第9話 ルーカスの憂愁【前編】(脚本)
〇実験ルーム
霧生華清(きりゅうかせい)「ぐっ!」
霧生華清(きりゅうかせい)「起きてください! キースさん!」
霧生華清(きりゅうかせい)(このままだとキースさんも・・・)
霧生華清(きりゅうかせい)「何とか・・・何とかしなければ!」
ケイレブ・スペンサー中将「撃て──」
アドルフ・フォスター大佐「ハイ、ストップ」
霧生華清(きりゅうかせい)「アドルフさん・・・!」
アドルフ・フォスター大佐「民間人に危害を加えるなんて」
アドルフ・フォスター大佐「いつからうちは独裁国家になったのかな?」
アドルフ・フォスター大佐「よりにもよって東洋人とは」
ケイレブ・スペンサー中将「結果を示せば文句はあるまい」
アドルフ・フォスター大佐「民意はそう単純じゃないもんでねェ」
アドルフ・フォスター大佐「俺たちは曲がりなりにも軍人だ」
アドルフ・フォスター大佐「『パラディス条約』は無視できない」
アドルフ・フォスター大佐「お前も知っているはずだぜ?」
アドルフ・フォスター大佐「『見殺しのスペンサー』」
ハロルド・ムーア少尉「撤回してください」
ハロルド・ムーア少尉「中将は戦地より帰還したパラディス国の英雄」
ハロルド・ムーア少尉「上官であろうとも聞き捨てなりません!」
ケイレブ・スペンサー中将「構うな」
ハロルド・ムーア少尉「ですが──」
ケイレブ・スペンサー中将「二度は言わぬぞ」
ハロルド・ムーア少尉「は、はっ!」
ケイレブ・スペンサー中将「この場を丸く収めようと」
ケイレブ・スペンサー中将「我々は必ず『鍵』を手に入れる」
ケイレブ・スペンサー中将「いずれ軍を敵に回すことになるぞ?」
アドルフ・フォスター大佐「そんな大それた真似しねェよ」
アドルフ・フォスター大佐「俺も雇われの身だからねェ」
アドルフ・フォスター大佐「とは言え、息子を見殺しにもできなくてね」
霧生華清(きりゅうかせい)「アドルフさん・・・」
アドルフ・フォスター大佐「そこで提案」
アドルフ・フォスター大佐「Mr.キリュー」
アドルフ・フォスター大佐「ちょっと付き合ってくれないか?」
〇近未来の開発室
アドルフ・フォスター大佐「【ケイラ】を再起動してもらおうか」
不死の軍隊の完成だな
霧生華清(きりゅうかせい)「イ、イヤです!」
霧生華清(きりゅうかせい)「不死の軍隊など人道に反します!」
霧生華清(きりゅうかせい)「自分は誰の命も犠牲には──!」
アドルフ・フォスター大佐「警戒しなさんなよォ」
アドルフ・フォスター大佐「何もこいつの時みたいにケガを治そうって ワケじゃない」
アドルフ・フォスター大佐「おいおい、本当にケガ人を出す奴があるか」
ケイレブ・スペンサー中将「ならば、使わせないことだ」
ケイレブ・スペンサー中将「さっさとしろ」
アドルフ・フォスター大佐「昔から堅い奴だねェ」
霧生華清(きりゅうかせい)「【ケイラ】で治療しないとなると何を・・・」
アドルフ・フォスター大佐「【ケイラ】の用途は何も治療するためだけ じゃない」
アドルフ・フォスター大佐「そうだよな、少尉?」
ハロルド・ムーア少尉「はい」
ハロルド・ムーア少尉「再生だけでなく破壊、分離、融合も可能です」
霧生華清(きりゅうかせい)「分離・・・!?」
アドルフ・フォスター大佐「俺たちは『鍵』さえ手に入れば、それでいい」
アドルフ・フォスター大佐「Mr.キリュー、右腕をもらおうか」
〇田舎の病院の病室
キース・フォスター「腕を・・・差し出しただと?」
キース・フォスター「何故・・・」
キース・フォスター「何故逃げなかった!?」
キース・フォスター「あんたなら──!!」
霧生華清(きりゅうかせい)「貴方を守ると誓ったから」
キース・フォスター「そいつは・・・」
キース・フォスター「そいつは、ズルいよ」
医者「お目覚めですか」
霧生華清(きりゅうかせい)「おかげさまで」
医者「顔色は良さそうですね」
医者「診察してもよろしいですか?」
霧生華清(きりゅうかせい)「キースさん?」
キース・フォスター「どういうことだ?」
霧生華清(きりゅうかせい)「診察していいか、と──」
キース・フォスター「そうじゃない」
キース・フォスター「何を言っているのかわからない」
キース・フォスター「ここは──何処だ?」
霧生華清(きりゅうかせい)「自分の生まれ故郷です」
キース・フォスター「何?」
〇海辺
帰ってきたんです──母国へと
〇断崖絶壁
〇暗い洞窟
〇魔法陣のある研究室
【???】「行先ヲ 選択シテクダサイ」
キース・フォスター「パラディス島の地図だと?」
霧生華清(きりゅうかせい)「無限域転送陣【ルーカス】」
霧生華清(きりゅうかせい)「原子単位に分解した細胞を遠隔地へ飛ばし」
霧生華清(きりゅうかせい)「再結合することで空間転移を実現します」
キース・フォスター「この印が転移できる地点か?」
霧生華清(きりゅうかせい)「はい」
キース・フォスター「となると──」
霧生華清(きりゅうかせい)「はい」
霧生華清(きりゅうかせい)「【ルーカス】は遺物の最深部にありました」
キース・フォスター「合点がいったよ」
キース・フォスター「俺たちはこいつで【ケイラ】がある ギデオン塔へと転移し──」
霧生華清(きりゅうかせい)「その後、この島へと転移しました」
キース・フォスター「こいつがこの島にあるってことは──」
霧生華清(きりゅうかせい)「【エルヴィス】の言葉どおり」
霧生華清(きりゅうかせい)「古代パラディス人は生まれ故郷を捨て」
霧生華清(きりゅうかせい)「この島で生き延びたということです」
キース・フォスター「だが、あの島への未練を断ち切れず」
キース・フォスター「パラディス島へと帰還する手段を用意した、と」
キース・フォスター「こいつがあれば、旅行し放題だね」
霧生華清(きりゅうかせい)「キースさん、向こうには見張りが──!」
【ルーカス】「接続エラー 接続エラー」
【ルーカス】「目的地ト 通信ガ 確立デキマセンデシタ」
キース・フォスター「壊れているのか?」
霧生華清(きりゅうかせい)「いえ、向こうの【ルーカス】が止まっているみたいです」
キース・フォスター「こっちはどうだ?」
【ルーカス】「通信エラー」
キース・フォスター「行けるのは俺たちが起動してきた遺物だけ、か」
キース・フォスター「奴らを出し抜けると思ったが、残念だ」
霧生華清(きりゅうかせい)「パラディス島へ帰りたいですか?」
キース・フォスター「そうだね──」
キース・フォスター「せっかく島流しにされたんだ」
キース・フォスター「どうせなら堪能させてもらうよ」
キース・フォスター「案内を頼めるかい?」
霧生華清(きりゅうかせい)「自分で良ければ」
〇海岸線の道路
〇田舎町の通り
キース・フォスター「暑いのに湿度まである」
キース・フォスター「まるでアーチェだな」
霧生華清(きりゅうかせい)「常夏の街アーチェですか」
霧生華清(きりゅうかせい)「確かに夏は荒れますね」
キース・フォスター「ん?」
キース・フォスター「歓迎されてるね」
キース・フォスター「何て言っているんだ?」
霧生華清(きりゅうかせい)「些末なことですよ」
キース・フォスター「些末、ね」
〇ボロい家の玄関
キース・フォスター「ここがあんたの家か」
霧生華清(きりゅうかせい)「狭いところですが」
霧生
キース・フォスター「こいつは何だ?」
霧生華清(きりゅうかせい)「表札です」
霧生華清(きりゅうかせい)「家主の苗字を載せているんです」
キース・フォスター「何だって?」
キース・フォスター「不用心だね」
キース・フォスター「個人情報が筒抜けじゃないか」
霧生華清(きりゅうかせい)「ご心配なく」
霧生華清(きりゅうかせい)「この島に悪いことを企む人なんていませんよ」
キース・フォスター「どうした?」
裏切り者
キース・フォスター「張り紙?」
キース・フォスター「ウェルカムカードか?」
霧生華清(きりゅうかせい)「似たようなものです」
キース・フォスター「何て書いてある?」
キース・フォスター「あんたじゃなきゃ読めないんだ」
霧生華清(きりゅうかせい)「・・・『裏切り者』と」
キース・フォスター「こっちは?」
敵国に逃げたクセに
おめおめと帰ってきた
恥知らず
キース・フォスター「あんたは裏切り者だったのか?」
霧生華清(きりゅうかせい)「いえ」
霧生華清(きりゅうかせい)「ですが・・・」
キース・フォスター「どっちなんだ?」
霧生華清(きりゅうかせい)「・・・違います」
霧生華清(きりゅうかせい)「この国とパラディス国」
霧生華清(きりゅうかせい)「どちらか一方に肩入れするつもりは ありません」
霧生華清(きりゅうかせい)「自分は・・・争い事が嫌いです」
霧生華清(きりゅうかせい)「ヒトの大切なものを踏みにじる行為が──」
キース・フォスター「同感だ」
キース・フォスター「逃げ場のなかった人間には同情するが」
キース・フォスター「陰湿なやり口は嫌いだよ」
キース・フォスター「何度だって剥がしてやるよ」
キース・フォスター「こんな『些末』なもの」
霧生華清(きりゅうかせい)「キースさん」
門下生「キリュー先生!?」
門下生「やっぱりキリュー先生だ!」
門下生「おかえりなさい、先生!」
門下生「あ・・・」
霧生華清(きりゅうかせい)「ただいま」
霧生華清(きりゅうかせい)「悪い人ではないよ」
門下生「でも、その人は・・・」
霧生華清(きりゅうかせい)「キースさん」
キース・フォスター「何だ?」
霧生華清(きりゅうかせい)「笑ってください」
キース・フォスター「どういう意味だ?」
霧生華清(きりゅうかせい)「いいから」
キース・フォスター「むぅ」
キース・フォスター「にぃ」
門下生「ひっ」
キース・フォスター「とんだ仕打ちだ」
霧生華清(きりゅうかせい)「まあまあ」
門下生「先生、お祖父さんには会えましたか?」
門下生「パラディス島へ行かれていたのですよね?」
霧生華清(きりゅうかせい)「会えたよ」
霧生華清(きりゅうかせい)「弔ってきた」
門下生「ご愁傷さまです」
門下生「もう、どこにも行きませんか?」
霧生華清(きりゅうかせい)「・・・そのつもりです」
門下生「良かった」
門下生「あの、この間教えていただいた受け身」
門下生「うまくできないのですが」
門下生「ご指南いただけますか?」
霧生華清(きりゅうかせい)「自己鍛練を欠かさなかったんだね」
霧生華清(きりゅうかせい)「偉いよ」
門下生「えへへ」
霧生華清(きりゅうかせい)「あれはね、倒れ込んだ時に右腕をこう──」
霧生華清(きりゅうかせい)「あ・・・」
門下生「先生?」
霧生華清(きりゅうかせい)「明日、道場を開くから」
霧生華清(きりゅうかせい)「そこで教えるよ」
門下生「ありがとうございます!」
門下生「おつかいの途中なので失礼します」
霧生華清(きりゅうかせい)「また明日」
門下生「さようなら」
門下生「おじ・・・お兄さんもさようなら」
キース・フォスター「何て?」
霧生華清(きりゅうかせい)「おじ・・・お兄さんもさようなら、と」
キース・フォスター「子どもの気遣いを無視するんじゃない」
霧生華清(きりゅうかせい)「失礼しました」
霧生華清(きりゅうかせい)「良い時間ですから夕食にしましょう」
霧生華清(きりゅうかせい)(身体のこと、何も訊いてこなかった)
霧生華清(きりゅうかせい)(教え子に気遣わせてしまうなんて)
〇実家の居間
キース・フォスター「肉を食え、肉を!」
キース・フォスター「東洋人は細過ぎる!」
霧生華清(きりゅうかせい)「顔が真っ赤ですよ」
キース・フォスター「まあ、こいつも上手いがね」
霧生華清(きりゅうかせい)「お口に合ったようで何よりです」
キース・フォスター「お、グラスが空いたぜ?」
キース・フォスター「あんたもイケる口だな」
霧生華清(きりゅうかせい)「恐縮です」
〇実家の居間
キース・フォスター「イイ島だ」
霧生華清(きりゅうかせい)「はい、とても」
キース・フォスター「捨てるなよ」
霧生華清(きりゅうかせい)「え?」
キース・フォスター「帰る場所」
キース・フォスター「悲しむ奴がいる」
おかえりなさい、先生!
霧生華清(きりゅうかせい)「はい」
キース・フォスター「教え子は多いのか?」
霧生華清(きりゅうかせい)「いえ、今はあの子だけです」
霧生華清(きりゅうかせい)「あの子はとても純粋で、心優しい」
霧生華清(きりゅうかせい)「イイ子なんです」
キース・フォスター「見ていればわかるよ」
キース・フォスター「あんた、子どもが好きなんだな」
霧生華清(きりゅうかせい)「はい、とても」
霧生華清(きりゅうかせい)「キースさんは苦手ですよね」
キース・フォスター「何故?」
霧生華清(きりゅうかせい)「怖がられてばかりですから」
キース・フォスター「言うじゃないか」
キース・フォスター「間違っちゃいないがね」
兄ちゃん!
キース・フォスター「苦手でも、好きだよ」
霧生華清(きりゅうかせい)「キースさんにはご兄弟がいるんですか?」
キース・フォスター「む?」
霧生華清(きりゅうかせい)「うわごとのように『ダリル』と呼んでいたので」
キース・フォスター「・・・ああ、いたよ」
霧生華清(きりゅうかせい)「『いた』・・・ですか」
霧生華清(きりゅうかせい)「申し訳ありません、無神経なことを」
キース・フォスター「構わないよ」
霧生華清(きりゅうかせい)「キースさん、どちらに?」
キース・フォスター「飲み過ぎたみたいだ」
キース・フォスター「少し風に当たりたい」
キース・フォスター「あんたも付き合ってくれるかい?」
〇田舎町の通り
キース・フォスター「昼間の暑さが嘘みたいだ」
キース・フォスター「街も静まり返って」
キース・フォスター「まるで世界に二人きりだね」
霧生華清(きりゅうかせい)「この街には娯楽と呼べるものが少ないので」
霧生華清(きりゅうかせい)「夜更けに出歩く人は少ないんです」
キース・フォスター「お、あの石像は何だ?」
霧生華清(きりゅうかせい)「シーサーです」
キース・フォスター「『シーサー』?」
霧生華清(きりゅうかせい)「獅子──ライオンを模した守り神です」
霧生華清(きりゅうかせい)「家屋などの入り口に対で置かれ」
霧生華清(きりゅうかせい)「災難や悪霊から守ってくれるんです」
キース・フォスター「ニコイチの守り神ね」
キース・フォスター「あのまま遺物を止め回っていたら」
キース・フォスター「俺たちもそんな風になれたのかな」
霧生華清(きりゅうかせい)「遺物が災難を呼び寄せる、ですか」
キース・フォスター「現に悪霊は生み出していたよ」
ケテ──タス、タスタスタタタタタ──
霧生華清(きりゅうかせい)「キースさんは遺物に未練があるんですか?」
キース・フォスター「さてね」
キース・フォスター「そもそも未練を断ち切るために探していた ようなものだしね」
霧生華清(きりゅうかせい)「え?」
「キリュー、こっちは何だ?」
〇後宮前の広場
キース・フォスター「立派な城じゃないか」
霧生華清(きりゅうかせい)「風水に基づいて設計されているそうです」
霧生華清(きりゅうかせい)「なので最近、パワースポットとして訪れる人が増えているんです」
霧生華清(きりゅうかせい)「展望台からの眺めは絶景ですよ」
キース・フォスター「ほう、興味深いね」
キース・フォスター「どうにか運気を上げてほしいところだ」
霧生華清(きりゅうかせい)「意外と運の良し悪しを気にされるんですね」
キース・フォスター「大事なことだからね」
キース・フォスター「運が悪いと山賊と出くわしたり」
キース・フォスター「最悪、家族まで失っちまう」
霧生華清(きりゅうかせい)「それは・・・」
キース・フォスター「なんてね」
キース・フォスター「見晴らしのイイ場所に行こう」
霧生華清(きりゅうかせい)「実体験・・・なのか?」
〇露天風呂
キース・フォスター「綺麗だ・・・」
キース・フォスター「長年いろんな場所を巡っているが」
キース・フォスター「これほど美しい光景は見たことがない」
霧生華清(きりゅうかせい)「故郷を褒めてもらえるのは嬉しいです」
霧生華清(きりゅうかせい)「キースさんはいつからトレジャーハンターを?」
キース・フォスター「18の頃からだよ」
キース・フォスター「それまではアドルフの厄介になっていた」
霧生華清(きりゅうかせい)「アドルフさんとはいつから一緒に?」
キース・フォスター「14の頃からだよ」
キース・フォスター「身寄りが無くなった俺を引き取ってくれたんだ」
霧生華清(きりゅうかせい)(『身寄りが無くなった』か)
霧生華清(きりゅうかせい)(やはりキースさんのご家族は、もう──)
霧生華清(きりゅうかせい)「家事を任された、と仰っていましたね」
霧生華清(きりゅうかせい)「では、キースさんの審美眼は──」
霧生華清(きりゅうかせい)「アドルフさんに鍛えられたということですね」
キース・フォスター「はぁ?」
霧生華清(きりゅうかせい)「え?」
キース・フォスター「ジョークが過ぎるよ」
キース・フォスター「この眼はマムに鍛えられたんだ」
霧生華清(きりゅうかせい)「母親に、ですか」
キース・フォスター「マムは農園を営んでいてね」
キース・フォスター「よく弟と一緒に収穫を手伝ったものさ」
霧生華清(きりゅうかせい)「素敵ですね」
キース・フォスター「ああ・・・そうだね」
キース・フォスター「綺麗な、思い出だ」
霧生華清(きりゅうかせい)「申し訳ありません」
霧生華清(きりゅうかせい)「何か気に障ることを?」
キース・フォスター「いや・・・今のは俺が悪かった」
キース・フォスター「農園のことを思い出していてね」
キース・フォスター「もう少し早く独り立ちしていたら」
キース・フォスター「売り飛ばされずに済んだのか、と思ってね」
霧生華清(きりゅうかせい)「売り飛ばされずに・・・?」
キース・フォスター「農園だった場所は今や軍事演習場」
キース・フォスター「血生臭い場所に変わっちまったんだ」
霧生華清(きりゅうかせい)「申し訳ありません」
霧生華清(きりゅうかせい)「辛いことを思い出させてしまって」
キース・フォスター「あんたが謝ることじゃない」
キース・フォスター「お、あそこにモニュメントが見える」
キース・フォスター「行ってみよう」
霧生華清(きりゅうかせい)「農園を・・・遺されたものを、失った」
霧生華清(きりゅうかせい)「自分にとっての道場と同じ」
〇墓地
キース・フォスター「こいつは・・・」
霧生華清(きりゅうかせい)「『パラング戦争』の慰霊碑です」
霧生清士郎
霧生華代
キース・フォスター(表札で見たファミリーネーム)
キース・フォスター(つまり──)
霧生華清(きりゅうかせい)「遺物さえあれば、過去を──」
霧生華清(きりゅうかせい)「家族を取り戻せるでしょうか?」
キース・フォスター「水も、食糧も、未来さえも手に入れられる 超古代文明の遺物」
キース・フォスター「だがね」
キース・フォスター「死んだ人間はどうやったって──生き返らない」
キース・フォスター「それが自然の摂理だよ」
霧生華清(きりゅうかせい)「自然の摂理・・・」
〇海辺
キース・フォスター「潮風が気持ちいい」
キース・フォスター「このまま、この島で暮らすのも悪くないね」
霧生華清(きりゅうかせい)「・・・キースさんは」
キース・フォスター「ん?」
霧生華清(きりゅうかせい)「本当はパラディス島に帰りたいのでは ないですか?」
霧生華清(きりゅうかせい)「過去を懐かしんでいるように見えます」
キース・フォスター「懐かしむ・・・ね」
キース・フォスター「そう見えちまったのなら、そうなのかもな」
キース・フォスター「だがね」
キース・フォスター「あんたの腕と引き換えに生かしてもらった命だ」
キース・フォスター「無駄にしたくない」
キース・フォスター「あんたこそ、あの島に戻りたいんじゃないか?」
キース・フォスター「遺物への未練が見て取れるぜ?」
霧生華清(きりゅうかせい)「・・・そうかもしれません」
霧生華清(きりゅうかせい)「それが自分にしかできないことだと思うから」
キース・フォスター「あんたにしかできないこと、ね」
キース・フォスター「それなら、ここにもあるじゃないか」
霧生華清(きりゅうかせい)「え?」
キース・フォスター「言葉がわからないってのは不便だな」
キース・フォスター「俺にこの島の言葉を教えてくれよ」
キース・フォスター「『キリュー先生』?」
霧生華清(きりゅうかせい)「はい」