オズワルドの裁定

シュウ

第10話 ルーカスの憂愁【後編】(脚本)

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〇道場
門下生「えいやーっ!」
門下生「うわっ!」
キース・フォスター「1本、ってやつか」
門下生「ありがとうございました!」
霧生華清(きりゅうかせい)「ありがとうございました」
門下生「軽くいなされてしまいました」
霧生華清(きりゅうかせい)「身の入れ方が甘い」
霧生華清(きりゅうかせい)「無意識のうちにためらっているけど」
霧生華清(きりゅうかせい)「手負いの人間相手でも全力で挑むこと」
門下生「はい!」
霧生華清(きりゅうかせい)「それではもう1本」
門下生「はい! よろしくお願いします!」
キース・フォスター「東洋のモノノフってのは生真面目だね」
キース・フォスター「ん?」
キース・フォスター「どうした?」
キース・フォスター「・・・慣れないものだな」
門下生「先生、あのお客人は・・・」
霧生華清(きりゅうかせい)「留学生のキースだよ」
霧生華清(きりゅうかせい)「言葉を学びにやって来たんだ」
霧生華清(きりゅうかせい)「たくさん話しかけてほしい」
霧生華清(きりゅうかせい)「彼もきっと喜ぶ」
門下生「はい」
門下生「先生がそう言うなら」
門下生「ヘ、ヘイ、キース!」
キース・フォスター「何だ?」
門下生「え、えーっと・・・」
霧生華清(きりゅうかせい)「そのままでいいよ」
霧生華清(きりゅうかせい)「学ぶのは彼のほうなんだから」
門下生「はい」
門下生「キースさんは先生と、どういった関係なのですか?」
キース・フォスター「何て?」
霧生華清(きりゅうかせい)「自分との間柄を訊いています」
キース・フォスター「ほう」
キース・フォスター「俺にとって、あんたは『恩人』かな」
霧生華清(きりゅうかせい)「キースさん・・・」
霧生華清(きりゅうかせい)「それはこう言うんですよ」
キース・フォスター「よし、やってみよう」
キース・フォスター「カレ、ワタシ、オンジ」
門下生「『オンジ』?」
門下生「あっ! 叔父(おじ)ですか!」
門下生「そう言えば、先生のお祖母さんはパラディス島の出身でしたね」
門下生「わからないことは何でも聞いてくださいね──おじさん!」
キース・フォスター「おお、握手をしてくれるとは」
キース・フォスター「親近感でも湧いてくれたのかね?」
霧生華清(きりゅうかせい)「そんな感じです!」
霧生華清(きりゅうかせい)(あながちウソじゃあないよな?)
門下生「そうだ、おじさん!」
門下生「僕と手合わせ願えますか?」
キース・フォスター「何て?」
霧生華清(きりゅうかせい)「遊んでほしいそうです」
キース・フォスター「モチロンだとも!」
キース・フォスター「ヨロシク、シマス」
門下生「やったー! ありがとうございます!」
門下生「それじゃあ行きますよ──」
キース・フォスター「お? そんなところを掴んで、ダンスでも するつもり──」
門下生「とりゃっ!」
「かあああああああ!!」
霧生華清(きりゅうかせい)「もう少し腰を落とすと力が入りやすくなるよ」
門下生「はい!」
門下生「おじさん! もう一回!」
「な、何て・・・?」
霧生華清(きりゅうかせい)「もっと遊んでほしいそうです」
「に、人気者は辛いね・・・」

〇空

〇空

〇空

〇空

〇道場
霧生華清(きりゅうかせい)「一本」
門下生「ありがとうございました!」
キース・フォスター「アリガト、ゴザマス」
キース・フォスター「まさかこんな子どもに歯が立たないなんて」
門下生「見た目の割に大したことないですね」
キース・フォスター「なんて?」
霧生華清(きりゅうかせい)「期待はずれだ、と」
キース・フォスター「くっ!」
キース・フォスター「筋肉量と運動神経は比例しない」
キース・フォスター「俺は二人みたいには動けないよ」
霧生華清(きりゅうかせい)「キースさんもここ数日で上達していますよ」
キース・フォスター「正直なところ、どうなんだ?」
キース・フォスター「俺は出来が悪いかい?」
霧生華清(きりゅうかせい)「許容範囲内です」
霧生華清(きりゅうかせい)「ただ、少しだけ・・・ほんの少しだけ体力が足りないのでジョギングしましょうか」
キース・フォスター「フォローされると余計辛い」
門下生「おじさんは筋肉の使い方が荒いのです」
門下生「脇を締めると力が乗りやすいですよ?」
霧生華清(きりゅうかせい)「コツを教えてくれるみたいです」
キース・フォスター「ほう? 先生が増えたね」
門下生「おじさん、ここを・・・こう!」
キース・フォスター「ココ、コゥ?」
門下生「違う! そうじゃない!」
門下生「身体が重い! もっと軽やかに!」
「いたたたたたたたっ!」
霧生華清(きりゅうかせい)(二人とも、すっかり意気投合してるな)
霧生華清(きりゅうかせい)(こんな日が続くなら・・・)

〇空

〇道場
門下生「今日はありがとうございました!」
霧生華清(きりゅうかせい)「また明日、待ってるよ」
キース・フォスター「嵐のような少年だ」
キース・フォスター「あんたが帰ってきて余程嬉しいんだろう」
霧生華清(きりゅうかせい)「恐縮です」
霧生華清(きりゅうかせい)「キースさんもお疲れ様でした」
キース・フォスター「助かる」
キース・フォスター「ごくごく・・・ふう」
キース・フォスター「あんたの凄さが身に染みてわかったよ」
キース・フォスター「こんなに動いて息一つ切らしていない」
霧生華清(きりゅうかせい)「祖父がいた頃はもっと多くの子に指南していましたので」
霧生華清(きりゅうかせい)「自分の代になってから随分と門下生が 減りました」
霧生華清(きりゅうかせい)「『例の張り紙』も増え、悪評が立つばかり」
霧生華清(きりゅうかせい)「しかも片腕を失ってしまっては」
霧生華清(きりゅうかせい)「もはや入門者は絶望的でしょう」
キース・フォスター「先生」
霧生華清(きりゅうかせい)「申し訳ありません、弱気になりました」
キース・フォスター「腕を取り戻したいか?」
霧生華清(きりゅうかせい)「いえ」
霧生華清(きりゅうかせい)「これがあの時の最善だったんです」
霧生華清(きりゅうかせい)「後悔などしていません」
キース・フォスター「俺はあんたの気持ちを訊いているんだよ」
霧生華清(きりゅうかせい)「・・・腕は不要です」
霧生華清(きりゅうかせい)「以前のようにはいかなくとも、この身を 守る程度は可能です」
霧生華清(きりゅうかせい)「無論、キースさんも守ってみせます」
キース・フォスター「怪我人に気遣われるほどヤワじゃないよ」
キース・フォスター「あんたはまず自分のことに専念したほうがいい」
キース・フォスター「入門者が欲しいなら俺が勧誘してこようか?」
霧生華清(きりゅうかせい)「いえ、これは自分が解決すべき問題です」
キース・フォスター「つれないね」
キース・フォスター「俺を頼ってくれないのか?」
霧生華清(きりゅうかせい)「それは・・・」
キース・フォスター「さっきの弱音も」
キース・フォスター「実を言うと嬉しかったんだがね」
霧生華清(きりゅうかせい)「・・・他人を頼るのは苦手なんです」
霧生華清(きりゅうかせい)「これまでは対等な関係でしたが」
霧生華清(きりゅうかせい)「この身体になった以上、どうしても対等にはなれません」
霧生華清(きりゅうかせい)「自分はそれが歯痒いんです」
キース・フォスター「そうかい」
キース・フォスター「もうこんな時間か」
キース・フォスター「買い出しに行ってこよう」
霧生華清(きりゅうかせい)「では、支度を──」
キース・フォスター「あんたは風呂でも沸かしておいてくれ」
キース・フォスター「勉強の成果を発揮してくるよ」
霧生華清(きりゅうかせい)(お祖父さんから継いだもの)
霧生華清(きりゅうかせい)(遺志も、遺物も、道場も)
霧生華清(きりゅうかせい)(全て台無しにしてしまった)
霧生華清(きりゅうかせい)(これが自分の為すべきことだったのか?)
霧生華清(きりゅうかせい)(こんな風に逃げ帰ってくることが──)

〇田舎町の通り
キース・フォスター(小声な上に早口で聞き取れないね)
キース・フォスター(それは向こうも同じか)
キース・フォスター(髪も瞳も言語も違うんだ)
キース・フォスター(異星人と思われているかもな)
キース・フォスター(先生にもっと教えを請うかね)

〇商店街
キース・フォスター「コンバンワ」
門下生「いらっしゃいませ!」
門下生「おじさん! お店に来てくれたのですか?」
キース・フォスター「ワタシ、ショクザイ、ショッピング、シマス」
門下生「わかりました!」
門下生「何を買いに来たのですか?」
キース・フォスター(考えてなかった)
キース・フォスター「ゼンブ、クダサイ」
門下生「太っ腹だぁ・・・」
門下生「でも、キリュー先生に怒られると思う」
門下生「じゃあ、今日はカレーにしよう!」
キース・フォスター「カレー? ナニ?」
門下生「辛くて美味しいよ!」
門下生「スパイシーアンドホット!」
キース・フォスター(辛いものなのか)
キース・フォスター(心苦しいが断ろう)
キース・フォスター「ワタシ、スパイス、タベル、ナイ」
門下生「食べたことないなら食べてみてください!」
門下生「玉ねぎ、にんじん、じゃがいも、お肉〜♪」
門下生「お会計1200円になります!」
門下生「ありがとうございました!」
キース・フォスター(流されちまった)
キース・フォスター(さて、先生になんて言い訳しようか)
キース・フォスター(そうだ)
門下生「あれ、忘れ物ですか?」
キース・フォスター「ワタシ、オネガイ、アルヨ」

〇ボロい家の玄関
キース・フォスター「ただいま」
霧生華清(きりゅうかせい)「おかえりなさい」
霧生華清(きりゅうかせい)「おや?」
門下生「先生、こんばんは!」
キース・フォスター「俺が誘ったんだ」
霧生華清(きりゅうかせい)「この材料・・・カレーですか」
キース・フォスター「3人で食べたほうが美味しい、だろう?」

〇実家の居間
キース・フォスター「カラ、ウマ」
門下生「おじさん、辛いの苦手だったのですね」
門下生「顔が真っ赤です」
霧生華清(きりゅうかせい)「これはお酒のせいだよ」
キース・フォスター「トテモ、イイ、キブン」
門下生「寝てしまいました」
霧生華清(きりゅうかせい)「疲れが溜まっていたんだろう」
門下生「・・・先生」
霧生華清(きりゅうかせい)「ん?」
門下生「おじさんから聞きました」
門下生「道場のことで悩んでいると」
霧生華清(きりゅうかせい)「キースさんが・・・」
門下生「父は先生のお祖父さんの教え子だそうで」
門下生「先生が大変苦労なされてきたと聞きました」
霧生華清(きりゅうかせい)「心配をかけて申し訳ない」
霧生華清(きりゅうかせい)「全ては自分の不徳の致すところ」
霧生華清(きりゅうかせい)「全て自分が解決──」
門下生「僕が入門者を集めます!」
霧生華清(きりゅうかせい)「え・・・?」
門下生「学友を全員引っ張ってきて」
門下生「足りなければ親族中駆け回ります!」
門下生「父も協力してくれるはずです!」
門下生「50人・・・いえ、100人は集めてみせます!」
門下生「それなら道場はまだまだ続けられますよね!?」
門下生「・・・それならもう、先生はどこにも行かないですよね?」
霧生華清(きりゅうかせい)「・・・ありがとう」
霧生華清(きりゅうかせい)「それだけで救われる」
霧生華清(きりゅうかせい)「だけど、自分は・・・」
門下生「行ってしまわれるのですか?」
霧生華清(きりゅうかせい)「・・・ずっと悩んでいたんだ」
霧生華清(きりゅうかせい)「自分は何がしたいのか」
霧生華清(きりゅうかせい)「今、わかった」
霧生華清(きりゅうかせい)「自分は、ヒトが大切にしているものを 守りたい」
霧生華清(きりゅうかせい)「先人たちの遺志も」
霧生華清(きりゅうかせい)「お祖父さんから託された想いも」
霧生華清(きりゅうかせい)「自分を慕ってくれる教え子も」
門下生「先生・・・」
霧生華清(きりゅうかせい)「だから、自分は行くよ」
霧生華清(きりゅうかせい)「このままだと良くないことが起きる気が するんだ」
門下生「それは先生がやらなければならないこと なのでしょうか?」
霧生華清(きりゅうかせい)「うん」
霧生華清(きりゅうかせい)「自分らにしかできないことだから」
霧生華清(きりゅうかせい)「やり遂げたい」
門下生「ですが、今度は腕だけでは済まないかも──」
門下生「あ・・・」
霧生華清(きりゅうかせい)「たとえ手足を全て失おうとも」
霧生華清(きりゅうかせい)「自分は生きて帰ってくるよ」
霧生華清(きりゅうかせい)「もう誰も悲しませたくないから」
霧生華清(きりゅうかせい)「今日で一旦、道場を閉めようと思う」
霧生華清(きりゅうかせい)「無責任で申し訳ない」
霧生華清(きりゅうかせい)「でも、君ならここじゃなくてもきっと大成する」
霧生華清(きりゅうかせい)「それは保証する」
霧生華清(きりゅうかせい)「今まで──楽しかったよ」
門下生「・・・先生」
門下生「いつまでも待ってます」
門下生「先生と本気で手合わせできるその日を」
霧生華清(きりゅうかせい)「・・・ありがとう」
霧生華清(きりゅうかせい)「守るべきものがまた増えた」

〇魔法陣のある研究室
キース・フォスター「覚悟はいいかい、先生?」
霧生華清(きりゅうかせい)「はい」
霧生華清(きりゅうかせい)「必ずや全ての遺物を封印します」
霧生華清(きりゅうかせい)「争いの火種を摘み、ヒトの尊厳を守るために」
キース・フォスター「過去と決別するためにも、ね」
【ルーカス】「無限域転送陣【ルーカス】、起動シマシタ」
【ルーカス】「行先ヲ 選択シテクダサイ」
霧生華清(きりゅうかせい)「どこに向かうんですか?」
キース・フォスター「今、俺たちが行ける場所はこの5か所」
キース・フォスター「このうち警備が手薄な場所を狙う」
霧生華清(きりゅうかせい)「わかるんですか?」
霧生華清(きりゅうかせい)「自分にはさっぱり・・・」
キース・フォスター「残りの遺物は3か所」
キース・フォスター「効率を考えれば首都ジンから辿るのがベスト」
キース・フォスター「アドルフならそうする」
霧生華清(きりゅうかせい)(なんだかんだ言っても信用しているんだな)
霧生華清(きりゅうかせい)「さすがです」
キース・フォスター「・・・何だか、嫌な響きを感じるね」
キース・フォスター「まあいい」
キース・フォスター「アドルフが最短を行くなら──」
キース・フォスター「俺たちはその逆を辿ろうじゃないか」

〇サイバー空間
【ルーカス】「転送シーケンス ニ 移行シマス」
【ルーカス】「転送陣 ノ 中カラ 出ナイデクダサイ」
キース・フォスター「なぁ、先生」
キース・フォスター「全て成し遂げた暁には──」
キース・フォスター「パラディス島を案内させてくれないかい?」
霧生華清(きりゅうかせい)「パラディス島を?」
キース・フォスター「これまでゆっくりできなかったからね」
キース・フォスター「先生にはパラディス島を堪能してほしい」
キース・フォスター「本当はもっと魅力的な島なんだ」
キース・フォスター「俺の故郷も見てほしいしね」
霧生華清(きりゅうかせい)「ありがとうございます」
霧生華清(きりゅうかせい)「ぜひ、2人で!」
【ルーカス】「転送開始シマス」
キース・フォスター「それじゃあ──行こうか」

次のエピソード:番外編① キースの望郷

コメント

  • キリューの故郷で彼の過去に触れながら、これまで以上に絆を深める2人にグッときました
    門下生の男の子もとても良い子で安心しました
    今までずっと緊迫した状況下だったため、異国の文化や言語に圧倒されながら、キリューの故郷を知ろうとするキースはやはり良い人ですね…

    覚悟を決めた2人に次はどんな冒険が待っているのかとても楽しみです

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