指先に魔法はいらない

星月 光

chapter07 薄氷の平穏(脚本)

指先に魔法はいらない

星月 光

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〇森の中の小屋
アストリッド「しょうがない、教えてやるか」
アストリッド「風魔術で冤罪を証明できない 論理的な理由をね」
アストリッド「ピオ わたしの正面に立て」
ピオノノ・ダイン「はい」
サフィ「なにするんですか?」
アストリッド「ま、見てなよ」
アストリッド「どう?」
ピオノノ・ダイン「どう、と言われましても」
アストリッド「風、来たよね?」
アストリッド「おまえが使うのと同じぐらいの風」
ピオノノ・ダイン「・・・ボクの魔術 帽子で扇ぐのと同じ程度なのですか?」
アストリッド「サフィ、来い」
アストリッド「どう?」
サフィ「同じぐらいです!」
ピオノノ・ダイン「サフィ・・・」
サフィ「あ、でも! ちょっとだけピオのほうが強いかも」
アストリッド「ま、つまり」
アストリッド「風魔術は作為を疑われやすい」
アストリッド「人為的に風を起こしてるんだろうって 無理矢理にでもこじつけやすいからね」
アストリッド「これぐらい使えれば 有無を言わせないけど」
アストリッド「おまえ、他の属性の適性 一切まったく本当にないし」
アストリッド「あくまで裁判での潔白の証明に こだわるなら──」
アストリッド「風魔術を鍛えるのが現状では最善かな」
ピオノノ・ダイン「あの、師匠!」
ピオノノ・ダイン「裁判については当てがあると おっしゃってましたよね」
ピオノノ・ダイン「それはいったい?」
サフィ「そうです!」
サフィ「だって、ピオのお父さんも ワーズワースの王様も」
サフィ「ピオが悪くないってこと 知られたくないんですよね?」
アストリッド「考えてみなよ」
アストリッド「おまえを助けたくて 潔白証明の協力をする人間」
アストリッド「心当たり、あるよね?」

〇華やかな裏庭
ジュリアン・ダイン「どうぞ、ナタリア様」
ナタリア・オブ・ワーズワース「ありがとう いただきます」
執事長フランク・カッター「ジュリアン様がお作りになったものです」
ナタリア・オブ・ワーズワース「そうなのですか?」
ジュリアン・ダイン「母がよく作っていた オリオーラのお菓子です」
ジュリアン・ダイン「父を元気づけたくて・・・」
ジュリアン・ダイン「長男が冤罪で流刑に処されたのです 落ち込んでいらっしゃるに違いない」
ジュリアン・ダイン「ねえ、フランク」
執事長フランク・カッター「・・・さようでございます」
ナタリア・オブ・ワーズワース「おいしいです」
ナタリア・オブ・ワーズワース「貴方と結婚する女性は こんなお菓子を食べられるのですね」
ジュリアン・ダイン「ナタリア様がお望みなら いつでも作ります!」
ナタリア・オブ・ワーズワース「あら、ジュリアン わたしと結婚するおつもりですか?」
ジュリアン・ダイン「えっ・・・!? いえ、その・・・」
ナタリア・オブ・ワーズワース「ではしたくないの?」
ジュリアン・ダイン「い、いえ・・・」
ジュリアン・ダイン(兄上の冤罪を証明するのに使えるからな)
ジュリアン・ダイン(ボクが王婿になれば 兄上はダイン家の・・・)
執事長フランク・カッター「そういえば──」
ジュリアン・ダイン(余計なことを言うなよ、フランク)
ジュリアン・ダイン(おまえは父上とともに墜ちるんだ)
執事長フランク・カッター「姫はどういったご用でこちらへ?」
ナタリア・オブ・ワーズワース「一昨日の夜、姉上がいらしたと聞いて」
ナタリア・オブ・ワーズワース「なにかご存じではないかと思いまして」
ジュリアン・ダイン「殿下、どうかなさったのですか?」
ナタリア・オブ・ワーズワース「嫁ぐ前に、国内を旅したいのだとか」
ナタリア・オブ・ワーズワース「ベルクラインに早馬を飛ばしましたが お許しいただけるかどうか・・・」

〇森の中の小屋
ピオノノ・ダイン「まさかジュリアンが?」
アストリッド「なにを企んでるのか知らないけど」
アストリッド「父親や国王を押しのけて 裁判の場を用意するぐらいのこと」
アストリッド「お兄様のためにやってくれるんじゃない?」
ピオノノ・ダイン「あまり無茶してほしくないのですが」
アストリッド「それはどうでもいいけど」
アストリッド「おまえが生きてるって ダイン公や国王が知ったら──」
ピオノノ・ダイン「ボクをひそかに始末するため 刺客を差し向けるでしょうか」
アストリッド「可能性は高いな」
アストリッド「少しは頭が回るようになったね?」
サフィ「どうしましょ?」
アストリッド「その程度はどうにでもできるよ」
アストリッド「ベルクラインに知られると厄介だけど」
サフィ「ベルクラインって?」
アストリッド「そもそも、なぜ流刑に──」
アストリッド「地図持ってくる ちょっと待ってろ」
サフィ「ね、ピオ」
サフィ「アストリッド、言ってましたよね」
サフィ「ピオは貴族社会じゃやってけないって」
サフィ「・・・でもね」
サフィ「ピオのそういう・・・ まっすぐなところが好きだって人」
サフィ「きっと・・・ ううん、絶対います!」
ピオノノ・ダイン「あ・・・ありがとう」
サフィ「・・・えっと・・・」
ピオノノ・ダイン「・・・サフィ?」
アストリッド「待たせたね」
アストリッド「・・・なに?」
ピオノノ・ダイン「いえ・・・」
サフィ「なんでもないですっ!」
アストリッド「・・・なら再開しようか」

〇貴族の部屋
シーラ・オブ・ワーズワース「・・・婚前旅行の件 ハーゲン様、お許しくださるかしら」
シーラ・オブ・ワーズワース「父上はずいぶんお怒りだったけど」
シーラ・オブ・ワーズワース「嫁入り前の王女が旅行など何事だ!」
シーラ・オブ・ワーズワース「・・・ですって」
侍女ディアナ「でも結局、ベルクラインへ 早馬を飛ばしてくださったのですね」
シーラ・オブ・ワーズワース「餞別のつもりでしょうね」
シーラ・オブ・ワーズワース「今回の結婚は同盟のために わたくしを人質に出すようなものだもの」
侍女ディアナ「そんなおつもりではないと思いますよ」
侍女ディアナ「ハーゲン王子も陛下も 殿下を愛してらっしゃいます」
シーラ・オブ・ワーズワース「・・・わかっているわ」
侍女ディアナ「だから、きっとお許しくださいますよ」
シーラ・オブ・ワーズワース「だといいけれど」
シーラ・オブ・ワーズワース「ごめんなさい、ディアナ」
シーラ・オブ・ワーズワース「貴方まで巻き込むことになってしまって」

〇貴族の部屋
シーラ・オブ・ワーズワース「わたくし、サントエレン島へ行くわ」
侍女ディアナ「なりません!」
侍女ディアナ「サントエレン島は魔の巣窟 殿下の御身が危険です!」
シーラ・オブ・ワーズワース「それはピオノノも同じこと」
シーラ・オブ・ワーズワース「ジュリアンは兄を信じて手を打った」
シーラ・オブ・ワーズワース「わたくしも、彼の無事を信じる」
シーラ・オブ・ワーズワース「ベルクラインへ嫁ぐ前に 為すべきことをしなくては」
侍女ディアナ「仮にピオノノ様が生きておられるとして」
侍女ディアナ「ピオノノ様のためにサントエレンへ行くと ハーゲン王子に知られたら──」
侍女ディアナ「ベルクラインとの同盟が 破棄されるかもしれません」
シーラ・オブ・ワーズワース「ピオノノはわたくしのせいで 罪を背負うことになったのよ!」
シーラ・オブ・ワーズワース「もし彼がすでに亡くなっていて・・・」
シーラ・オブ・ワーズワース「彼の死を確かめるための旅になっても」
シーラ・オブ・ワーズワース「わたくし、自分の罪に向き合いたい」
侍女ディアナ「・・・わかりました そこまでおっしゃるのなら」
侍女ディアナ「わたしも、ともに参ります」

〇貴族の部屋
侍女ディアナ「お忘れですか? これでも武術は心得ています」
侍女ディアナ「殿下はわたしがお守りします!」
シーラ・オブ・ワーズワース「ありがとう、ディアナ」

〇森の中の小屋
アストリッド「3年前、ロンサールの王女と ミラノの王子が婚約し──」
アストリッド「両国は事実上、同盟関係になった」
アストリッド「ワーズワースは自国を守るため ベルクラインとの同盟を望んだ」
アストリッド「ロンサールともミラノとも国境を接する ベルクラインにとっても悪くない話だ」
アストリッド「周囲を山に囲まれてるとはいえ ロンサールはスペルロイド製造国」
アストリッド「山を吹き飛ばす程度、訳ないからね」
ピオノノ・ダイン「それは師匠だけでは?」
アストリッド「そう?」
アストリッド「ま、話を続けるよ」

〇城の会議室
ワーズワース王「ご足労、感謝申し上げる」
ハーゲン・フォン・ベルクライン「こちらこそ、お招きありがとうございます」
ワーズワース王「ロンサールとミラノが結びつけば わが国は単独では対抗できぬ」
ワーズワース王「どうかご協力願いたい」
ハーゲン・フォン・ベルクライン「それはベルクラインも同じこと」
ハーゲン・フォン・ベルクライン「どうぞ末永く──」
ワーズワース王「それでは取り決めを──」
ワーズワース王「・・・王子? ハーゲン王子?」

〇森の中の小屋
サフィ「えーっと」
サフィ「王子様が王女様に恋したってことですか?」
ピオノノ・ダイン「聞いたことある」
ピオノノ・ダイン「王宮は混乱を極めたとか」

〇城の会議室
ハーゲン・フォン・ベルクライン「シーラ王女を、わたしの妻に迎えたい」
ハーゲン・フォン・ベルクライン「わたしたちの結婚を同盟の条件としよう」
ワーズワース王「な・・・ 話が違うではないか!」
ハーゲン・フォン・ベルクライン「よい返事を期待します」
ハーゲン・フォン・ベルクライン「では失礼」
シーラ・オブ・ワーズワース「父上、どうなさるのです?」
ワーズワース王「・・・ナタリアを王宮へ」
ワーズワース王「おまえの・・・妹だ」
シーラ・オブ・ワーズワース「妹・・・!?」

〇謁見の間
アストリッド「ナタリア・ライトフット」
アストリッド「今はナタリア・オブ・ワーズワースか」
アストリッド「ナタリアを王宮へ迎え入れ」
アストリッド「シーラとハーゲンを婚約させて」

〇森の中の小屋
アストリッド「一件落着──」
アストリッド「とはいかなかったのは おまえも知ってのとおり」
アストリッド「国益も立場も忘れて求婚するほど ハーゲンはシーラに心を奪われた」
アストリッド「その愛の向けられる先が シーラだけならまだよかったけど」
ピオノノ・ダイン「ボクが殿下に・・・」
ピオノノ・ダイン「・・・横恋慕をしたと知れたとき」
ピオノノ・ダイン「ハーゲン王子の怒りは凄まじかったと」

〇謁見の間
ハーゲン・フォン・ベルクライン「処刑しろッ!」
ハーゲン・フォン・ベルクライン「密通を企てるなど・・・」
ハーゲン・フォン・ベルクライン「ピオノノ・ダインとやら 絶対に許してはおけん!」

〇森の中の小屋
アストリッド「ベルクラインとの同盟が破棄されれば ワーズワースは孤立しかねない」
アストリッド「結局、ダイン公や国王は 斬首刑じゃなく流刑に決めた」
アストリッド「表向きは、貴族の長男であることと 未成年であることを理由の慈悲だけど」
ピオノノ・ダイン「ボクの正体が露呈しないように、ですね」
アストリッド「そんなとこだろうね」
サフィ「じゃあ、えっと」
サフィ「ピオが生きてることを 王子様が知ったら・・・」
アストリッド「怒って挙兵するんじゃない?」
サフィ「大変!」
アストリッド「ベルクライン軍ごとき、どうにでもなるよ」
アストリッド「殺してもいいなら、だけど」
サフィ「ダメですっ!」
ピオノノ・ダイン「国際問題になりますよ」
アストリッド「こっちには関係ないけど?」
アストリッド「ま、むやみに殺したいわけじゃない」
アストリッド「ダイン公にも国王にも もちろんベルクラインにも」
アストリッド「おまえが生きてること 知られないようにするべきだ」
アストリッド「不肖の弟子が無罪を証明するためにね」
サフィ「あたし、誰にも言いません!」
アストリッド「・・・それはなにより」
アストリッド「ま、現状では心配無用かな」
アストリッド「せいぜい魔術の習得に専念することだね」
ピオノノ・ダイン「はい!」

〇岩山

〇謁見の間
ハーゲン・フォン・ベルクライン「シーラ様が、侍女を連れて 国内を旅行したいそうだ」
ハーゲン・フォン・ベルクライン「嫁ぐ前に、祖国を見て回りたいと」
ハーゲン・フォン・ベルクライン「お心には添いたいが ・・・心配だ」
ハーゲン・フォン・ベルクライン「誰かおらぬか」
ハーゲン・フォン・ベルクライン「旅行の邪魔にならぬよう シーラ様をひそかに見守るのだ」
ハーゲン・フォン・ベルクライン「不審な点があればすぐに報告せよ」
ハーゲン・フォン・ベルクライン「わが愛しい婚約者に なにかあっては大変だからな」

次のエピソード:chapter08 玻璃の欠片(前編)

コメント

  • ヘビーな真相が語られる中、サフィちゃんの醸し出す空気の清々しさが✨ まさに清涼剤ですね😊
    そして、王宮の唯一の良心ことシーラ王女も動きを見せ始め、今後ピオくんたちとの接触があるのか、以降の展開がすごく気になります✨

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