査して、ただの風邪だって言われたし、」
パイセン「熱も下がったし、悪寒も咳も頭痛も下痢も腹痛も嘔吐も治まった!」
パイセン「一日で!」
僕(・・・し、新種の風邪かな?)
僕「と、とにかく大事なくて何よりです」
パイセン「いやーごめんね!急に休んで迷惑かけて!」
パイセン「これ、みんなで食べてよ!」
僕「あ、ありがとうございます!」
僕「・・・」
僕(気持ちは分かるけれど、)
僕(一日休んだだけで、こんな気を遣わなくていいのに・・・)
僕(これって他の施設もそうなのかな)
僕(前の職場で、体不調で急に2日休んで、)
僕(何も買わずに出勤したら、何か買ってくるべきだろって怒られたことあったけど、)
僕(そういうもんなの?)
僕(薄給で名を馳せる介護士に、それってどうなんだろう?)
僕「・・・!」
ハジメ「朝メシは・・・」
パイセン「おー!ハジメさん!おはようございますっ!」
ハジメ「あ、ああ。おはよう・・・」
パイセン「ハジメさん、いっつもお腹空いてるから、」
パイセン「ひとつ、どうですか?」
ハジメ「い、いいのかい?」
パイセン「もちろんですよ!」
パイセン「こっちで切ってから出すので、イスに座って、待っててもらっていいですか?」
ハジメ「あ、ああ」
ハジメ「ありがとう」
パイセン「すまん、僕君」
パイセン「俺は入浴介助に行かなきゃいけないから、」
パイセン「ドーナッツ切って、少しずつハジメさんに提供してくれるかい?」
パイセン「1個まるまる出すと、ハジメさん、すぐ食べ終わっちゃうから、ちょっとずつ出してあげてね?」
僕「了解です」
僕(やっぱパイセンさん、さすがだなぁ)
僕(僕も見習わないと・・・)
僕「・・・!?」
パイセン「はい、幻想ユニットです」
パイセン「・・・・・・」
パイセン「あ、了解です。事務所か看護師さんのヘルプは・・・」
パイセン「あ、そうですか。忙しいと・・・」
パイセン「ええ。ではこちらで何とかします」
パイセン「ツボネルさん、風邪で休みだって」
パイセン「俺が休んで、無理がたたってしまったのかな・・・」
僕「そ、そんなことないですよ・・・」
僕「パイセンさんのせいじゃありません」
パイセン「・・・」
僕「・・・」
パイセン「・・・そうだな」
パイセン「とにかく今日を乗り切ろう!二人で仕事を分担しながら!」
僕「そうですね!パイセンさんは、入浴介助にどうぞ!」
パイセン「ああ!じゃあ、こっちのトイレ介助は任せたよ?」
僕「・・・はい!ドーナッツ出したらすぐやります!」
パイセン「はっは!頼もしいなあ!僕君、いつもありがとね!じゃ、行ってきます!」
僕「よし、今日も残業かなぁっ!」
僕「ん・・・!?」
僕「変なくしゃみが出た・・・」
僕「あ・・・、ちょっと喉が痛い気がする」
僕「・・・・・・」
僕「つ、次は僕の番っ!!?」

次のエピソード:『美しき哉、同時性』

コメント

  • パイセンさん達の頑張りが伝わってきます…

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