異界決戦 ~一人では決して救えない世界を抱いて~(脚本)
〇宇宙空間
「かかってこい! 玲緒はここにいる!」
〇文化祭をしている学校
〇山中の坂道
玲緒「ふぅ・・・」
玲緒「すっきりしました」
電話の声「録音完了しました。可能な限り、今の音声を流し続けます」
電話の声「でも、本当に上手くいくんですか?」
晴「魔族は魔王を守る為、必ず聖剣の破壊に集まるわ。これは奴らの本能よ」
晴「敵が集まれば、こちらも戦力を集中できる。戦場をコントロールし、地の利と集団戦術で一気に迎え撃てば勝機もある」
晴「玲緒が囮になると言い出した時は、気絶させて運ぼうかと思ったけど」
晴「これが形勢逆転の一手に繋がるはずよ」
電話の声「わかりました。会長の判断を信じます」
電話の声「それが私の覚悟の選択です」
玲緒「人に言われると恥ずかしいですね」
電話の声「いえいえ、良かったですよ。特に自分のことを名前で呼ぶところとか。氷の女帝も、可愛いところがあるんですね」
玲緒「わー! わー! それはつい、その勢いで、いつもの癖がでて!」
玲緒「あれーさん、リテイク! リテイクお願いします!」
電話の声「無理です。もう放送してますから。リピート中ですから。あとあれーじゃなくて、有江です」
玲緒「そんな~」
晴「馬鹿なこと言ってないで行くわよ」
玲緒「ひぃん」
〇放送室
有江「向こうは会長と風紀委員長に任せるとして」
有江「こっちはなんとしても、この放送を続けるわよ」
有江(私の第三抜剣は、言葉の力を最大限にすること)
有江(相手を導くのに最適な言葉、発音、タイミングにいたるまでを計算できるけど)
有江(でも、この風紀委員長の言葉は、そのまま流した方がいいよね)
有江(なら、使うならもう一つの効果)
有江「第三抜剣 サイン・ドライブ『ハマル』」
有江「私のすべきは、風紀委員長の思いをみんなの心に少しでも届きやすくするための手伝い」
有江「制旗ハマルの放つ周波数は、少しだけ心の抵抗を弱くするわ。どうか、彼女の言葉を、味方にも届けて!」
有江「暴徒達が放送を止めに来たわね」
有江「この放送は止めさせない! なんとしても死守するわよ」
〇体育館の裏
骨「ヒャッハー!」
骨「ちっ、挑発に煽られて、次から次へと集まってきやがる」
骨(まずいな。この数相手じゃ、いつまでも踏みとどまれねぇぞ)
骨(こいつだけは逃がしてやりてぇが)
骨(前に横に、うじゃうじゃと!)
風紀委員・後輩「後ろ!」
骨(挟まれた?!)
副風紀委員長「前、お願い!」
骨「了解!」
副風紀委員長「強っ!」
副風紀委員長「じゃなくて! もうすぐ援軍が大勢来るから、骨君はすぐにここから離れて!」
骨「あぁ? なめんなよ、俺はまだ戦えるぜ?」
副風紀委員長「いや、そうじゃなくて」
モブ「各自、隊列を乱さず、常に多対一で撃破してゆけ!」
副風紀委員長「あ、来ちゃった」
副風紀委員長「と、とにかく君は早く奥へ行って!」
骨「だから、なんで俺が前線はなれなきゃならねぇんだよ!」
モブ「大変よ! 副委員長が骸骨に襲われてるわ!」
骨「え? いや、俺は味方なんだが」
副風紀委員長「自分の見た目考えてよ~!」
骨「うっ!」
骨「ちくしょー! 覚えてろよ!」
副風紀委員長「それ、悪役の捨て台詞だよ~!」
〇中庭のステージ
仮面「個に優れる魔族を一点に集め、集団の力で討つ。槍女の入れ知恵か?」
白「だろうな。だが、玲緒が自ら囮になる選択をしなければ、この策は出なかったろうよ」
仮面「ただ未熟者の行動が上手くはまっただけに過ぎないだろう」
白「いいや、違うさ」
白「世界を救う答えというのは、一人では決して解けないものだったのだろうよ。故に勇者一人に固執した我らには解けなかった」
仮面「民の力を借りればよかった、とでも言うのか?」
白「他者は全て守るだけの存在など思い違いも甚だしいということだ」
白「我も、主も強くなり過ぎて、それを忘れてしまっていたのだ」
白「もっと皆で考え、戦うべきだった。あの子たちのように」
仮面「笑わせる」
仮面「勇者に縋り、己の責任も、覚悟もかなぐり捨てた有象無象が何を考える?」
仮面「勇者が世界を救うという幻想に溺れる弱者に、命を懸ける勇があるとでも?」
白「わからんさ。だが、我らは、彼らを共に戦う友として信じるべきだった」
白「信じることを放棄すべきでなかったのだ」
仮面「笑えない冗談だ」
仮面「この現実の前に、貴様の理想など無意味、無価値なこと、すぐに民が証明するだろう」
〇体育館の裏
魔族「やれ!」
副風紀委員長「ちょ、ちょっと待って! 2匹同時とか無理!」
魔族「集団で戦い、我らを越える力を出すところまでは良かったぞ」
魔族「だが、それなら弱った司令塔を徹底的に崩せばいいだけのこと」
魔族「さあ、次の司令塔はどいつだ? いないなら、そのまま瓦解してゆけ!」
副風紀委員長「いや、まだ私、やられてないんだけど」
副風紀委員長(あー、もう痛くて立ってらんない。さっさと倒れて「みんな、あとは任せた」とか祈ってたい)
副風紀委員長「でも、それが出来ないんだよね」
副風紀委員長「私にとっての、どんな結末になろうと受け入れる覚悟がある選択っていうのは」
副風紀委員長「最後の最後まで、勇者の勝利を信じて戦うことだ!」
魔族「そうか、ならばその覚悟に殉じよ!」
副風紀委員長「あ、やっぱり覚悟たりなかったかも」
副風紀委員長「みんな、後は任せた!」
???「ちくしょーが!」
副風紀委員長「あれ?」
着ぐるみ「間に合ったようだな」
副風紀委員長「その声、骨君?」
副風紀委員長「そして、そっちのは試合で問題起こした風紀委員の子?」
どうでもいい風紀委員「うす」
着ぐるみ「そいつらだけじゃねぇぜ」
性格悪そうな風紀委員「戦ってるのは、こっちですよ!」
先代勇者に遅れてやってきたのは、長い棒を武器代わりに持った、大勢の一般人達だった
その瞳には、まぎれもなく怯えの色があるが、同時に強い戦意も見える
副風紀委員長「何これ?」
着ぐるみ「着ぐるみを着て、戦いに戻ろうとしたときにこいつらを見つけたんだ」
着ぐるみ「みんな、一緒に戦いたいってよ」
どうでもいい風紀委員「女帝の言葉が、なんか胸に刺さって」
どうでもいい風紀委員「あれは敵に向けていったものだけど、それでもなんでか俺達にも強く訴えかけるものがあって」
どうでもいい風紀委員「だから、みんな覚悟を持って戦いにきました!」
副風紀委員長「いいねえ。こういうノリ、嫌いじゃないよ?」
着ぐるみ「で、俺達はどう動けばいい?」
副風紀委員長「骨君は敵のど真ん中で好きなように暴れて! 私達は一般人と協力して、壁を作って戦うよ!」
〇放送室
魔族「どうした? 人間というのは、仲間がやられたら怒りで強くなるんじゃないのか?」
有江「それで強くなれたらいいんだけどね」
有江(味方を鼓舞するのは得意だけど、自分を奮い立たせるのって苦手なのよ)
放送の声「どんな結末になろうとも、自らの責任で結末を受け入れる覚悟があるなら!」
有江(そうね、それでも)
有江「かかってきなさい! 私はここにいる!」
魔族「訳の分からぬことを!」
「ヒーハー!」
不良リーダー「あのチビ女の声がするから来てみたが、ただの録音かよ」
有江「あ、あなた、誰? 風紀委員長の知り合い?」
不良リーダー「あぁ、あいつにちょっと借りがある不良だ」
不良リーダー「まあ、いないんならいいさ」
不良リーダー「そっちの化け物どもにも借りがあるんでね」
不良リーダー「あいつら倒して、チビ女との貸し借りはチャラだ!」
有江「助けてくれるの?」
不良リーダー「てめぇの尻はてめぇで拭う! 不良の覚悟見せてやるぜ!」
魔族「ほざくな! 来い、魔獣ども! 一匹残らず食い尽くしてやれ!」
不良リーダー「おっと、そとの化け物なら、期待するだけ無駄だぜ」
魔族「何?」
不良リーダー「てめぇらが気に喰わねぇって奴らは他にもいるってことだよ!」
〇学校の廊下
ありきたりな不良「おらおらおら!」
よくいる不良「覚悟決まった奴らは続けー!」
〇中庭のステージ
白「聞こえるか、戦う者達の声が」
仮面「あぁ。滑稽にも、仮初の勢いに浮かれてるようだ」
白「やはり、認めぬか」
仮面「当然だ。今はただの勢い。真に問われるは、心折られた後」
仮面「魔王がこの地に降り立ったとき、それでも覚悟と共に生きたなら認めてやろう」
仮面「もっとも覚悟の意味は消え去るがな」
仮面「丁度、そろそろ勇者と魔王が戦う頃合いだ」
仮面「構えろ、白金」
白「あぁ」
仮面と白金。双方は剣に手をかけて、魔王顕現のその時を待つ
白(魔王が死んでいれば、彼奴は不死者から、ただの人と成り果てる。我が刃でも引導を渡すことができる)
仮面(魔王が生きていれば、不死の肉体を持つ私は、相討ちになろうと勝てる)
〇沖合(穴あり)
〇黒
(魔王が次元を超えた──)
「いざ!」
仮面「かはっ!」
ほぼ同時の斬撃。だが、届いたのは白金の斬撃だった
白「くっ・・・」
しかし、揺らいだのは白金も同じ。幼き体では、剣聖の斬撃を何度も放つことはできない
仮面「惜しかったな、白金!」
仮面は傷ついた体を庇うことなく、返す刀で白金を狙う。それは不死ゆえの驕り
今ここで倒れようとも、白金を討つ執念──
それが勝敗を分けることとなった
〇宇宙空間
〇中庭のステージ
仮面「なん・・・だ?」
仮面の体は、自身の無理な反撃の動きに耐え切れず自壊した。その様は、まるで支えを失った人形のようであった
仮面(体から急激に力が抜けてゆく。この感覚、人であったときの・・・死)
仮面「まさか・・・」
白「玲緒は勝利したようだな」
仮面「救ったというのか? 世界を・・・」
白「あぁ」
仮面「ただこれだけの犠牲で・・・?」
白「あぁ」
仮面「・・・」
仮面「・・・くくっ! はははっ!」
仮面「ふざけるな!」
仮面「私達にあれだけの犠牲を強いておいて、なお倒せなかったのだぞ! それを小娘如きが、何故だ!」
白「・・・やはり、主の真の目的は世界を救うことではなかったのだな」
白「主の真の目的は復讐・・・か」
仮面「・・・」
白「命を天秤にかけなければ生き残れない。救われる者、救われない者を常に選ばなければならない。そんな世界へ見せたかったのだな」
仮面「あぁ、そうだ。世界を救い、平和を取り戻した世界へ、助けた先を見せて、こう言いたかったのさ」
仮面「喜べ、数多の犠牲を払って、この世界は永劫の繁栄を得られた! とな」
仮面「呪われた生を、世界に刻みつけてやりたかったのさ!」
仮面「はははははははっ!」
仮面「あー・・・ だが、まさか、それを最悪の形で台無しにしてくれるとはな」
仮面「この世界の勇者は、さぞ世界に愛されていると見える」
白「玲緒は、そんなものじゃないさ」
白「あの子の、転生前の名は黄金(こがね)の勇者。貴様に討たれた我が弟子であり」
白「主の娘だ」
仮面「私の娘・・・だと?」
白「あぁ、そうだ。世界を救ったのは、主の娘だよ」