盗み食い(脚本)
〇西洋の円卓会議
シルスク・ヤン・オードリー「──遠い場所から遥々よく集まってくれた」
100年目のこの儀式の年
それぞれに様々な事があったであろう。
シルスク・ヤン・オードリー「そうした窮地を乗り越えここに再び出会えたことを感謝する」
ムーシャ「前置きはいいわよ」
シルスク・ヤン・オードリー「そうだなムーシャ殿、では、これより」
シルスク・ヤン・オードリー「暗黒網未来会議を始めるとしよう」
貴様の思い通りににはさせんぞ、シルスク・・・
〇テントの中
シルビア・ヤン・オードリー「──もうすぐツァールトね、モグッ」
ウカ・デルマ・ネール「はい、リトナさんおにぎり」
アイン・イヨ・リトナ「ありがとうウカさん、ハフッ」
今シルビア達はツァールトに向う森林でキャンプをしていた。
船が沈み、ウカのことで一日フレイアの家でお世話になったため方向転換にツァールトに向かう事にして三日目であった。
アイン・イヨ・リトナ「ツァールトってどんな街なんですかね」
「・・・さあ」
3人も行ったことのないツァールト。
シルビア・ヤン・オードリー「まあとにかく、」
シルビア・ヤン・オードリー「あたし達の出発がだいぶ遅れちゃったし、もう後はイザーク達が偶然で奇跡的にツァールトに向かうのを祈るしかないわね」
ウカ・デルマ・ネール「そうだシルビアさん、教えた水魔法」
シルビア・ヤン・オードリー「うん、ちゃんと使えるようになった」
アイン・イヨ・リトナ「さすがシルビアさ・・・」
アイン・イヨ・リトナ「静かに、なにか、います」
〇森の中
リトナが気づき立ち上がると周りを見渡す。木の一本いっぽんを睨みつけるように。
ガァッ!
アイン・イヨ・リトナ「はやいっ」
リトナが手を出すのを避けると再び茂みに。
シルビア・ヤン・オードリー「なんか小さい魔物みたいね」
「いただき!」
ウカ・デルマ・ネール「あっ、私のおにぎり!」
小さく素早い魔物はウカの食べかけのおにぎりを食べ始めた。
シルビア・ヤン・オードリー「こらーっ、魔物ーっ!」
アイン・イヨ・リトナ「えっ?」
ムルピ「モグモグッ」
ウカ・デルマ・ネール「子ども?」
ええーっ、子どもって、とまらない〜!
大きな音を立てて木に激突したシルビアだった。
ムルピ「モグモグッ」
アイン・イヨ・リトナ「急に飛び出すから〜」
ウカ・デルマ・ネール「ああ、私のおにぎり・・・」
シルビア・ヤン・オードリー「なんなのよ、ぐすっ」
〇テントの中
ムルピ「──もぐっ、もぐっ、スープッ」
ウカ・デルマ・ネール「はい」
ムルピ「ズズズズーッ・・・」
ウカ・デルマ・ネール(ドキドキッ)
ムルピ「ぷはーっ、おいしいっ、最高じゃ、だれが作ったじゃ?」
ウカ・デルマ・ネール「はーい、私で〜す」
ムルピ「ほう青髪のそちか、素晴らしい腕前じゃ」
ウカ・デルマ・ネール「えへへ〜、嬉しいです〜」
「・・・ちょっと」
「ん?」
シルビア・ヤン・オードリー「勝手に人様のおにぎりを盗み食いしてきて偉そうな態度、なんなのよ、あんたは」
ムルピ「わらはムルピ12才じゃ」
アイン・イヨ・リトナ「ムルピちゃんかわいい」
ウカ・デルマ・ネール「リトナさんもですか、私もお目々がくるりとしててカワイイと思ってます」
リトナとウカはムルピにデレデレの中シルビアはムスッとした顔をしていた。
シルビア・ヤン・オードリー「あんたのせいでウカがおにぎり食べられなかったでしょ」
ムルピ「また作ればよかろう」
シルビア・ヤン・オードリー「はあ!? こんのガキッ」
アイン・イヨ・リトナ「あ〜あっ、シルビアさん落ち着いて」
ウカ・デルマ・ネール「私はまた自分で作りますから」
一通り食べ終えたのか、満足そうにするムルピという少女は、
ムルピ「では、さらばじゃ」
シルビア・ヤン・オードリー「ちょっと待ちなさいよ、この生意気ガキィッ!」
〇森の中
シルビアの言葉が聞こえているはずだが無視して去っていった。
アイン・イヨ・リトナ(あの子、ツァールトの方面に向かった?)
〇山並み
シルビア・ヤン・オードリー「──あんたたちっ、あのガキに甘すぎるのよっ!」
ウカ・デルマ・ネール「ひえっ!」
シルビア・ヤン・オードリー「だいたい人のものを盗むなんて、ろくな育ち方してないわっ!」
アイン・イヨ・リトナ「そこまで言わなくても〜」
シルビア・ヤン・オードリー「全くっ、とんだ目にあったわ」
ウカ・デルマ・ネール「どうしましょうリトナさん」
アイン・イヨ・リトナ「う〜ん」
アイン・イヨ・リトナ「シ、シルビアさん、ささっ、もうそんな事は忘れて向かいましょツァールトに」
睨むシルビアは一旦目を閉じて前を進んでいく。
シルビア・ヤン・オードリー「・・・そうねっ、行くわよ」
「はぁ〜・・・」
〇森の中
ムルピ「美味しかったのう〜」
ムルピ「しかしあの者たち・・・」
この時ムルピは、また彼女達と出会うであろうと確信していた・・・。
〇地下室
スーペル(──ついに始まったか、暗黒網未来会議・・・)
スーペル「フンッ」
街の地下で厳しい面持ちのスーペルだった。
〇荒廃した国会議事堂の広間
スーペル「──シルビアを殺そうとしただってっ、父さんっ!」
ケウロ「たまたま洞窟ですれ違った・・・まあ、殺らなかったが」
スーペル「気分によっては殺るつもりだったと?」
ケウロ「フンッ、お前は本当疑り深い、殺るわけなかろう」
ケウロ「それをしてしまっては我々も困る、なのにケルスが許すわけもない」
安心したのか扉に手を付けたスーペル。
ケウロ「スーペルッ」
スーペル「・・・・・・」
ケウロ「あの娘の事は」
スーペル「わかってるよ」
ケウロ「・・・本当か? 我々にとっても運命の子なのだ」
スーペル「運命、ですか」
ケウロ「そうだ、その後こそ我々が・・・」
スーペル「地上を支配する、聞き飽きましたよ父さん」
ケウロ「フフッ」
スーペル「本当にそれが父さんの望みですか」
ケウロ「なにが、いいたい?」
スーペル「年月というのは人を自由にするのではなく、人を掟やルールで縛り付けていくもんなんですね」
ケウロ「スーペルッ、言いたいことははっきりと言えっ!」
スーペル「言った通りですよ、ではっ・・・」
〇地下室
歩き出すスーペルの先には魔物達がうごめいていた。
スーペル(気付かず子に聞くようでは、そんな事も分からない父さん、あなたはもう終わっているんですよ)
そこで真の姿になったスーペルは覚悟を決めたように声を出す。
スーペル(真の姿)「暗黒網未来会議を、襲撃する・・・」
ウルフ「いよいよか」
その魔物達の中にはウルフを筆頭に仲間の姿も。
ウルフ(結局カプリースは最後までどこに行ったか分からなかったな)
ウルフ(とはいえ自分で生きていけるだろう。心配は無用だな)
スーペル(真の姿)「君がスワンの右腕、ウルフか」
ウルフ「スーペル」
スーペル(真の姿)「ウルフ、君には先陣を切ってもらいたい」
〇中東の街
──その頃シルビア達はさらに1日かけてツァールトに着いていた。
アイン・イヨ・リトナ「古風な街、ですねシルビアさん」
シルビア・ヤン・オードリー「全く、あのガキ、今度あったらお仕置きしてやるんだから」
ウカ・デルマ・ネール「あ〜・・・そうだ、シルビアさん獣を宿すもの早く探しましょう」
シルビア・ヤン・オードリー「あ、そうね」
アイン・イヨ・リトナ(ナイスです、ウカさん)
ウカ・デルマ・ネール「ここツァールトでうまく見つければ、そのイザークさんという人もフレッシングで探してると思うので、つまり」
アイン・イヨ・リトナ「全員揃うということですね、ウカさん」
ウカ・デルマ・ネール「はい、そうですリトナさん」
シルビア・ヤン・オードリー「・・・そう、ね・・・そうだったわ」
ウカ・デルマ・ネール「では探しに行きましょう!」
シルビア・ヤン・オードリー「ウカ」
ウカ・デルマ・ネール「はい」
シルビア・ヤン・オードリー「あんたはあたしと一緒に、リトナは反対から別れて探す」
アイン・イヨ・リトナ「え?」
シルビア・ヤン・オードリー「その方が、早いでしょ」
アイン・イヨ・リトナ「あ、はい、そうですね」
シルビア・ヤン・オードリー「ウカ、行くわよ」
ウカ・デルマ・ネール「え、はいっ」
アイン・イヨ・リトナ「・・・・・・」
アイン・イヨ・リトナ「では、探しますか・・・」
〇地下室
ウルフ「──先陣か、了解したが」
スーペル(真の姿)「なにか?」
ウルフ「一つ聞きたい、何故そこまで実の父親に出来る恨みでもあるのか?」
スーペル(真の姿)「ルールさ」
ウルフ「ルール、だと?」
スーペル「君達の組織ヒュートもそのルールを護って今に至る」
ウルフ「そうだ」
ウルフ「われわれ獣人は100年前の暗黒網未来会議にて次の儀式のために弱い人間の前から姿を現さないというルールを決めて生きてきた」
スーペル「謙虚なものだ」
ウルフ「フンッ、謙虚か・・・そのせいで獣人は飢えてルールを破り人前に姿を現し殺された仲間を見てきた」
スーペル「それで」
ウルフ「それだけではない!」
ウルフ「飢えていた獣人の状況に見かねたスワンは人の長に会談を申し出た」
ウルフ「快く受けてくれたが、和解には至らず話しは平行線に終わってしまった」
スーペル「苦しいだろうが我々に余裕はない、100年前の暗黒網未来会議で君達が決めた事。それはそちらで打開策を練ってほしい・・・か」
ウルフ「知っていたのか」
スーペル「こっそり父の本を読んだことがある。そこに記してあった」
ウルフ「だから俺達は今回の暗黒網未来会議の答えによっては反乱を起こす予定だったが、そこにどこで知ったかお前が現れた」
スーペル「ああ、情報を知った僕にも都合が良いと思ってね。人手は多いほうが良い」
ウルフ「・・・裏切る気じゃないだろうな」
スーペル「最初の質問に答えるよ、僕はこの世界のルールに絶望している。それだけだ」
ウルフ「ルールに絶望・・・」
スーペル「この世界クローズはルールが細かくなりすぎた。それでは先に生まれるものは苦しむだけ、だから・・・壊す」
ウルフ「それがたとえ父親でも、というわけか」
スーペル「ああ、邪魔するものは父であろうと容赦しない」