〈時間通り〉の懐中時計(脚本)
〇時計台の中
鑑定士「この世には〈いわく〉を抱えた呪いの品が存在します」
鑑定士「私は、そんな〈いわく〉付きの品専門の鑑定士」
鑑定士「さて、本日の〈いわく〉は、一体おいくらになるのでしょうか・・・」
時計台が14時を告げる鐘を鳴らした。
鑑定士「お待ちしておりました。どうぞこちらへ」
鑑定士「ご依頼の品を、机の上へお出しください」
志保「はい・・・」
志保「私が鑑定していただきたいのは、この懐中時計です」
鑑定士「それではお聞かせください」
鑑定士「この懐中時計にまつわる〈いわく〉を──」
〇店の入口
この懐中時計は、私が恋人の裕也にプレゼントしたものでした。
旅先で立ち寄ったアンティークショップで見つけたんです。
〇テーブル席
志保「はぁ、遅いなー・・・」
裕也「ごめん、お待たせ!」
志保「やっと来た、30分遅刻!」
裕也「いやー、なんかスマホのアラームが鳴らなくってさ」
志保「その言い訳は聞き飽きた」
志保「この前も、その前も、その前の前も同じこと言ってたよ!」
裕也「毎度毎度、申し訳ないと思ってるんだけどねー」
志保「はぁ、ホントに反省してんのかな・・・」
志保「まあ、いいや。はい、これ」
裕也「ん、なに?」
志保「友達と行った旅行のお土産」
裕也「おー、ありがとう!」
裕也「懐中時計・・・?」
志保「不満?」
裕也「ちょっと、俺には渋すぎないかな?」
志保「そんなこと無いよ、レトロでオシャレだよ」
志保「それに、この懐中時計には私の祈りが込められてるの」
志保「時間にルーズな裕也の性格が治りますようにって」
裕也「うわ、プレッシャー・・・」
志保「あれ?」
裕也「どうかした?」
志保「今、その時計が光った気がして」
裕也「そりゃ、こんだけ綺麗に磨かれてれば光るだろ」
裕也「ほら、ピカピカ」
志保「んー、そうじゃなくて、懐中時計自体が発光したような・・・」
裕也「大事にしますよー」
裕也「なんか、もう二度と遅刻しないような気がする!」
もちろん、そんな言葉を信じてはいませんでした。
でもその日から、本当に裕也は遅刻しなくなったんです。
〇渋谷駅前(看板無し)
裕也「お待たせ!」
志保「裕也、もう来たの?」
裕也「もう来たのって、待ち合わせ12時だろ。 ほら、時間ピッタリ」
志保「その懐中時計、使ってくれてるんだ」
裕也「なんかこれ見てると、時間通りに行動しなきゃって思うんだよな」
志保「へぇー、ホントに私の祈りが通じたのかな」
裕也「早く行こう。 映画の時間に間に合わなくなるぞ」
〇映画館のロビー
志保「ねえ裕也どうしたの、早く入ろうよ」
裕也「だって12時35分開始だろ。まだ34分だよ」
志保「いや、流石に細かすぎない・・・?」
裕也「・・・よし、35分になった! 入ろうぜ」
時間にルーズな性格が治ったのは嬉しかったです。でも・・・
〇田舎駅の駐車場
裕也「もしもし、全然バス来ないんだけど、どうなってるんですか!」
職員の声「も、申し訳ございません・・・」
志保「落ち着いてよ。1分遅れてるだけじゃん。 もうすぐ来るよ」
裕也「時刻表通りじゃないなんて、そんなのおかしいでしょう!」
裕也「なんで時間を守れないんですか!」
志保「ちょっと、もうやめなよ!」
裕也の『時間通り』の行動は、段々とエスカレートしていきました。
〇二階建てアパート
志保「ねえ裕也、中に入れて・・・」
裕也の声「ふざけんな、19時に行くってお前が言ったんだろ!」
志保「それはだいたい19時って意味で、ちょっと早く着いちゃったんだよ」
裕也の声「まだ18時54分だ。あと6分もある」
志保「あ、雨で体が冷えちゃって、すごく寒いの・・・」
裕也の声「知らねぇよ、外で待ってろ!」
〇車内
志保「ス、スピード出し過ぎだよ!」
裕也「仕方ないだろ、渋滞でロスした分を取り返さないと。次の予定に間に合わない!」
志保「家に帰るだけじゃん! そんなの時間通りじゃなくていいよ!」
裕也「うるさい、スピード上げるぞ!」
志保「いやっ、危ない!」
裕也「時間通り、時間通りに!」
裕也は予定が1分1秒でもズレることを許しませんでした。
何よりも『時間通り』であることが最優先でした。
そして、最期の時も・・・
〇SHIBUYA SKY
志保「わー、綺麗!」
裕也「おー、すごいな。 地上200mから見ると、汚い東京の街も輝いて見えるな」
志保「なんか言い方に悪意があるなぁ」
志保「でも、ありがとう」
志保「私がスカイタワー展望台に行きたいって言ってたの、覚えてくれていたんだね」
裕也「付き合って3年の記念日だからな。 ちょっとはおしゃれなことしようかなって思ってさ」
裕也「よし、そろそろ降りるか」
志保「え、もう!?」
裕也「入場で思ったより並んだからな。 あと5分で下に降りないと、レストランの予約に間に合わなくなる」
志保「でも、もう少しだけ・・・」
裕也「ダメだよ。時間通りに降りないと」
志保「・・・はーい」
警備員の声「ご迷惑おかけしております。 復旧までもう少々お待ちください」
裕也「あの、どうかしたんですか?」
警備員「エレベーターに不具合が見つかりまして。 現在、復旧作業中なんです」
裕也「えっ、じゃあ、どうやって下に降りたらいいんですか!?」
警備員「申し訳ございません、復旧まで少々お待ちください」
志保「あちゃー、これじゃ仕方ないよねぇ。 神様がもう少し夜景を楽しんで行けって言ってるんだよ」
志保「今度は反対側の方に行ってさ──」
裕也「・・・ふざけんなよ」
志保「裕也?」
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面白かったです。だんだん追われていく緊迫感…!
さすがです。
面白かったです。ミステリー仕立てで一気に読ませていただきました