└chapter09.5 魔王の講義(脚本)
〇おしゃれな居間
サフィ「うーん」
サフィ「火が膨張で、えっと・・・」
アストリッド「なにしてんの?」
サフィ「こないだアストリッドが教えてくれたこと」
サフィ「覚え直してるんですけど ちょっと難しくて」
サフィ「アストリッドもピオも 頭に入ってるんですよね」
サフィ「すごいなあ」
アストリッド「少しは知っとかないと 足元見られかねないし」
アストリッド「あいつ、あれでも一応 大貴族のお坊ちゃんだから」
アストリッド「最低限の教養は叩き込まれてるはずだよ」
サフィ「そうなんだ」
サフィ「あたしも頑張ります!」
アストリッド「なるほどね」
アストリッド「それなら付き合ってやるよ」
サフィ「いいんですか?」
サフィ「けど、ピオの修行は?」
アストリッド「しばらく精神統一・・・ もとい、釣りの段階だから」
アストリッド「今は手が空いてるしね」
サフィ「ありがとう!」
〇幻想
アストリッド「魔術には6つの属性がある」
アストリッド「世界を構成する4属性を原理とする 火、氷、風、土」
アストリッド「4属性はそれぞれ異なる性質を持つ」
アストリッド「火は膨張」
アストリッド「氷は収縮」
アストリッド「土は凝固」
アストリッド「風は流動」
アストリッド「目の前に魔力の球があったとして」
アストリッド「たとえば火の魔術なら 魔力が膨張するイメージ」
アストリッド「氷なら収縮するイメージで使う」
アストリッド「そして光と闇の2属性」
アストリッド「光は光明神リーグの力を原理とし」
アストリッド「闇は暗黒神ルーネの力を原理とする」
〇おしゃれな居間
サフィ「火、風、氷、土は 世界を創った神様が生んだもの」
サフィ「光の神様は火と風 闇の神様は氷と土」
サフィ「だから光と闇は特性を2つずつ備えてる」
サフィ「光は膨張と流動 闇は収縮と凝固」
サフィ「・・・でしたっけ」
アストリッド「そのとおり」
サフィ「光の神様は創造、闇の神様は破壊・・・」
アストリッド「逆だよ」
アストリッド「光明神リーグが破壊 暗黒神ルーネが創造」
アストリッド「だから魔術も光は攻撃特化で 闇は精神に作用するものや治癒」
アストリッド「一応、攻撃系の闇魔術もあるけどね」
サフィ「覚えにくいなあ」
アストリッド「なぜ?」
サフィ「だってイメージ的には逆ですもん」
サフィ「光が正義の味方で、闇が悪い人」
アストリッド「単純な二元論だね」
アストリッド「子ども向けの物語なら そうかもしれないけど」
アストリッド「現実は、そう簡単に 割り切れるものじゃない」
アストリッド「闇は、光の届かない部分」
アストリッド「光があれば、そこに闇が生まれる」
アストリッド「光と闇は表裏一体だ」
サフィ「うーん」
アストリッド「そうだな・・・」
〇白
アストリッド「世界は初め、光に満ちていた」
アストリッド「暗黒神が生命と物質を生み出し──」
アストリッド「光だけの世界に影が落ちるようになった」
サフィ「それが闇?」
アストリッド「そう」
アストリッド「光明神が生命と物質を消滅させれば」
アストリッド「世界は影のない、光だけの世界に戻る」
〇おしゃれな居間
アストリッド「ってのが天地創造神話」
サフィ「だから光が破壊で闇が創造なんですね」
アストリッド「光は昼、闇は夜」
アストリッド「って考えるとわかりやすいかもね」
アストリッド「大抵の生物は、昼に活動して夜に眠る」
アストリッド「活動すれば疲れるし 眠れば体力が回復するよね?」
サフィ「なるほど!」
サフィ「もひとつ聞いてもいいですか?」
アストリッド「ま、いいけど」
アストリッド「その前に茶でも淹れてくれる?」
サフィ「はーい」
アストリッド「ふー・・・」
「アストリッドー!」
サフィ「紅茶にジャムを入れるとおいしいって こないだ聞いたんです」
サフィ「やってみましょ!」
アストリッド「ジャムなんかないよ」
サフィ「嫌いですか?」
アストリッド「1人じゃ使い切れないからだよ」
アストリッド「別に嫌いじゃない」
サフィ「じゃ、買いましょ!」
サフィ「料理にも使えますし」
アストリッド「・・・ま、3人いれば使い切れるか」
アストリッド「いいよ、明日ね」
サフィ「やったあ!」
アストリッド「で、なにを聞きたいの?」
サフィ「えっとですね・・・」
〇堤防
ピオノノ・ダイン「・・・・・・」
ピオノノ・ダイン「・・・今だっ!」
ピオノノ・ダイン「また逃げられた」
ピオノノ・ダイン「才能ないのかな」
ピオノノ・ダイン「・・・いや」
ピオノノ・ダイン「魚を釣るのはあくまで副産物」
ピオノノ・ダイン「目的は、精神力と集中力を鍛えることだ」
ピオノノ・ダイン「集中しよう・・・」
〇おしゃれな居間
アストリッド「大陸6ヶ国のこと?」
サフィ「同盟とか結婚の話とか」
サフィ「国の名前がいっぱい出てきて よくわかんなくなっちゃって」
アストリッド「ま、名前だけ聞かされても わかりづらいかもね」
サフィ「ね、アストリッド」
サフィ「どこかの国に行ったことありますか?」
アストリッド「一応、すべての国を回ったよ」
アストリッド「ベルクライン、ミラノ、オリオーラは 滞在期間が短かったけど」
アストリッド「ロンサールには数年いたかな」
アストリッド「ロンサールはスペルロイド製造国だから 魔術の研究がしやすいかと思ってね」
サフィ「すごーい」
サフィ「どんな感じだったか教えてください!」
アストリッド「どんな感じ、ねえ」
〇ファンタジー世界
アストリッド「聖堂と湖の国 ワーズワース王国」
アストリッド「王都はペンリス」
アストリッド「第一王女シーラは ベルクラインの王子ハーゲンと婚約中」
アストリッド「第二王女のナタリアは庶子だけど」
アストリッド「ベルクラインとの同盟の兼ね合いで 王位継承者に選ばれた」
アストリッド「ダイン、ポルト、サイラスは 王家に仕える三大貴族と言われる」
アストリッド「ダイン家の当主はクレメント・ダイン」
アストリッド「酒場の歌姫モルゲッタと結婚し」
アストリッド「2人のあいだに生まれたのが ジュリアン・ダイン」
アストリッド「ピオの弟ってことになってるけど 当然、血のつながりはない」
アストリッド「アビス閃石を飲まされた影響で モルゲッタは生殖機能が低下し」
アストリッド「ダイン公はスペルロイドを9体造らせ そのうちの1体であるピオを養子とした」
アストリッド「これを知るのは王宮でも一部だってさ」
アストリッド「ま、ダイン家の内部分裂を 知られるわけにはいかないもんね」
アストリッド「9体のスペルロイドのうち 6体は成育不良で廃棄されたらしい」
アストリッド「ピオ以外の2人はどこへ行ったのやら」
アストリッド「ま、おおよその想像はつくけどね」
〇海辺
アストリッド「サントエレン島もワーズワース領だね」
アストリッド「サントエレンは100年前 聖者エレンが悪魔を封印した場所」
アストリッド「封印の力が緩んできてるから 瘴気から魔物が生まれて」
アストリッド「魔物の被害は年々増加してる」
アストリッド「加えてワーズワース中から 重犯罪者が流されてくるから」
アストリッド「魔物と犯罪者の巣窟なんて呼ばれてる」
アストリッド「だいぶ掃除してやったから 最近は前ほどじゃないけどね」
〇岩山
アストリッド「山脈と鉱物の国 ベルクライン王国」
アストリッド「王都はハイネ」
アストリッド「周囲を山に囲まれてるから 堅牢な守りを誇る」
アストリッド「その分、他国との行き来は困難だけど」
〇美しい草原
アストリッド「花と芸術の国 ロンサール王国」
アストリッド「王都はアルル」
アストリッド「ワーズワースと同じく スペルロイド製造国だ」
アストリッド「3年前 ロンサールの王女とミラノの王子が婚約し」
アストリッド「それがワーズワース王家の運命も変えた」
〇海沿いの街
アストリッド「太陽と海の国 オリオーラ王国」
アストリッド「王都はファリャ」
アストリッド「温暖な気候と海の恵みに恵まれてる」
アストリッド「美食で有名だから それ目当ての観光客が多いね」
〇城の救護室
アストリッド「医療と服飾の国 ミラノ王国」
アストリッド「王都はリナテ」
アストリッド「6ヶ国の中でもっとも医療が発達してる」
アストリッド「服装に関心のある国民が多く 最先端の流行の発信地でもある」
〇雪山
アストリッド「雪と氷の国 フィオナ王国」
アストリッド「王都はフィン」
アストリッド「1年の大半が雪と氷に閉ざされる閉塞の地」
アストリッド「国民も、排他的で閉鎖的だ」
〇おしゃれな居間
アストリッド「ふーっ」
サフィ「おかわり、いりますか?」
アストリッド「もらおうか」
サフィ「ありがとう、アストリッド」
サフィ「いろいろ知っててすごいなあ」
アストリッド「知識は武器になるよ」
アストリッド「おまえ、魔術も武術も使えないんだし」
アストリッド「せめて知識ぐらい身につけたら?」
サフィ「そうしたいんですけど」
サフィ「覚えるのって、難しいです」
アストリッド「得手を伸ばすか不得手を克服するか おのおのが判断することだけど」
アストリッド「おまえの場合は自分の武器を磨いたら?」
サフィ「あたしの武器?」
アストリッド「たとえば調理技術とか」
サフィ「それなら得意です!」
サフィ「もひとつ聞きたいんですけど」
アストリッド「さっきもそう言ってたよね」
サフィ「今思い出したんです!」
アストリッド「・・・ま、いいけどね」
アストリッド「で、なに?」
サフィ「スペルロイドのことなんですけど」
サフィ「2つの、ま・・・」
サフィ「えっと、ましょー・・・」
アストリッド「魔晶石」
サフィ「それ!」
サフィ「なんて名前でしたっけ」
アストリッド「恋愛感情と性欲を排除するアビス閃石」
アストリッド「魔力を生成するルクス輝石」
サフィ「スペルロイドには 絶対必要なんですよね?」
アストリッド「そう」
アストリッド「2つの石が合わさって、瞳が紫色になる」
アストリッド「とはいえ、紫色の目の人間もいるから」
アストリッド「目の色が紫 すなわちスペルロイドとはならないけど」
サフィ「うーん、でも・・・」
サフィ「ピオの目、ピンクに見えませんか?」
アストリッド「アビス閃石とルクス輝石の配分で 多少は色合いが変化するよ」
アストリッド「それにあいつは特殊な製造方法で生まれた」
アストリッド「規格から多少外れてても不思議じゃない」
サフィ「・・・そうなんですね」
アストリッド「他の特徴としては──」
アストリッド「生殖機能を低下させてるため 男女の性差に乏しく」
アストリッド「製造コストを抑えるために 体格が小柄であることかな」
アストリッド「・・・要するに、背が低くて 男か女かわかりにくいってこと」
サフィ「あっ、そっか!」
サフィ「ピオって、島の女の人より背も低いし 声もアストリッドより高いし」
サフィ「女の子みたいだなって思ってました!」
サフィ「ピンクの目もかわいいですよね」
アストリッド「・・・本人が聞いたら 泣いて喜ぶんじゃない?」
ピオノノ・ダイン「戻りました!」
サフィ「おかえりなさい!」
サフィ「お魚、釣れました?」
ピオノノ・ダイン「小さいのが何匹か」
サフィ「それでお昼ご飯作ります!」
ピオノノ・ダイン「サフィ! ボクも手伝うよ」
アストリッド「余計な手出しはするなよ」
ピオノノ・ダイン「皿や調味料を出すだけです!」
「ピオ、早く!」
ピオノノ・ダイン「今行く!」
改めての魔法の解説、そして各国の様子、練られた世界観が垣間見えて、番外編も楽しませてもらいました!
個人的には、光が破壊、闇が創造という一般的なイメージと逆な所が好きですね^^ 白背景にシルエットの人間が登場する解説も、「なるほど」と考えさせられました。
この細やかに構築された魔法・世界原理、そして各王国の模様……アストリッドさんの説明を聞いているだけでワクワクしてきます😊 そして、その説明の中に今後の展開のカギとなる要素もありそうで、興味を掻き立てられます✨
ならず者たち……今回もさらりと登場していて、もはや準レギュラーですね😂